
〜バイオエッセイ・技術の森 
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その1「技術の現場」
その2「ビーバーの設計」
その2「遺伝子の変異とイントロン」 地球上にDNA生物が出現してから今日までの生物進化の道のりを眺めてみると、単純
な形態と機能をもった生物から、次第に複雑な組織と機能をもった生物に発展したもので
あることがわかる。これをゲノムの面から眺めると、ゲノムの長さは次第に長くなり、遺
伝子の数も増えている。ヒトと呼ばれる動物種が出現したのは、つい数百年前のことで、
生物界では新参者であるが、これだってゲノムの発達の歴史を遡れば同じ祖先に辿り着く
に違いない。こう考えると生物進化は、ゲノムの伸長とそれに伴う新しい機能の遺伝子の
獲得の歴史であったともいえる。これは生物が生息する場の環境の変化に対応し、或いは
食物連鎖の中で生き残って種を保存するために起こった変化であるが、どのようにしてゲ
ノムサイズが大きくなり、いろいろな機能が付与されたのだろうか。それを考えてみるの
も興味あることではないだろうか。
生物のゲノムは固定的なものではなく、常に部分的な脱落や新しい配列の獲得が起こっ
ている。一つはウイルスなどによる他の個体からの遺伝子の導入であり、身近な例として
MRSAと呼ばれる多剤耐性黄色ブドウ球菌などは、各種の抗生物質による攻撃から身を守
るため、さまざまな薬剤耐性機構を導入した細菌だという。細菌が他の生物が持っている
有用な遺伝子を知っていて、それを発注して身につけたとは考えにくいので、細菌間を動
き回るバクテリオファージによって偶然運び込まれた個体の中に抗生物質の攻撃に耐えて
生き残れる機能を獲得できたものがいたと考えるほうがよいようである。そのような偶然
が起こる確率が1億文のでも10億分の1でもよい、生き残るものがあれば短時間のうちに
その数を増やすことができる。
これは笑い話であるが、大腸菌が20分に1回の速度で細胞分裂を続けると、その数は2
日間で2.23×1043になり、体積は地球の2万倍になる計算になる。勿論、そのようなこと
はあり得ないことであるが、それぐらい細菌の増殖は速いので、1個がその環境に生き残れ
る機能を獲得すれば、たちまちその数を増やすことができる。
しかし、ヒトのような生物種になると、生まれる子供の数が少ないので、このような方
法は取れない。哺乳動物などでは環境の変化に対応する方法として、細菌とは違った機構
があるものと思われる。
キイロホコリカビの生活史を見ると、単細胞生物であるのに貧栄養の状態になると集合
して、ナメクジのような形になって匍匐して栄養豊富な場所を求めて移動したり、きのこ
のように子実体を形成して胞子を作ったりする。同じ単細胞の個体であるのに集合したと
きの位置で、子実体の柄になったり、胞子になったりする。これなどは単細胞生物が協同
して多機能化することによって種の保存を図っているように見え、単細胞生物から多細胞
生物が出現したときの歴史を目の当たりに見るような気がする。勿論、この子実体を富栄
養の場所に移すと個々の細胞がバラバラに別れて新しい生命活動開始する。近年、哺乳類
の体細胞からクローン動物が作製され、哺乳類の体細胞でも個体を発生させる全能性を持
っていることが証明されたが、キイロホコリカビの細胞の分化と個体の複製能と共通した
ものがあるように思える。
多細胞で複雑に分化した組織と機能を持つ哺乳類の個体は、それ自身が環境の変化に対
してかなり対応できるようになっているのではないだろうか。体温なども気温が変化して
も恒常性が保てるようにするためであり、遠い祖先が獲得した機能である。5感と呼ばれ
る感覚器の発達や敏捷な運動性も変化に対応するのに有利な機能である。このように多く
の機能を持つことによって、哺乳類は生む子供の数が少なくても環境の変化に対応して種
を保存できるのだろうと思われる。
ではこのような機能の元となる遺伝子はどのようにして獲得したのだろうか?すべてが
ウイルスによるDNA鎖の持込みのようには思えない。そこで気になるのが、ゲノムの解
読によって明らかになった長いイントロンや繰り返し配列など、現在機能していないゲノ
ム配列である。ヒトのゲノムは大腸菌に比べるとゲノムの長さは1000倍ほどあるのに、遺
伝子の数は10倍足らずで、イントロンと呼ばれる機能していないかまだ機能がわからない
配列や反復配列が多く存在する。何故だろうか?生物がエネルギーを使って全く無駄な配
列を作るはずがない。必要だから存在するに違いない。どうしてそのような配列を持って
いるのだろうか?どのようにしてゲノムを伸長させたのだろうか?
反復配列は他の生物種から持ち込まれなくてもできるはずである。このような配列は現
在はまだ機能していないが、将来、新しい機能を持った遺伝子を合成するための材料とし
て温存されている材料と考えることはできないだろうか。現在と異なる環境に遭遇し、そ
れに対応することが必要になったとき、それを材料にして新しい機能を持った遺伝子を形
成できるようなシステムがあれば、膨大な数の子を生まなくても生物進化の道を歩むこと
ができることになる。このような学悦はなく、実験した人もないが、細菌と哺乳類の生活
史とゲノムの長さを見ていると、ふとそんな気がする。ポストゲノムの研究ではいろいろ
新しい発見が起きるものと思われるが、ゲノムの中の長いイントロンや反復配列の意味が
解明されると、もっといろいろなことがわかるに違いない。そのような日は必ず来るであ
ろう。バイオの世界は未知の解明の楽しみに満ち溢れた世界である。
