ウォーター

        厚労省も需要者の視点からの水道行政を提唱

   ---需要者に情報を公開し、需要者の選択による需要者の為の水道行政を提案---


平成11年6月24日

水道基本問題検討会報告

       「21世紀における水道及び水道行政のあり方」について

 
今後の水道及び水道行政のあり方について検討を進めてきた「水道基本問題検討会」が、約1年間の検討を経て、今般、報告を取りまとめた。

 本検討会は、厚生省が水道関係の有識者に呼びかけて、昨年6月から開催してきた勉強会で、今後の水道にとっての基本的な問題について、自由に議論し、水道の目指すべき将来的な方向性について論点の整理を行ってきた。
 今回の報告は、検討の途中段階で一般からの意見公募を行いつつ、このような論点整理の結果を取りまとめたもので、「国民の立場に立った多様な水道の実現」を基調とする今後の水道のあり方と、これに対応する行政施策の方向を提言する内容となっている。
 厚生省においては、本報告における提言を踏まえ、実行できるものから行政に反映させるとともに、必要な制度的検討に速やかに着手していく。



1.検討の経緯


 わが国の水道は、社会に不可欠な施設として定着し、成熟段階に入っているが、その一方で、水質問題の多様化・複雑化、安定した水源確保の一層の困難化、地震に対する脆弱性等様々な課題を抱えている。また、近年の規制緩和、情報公開の進展など、水道を取り巻く社会的情勢も大きく変化しつつある。
 これらを踏まえて、厚生省では、今後の水道に関する制度の在り方を構想するとともに、その実現方法について自由に議論し、論点を整理することを目的に、水道関係の有識者を招いて「水道基本問題検討会」(座長 住友 恒 京都大学大学院教授)を開催し、昨年6月から検討を行ってきた。10回に及ぶ検討会での広範な論議を経て、今般、報告の取りまとめに至ったものである。


2.一般からの意見公募


 厚生省では、検討の過程において論議を深めるため、水道問題に関心を有する一般の方々から広く御意見をいただくことが有効であると考え、昨年10月、意見公募を行った。具体的には、検討会において中間的に整理された「今後の水道及び水道制度のあり方の検討に当たっての基本的認識及び論点」を、厚生省のホームページを通じて公開し、これに対する意見を公募した。いただいた御意見については、整理の上、検討会に報告し、本報告の取りまとめに際して貴重な参考となった。


3.検討会報告


 検討会報告「21世紀における水道及び水道行政のあり方」は、「需要者の視点」、「自己責任原則」及び「健全な水循環」という3つの基本的視点を提示した上で、「国民の立場に立った多様な水道の実現」を基調とする今後の水道のあり方を整理し、これに対応する行政施策の方向を提言する内容となっている(別紙検討会報告の概要、別添検討会報告(案)参照)。


4.今後の対応


厚生省においては、本報告における提言を踏まえ、実行できるものから逐次行政に反映させるとともに、制度的な検討が必要な提言については、速やかに具体的な検討に着手する予定である




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(別 紙)

水道基本問題検討会報告の概要
《基本的視点》
○ 需要者の視点:需要者である国民の立場に立った多様なサービスの提供

○ 自己責任原則:規制緩和・地方分権を踏まえ、自由で公正な経済社会における関係者の責任ある役割分担


○ 健全な水循環:水循環に係る多くの制度、関係者との協調と連携


《今後の水道のあり方》
○ 全国的に全ての水道が達成すべき「ナショナル・ミニマム」に加えて、それぞれの地域ごとに需要者のニーズに応じた多様な水準の「シビル・ミニマム(ローカル・スタンダード)」を設定し、その達成へ

○ 行政が主導し牽引していく時代から、需要者である国民との対話を通じ、水道事業者が自らの意志と努力で方向を決めていく時代にふさわしい関係者の役割分担ヨ


○ 具体的には、


−安全に飲用できる水の供給を全ての水道で維持しつつ、需要者の選択に応じたおいしく飲用できる水の供給
−節水型社会の実現を前提として、平常時に必要量の水を安定して使用でき、渇水や災害にも強い水道
−受益者負担を原則とし、政策的な財政支援により大幅な料金格差や高料金を抑制すると同時に、国民のコスト意識を高め、節水を誘導するような費用負担


※ ナショナル・ミニマム:安全に飲用できる水を、通常時に安定して使用できる水準
※ シビル・ミニマム:おいしい水の供給や、非常時における安定供給も視野に入れて、需要者自らが決定していくより高い水準


《行政施策の方向》
○ 水道事業の経営基盤の強化のため、地域の実情に応じた多様な形態による水道の広域化を推進するとともに、単独で十分な運営管理が困難な水道事業者が、経営基盤の強固な第三者(他の水道事業者又は一定の資格を有する民間の受託会社)に対する水道運営を委託する方式について、制度的枠組みを検討

○ 現行の水道法による規制が適用されない、小規模の受水槽以下の施設や飲用井戸等に衛生規制を適用するとともに、現在設置者の責任に委ねられている簡易専用水道の検査を、水道事業者が責任をもって実施する方向で検討


○ 水道事業の運営やサービスに関し、需要者自らが判断できるような情報の公開が不可欠であり、一般行政情報の公開に関するルールとは別に、水道事業者に対して、需要者に必要な情報を知らせる義務を課すことを検討


流域の市町村や住民の積極的な参加のもと、水道事業者を含めた水循環の関係者が、流域単位で水質監視や取水調整のためのネットワークを整備するとともに、取排水体系の見直しや用途間の転用等の具体的な対策を推進できるような体制を整備



生活衛生局水道環境部水道整備課
課 長 岡澤 和好(4020)
課長補佐 山本 昌宏(4023)



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「21世紀における水道及び水道行政のあり方」



平成11年6月

水道基本問題検討会
はじめに


 本検討会は、水道を取り巻く様々な環境の変化を踏まえて、21世紀における水道に関する制度の展開についてグランドデザインを行うべく、国・都道府県・市町村、民間、需要者等の役割分担を検討し、今後の水道に関する制度の在り方を構想するとともに、その実現方法について、自由に議論し、論点を整理することを目的に、平成10年6月から検討を行ってきた。
 検討会には、学識経験者を含めて、広く水道関係者の参加を得て、これまでに10回に及ぶ広範な審議を重ね、今般、本報告の取りまとめに至ったものである。
 歴史上前例のない「情報化社会」の到来という新しい時代背景を踏まえ、ここで取り扱っているような国民生活に深く関わりのある水道の基本課題については、供給者の事情を優先するのではなく、需要者である国民の立場に立って、時間をかけて納得を得ながらまとめていくことが重要である。本報告の取りまとめに当たっては、約1年間という限られた期間ではあるが、できる限りこのような基本認識をベースに置いた。
 また、量的に氾濫する未整理の情報の中で、将来の予見が困難な実情を考慮すれば、不動の正論を求めるのではなく、いくつかの試案に対する国民の反応を見ながら、迅速かつ柔軟に方向性を定着させていくのが、今日的な方針決定の手法と言え、その意味で、本検討会では、将来の水道のあるべき姿を示すというよりも、21世紀に向けての議論の方向性を整理することに最大の力点を置いて検討を行ったものである。
 約1年間に及ぶ検討の間には、各方面から様々な御意見をいただくことができた。特に、検討の中間段階で、インターネットを通じた公募の形で広く一般の御意見をいただいたことは、本報告を作成する上で大いに刺激となり、参考となった。謹んで謝意を表したい。




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委員名簿
  足立 則安  全日本水道労働組合中央執行委員長
  粟井 知良 前京都府日吉ダム対策事務所長
  今井 裕隆 社団法人日本水道協会顧問
  奥 利江 主婦連合会常任委員
  岸 博志 全日本自治団体労働組合公営企業局長
  小泉 明 東京都立大学大学院教授
  齋藤 博康 株式会社日水コン顧問
  白濱 英一 神奈川県内広域水道企業団副企業長
  須藤 隆一 東北大学大学院教授
座長  住友 恒 京都大学大学院教授
  高木 光 学習院大学教授
  高橋 裕 芝浦工業大学客員教授
  南部 鶴彦 学習院大学教授
  藤田 正樹 大阪府水道部長
  藤原 正弘 財団法人水道技術研究センター専務理事
  眞柄 泰基 北海道大学大学院教授
  松本 和雄 危険物保安技術協会理事長


(五十音順)




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目 次


1.水道の現状と課題


(1)水道を取り巻く環境の変化
(2)水道の使命の変化
(3)水道の抱える様々な課題
2.今後の水道行政の基本的視点


(1)成熟した市民社会への対応(需要者の視点)
(2)自由な経済活動を基調とする経済社会への対応(自己責任原則)
(3)健全な水循環への対応
3.今後の水道のあり方


(1)清浄、豊富、低廉の今日的意味(「ナショナル・ミニマム」から「シビル・ミニマム」へ)
(2)関係者の役割分担
(3)水質管理対策
(4)安定供給対策
(5)料金問題
4.対応する行政施策の方向


(1)水道経営と財政支援
(2)水道事業規制のあり方
(3)需要者とのパートナーシップ
(4)関係者とのパートナーシップ
(5)その他
参考資料


 今後の水道及び水道制度のあり方の検討に当たっての論点等に関する意見募集の結果について




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1.水道の現状と課題

(1)水道を取り巻く環境の変化


 わが国では、明治以来、消化器系感染症の蔓延を背景に、衛生対策の強化を目的として水道が整備されてきたが、その後、社会の発展に伴い、人が生活していく上で水道が不可欠の施設であるとの認識が定着し、近代社会の発展が水道の普及を加速してきた。その結果、わが国の水道は、他の公共事業と比較しても、早い時期に世界に誇りうる見事なシステムを備えるに至っている。
 近年、水道を取り巻く環境にも様々な変化が生じている。少子・高齢化といった人口構成の変化は、水道水の使用量や使用形態に変化をもたらし、化学製品の多用といった生活様式の変化も、様々な水質問題を引き起こしている。また、建物の高層化や都市構造の変化は、渇水時や地震等の災害時を含めた都市への水供給のあり方に影響を及ぼしている。さらに、近年の少雨化傾向は、水資源の利用を制約する要因となっており、水資源をますます希少なものとしている。


(2)水道の使命の変化


 水道行政は、これまで需要者である国民の公衆衛生の向上と生活環境の改善に資することを目的として進められてきた。そして、これまでは、その目的の達成のため、水道の普及促進と水道水供給の量的確保に主眼を置き、主として、供給側である水道事業者の体制を整備、向上させるための施策が講じられてきた。
 その結果、わが国の水道は、昭和30〜40年代の高度経済成長期の目覚しい拡大、発展を経て、今ではほとんどの国民が水道を利用でき、国民生活とは切り離すことができない存在となった。この間、水道は、住民に最も身近な行政主体である市町村が経営することを原則として整備され、これらの施策の実効性の確保に大きな貢献を果たしてきた。
 しかし、水道が普及するにつれ、今日では公衆衛生の向上と生・ツ境の改善という観点のみならず、国民生活や事業活動、都市機能を維持するための社会基盤施設として、社会経済全般にわたって多様かつ高度な機能が求められるようになってきている。


(3)水道の抱える様々な課題


 水道の面的整備はほぼ終わりつつあるとはいえ、未だに約4%、500万人の未普及人口を残しており、これを早急に解消することは、言うまでもなく緊急の課題である。加えて、普及の進んだ今日の水道についても、その使命を果たす上で、次のような様々な課題が残されている。
 水道の普及に伴い、今後は、既に整備された施設の維持管理の重要性が増すことになる。特に、水道水の安全性は国民の最大の関心事であるが、生活排水による河川の汚濁や化学物質による河川・地下水の汚染、湖沼の富栄養化など、水道水源の水質悪化が問題となっている。そのため、水道事業者における水質管理体制の強化に加えて、水道水源の水質保全が極めて重要な課題となっており、「水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律」等に基づき、一部地域で対策が進められているが、全国的には必ずしも十分な改善がみられず、環境行政、河川行政、下水道行政等との連携による対策の一層の強化が求められている。
 一方、水源の確保についてみると、地域によって差はあるものの、これまでの水資源開発の努力により、水道用水需給の状況は大きく改善されてきている。しかし、水資源賦存の地域性や水系ごとの利水安全度の違いなどから、水源開発に要する費用や水源の安定性には大きな差があり、水道事業間の格差の構造的な要因となっている。
 また、近年、ダム適地の減少に伴う開発効率の低下と遠距離化、さらに水源地域対策や環境保護の観点などから新たな水源開発はますます困難となってきており、今後は、むしろ既存施設の活用等により、いかに限りある水資源を有効に利用していくかがより大きな課題となっている。
 また、水道事業の多くが市町村単位の小さな規模で実施されてきた結果、地形的な要因に加え、水道ごとの成り立ちや水源、需要構造等の違いを背景として、災害時の対応や供給する水の水質等のサービス内容、料金などの面で格差が生じている。特に、小規模水道において財政面、技術面での立ち遅れが見られ、こうした小規模な水道における適切な経営・維持管理も今後の大きな課題と言える。
 なお、都市のマンション等の共同住宅の住民の中には、受水槽を介した水道水の供給に対して水質面での不安を抱く人が多く、また、水槽の清掃や検査の費用を余分に負担することに対する不満もある。受水槽を介した水道については、一定規模以上のものが簡易専用水道として規制されているが、規制導入から25年が経った今日でもその目的が十分達成されているとは言えない。また、水道法により規制を受けない学校・幼稚園の水道が水系感染症の原因となる事例もみられており、未規制水道における衛生確保も今後の課題の一つと言える。



2.今後の水道行政の基本的視点


(1)成熟した市民社会への対応(需要者の視点)


 わが国の社会は、経済の面では拡大成長から安定した成熟期を迎えつつあり、また、市民意識の面でもその高まりと広がりによって成熟期を迎えつつある。こうした中で、水道をはじめ、電気、ガス、通信等の公共サービスに対し、サービスの内容や質に対する需要者の関心が高まっており、需要者への説明や需要者の意見の反映が従来にも増して求められている。そのため、今後の水道、水道行政の在り方を検討するに当たっては、これまで以上に「需要者の視点」に立つことが必要となる。
 これからの水道は、最低限の給水サービスの水準を確保するだけでなく、需要者の多様なニーズに対応できるサービスのあり方を模索することが重要であろう。しかし、現実の水道は供給独占であり、需要者は供給者を選ぶことができない。水道事業者は、このことを謙虚に受け止め、サービスの内容や質の検討に当たっては、需要者のニーズを十分考慮すると同時に、需要者間の公平性の確保に十分留意する必要がある。また、サービスの内容や質の決定に際して、需要者の参加を促進することが重要である。
 さらに、水道は、需用者である国民の生活や事業者の事業活動を直接支えていることに加え、生活圏、経済圏としての都市の機能そのものを維持するために不可欠な社会基盤施設となっており、災害時等においても最低限、都市機能を維持するための用水を確保するというような考え方を導入する必要があろう。
 サービスの質や内容の決定に際し、需要者の参加を促進するための前提条件として、需要者側もこれを自らの問題と受け止める意識を持つことが重要であり、そのためには、水道事業者側からの適切な情報公開が不可欠である。特に、サービスの水準は、その対価である料金と密接に関係することから、コスト主義の原則に基づいた意思決定を行えるよう、コストに関する情報公開を進めることが重要と言える。また、最近では、水道メーターやダクタイル鉄管業界における独占禁止法違反が問題となるなど、水道事業者が有すべきコスト意識が問われている状況があり、水道事業者及び需要者の双方のコスト意識を一層高めることが不可欠と言える。


(2)自由な経済活動を基調とする経済社会への対応(自己責任原則)


 世界の経済は急速にグローバル化、ボーダレス化が進んでおり、わが国の経済社会もそれに対応した様々な改革に取り組んでいる。特に、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会を実現することは、わが国経済社会全体の喫緊の課題である
 このため、行政の様々な分野における規制の撤廃・緩和が進められており、水道の分野においても、これまでに、給水装置の構造及び材質の基準、指定給水装置工事店制度、指定水質検査機関、認可申請書類等に関する規制の緩和が図られている。国民の健康に重要な関わりを持ち、また、事業として地域独占的に行われ、様々な公的関与の規定が設けらている水道事業の特性を十分踏まえる必要があるが、成熟した経済社会に即して、今後、可能な限り自己責任原則と市場原理の活用を図る方向で検討していくことが望まれる。なお、ここに言う市場原理とは、単に競争原理に基づく利潤の追求を意味するものではなく、適切な環境面の費用など広く社会的なコストまで含めて、最適な効率と内部化の努力を求める概念であることに留意する必要がある。
 規制緩和と同時に、それぞれの行政における地方分権が進められており、水道行政における国と都道府県との役割分担についても、認可権限、監督権限等について見直しのための制度改正が行われている。さらに、官と民の役割分担の見直しも課題となっており、水道についても、その公益性を踏まえ、国、地方公共団体、民間及び需要者である国民を含めた適切な役割分担のあり方を検討していく必要がある。
 一方、経済のグローバル化に対応して、水道事業の資機材等についても、国際調和を推進し、わが国の市場を国際的に開放していくことが必要となっている。また、水道事業の運営や、水道施設の維持管理に関する業務についても、市場原理の導入が多くの国で進められてきており、こうした動向も注視していかなければならない。


(3)健全な水循環への対応


 水道事業は、循環資源である水を利用する事業であり、水の循環系が健全に機能していることに依存して成立している。したがって、できるだけ自然の水循環が保全されていることが、水道にとっての必要要件と言える。
 また、水道は、水循環系の一構成要素であると同時に、水道のための取水は、水循環系を人為的にかく乱し、さらに水道水を利用した後の下水は水循環の量と質に影響を及ぼす要素でもある。したがって、より安定した良好な原水を得るためには、水循環系における水道の位置づけを明確にするとともに、水循環に係る多くの制度、関係者との間で協調と連携を図り、計画的、体系的に水源保全を図ることが必要である。
 さらに、マクロな水循環系に大きな影響を及ぼすおそれのある地球温暖化などの地球環境問題は、全ての人類に関わる共通の問題であり、水道の運営に当たっても、省エネルギー等適切な配慮が求められる。



3.今後の水道のあり方


(1)清浄、豊富、低廉の今日的意味(「ナショナル・ミニマム」から「シビル・ミニマム」へ)


 水道法に掲げられた「清浄にして豊富、低廉」という理念は、今日まで、水道のあり方を律する基本となってきた。この理念は、水道のサービスの基本要素である水質、水量及び料金の面について、需要者に対するサービスのあり方を規定したものでもあり、需要者の望む水道を検討する上で、まず、この理念について今日的意義付けを行っていくことが必要であろう。
 生活に不可欠な水を手に入れることにおいて、すべての国民が等しく公平であるべきことは言うまでもないが、同じ水質の水を、同じ量だけ、同じ料金で享受できる環境にないことは、国民誰もが実感しているところであろう。したがって、何を公平にすべきかは国民的合意を得つつ、国民が決定していくべき問題と考えることが、需要者である国民の立場に立つ水道の原点と言える。
 従来、水道のサービスについては、全国どこの水道でも達成しなければならない水準として議論されてきた面が強い。しかし、成熟した市民社会の中で、今後は需要者である国民の意向を水道のサービスに反映させていくことが求められている。そのため、サービスの基本要素である水質、水量及び料金についても、全国どこの水道でも達成しなければならない水準(ナショナル・ミニマム)と、それぞれの地域の実態に即して地域住民自らが決定していく水準(シビル・ミニマム)とに区分して考えることが適切と思われる。
 この場合、21世紀の水道を考える上で、全国いかなる地域においても、現状のサービス水準を決して低下させないということを基本とすべきである。水道の「ナショナル・ミニマム」を「安全に飲用できる水を、通常時に安定して使用できること」と定義すれば、全国的にほぼ達成しつつあるといえるが、今後の水道は、その水準を維持しつつそれぞれの水道ごとに、ローカル・スタンダードである「シビル・ミニマム」を達成することが基本的な目標と考えることができる。
 さらに、わが国をはじめとする先進国は、水やエネルギーを大量に使用しているが、地球環境問題まで視野に入れると、今後はなるべくこれらの消費を抑制していく方向が、地球人としての立場から求められている。そうした意味では、量的な目標としては、むしろ一人一日の限度として、いわば「ナショナル・マキシマム」の水準をも検討していくべき時代になってきていると言えよう。


(2)関係者の役割分担


 需要者の視点や自己責任原則ということを踏まえれば、従来のように行政が主導し牽引していく時代から、今や需要者である国民との対話を通じ、また、民間の創意と工夫を活用しつつ、水道事業者が自らの意思と努力で方向を決めていく時代に大きく転換しつつあると言えよう。その際、国、地方公共団体、水道事業者、民間、国民それぞれが以下のように適切な役割分担をしていくことが必要になるものと考えられる。
 国は、ナショナル・ミニマムを支えるために必要な、水質基準、施設基準等の設定を行うとともに、水道事業の規模等に応じて都道府県と分担して水道事業者に対する必要な規制、監督を行う。また、都道府県域を越えるような大きな圏域として取り組むべき水道水源の水質保全、水資源の確保、渇水対策、地震等の災害対策、健全な水循環の構築等について、必要な施策を講じる。さらに、これらの施策の基礎となる調査研究を実施し、水道事業者に対して積極的な情報提供等の技術支援を行うとともに、政策的な財政支援を行う。
 都道府県は、現在進められている地方分権の制度改正後(平成12年度施行予定)は、固有の事務(自治事務)として、国と分担して水道事業者に対する必要な規制、監督を行うことになる。また、広域的水道整備計画の策定等を通じて、あるいは、必要に応じ、広域水道の事業者として、水道の広域化に関して主導的な役割を果たす。同時に、流域として取り組むべき水道水源の水質保全、水資源の確保、渇水対策、震災等の災害対策、健全な水循環の構築等について、国と協力して必要な施策を講じる。
 市町村を主とする水道事業者は、需要者との対話を通じて、需要者の立場に立った水道を実現する。具体的には、需要者の求める情報公開、広報活動を積極的に進め、緊密なパートナーシップを形成するとともに、適切なシビル・ミニマムを設定し、それに応える水準のサービスを提供する。また、サービス水準を維持できる適切な施設の更新計画を確立し、シビル・ミニマムに必要な財政基盤・技術基盤を確保できるよう、最適な経営形態を選択するとともに、コスト意識を徹底し、需要者に節水を誘導していくような取り組みを行う。
 民間の事業者は、指定水質検査機関や指定給水装置工事業者、水道事業者からの業務の受託者、あるいは、性能・品質の良い資材や装置の提供者等、特定分野の専門家として今後一層幅広く水道事業を支えることが期待される。また、多様な需要者のニーズに応えることのできる創意と工夫に富んだ水道技術やシステムを水道事業者に提案するとともに、将来的には、水道運営の受託者として重要な役割を果たすことが期待される。
 需要者である国民は、水道事業者が提供する給水サービスの価値に常に関心を払い、受益者負担の原則に最大限協力することを前提に、自らの積極的な参加によりシビル・ミニマムを決定していく。また、水の大切さを理解し、地球人としての意識をもって、節水型社会を実現していくとともに、健全な水循環の構築に積極的に貢献する。


(3)水質管理対策


 水道は、安全に飲用できる水準の水を供給する施設として普及してきたが、ボトル・ウォーターや清涼飲料水が普及した結果、特に大都市部においては、水道水を直接飲用する市民の割合が低下していると言われる。しかし、直接飲用することはもちろん、水道水は調理用、風呂用など飲用に準じた、衛生性を求められる用途にも広く使われており、飲用できることを前提とした水道水の供給は、国民の権利である安全で安心できる生活を享受するために必要不可欠である。
 したがって、引き続き「安全に飲用できる水」の供給を使命として、全ての水道で同一の水準が達成できることをナショナル・ミニマムとして維持すべきである。そのために、水道事業者は、水道水質基準を遵守することはもちろん、クリプトスポリジウムや有害化学物質等による汚染などの水質問題に対し、的確な対応ができる水質管理体制を整備することが求められる。また、未規制の有害化学物質については、国が水質管理の方針を示し、それに基づき水道事業者が必要に応じて水質監視を行うとともに、測定データや関連する情報を関係者で共有し、一般に公開していくなど相互に連携をとりながら、迅速に影響の発生を未然に防止できるよう対応していくことが必要である。
 また、飲用水として国民が口にする水のうち、小規模の受水槽以下の施設や飲用井戸等については、現行の水道法では規制が適用されていないが、水質基準を満足している水道水と同程度の安全性が確保されるべきであり、「飲用水の水質基準」の設定を含めて、そのために必要な措置が望まれる。
 一方、「おいしく飲用できる水」に対する国民のニーズは高く、それが水道水離れの原因となっているとの指摘もある。そのため、水道における高度浄水処理施設の導入が進められているが、需要者からも評価されているところでもあり、今後とも、可能な限り「おいしく飲用できる水」という水準を目指すことが望ましい。しかし、高度浄水処理の導入は、料金の値上げを余儀なくするものであり、安全性以上の付加価値については、基本的に対価との関係で需要者の選択によってシビル・ミニマムとして決定されるべきものと言える。
 安全でおいしい水道水の確保のためには、水道水源の保全が不可欠であり、健全な水循環系の構築という流域管理の視点から、国や都道府県が中心となって枠組みを整備し、流域の市町村や住民の参加のもと、関係者が協力して取り組む必要がある。その際、水質の目標としては、原則として高度処理をせずに通常の処理で水道水の水質基準を満足できるような原水の確保を目指すべきである。一方、水道事業者自身は、水道水源の保全に直接的な対応措置を持ち合わせていないことが問題とされているが、水の専門家として汚濁発生源となっている他の分野の事業者に対して働きかけるなど、健全な水循環系を維持する観点から積極的な役割を果たしていくことが必要である。


(4)安定供給対策


 水道水の安定供給を考える前提として、水資源が限りあるものであることを踏まえ、これを節度を持って利用するとともに、雨水等の身近な水の有効利用や雑用水の再利用に努めていくことが、21世紀の国民として、また、地球人としての基本的な責務と言えよう。
 こうした節水型社会の実現を目指しつつ、水道に求められている常時給水義務を達成できるよう、異常な渇水時や災害時を除き、国民が必要量の水を安定して使用できるような水道水の供給を、ナショナル・ミニマムとして確保する必要がある。
 しかし、都市の諸活動や都市機能そのものが水道に大きく依存している今日、渇水時や地震等の災害時にも普段どおりの給水を求める声が少なくない。そのため、多くの水道事業者において、渇水対策、災害対策のための水源確保や水道施設の増強が行われており、近年では、徐々に渇水や災害に強い水道が整備されつつある。しかし、あらゆる渇水や地震にも耐えられる水源の確保、水道施設の整備は、費用面からも現実的ではなく、一方では水源開発に伴う環境問題の発生も懸念される。そのため、その整備水準は、地域の特性を踏まえつつ、需要者の求める水準と費用負担との関係を考慮した上で、シビル・ミニマムとしての整備目標を定め、渇水や災害に強い水道の整備に計画的に取り組む必要がある。その際には、ロスアンジェルス地震において、都市全体を制御するコンピュータの冷却不能により、都市混乱を生じさせたという事例にも象徴されるように、水道は、都市そのものを支える社会基盤施設となっており、個々の住民に対する給水の確保のみならず、国家的見地から、非常時において一定の都市機能を維持するための、最低限の給水の確保にも留意すべきである。
 渇水や災害対策としては、多額の経費を必要としないソフト面の対策も重要かつ効果的であり、近隣の水道事業との相互支援体制を確立しておくことが望ましい。また、流域内の利水関係者相互の水運用や、地域によってはこれまでの広域水道圏や流域を越えた相互水運用が重要となっており、そのための様々な施策が検討されるべきである。さらに、渇水や災害が生じた場合の国レベル、都道府県レベル、地域レベルの危機管理対策についても併せて確立しておくべきである。
 阪神・淡路大震災の際に、飲料水は何とか確保できたものの、生活用水の不足により多くの都市流出者を出したことが教訓として挙げられ、建物の高層化や生活形態の多様化の進んだ都市においては、飲料水以外にも生活に必要な水を確保することが必須と言える。そのため、雨水、下水処理水、河川・水路の水など水道水以外の水を消火用水や水洗便所用水等として活用することについても日常的に検討しておくことが必要であり、具体的な活用方策について、関係者を交えて明確にしておくことが望ましい。
 一方、渇水に関しては、これまでも渇水調整を通じて、利水関係者間での相互の水融通が行われてきたが、特に、水道の減断水を生じるような異常渇水時には、国民の生活にできるだけ障害を生じさせることのないよう、生活用水としての水道用水を優先して確保すべきである。そのため、他の利水者からの水融通がより円滑に行われるよう、例えば水利権を一時的に借り上げるといった弾力的な仕組みも検討する必要がある。一方で、災害時と同様に、用途によっては、水道水以外の多様な水源の活用を検討することも重要と言える。
 なお、災害時を含めた安定供給対策が、一方で過大な施設の設置に結びつくことのないよう、事業計画の策定に当たり慎重な検討が必要であり、適宜、事業計画の見直しを図ることが必要である。また、現在、少子・高齢化が進行しているが、このことは水道水の需要構造を変化させるものであるとともに、断水等の影響を強く受けやすい人々が増加するという意味を有していることについても十分な配慮がなされるべきである。


(5)料金問題


 水道料金については、生活必需品である生活用水の対価であるということから、全国的に同一水準とすることが望ましいという考え方と、水は地域に属する貴重な天然資源であり、その資源を使用することの対価である水道料金は地域ごとに差があるのは当然であるとする考え方がある。従来は、そのバランスを取る方向で、国の補助や地方自治体の一般会計からの繰り入れ等の措置が行われてきており、その結果、そのままでは著しく高料金となる水道の料金が抑えられているが、それでも現状では、最高と最低で水道事業者間で約10倍の格差がある。
 いずれにしても、水道事業はサービスを供給する事業であり、資源消費に伴う費用を賄うという観点からも、受益者負担の原則は維持すべきであろう。その結果、地域ごとにある程度の料金格差が生じることは基本的に容認せざるを得ない。むしろ、水道水の供給のためのコストを需要者に知らせる上では、コスト全体を料金に転嫁することが望ましいと言える。ただし、それによって同じ水準のサービスに対して、大幅な料金格差が生じたり、逆に高料金を抑制するために、必要な設備投資が行われず、供給機能の低下を招くことになれば、それは水道の意義からみても問題であり、政策的な配慮が必要と言える。
 例えば、過疎地や辺地の簡易水道では、受益者負担の原則の適用が困難な場合もあり、そのような地域における水道施設の建設費や、水源開発や水資源の広域的融通など莫大な先行投資を要する事業にかかる費用は、その全てを受益者の負担とするには無理があり、一定の公費負担が必要と考えられる。しかし、水道事業への公費負担は、資源の適正配分、所得の再配分、事業者の経営努力等の観点からの問題も指摘されているところであり、国の補助や一般会計の負担は、一律ではなく、政策措置として限定的に行うことが適当と考えられる。
 なお、健全な水循環系を構築する上でも、国民のコスト意識を高め、水の価値について十分な認識を得ることが重要である。その際、水道を通じて利用された水は、下水として排出され適正に処理される必要があり、水利用のコストとは、これらを一体のものとして捉え、下水の処理費用まで含めたものとして認識することが重要である。
 水道料金は、水量抑制の観点もあって、従来、逓増型の料金体系が取られてきたが、その結果、大口需要者の節水が進んだ反面、もともと低く設定された家庭用料金については、需要者のコスト意識が十分働いていないという指摘もある。また、基本水量制についても、単身者等の節水意識を阻害しているという面もあり、その意味を見直す必要があろう。節水型社会の実現に向けて、節水を誘導するという観点から、水道料金体系についても、季節料金、渇水料金といった弾力的な運用ができる新たな工夫が必要と言える。



4.対応する行政施策の方向


(1)水道経営と財政支援


(1)経営形態の多様化
 自己責任原則の下で、需要者との対話を通じて、その要求に基づく多様な水道を実現するためには、水道事業者は、自立した水道を運営できる経営基盤を備えていることが不可欠であるが、現在、規模の小さな水道の多くは、財政的にも、技術的にも、水道の抱える課題に適切に対処できる十分な能力を備えているとは言いがたい。
 今後、維持管理を中心とする時代になるにつれ、水道ごとにみれば、施設の改築・改良等の大規模な投資が必要になっても、そのための財政基盤や技術者の確保がますます困難な状況となることが予想される。その意味で、経営基盤の強化のスめの様々な施策を総合的に講じていく必要があるが、財政基盤や技術基盤の共有化という観点から、地域の実情に応じて、広域水道、共同取水、共同経営、共同維持管理など多様な形態による水道の広域化を進めることも重要と言える。
 水道の広域的整備は、近年では、主として水道用水供給事業という形態で行われてきており、この形態による水道の広域的整備は、経営基盤の強化を図りつつ、安定した水源の確保や水の広域的な融通に大きな役割を果たしてきている。今後も引き続き、水道の広域的整備を図る必要があるが、経営基盤の一層の強化を図る観点からは、地域の実情を踏まえ、できるだけ末端給水までの水道事業の形態で広域的整備を推進することが適切と考えられる。なお、広域的整備に際しては、自己水源の放棄や遊休施設を発生させることなく、コストの縮減や技術者の確保などを通じて、実際に経営基盤の強化や事業の効率化につながるような計画とすべきである。また、広域的水道整備の目標に照らして、適正な規模となるよう配慮されるべきである。
 一方、同一市町村の簡易水道施設など、施設の一体化がコスト等の面から必ずしも合理的でない場合には、まず、経営のみの一体化を進めることが望ましい。また、例えば、同一水系から取水する水道事業者が組合を設置して共同で取水を行うなど、事業の一部を共同化することも有効と考えられる。さらに、緩やかな広域化として、例えば、災害等の非常時の対応を目的とした相互応援協定による体制の整備や、単独で実施するとコストのかさむ水質検査等の共同実施体制の整備など、特定の目的、あるいは特定の業務に関して広域的な体制を整備することも望ましい。
 また、水道の適正な運営という観点からは、単独では十分な運営管理が困難な水道事業者が、経営基盤の強固な第三者に対して水道運営を委託する方式も有効と考えられる。受託者としては、他の水道事業者のほか、一定の資格を有する民間の受託会社が考えられるが、委託事業の適正を期すため、委託に際しての明確な基準の設定が必要となる。こうした方式が定着すれば、委託先の技術力等の活用が期待できるなど、経営基盤強化のための選択肢が増えることになるため、国としても、適切な委託のための制度的枠組みについて検討する必要がある。
 なお、水道の民営化については、わが国の水道が市町村公営原則で実施されてきた経緯を踏まえ、それぞれの地域において、需要者を含めた十分な議論を経て検討されるべきものと考えられる。今後、経営基盤の強化を前提として、水道事業に求められる公益性を維持・増進する形での適切な民営化のあり方について、更に検討を深める必要があると考えられる。
(2)財政支援
 水道経営は、経済原則に則るべきものであるが、水道水は国民が等しく必要とする代替性のないものであることから、国民にとって大きすぎる負担にならないようにするという考え方に立ち、水道の国庫補助のあり方についても適宜検討を加える必要がある。
 個々の市町村では負担が困難な多大の投資を要する水源開発や広域的な事業を中心に行っている現在の国庫補助の考え方は、高料金化の防止と国家的見地の施設整備という2つの目的を併せて配慮した補助制度となっている。さらに政策的要素を強めていく必要はあるが、基本的にこの考え方を踏襲することが適当と言える。ただし、公費投入を行う以上、そのことによる便益を、費用対効果の評価等により明らかにしていくことが求められる。
 その際、過疎地の簡易水道等では、独立採算による経営が困難な場合がみられるが、そのような事業者に対しては、必要な国庫補助を行うことを検討すべきである。また、施設の老朽化に対応した施設の改築・改良に対する財政支援についても検討する必要がある。水道施設の改築・改良は今後ますますその必要性が高まるが、そのための投資は必ずしも直ちに収益の増加にはつながらず、水道料金の値上げに直結するものであることから、適切な時期に必要な投資がなされないおそれがある。そのため、水道事業者として、施設の更新計画を確立し、これを適切に考慮した長期的な財政計画に基づく事業運営に努めることが不可欠であるが、国としても、安全な水道水を安定的に供給する能力の確保と同時に、施設の改築・改良に伴う高料金化を抑制するためにも、この分野における国庫補助の導入を検討する必要がある。
 なお、当面発生しない需要を見込んだ先行投資が、高料金の一因となっている面があることを踏まえ、施設計画の適正化を強力に進めていくと同時に、相当将来の需要を見込んだ水源開発などの長期的な先行投資については、後世代のために現世代の負担を求めることとなるため、利水水道事業者を特定せずに、公的に負担する方策を検討すべきである。
(2)水道事業規制のあり方


(1)衛生規制
 水道には様々な規制が設けられているが、このうち人の健康の保護に係る衛生規制については、全国一律の水準として、国において明確な基準を定め、それを水道事業者に遵守させるなど、国として必要な規制を引き続き確実に行っていく必要がある。
 一方で、水道水の水質基準は、今後とも対象項目が追加されるなど規制強化の方向にあり、これに適切に対応するための水道事業者の負担も非常に大きくなってきている。
 そのため、衛生的な安全性を確保しつつ、特に小規模の水道事業者の負担を軽減するような合理的な水質管理のあり方について積極的な検討も必要である。
 また、水道法による現行の規制が適用されていない施設であっても、事実上不特定多数の人々の飲料水を提供することとなっているものについては、衛生規制を適用する必要がある。
 さらに、簡易専用水道については、利用者の不安感を払拭するために、その供給者である水道事業者が簡易専用水道の管理が適切に行われているか否かの検査をする方向で検討を行うことが適当である。その場合、現在その業務を担当している指定検査機関に委託してその検査を行えるような方式も検討すべきである。
(2)事業規制
 自己責任原則に基づき、事業者の創意工夫を生かした自由な事業活動を確保させるために、水道事業の運営等に関する国の規制はできるだけ縮小する方向とすべきである。事業認可の制度については、国と都道府県とが水道事業の規模等に応じて分担することが既に決まっているが、その運用に当たっては、事前審査重視から事後チェック重視に比重を移すことを念頭に置き、できるだけ事業者の自己責任に委ねるよう配慮すべきである。
 一方で、国及び都道府県においては、事業の運営に関して十分な監視が行えるような行政体制の整備を図る必要がある。特に、民営水道については、給水区域の市町村による十分な監視を行うとともに、情報の開示や、公的機関または適切な資格を有する第三者機関による定期監査を義務付けるなど、業務の公正かつ適切な運営を確保するための制度を整備する必要がある。
(3)需要者とのパートナーシップ


 水道が需要者の料金によって運営されるものである以上、水道事業の運営に需要者の意思を反映できるよう、水道事業者と需要者とのパートナーシップを進めていく必要があり、双方向の情報伝達を図るべきである。
 そのためには、水道事業の運営やサービスに関し需要者自らが判断することが可能となるような情報の公開が不可欠である。特に、水道事業者及び需要者双方のコスト意識を高める観点から、料金関係の情報や水資源開発まで含めた水のコストに関する情報を積極的に公開すべきである。さらに、水道事業者による工事発注関係の情報公開も、公正で開かれた市場の形成に資するものであり、より適切な工事発注を実現していく契機ともなろう。
 また、需要者に対する積極的な情報提供として、様々な広報が行われているが、さらに、水質の安全性に関する情報など需要者の求める情報を十分含めた広報を行う必要がある。米国などでは需要者への年次報告を義務づけている例もあり、一般行政情報の公開に関するルールとは別に、水道事業者に対して、必要な情報を需要者に知らせる義務を課すことも検討する必要があろう。また、健全な水循環系の構築に向けて住民の参加を促すために、国民一人一人が水循環に果たすべき役割についても、広報を通じて啓発していくことが必要である。
 さらに、水道事業者として、需要者の要望を正確かつ迅速に把握し、求められている情報を速やかに開示していくことが重要であることから、これを専門とする部署や窓口の設置を含めて、適切な対応のできる体制の整備が急がれる。


(4)関係者とのパートナーシップ


 水道事業は、今や様々な制度や枠組みの中に組み込まれており、水道と関係機関との密接な連携なしには適切な事業運営が困難となっている。また、水道は、下水道とともに、水循環系の主要な構成要素となっており、水源の水質管理の強化、水源涵養を含む水資源の安定的確保、特に渇水時における水資源の相互融通を含む総合的な利用・調整を推進していくためには、他の利水、河川管理、環境管理など関係制度間の連携を強化することが必要である。
 このため、流域の市町村や住民の積極的な参加のもと、水道事業者を含めた水循環の関係者が、流域単位で水質監視や取水調整のためのネットワークを整備するとともに、取排水体系の見直し、用途間の転用等の具体的な対策を検討し、推進できるような体制の整備が必要であり、国もこれを積極的に支援すべきである。


(5)その他


(1)技術開発、試験研究の推進
 施設の老朽化、水源水質の悪化等の課題に対応し、渇水時、災害時、水質汚染事故時等の非常時においてもタ定的な供給を確保できるよう、水道施設の質的な改善・改良が求められている。そのため、高度浄水処理に関する一層の技術開発を進めるとともに、より安全で良質の水道水を適切なコストで供給できる処理技術の開発に取り組む必要がある。さらに、クリプトスポリジウム、サイクロスポーラなど新たに対応を迫られている感染症や寄生虫疾患などについての、水道におけるリスク管理技術についてや、内分泌攪乱化学物質等の微量化学物質についても研究が必要である。また、効率的な老朽化施設の改良方法、都道府県域や流域を越える水道原水の相互水運用などに関する調査、技術開発が必要である。
 技術開発、試験研究の体制として、国、水道事業者、大学等研究機関、水道関係業界等水道関係者の連携が重要である。特に、新たな技術開発には、民間の自由な創意・工夫を最大限に引き出すような体制が重要であり、国は、開発された先導的・モデル的な技術を実用化し、普及させていくような支援を行っていくことが必要である。
(2)人材育成、技術の継承
 人材育成には、水道分野の活性化が不可欠であり、大学における研究・講座の充実、人事交流を含めた水道事業者間での交流の強化などにより、積極的に活性化を図っていく必要がある。また、今後、水道分野における技術の継承が大きな課題となるものと予想されるが、産・学・官の水道関係者が連携して、水道関係技術の調査研究を進め、水道関係者全体で技術を承継していくような体制を強化すべきである。
(3)国際協力の推進
 わが国は、これまでも水道を重点分野の一つとして技術協力、経済協力を進めてきているが、世界には未だに衛生的な飲料水の確保に事欠き、水系感染症の脅威に曝されている人々が少なくない。開発途上国の水道整備に対する技術的、財政的支援を行なうことは、世界有数の経済力と優れた技術力を持つわが国の責務であり、今後、一層、開発途上国の水道整備を支援していく必要がある。その場合、それぞれの国の実情を十分踏まえ、相手国の立場に立ったきめ細かな協力が必要であり、また、技術移転に関しては、効率的で維持管理が容易であることに加え、節水型社会を指向した水道システム、技術を移転するよう配慮することが望ましい。さらに、このような国際協力を支える人材育成及び支援システムを充実していくことが重要である。例えば、人材をプールして、開発途上国の要望に応じて随時派遣できるようなシステム作りが望まれる。
 一方、WHO等の国際機関を通じた国際協力も重要であり、飲料水水質ガイドラインの見直しをはじめ、水道に関わる基準や指針の策定に際して、わが国としても積極的に参加、貢献していくことが必要である。
(4)規格面等での国際調和
WTO体制の下で技術の国際標準化が進められており、工業製品については、原則として国際規格に準拠することが必要であることから、水道用資材、給水装置、水道用薬品等について、規格の国際調和を図っていく必要がある。





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