動物薬のおはなし

経験豊かな平井センセイが
動物薬を丁寧に解説します!!



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その1「動物用医薬品等」

 「くすり」と呼ばれているものにはいろいろなものがありますが、大きく分けて人に使用するものと動物に使用するものがあります。「くすり」は微量で人や動物の生理に大きく影響するものが多いので、それを製造したり、輸入したり、或いは販売したりするには政府の許可や承認が必要です。

通常「くすり」と呼ばれているものの多くは法律的には「医薬品」ですが、蚊取り線香のように作用緩和なものは「医薬部外品」と呼ばれ扱いが少し違います。このほかに注射器などのように「医療用具」と呼ばれる医療の現場で使われる器具類があります。何れも人に使われるものと動物に使われるものがあり、動物に使うものは「動物用医薬品」のように「動物用」という言葉が前に付きます。医薬品等の許可・承認を与えるのは通常厚生労働省で、ごく一部都道府県が認可するものもありますが、動物に使われるもののの許可・承認はすべて農林水産省から与えられます。なお、人に使用するものでは、このほかに「化粧品」があり、製造、輸入、販売にはやはり厚生労働省からの承認・許可が必要ですが、動物用化粧品というものはありません。動物用のシャンプーなどは動物用医薬部外品に分類されます。

 医薬品のほかに人が経口的に摂取するものに食品があります。食用色素や腐敗防止のための保存剤など食品に微量添加する物を「食品添加物」と呼んでいます。食品添加物は医薬品のように個々の品目ごとに承認・許可を得て製造や輸入をするのではなく、厚生労働大臣が物質ごとに指定し、使用基準を定めます。動物の飼料にも類似の微量物質があり、農林水産大臣が物質ごとに指定し、使用基準を定めます。これを「飼料添加物」と呼んでいます。これは薬事法とは別の「飼料の安全性確保及び品質の改善に関する法律」(飼料安全法)によって管理されます。

 農作物の病虫害を防ぐものに「農薬」があります。これも製造・輸入・販売には農林水産省の許可が必要ですが、基になる法律は薬事法ではなく、農薬取締法です。

 ある物質が動物用医薬品、飼料添加物、農薬のどの分野に帰属するかは物質の化学構造によって決まるのではなく、その使用目的によって異なります。例えば、同じ成分の殺虫剤でも家庭で使用するもの、畜舎で使用するもの、ビニールハウスで使用するものでは、適用される法令も登録の種類も異なります。製品を開発する時、まず何を対象にしてどのような目的に使うのかを明らかにすることが大切です。

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その2「動物用医薬品の登録」

 動物用医薬品、動物用医薬部外品、動物用医療用具を製造・輸入・販売するにはそれぞれを取扱うための「業」の許可と品目ごとの承認を得なければなりません。例えば、海外で家畜の治療に販売されてている優良な医薬品があったとして、これを日本に輸入して販売しようと思えば「動物用医薬品輸入販売業」の許可とその医薬品について「輸入承認」を得なければなりません。

 許可と承認の手続きについては薬事法やそれを基にした取締り規則などで決まっていますが、細目は随時修正されますので、年ごとに「動物用医薬品等製造指針」という本が作られ日本動物薬事協会から刊行されています。

 動物用医薬品と動物用医薬部外品や動物用医療用具では必要な資料が多少異なりますが、許可や承認を得るための手続きは類似しています。許可・承認されると農林水産省から許可書や承認書が交付され、農林水産省にも記録されるので、一般に「登録」されたといいます。これらのものを「登録」するにはどうすればいいでしょうか。動物用医薬品を例にして概略見てみることにしましょう。

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その3「動物用医薬品の輸入」

 医薬品等を製造する場合と輸入する場合を比較すると、輸入では国内に製造施設が要らないだけで、他の必要要件はほとんど変わりません。例えば海外で家畜に使われている医薬品を輸入しようと思えば、それを製造する時と同じぐらいの体制が必要です。なお、医薬品の販売と授受は同じ規制を受けるので、無料で配布する場合でも許認可を得なければなりません。

 動物用医薬品の輸入ができるのは「動物用医薬品輸入販売業」の許可を持っている人です。初めて輸入しようとする人はこの許可を得なければなりません。この「業」の許可を得るにはそれを取扱うのに要する施設や検査設備・器具類などのハード面のほかに取扱い責任者やその医薬品を取扱う資格を持った人、輸入業務や品質管理ができる体制などのソフト面が整っていなければなりません。「業」の許可を申請するとその業を行える施設・設備や体制が整っているか、申請内容が事実と相違ないかを都道府県から調査に来ます。従って、書類だけ体裁を整えても許可されません。

 動物用医薬品を取扱うには幾つかの必要要件がありますが、まず薬剤師が必要です。ワクチンなどの生物学的製剤では政府から資格が認められた獣医師、医師、歯科医師または微生物を専攻した薬剤師が必要です。経営者も麻薬中毒者や薬事法違反などで処罰中の人などの欠格者はなれません。また、輸入品も製造はGMP(医薬品の製造規範)に従って製造されたものであることが必要で、輸入後の取扱いもGMPが適用されるので、経営者と医薬品の管理責任者(薬剤師)のほかGMP基準の正しい履行を監査する人も必要です。

 これら「業」としての必要用件は通常製薬企業であれば大抵整っています。初めて輸入しようとする人は製薬業を起業するつもりで体制を整える必要があります。許可の申請など詳細は前述の「製造指針」に詳しく記載されています。

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その4「製造(輸入)承認申請」

 動物用医薬品の製造(輸入)の承認の申請は品目ごとに行います。申請に必要な資料は新しいものと既知のもので多少異なりますが、新しいものを例にとって見てみましょう。

 申請資料は「承認申請書」「添付資料」の二つからなります。承認申請書にはその医薬品について承認される内容がすべて書かれてあり、いわばその製品のエッセンスです。添付資料はその承認申請内容を裏付けるデータ類です。どのようなものか、見てみましょう。

[1] 動物用医薬品製造(輸入)承認申請書
  記載する事項やその様式は決められてあり、A4版の紙に次ぎの事を記載することになっています。

    

動物用医薬品(医薬部外品)輸入承認申請書

                      年  月   日

       収入
  印紙   農林水産大臣    殿
                   住所
                   氏名        印
                  (法人にあっては、名称及び
                   代表者氏名)

 薬事法第23条において準用する同法第14条第1項の規定により動物用医
薬品(医薬部外品)の輸入の承認を受けたいので、下記により申請します。



1 営業所の名称及び所在地
2 輸入しようとする品名
3 成分及び分量(不明のときは、その本質)
4 製造方法
5 用法及び用量
6 効能又は効果
7 貯蔵方法
8 有効期間
9 規格及び検査方法
10 参考事項




     

 輸入(製造)の承認は品目ごとに与えられるので、申請書も品目ごとに作成しなければなりません。例えば重量が違う錠剤、濃度が違う注射剤などは別品目になるので、それぞれについて申請書を作成します。

 輸入(製造)しようとする品名は、予定している販売名です。ただし、医薬品ですので多少制約があります。品名は仮名や漢字など日本の字で書くことになっています。輸入品でも海外で使われている文字そのままではいけません。例えば海外で使っているMediclineという名前をそのまま日本でも使いたいときは仮名書きにする必要がります。また、MBK-18のようなアルファベットと数字の組み合わせた記号も使えません。
 「血が止まる」というように効能を直接書いたものや「すばらしく効く○○」のように宣伝の語句が入ったものも認められません。また、「ペニシリン」のように物質の一般名だけでは登録できません。一般名を使いたい時は通常「ペニシリン○○」のように一般名の後に自社名などを入れます。自社、他社を問わず、同じ品名を2つ以上の製品の品名として使うこともできません。
 なお、他社の商標に抵触する時は、事前に商標の所有者と協議して承認後に問題が起こらないようにしておく必要があります。

 なお、公定書などで一般名が決められている製剤の場合は、品名の後に一般名を( )で書くことになっています。

   成分及び分量の欄には、有効成分だけでなく、その製剤に使用されているすべての成分を記載しなければなりません。また、その成分の規格と配合目的を明らかにする必要があります。

 用法及び用量は動物別適応症別に投与方法と投与量を記載します。これは次ぎの欄の効能又は効果とも関連します。

 効能又は効果も動物別に適応症などを記載します。これもそれは裏付ける試験成績が必要です。

 貯蔵方法は安定性の試験成績から特別の条件が必要なときに記載します。

 有効期間も安定性試験の成績から判断して、必要な場合に設定します。

 規格及び検査方法は製剤の規格、製剤中の有効成分の検査方法のほか、配合するすべての成分についての規格・検査方法が必要です。日本薬局方などに収載されている成分であればその規格に従います。なお、検査方法は出来る限り通常使用されている試薬や検査器具を使って検査できる方法を用います。また、容器などの規格も必要です。

 参考事項には使用上の注意や申請者の連絡先など上記の必要事項を記載します。

 承認申請書の記載は様式に従って記載すれば出来ますが、それを記載するにはその根拠となる試験成績が必要です。この申請書で記載できない個所があれば、開発がまだ完了していないことを意味します。

 承認申請書は最低4部作成し、1部を控えとして残し、3部を都道府県を経由して提出します。都道府県は1部を残し、正副2部を農林水産省に送ります。このとき正には決められた金額の収入印紙を貼ります。金額は申請の種類によっても違い、年毎に改訂されるので、申請時に都道府県の窓口で確認した方がいいでしょう。新規物質の場合約60万円ほどです。
 なお、申請が承認されなかった時も収入印紙代は返却されないので、申請するときは申請内容を十分に吟味して、完全なものに仕上げてから申請する方がいいでしょう。

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その5「添付資料」


 医薬品等を登録する時は、それが何で、何を目的として使用するものであり、その有用性(効果と安全性)を明らかにする必要があります。添付資料は承認申請書に記載された事項を裏付ける資料です。添付する資料は動物用医薬品、動物用医薬部外品、動物用医療用具で多少異なりますが、動物用医薬品を例にとると次ぎのようです。

イ 起源又は発見の経緯、外国での使用状況等に関する資料
ロ 物理的・化学的・生物学的性質、規格、試験方法等に関する資料
ハ 安定性に関する資料
ニ 毒性に関する資料(医薬部外品、医療用具では不要です)
ホ 薬理作用に関する資料(医薬部外品、医療用具では不要です)
ヘ 吸収、分布、代謝及び排泄に関する資料(医薬部外品、医療用具では不要です)
ト 安全性に関する資料(医薬品では毒性の項に含まれます)
チ 臨床試験の試験成績に関する資料(医療用具では性能に関する資料)
リ 残留性に関する資料(医薬部外品、医療用具は不要です)

 添付資料には上記の資料のほか、上記資料を取りまとめた概要書を作り添付します。

イ 起源又は発見の経緯、外国での使用状況等に関する資料
 何故、この製品を開発したか、その有用性は何処にあるかを説明する資料のほか、海外での承認の経過や海外で使用されている添付文書、GMPで製造されている証明など海外での状況がよく分かるような資料を整えます。

ロ 物理的・化学的・生物学的性質、規格、試験方法等に関する資料
  主成分の性状だけでなく、製品の性状もよく分かるよう資料を整えます。また設定した規格・検査法を裏付ける試験資料もここに入れます。その製品の本質がよく分かるようにします。

ハ 安定性に関する資料
  単に経時変化だけでなく、光線や湿度の影響を原体と製品について調べます。試験は少なくとも3ロットについて実施しなければなりません。安定性試験は時間がかかるので、試験を始める前にこれについて出された平成8年7月22日付け薬事室長通知を読んで、ガイドラインに沿って実施する方がいいでしょう。詳細は製造指針に記載されています。

ニ 毒性に関する資料(医薬部外品、医療用具では不要です)
  毒性試験は@急性毒性試験、A亜急性毒性試験、B慢性毒性試験、C特殊毒性試験、D対象動物安全性試験があります。いずれもGLP条件下で実施したものでなければなりません。外部機関で行う時もGLP対応の機関に依頼します。
 海外での資料も利用できますが、この場合も日本と相互査察の協定を結んでいる国でGLP条件で実施したものでなければなりません。また、海外資料は日本語に翻訳したものと原文とが必要です。また、資料の中から都合のよい部分だけを抜粋して利用することも出来ません。
 急性毒性試験は2種以上の動物種の雄雌について経口、皮下、静注(又は腹腔内)の3経路についてLD50を求めること、亜急性毒性試験では臨床投与経路を考慮した経路で3週間以上、慢性毒性試験では3ヶ月以上の投薬が求められています。

 特殊毒性試験は吸入毒性、皮膚・粘膜刺激性、アレルギー、変異原性、催奇形性などいろいろあり、その物質の性状によって決まります。変異原性試験の結果発ガン性が疑われる時は長期投与よる発ガン性試験なども必要になります。
 なお、医薬部外品の場合には毒性資料は求められていませんが、本来的に毒性が少ないもので作用が緩和なものしか医薬部外品にならないからです。従って犬のノミ取り用の首輪やシャンプーでも主成分の毒性・薬理作用によっては動物用医薬品になります。
 安全性試験は対象動物を用いてその製品の安全域を確認する試験です。人に使用する医薬品と異なり、対照群を置いて臨床用量のほかその数倍の用量を投与した時の動物への影響などを調べます。
 試験群の用量設定や検査項目はと毒性・薬理試験から得られた薬物の特性によって多少異なりますが、採食量、体重変化、一般症状、生理検査値、血液生化学検査値などは基礎的な資料として必要です。試験実施計画が重要ですから専門家に相談し、製品の安全性((危険性)が評価できる試験計画を建てることが大切です。


ホ 薬理作用に関する資料
  薬理試験には@一般薬理とA薬効薬理があり、@は毒性とも関係します。動物用医薬品では海外で使用されていても、この資料が十分整っていないものもあるので注意が必要です。またAは効能又は効果を説明する資料ととして重要です。

ヘ 吸収、分布、代謝及び排泄に関する資料
  実験動物だけでなく対象動物でも吸収、排泄などは調べておく必要があります。この試験を行うにはは血液、尿、糞便、臓器・組織のような生体成分中に含まれる微量の薬物の分析技術が必要です。

チ 臨床試験の試験成績に関する資料
  GCP条件で実施しなければなりません。臨床試験には予め農林水産省に届け出なければならないものもあり、実施についてかなり細かな規定がありますので製造指針をよく読んでから、実施する方がいいでしょう。
 臨床試験は、まず動物別の適応症と至適用量を調べ、症例数を増やして有用性(効果と安全性)を評価します。有効性は統計学的評価が求められていますので対照群の設定や投与前後の状態など比較対象となる症例群が必要になります。
効果だけでなく、副作用や有害事象なども細かく記録しておく必要があります。
 治験は治験実施計画書に基づいて実施されますが、それを円滑に実施するのには治験調整責任者による調整や治験のモニタリングも重要です。
 試験は2ヵ所以上の適切な治験実施機関で行う必要があり、治験実施責任者と治験依頼者の間で契約の締結も必要です。また、動物の所有者の治験参加への同意も必要ですので、所有者に治験参加の意義や有用性を理解してもらうための説明も必要です。
 治験についての手続きや必要事項なども製造指針に記載されています。治験は対象動物に未承認の医薬品が投与されるので、事前に農水省への届出や治験実施責任者への説明など手順を踏んで実施しなければなりません。かなり複雑ですので、落ち度のないよう専門家やこの分野に精通した人と相談して進める方がいいでしょう。

   リ 残留性に関する資料
  食用動物に投与する製品に付いては、2ヵ所以上の試験機関を使って残留性を試験しなければなりません。
食用に供される動物の範囲は国によって異なるので、海外で食用動物に含まれていないものでも日本では残留試験が必要なものもあるので注意が必要です。血液、組織内に残存する微量の医薬品の定量法を開発しなければなりません。

 医薬品は、製造はGMP、臨床試験はGCP、生物を使う試験はGLPで実施しなければなりません。試験は順序よく効率的に実施しないと時間と経費が嵩みます。経験が少なく不明な点が多い時は、専門家やよく知っている人に相談しながら進めるようにした方がいいでしょう。

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いろいろ素材ありがとうございます