西表島リゾート開発差止訴訟
●12月16日本訴訟意見陳述



>>石垣 金星氏 (原告団団長) 意見陳術書

>>真喜志 好一氏 (原告) 意見陳述

井口 博弁護士 (弁護団団長) 意見陳述書
                  


平成15年(ワ)第857号 損害賠償等請求事件
原告 石垣金星ほか290名
被告 (株)ユニマット不動産ほか1名

意 見 書

2003年12月16日

那覇地方裁判所民事第2部合議係 御中
原告ら訴訟代理人弁護士  井   口    博  


1 本件訴訟に至る経緯

 (1)本件開発予定地域は住民の聖地である
   かつて「太陽の村」あるいは西武グループによって開発されようとして失敗し、被告らが今の時点では開発の対象からはずしているウナリ崎先端の岬は、「パイコチ」と呼ばれ西表島西部でも最も神聖な聖地のひとつである。そしてパイコチの南に広がる砂浜は、当時の「太陽の村」の経営者によって勝手に「月が浜」などと命名されたが、地元では「トゥドゥマリ」と呼んできた浜である。トゥドゥマリの浜では、満月の夜、神々が来臨し神遊びをすると信じられ、人間は、月夜にこの浜に足を踏み入れてはならないと言い伝えられている。
 ところが、このように神聖な岬と浜に、またもや被告らのような開発業者がこの聖地を踏みにじろうとしている。
 これらの聖地を汚したときは、神の怒りに触れ、激しい雨水害と、農作物へのおびただしい被害が起こり、その禁忌を犯したものは大病に罹り死に至るといわれている。現に「太陽の村」の経営が目に見えて不振になったのは、あるときこの岬から若い女性が海に落ちて溺死したころからであるといい、あるときは心中する場所を求めて西部一帯をさまよった老夫婦が、自らの命を絶つ場所としてこの浜を選んだのは、けっして偶然ではないといわれている。またこの地へ沖縄島からユタにともなわれてくる人も多いという。
  ウナリ崎とトゥドゥマリ浜はこのような島の人々が昔から大切に守っていた信仰と伝統の世界がある。これを一企業が利潤を求め、島の自然に根ざしたこうした信仰と伝統を踏みにじってはならない。

(2)被告らの開発手法
   被告ユニマット不動産の親会社である株式会社ユニマットホールディングズは、オフィス向けコーヒー販売のユニマットオフィスコ、会員制リゾート施設の管理、運営にあたるアイランドホーム、ホテル、ゴルフ場の経営等を業務とする南西楽園など巨大なユニマットグループを形成している。そしてそのグループを統括する高橋洋二社長は、2001年にはそれまで保有していた消費者金融であるユニマットライフの保有株を売却し、全国長者番付の第一位となっている。
   被告ユニマット不動産のこれまで宮古島、小浜島で行ってきた開発手法はきわめて巧妙である。まず高橋氏がリゾート開発と前後して住民登録を当該自治体に移し、そこに多額の住民税を納付する。そして当該自治体からリゾート開発の支援を取り付け、大がかりなリゾート開発を実現していくのである。
   本件リゾート開発も同様の手法であることは明らかである。現竹富町長の那根元氏は、被告らの計画に対し、西表の貴重な自然に十分な思いを致すことなく、このユニマットのリゾート開発に神の声とばかりに諸手をあげて支援をしている。

(3)住民への説明不在
   被告らは、1999年ころより、秘密裏に、本件リゾート開発を計画し、2000年8月には用地の買収を行った。そして同年12月には、住民には何の説明もしないまま、ホテル用地の伐採作業を開始した。
 ようやく2001年9月になって被告ユニマット不動産による住民説 明会と称する集会をもったが、これには一切の説明資料もないという住 民をないがしろにするものであった。その後、同被告は2002年1月、
6月と住民説明会と称する集会をもち、資料を配布したが、住民は6月 になってはじめて本件リゾート開発の全貌が、ホテル2棟349室、コ テージ25棟(288室)従業員寮などきわめて大規模なものであることを知ったのである。
   被告らは2002年9月になって全体計画を縮小したものを提示したが、なお被告らが当初のきわめて大規模なリゾート開発計画を実行に移す可能性はなお大きいと言わざるをえない。

(4)エコツーリズムの理念と被告らの開発工事
   被告らは、本件のような大規模なリゾートホテルを建設し、多数の観光客を一挙に一所に集めるいわゆる「マスツアー」を目的としている。
   しかしこれは西表の住民が営々として築き上げてきた「エコツーリズム」に対する恥じらいなき挑戦である。
   エコツーリズムとは、その地域に居住する住民が享受してきた自然、文化、伝統をその地域の者が伝えることを観光の目的とするとともに、参加者が住民とともにその保全を図っていくことをいい、その収益は地域住民へと還元されるものでなければならない。環境省や沖縄県はすでにエコツーリズムの推進を政策目標として掲げ、竹富町でも観光振興計画として明記している。被告らの開発計画は、言葉では自然との共生を図るときれい事をいいながら、実際にはウミガメが産卵する浜に数百名の観光客を立ち入らせ、カンムリワシやセマルハコガメなどの貴重な種の生息する森林を容赦なく伐採して巨大建築物を建てようとするものであり、エコツーリズムどころかその反対の極にある理念の産物でしかない。

(5)被告らによるホテル建設の強行着工   
   被告らの本件リゾート開発計画が明らかになるや、地元住民の強硬な反対の声が挙がったのにもかかわらず、被告らはこれを無視し、2002年11月ころから本件土地の造成を開始し、2003年3月にはホテル建築工事に着手した。そして仮処分の申立があっても一切無視し、その後も巨大なクレーンを設置してホテル建設を進めている。そして2004年4月には開業する準備まで進めているのである。また本件工事において、「トゥドゥマリ浜遺跡」を破壊、毀損するなどその工事自体にも看過しえない違法を犯している。

(6)仮処分の申立と決定
   このような被告らの暴挙に対し、地元住民約100名は2003年3月11日、本件開発工事の差し止めを求めて仮処分を申し立てた。この仮処分については数度の審尋を経て、同年9月19日付けで結論としては申立は却下された。しかしながら、この仮処分では、同年6月14日、現地で裁判の進行協議という形をとって、事実上の検証をするという仮処分では異例の熱意ある審理がなされた。また仮処分の過程で申立人からなされた「工事一時中止とその間のアセスメントの実施」という提案について裁判所は被告らの説得の努力を重ねた。残念ながらこの提案については被告らからは全面拒否という回答しか得られず実現しなかったが、この提案は、現地を見た裁判官としてこの地に鉄筋の大建築物を建てることの無謀さを感じてのことと思われる。
さらに特筆すべきはその仮処分決定において、西表の地域住民が貴重な自然環境を享受することを価値を肯定しうるとし、さらに浦内川河口付近の貴重な自然環境に対する脅威として不安ないし懸念を抱くことも無理からぬところと明言していることである。この価値と不安ないし懸念はまさに本訴において原告らが主張する人格権ないし環境享受権の中味が示されているといってよいのである。

(7)本件訴えの提起
     2003年7月14日、被告らが、仮処分の申立人からの工事中止とアセスメント実施の提案を拒否したことから、仮処分での話し合いは決裂した。もはや仮処分では立証方法が限定され、本件開発を差し止めることは困難と判断し、こうして本件開発に反対する地元住民を中心に、全国の原告らあわせて291人で本件訴訟が提起されたのである。

2 本件訴訟の意義

(1)自然、文化を守るための訴訟と司法の役割
   これまでわが国の裁判所は、いわゆる自然保護訴訟に対し、きわめて消極的な態度を示してきた。高度経済成長下で次々となされる自然破壊に対し、環境権が提唱されたが、これまでの裁判所でこの権利を明確に差止請求権の根拠とした裁判例は残念ながらない。
   もちろんこの背景には自然環境そのものが国民の共有財産であるとの性質をもっていても、開発中心の法制度のものでは権利性を法的に裏付けることは困難であったかもしれない。しかし確実に時代は変わり、また法律も変わっている。1993年に制定された環境基本法はその3条で、「環境の保全は、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するように適切に行われなければならない」旨規定し、さらに8条では、「事業者はこの基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、自然環境を適正に保全するために必要な措置を講ずる責務を有する」とし、事業者の環境保全義務を規定した。
    本件では西表の地域住民の貴重な自然環境を享受する権利と、本件開発による西表の自然破壊に著しい不安と懸念をもち自然を愛する心を傷つけられる人々の人格権が差止請求権の根拠となるかどうかが争点のひとつである。これまで裁判所は、環境権という構成はとれなくても、生活利益の侵害について人格権という構成で環境破壊に対する差止を認め、その裁判例は蓄積されている。
本件訴訟において、上水、排水、廃棄物等による生活利益の侵害についてだけでなく、被告らによって引き起こされる西表の自然環境あるいは伝統文化の危機に対し、裁判所が一歩踏み込んで西表の地域住民、さらにあらゆる西表の自然破壊に著しい不安を持つ人たちの人格権を根拠として差止請求を認めるよう求めるものである。

(2)被告らによるアセスメントと立証義務
    被告らが自然環境に関する調査として仮処分で提出したものは平成15年6月付けの「西表島リゾート開発計画に係る環境調査・平成14、15年度調査中間報告書」なる本文わずか13頁のものであるが、その貴重動物確認種リストに掲げられているものは、哺乳類3種、鳥類10種、昆虫類7種、甲殻類3種、爬虫類3種、貝類1種しかない。しかし例えば浦内川の魚類については、これまでに約360種の魚類が生息し、国内最多の種の多様性を示すとともに、絶滅危惧種14種など世界的にもきわめて貴重な自然的価値を有している。とりわけ本件リゾート開発地が位置する汽水域は、上記360種の魚類のうち、約330種が生息する場所である。また原告らの調査により、トゥドゥマリ浜に貴重な貝類が多く生息していることも判明した。それにもかかわらず被告らの調査ではこれらについての何らの調査していないうえ、イリオモテヤマネコやコウモリ等の哺乳類、あるいはキシノウエトカゲやセマルハコガメ等の爬虫類、オカヤドカリなどの甲殻類などなお継続して調査すべき種について調査完了としているきわめておざなりなものである。
    被告らが環境アセスメントをしないのは、ひとえに行政上のアセスメント基準を単純に本件土地にあてはめ、アセスメント義務はないとの考えによるものである。しかしこのように行政がたまたま開発面積だけでアセスメントの必要性を決めているからといって、実際に民事差止法上アセスメント義務がないということにはならない。対象が狭い地域であっても現実に多くの貴重種が生息していることが明らかであれば、詳細なアセスメントなしに開発行為をすることは自然環境を享受する人々の法的利益を侵害することは明らかだからである。 

3 今後の展開

(1)被告ら及び町当局の行為と世界遺産登録
     近時、環境省などが琉球列島を世界遺産条約に基づく世界自然遺産の候補地の一つとすることを決めたが、それは、琉球列島の世界的にも特異性ある亜熱帯林、さんご礁の生態的特徴や希少動植物、固有種の重要な生息・生育地となっている点などが評価されたもので、中でも世界的にきわめて貴重な自然をもつ西表島の存在を抜きにしては考えられない。
しかしながら今回琉球列島は候補地からはずれた。それは貴重な自然を保全していくための熱意と方法に欠けていると判断されたからにほかならない。今回の開発に対する竹富町当局の態度はもはや自然を守るための砦たる役割を放棄し、野放図な開発を許したものとして歴史に汚点を残すだけでなく、もし本件リゾート開発がなされ、西表島全体の自然環境が破壊されていくならば、もはや西表島が世界遺産として登録されることは限りなく遠のくことは明らかである。

(2)被告らによるホテル開業と第二次以下の訴訟提起
    すでに被告らは、2002年10月に本件ホテル部分125室で受けた開発許可を、事業運営に支障をきたすことも考えられるとして、2003年11月、ホテルの16室の増築と、店舗兼住宅棟の区域追加新築につき開発行為変更許可を受けている。しかしこの125室という規模は、被告らが自ら認めるとおり、地元説明会での住民の要望で縮小したものである。これを地元への説明もなく、隠れるようにして増やして開発許可の変更を求めるという自体に、被告らの開発手法がはっきりあらわれているといえる。
     被告らはこのように全体計画を小出しにして、徐々に当初の説明から秘密裏にどんどん開発地域を広げていくと見られる。すでに被告らは第1期計画のホテル建設に着手したが、ついで第2期計画についての開発許可を申請し、さらには当初の予定どおり「太陽の村プロジェクト」等にも開発の触手を広げていくことが想起される。
また本件において被告らがまさに「本体開発」という言葉でいみじくもその意図を露呈しているが、被告らの目的はホテルだけでは決してない。ホテルだけでは到底この地では採算が取れないことは企業である被告らは百も承知である。被告らは今のところ19棟としている長期滞在型コテージを、被告らのグループが宮古島で別荘を分譲しているのと同様、これを分譲することを計画していると想定されるのである。もし別荘としての分譲となれば、管理は個人にゆだねられ、自然環境の破壊は取り返しのつかないこととなってしまうであろう。
     今後原告らは第1回期日後に、既に申し込みを完了している100名以上の原告による第二次訴訟を提起する予定であり、被告が本件リゾート開発から撤退するまで徹底して第二次以降も訴訟を継続する予定である。
     また被告らは2004年春にホテルを開業しようと工事を進めているが、仮に開業しても、地元の宿泊業者、観光業者によるホテル営業反対活動はさらに強化継続され、また全国的にも西表のエコツーリズムを守るためにさらに強力に国、県、旅行業者、一般観光客への働きかけを進めるであろう。

4 むすび
    2003年5月にここ数年上陸することのなかったこのトゥドゥマリ浜に次々にアカウミガメ(種の保存法・希少種指定)が産卵に上がり、一部はふ化して海に帰っていった。被告ら側は、当初それが信じられず、「原告らがよそからもってきて埋めた」とか、あげくは「ピンポン玉だ」などと主張した。もちろん専門家によって貴重なウミガメの卵であることが明らかとなったが、本州を中心に成育しているアカウミガメがここまで産卵に来たこと自体も生物学上注目すべきことである。しかしそれ以上に地元の住民はこのウミガメたちは開発を止めるための神の使いであると固く信じている。
    八重山民謡に、「森に住むセマルハコガメが海に下りてウミガメになるまで、われわれの命も島とともにありますように」と神に祈る唄がある。
   命と自然とを一体のものとしてとらえる島の人たちの気持がここにはっきり表れている。
    この訴訟には、島の自然そして文化、伝統、信仰が、リゾート開発という無謀な試みによって破壊されるかどうかがかかっている。ここで食い止めなければ西表は一挙にリゾート化してしまう。西表がリゾートの島となってしまうことに司法が手を貸してはならない。
    この訴訟はあらゆる意味で、全国民だけでなく、全世界からも注目されている。また物言わぬ西表の生物たちも訴訟を見守っているはずである。
    この訴訟において、被告らそして被告らを支援してきた現在の町当局のあらゆる違法行為が明らかにされ、本件リゾート開発差止の判決がなされることを強く求めるものである。

以 上

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