第十五回
猫にまたたび

 どうしてこんな面白い事を今まで考えなかったかと悔みます。

 猫にマタタビ。

 誰がいつ頃そう呼んだのか。根拠はあるのか。肝心の猫はどう思っているのか。猫だけでなくライオンなどの猫の仲間も反応するこの不思議な植物の正体は一体何なのでしょうか。

 マタタビは山野に自生し、初夏に白い花、秋には扁平な実を付ける蔓性の樹木です。この実に虫が寄生して出来た虫瘤(むしこぶ)を木天蓼(もくてんりょう)という名で神経痛、腰痛、リウマチなどに漢方薬として用いますが、猫には使用していません。また、害になることも聞きません。普通の実は塩漬けや焼酎付けにして疲労回復に効果があるとされ「また旅が出来る」という意味からその名が付けられたとする説もありますが、実際には虫瘤をアイヌ語のマタタムプ(亀の甲)がなまってマタタビとなったのだそうです。マタタビは古代から注目されていたのです。

 最近ではマタタビの実や木に含まれるマタタビラクトンとアクチニジンという物質に猫が引き寄せられることが分ってきました。この性フェロモンに似た成分を猫が嗅ぐとかじったりこすり付けたり、更には涎を垂らして気持ち良さそうにします。これは脳の中枢部を刺激して運動神経を一時的に麻痺させるのだそうですが、見ていると麻痺というより陶酔している様に伺えます。そして常習性や持続性はなく、10〜20分程で飽きると何事もなかったかの様に立ち去り、また忘れた頃にマタタビに反応します。

 マタタビは山野に行かなくてもペットショップや漢方薬局で入手出来ます。キウイもこれに準じた作用があるのは、中国から台湾にかけて分布するシナマタタビが20世紀初めにニュージーランドに渡って改良されたからです。しかし、キウイ畑で猫が集まって喜ぶ光景は見ません。中国では漢方薬として使われているものの猫にマタタビはしません。と言うか、あえてその様な用い方はしないのです。欧米ではシソ科のキャットニップがこれに類似するのでしょうが、こちらは酩酊するまでには至らず、むしろハーブの効果を楽しんでいるかの様です。

 つまり猫にマタタビとは日本特有の風習であって、ストレス解消、食欲減退時などに応用されようとしていますが、猫には無くても構いません。他にも家庭内の軟膏や洗剤でもマタタビ同様の反応をしてしまう事があります。だからといってその様なもので遊ばせる飼い主もいないでしょう。それよりも普通に暮らせる生活と食事で猫は健全に暮らしていたいのです。猫に洗剤ではなく猫にマタタビ。どうもこの語呂合わせが飼い主に好感が持たれるのでしょう。でも猫に旅をさせてあげたいという気持は、とてもよく分ります。
「ドギー&キャッツ」 2004年8・9月号掲載

第16回に続く

谷中猫TOPへ