第十七回
猫に餌をあげないで

 町なかで「猫に餌をあげないで」という張り紙を時々見かけます。
 住民が不衛生さに困惑しての対策なのですが、どうもこれらの問題は外を徘徊する猫達が引き起こしているようなのです。一体猫社会に何が起こっているのでしょうか。

 平成15年度、私が在住する区保健所の猫の苦情を調査したところ95%が野良猫或いは飼い主不明の猫によるものでした。そしてその内46%と最も多かったのが外で猫に餌を与えているということ。二番目は22%で汚物などの汚れや異臭。それも野良猫の苦情です。しかしその対策は何もとられていないのが現状で、猫は犬と違って捕獲が許されず、虐待すれば「動物の愛護および管理に関する法律」に触れるのです。

 猫は野生動物を捕殺して生態系に被害をもたらしたり、人や猫同士の感染症のキャリアーにもなったりしています。野良猫にとっては肩身の狭い話ですが、優れた狩猟本能ゆえにたちまち食物連鎖の頂点に立ってしまうからです。例えば小笠原諸島では野生化した猫によって、島固有のハハジマメグロが、奄美大島のアマミノクロウサギや沖縄のヤンバルクイナも野生化した猫に捕食されていることが確認されています。太平洋上に浮かぶガラパゴス諸島でも野生化した猫によってゾウガメの子供が被害を受けているのです。

 動物から人へ感染することを人畜共通感染症、動物由来感染症、或いはズーノーシス(zoonosis ギリシャ語のzoon動物、 nosos病気)と呼ばれています。猫ひっかき病は猫に噛まれたり、ひっかかれたりして病原体のバルトネラ属の菌によって感染し、人では局所の発疹から、発熱、頭、腋下などリンパ節が腫れます。Q熱は病原体のリケッチア属のコクシエラ・バーネッティイがダニによって媒介されたり、塵埃を吸い込んで感染します。インフルエンザ様の症状が続き、高熱、咳、関節痛、長期間の微熱や倦怠感となります。

 猫同士が感染するものとしてはネコエイズやネココロナウイルスが咬傷や同じ食器を使うことで感染します。野良猫が多く集まる周辺では特に感染率が高く、飼い猫への感染も珍しくありません。こうした環境を放置す痛ることによって猫や人の公衆衛生上の問題となるのです。

 1995年の東京都動物保護管理審議会では「野良猫を排除するのではなく、共存する道を探る」という結論を出しました。しかしいくら繁殖制限をして管理出来たとしても野良猫はどこからともなくやって来るものです。猫に餌を与えればそれは餌付けしていることであり、飼っていることなのです。責任の所在がはっきりしないなら猫に食事を与えるべきではありません。結局このままでは、外を徘徊する猫を増やしてしまい、野犬がそうであったように狂犬病予防法に基いて引き取られていく事態にもなりかねないのです。
「ドギー&キャッツ」 2004年1・2月号掲載

第18回に続く

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