〜過去問から学ぶバイオの知識2



 

 平成14年度の技術士二次試験の筆記試験は8月29日に実施されました。試験問題には

基礎から最近の技術までバイオテクノロジーのエッセンスとも云える言葉が沢山出ており、

学習の良い材料になります。今年の設問のうち、必須問題の5者択一問題を見ながら、バイ

オの学習をしてみましょう。

 

     お問い合わせはこちらまでお願いします


必須問題(5者択一)

1)       化学療法剤の作用機序についての問題で、次の5つの抗生物質のうち蛋白合成

阻害のものを選ぶ問題です。

@    ストレプトマイシン、Aアンピシリン、Bリファンピシリン、Cスルフォンアミド、

Dバンコマイシン

化学療法剤についてもごく基礎的な知識は持ちたいものです。上記の抗生物質の作用機序は

ストレプトマイシンはmRNAの情報の誤読、アンピシリンはβ−ラクタム抗生物質ですので細胞

壁の合成阻害、リファンピシリンはRNAの生成阻害、スルフォンアミドは代謝拮抗、バンコマ

イシンは細胞壁合成阻害とされています。MRSA対策で話題となっているバンコマイシンが出題

されています。

 

2)蛋白質の折りたたみにかかわる結合力の中で最も弱いものを選ぶ問題です。

@疎水結合、Aジスルフィド結合、Bファンデルワールス結合、C水素結合、Dイオン結合

これらの結合力は蛋白質の三次構造だけでなく、一般的な化学結合力ですので、その特徴

を学習しておきたいものです。ファンデルワールス結合はベンゼン核の結合で有名です。

ジスルフィド結合(S-S結合)は蛋白質のアミノ酸残基間でもよくみられる結合で、蛋白質

の三次構造に関与しています。水素結合はDNAはヌクレオチドの2本鎖の相補的な配置を

決めている結合として有名です。アニーリングによって2本の1本鎖ができることを利用

してPCRが開発されました。

 

3)次の5つの中から蛋白質のホルモンを選ぶ問題です。

@インシュリン、Aアドレナリン、Bコーチゾン、Cチロキシン、Dバソプレシン

ホルモンは大別してアミノ酸系のものとコルチゾンやプロゲステロンのようなステロイド

系(脂質系)のものがあります。バソプレシンは最近医薬品として注目を集めている話題

のホルモンでアミノ酸数個が結合したペプチドです。インシュリンは1955年、サンガーに

よってその全アミノ酸配列が解読された最初の蛋白質として有名です。

 

4)I型アレルギー免疫に関係する免疫グロブリンを選ぶ問題です。

@IgA,AIgD、BIgE、CIgG、DIgM

免疫グロブリンは幾つかのクラスに分類されており、それぞれがさらにサブクラスに分け

られています。ごく基本的な違いは覚えておくほうがいいでしょう。

IgAは粘膜表面における局所免疫機構に関係すると考えられており、初乳にも多く含まれ

ています。IgDは抗体産生細胞の誘導に関わっていると考えられており、IgEは通常人の血

中濃度はきわめて低いのですが、寄生虫感染などで急増します。好塩基球や肥満細胞と結

合するとアレルギー反応に関与することがあります。IgGは人の血中では最も高い濃度をも

つもので抗体活性を有します。胎盤伝達で胎児に移行します。最も代表的な免疫作用の担い

手です。IgMは細菌などに対する抗体や血液型のABOなどの自然抗体に関係すると考えられ

ています。

 

5)酸素移動容量係数の単位を問う問題です

@s、As-1、Bg・s-1、Cg・cm-2・s-1、Dg・cm-3・s-1

酸素移動容量係数は通常kLaとして表されるもので、通気型の発酵槽のスケール・アップ

を計算するときなどによく用います。その計測は学生実験でもよく行われているようです。

液容積基準の酸素移動速度はkLa(C*-C)で表わされ、aは気液面積で、C*は液中酸素濃度C

に平衡な酸素濃度です。

 

6)TCA回路でスクシニルCoAからコハク酸への反応を触媒する酵素を問う問題です。

@スクシニルCoAシンセターゼ、ACoAシンターゼ、Bコハク酸シンターゼ、Cコハク酸

キナーゼ、Dコハク酸デヒドロゲナーゼ

酵素には逆向きの反応を触媒するものもあり、酵素名の中には逆向きの反応が命名されて

いるものもあります。スクシニルCoAをコハク酸に変えるスクシニルCoAシンセターゼな

どもその一例です。

 

7)RNAに含まれない核酸塩基を問う問題です。

@アデニン、Aグアニン、Bシトシン、Cチミン、Dウラシル

DNAを構成する4種の塩基は最近では家庭向けのTVの番組にも登場しますが、RNAの場

合、基本的には4種類ですが、tRNAの塩基にはいろいろな置換体もあります。ここでは

そのような例外を考えないで基本的なものを選ぶ問題です。遺伝子コドンを思い出せば誰

でも分かります。

 

8)独立栄養細菌以外の細菌を選ぶ問題です。

@硝化菌、Aイオウ酸化菌、Bウエルシュ菌、Cメタン菌、D鉄酸化菌

細菌は一般的に従属栄養型の生物ですが、中にイオウの酸化などによってエネルギーを

獲得しているものがいます。少数派ですから覚えておくと良いでしょう。ここでは従属型

の細菌を選ぶ問題です。病原菌などは従属型の細菌です。

 

9)バイオプロダクトの精製法でないものを選ぶ問題です。

@限外ろ過法、Aアフィニティクロマト法、B液体クロマト法、C塩析法、Dエクソン・

トラッピング法。

ろ過やクロマトグラムや塩析は成果物の精製方法としてよく用いられるものです。

エクソン・トラッピング法は最近遺伝子解析で利用されています。

 

10)有用微生物を用いた物質生産を可能にした技術にふさわしくないものを選ぶ問題

です。

@    微生物固定化法、A分配クロマト法、BDEAデキストラン法、CSDSポリアクリル

アミド電気泳動法、Dホローファイバー法

いずれも馴染み深い技術です。微生物固定法やホローファイバー法はバイオリアクターの

技術として重要です。DEAデキストラン法やSDSポリアクリルアミド電気泳動は生成物の

分離、精製、確認などに利用されます。分配クロマト法には気液分配と液液分配がありま

す。

 

11)パストールがワイン製造工程で用いた殺菌方法の条件を聞く問題です。

@40℃、A60℃、B80℃、C100℃、D120℃

この話は、パストールが混在する酢酸菌を死滅させるために行ったもので、誰でも知って

いますが、熱殺菌は目的によって条件が違います。どうしてその温度条件を使うのか、正確

に理解しておくほうがいいでしょう。60℃30分の低温殺菌、高温短時間滅菌、100℃間歇

滅菌、120℃加圧滅菌など対象物とその目的によって適切な滅菌条件が異なります。

 

12)次の中からヒトの必須アミノ酸を問う問題です。

@グルタミン、Aグルタミン酸、Bチロシン、Cプロリン、Dイソロイシン

ヒトにとっての必須アミノ酸は、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、リシン、

メチオニン、フェニルアラニン、トリプロファンの8種類であることが栄養学の教科書に

載っていますので、それを覚えておくといいでしょう。

 

13)免疫応答についての記述の誤りを選ぶ問題です。

@リンパ球は骨髄で作られる、

A    樹状細胞は抗原提示能や抗原取り込み能がある、

B    ヘルパーT細胞はTh1細胞およびTh2細胞がある、

C    自己に対する抗体は作らない。

D抗原が侵入した場合、生体は1回目より2回目の方がより早くより強く免疫応答を起こす。

免疫応答で重要な役割を担っている、抗体は体内に異物(抗原)が侵入してくると作ら

れ、抗原は免疫細胞によって記憶されますが、抗体ができるのは外部から侵入したものば

かりでなく、自己の細胞に対しても作られることがあります。自己免疫疾患と呼ばれる疾

病もあります。

 

14)光学活性化合物を生産する酵素で誤りのあるものを選ぶ問題です。

@不斉加水分解をするエステラーゼがある

A不斉加水分解をするリパーゼがある。

B不斉エステル交換をするリパーゼがある。

C不斉加水分解をするリパーゼがある。

D    不斉エステル交換をするエポキシダーゼがある。

微生物酵素群を用いた光学活性物質の生産でリパーセ、エステラーゼ、プロテアーゼに

よる不斉加水分解やリパーゼ、エステラーゼもよる不斉エステル交換の技術は代表的な

技術の一つです。最近微生物由来の酵素を利用したさまざまな物質変換が報告されてい

ますので、主要なものは覚えておくほうがよいでしょう。

 

15)DNAチップとDNAマイクロアレイについての誤った記述を選ぶ問題です。

@DNAチップとDNAマイクロアレイは全く同じものである。

Aガラススライドなどの基盤上に検索したい部分のDNAをハイブリダイセーション

させて標識検出する方法である

B数万個の遺伝子の発現プロフィルを網羅的に解析できる

C癌分類や薬剤感受性予測に有用である

Dシグナル伝達系や転写制御に関する新しい遺伝子の発見などが可能である

最近、DNAマイクロアレイやDNAチップを用いた試験報告が数多く見られるようになり

ました。自分で使っていなくてもその技術は理解しておきましょう。

 

16)酸化窒素について不適切な記述を選ぶものです。

@酸化窒素は最も小さいシグナル分子である

A酸化窒素は寿命の長いシグナル分子である

B酸化窒素はアルギニンから放出されるシグナル分子である

C酸化窒素は比較的早い情報伝達をするシグナル分子である

D酸化窒素はグアニル酸シクラーゼに直接結合するシグナル分子である。

酸化窒素は最近注目されるようになった話題のシグナル伝達分子で、ムラド達がこれで

ノーベル賞をもらったように記憶しています。その作用などは雑誌の総説などに紹介され

ています。

体内にはいろいろなシグナル分子がありますが、寿命が長いのはホルモンで、それも一般

にステロイド系のものが長いようです。と言うのも特定の組織で作られ分泌されて血流で

運ばれ、標的細胞で捕らえられて作用を発揮するのですから、安定で壊れにくいのです。そ

れに反してプロスタグランジンのようにどの細胞も産生できるシグナル分子は仕事を済ませる

とすばやく分解されます。酸化窒素NOが安定かどうか分子式を見ても分かります。

 

17)糖鎖について誤りの記述を選ぶ問題です。

@糖鎖は糖蛋白質、糖脂質及びプロテオグリカンなど複合糖質の構成成分である。

A糖鎖血液型抗原は赤血球だけに存在する

B糖鎖は細胞同士の認識、接着、発生、分化、癌化及び情報交換などの役割を担っている。

Cヒト由来の糖蛋白質を大腸菌で生産すると糖鎖を持たない蛋白質が生産される。

Dレクチンは糖鎖を構造特異的に認識する分子である。

最近、糖鎖が我々の生体内で蛋白質の活性発現や細胞間の認識、接着などいろいろ重要

な働きをしていることが分ってきました。糖鎖工学もようやく研究報告が増えてきました。

糖鎖についての基礎的な知識は身につけておきましょう。

赤血球のABO型の抗原が糖鎖によるものであることは、よく知られていますが、臓器移

植などでよく問題になる組織適合性抗原は、最初白血球で発見されました。

 

18)ヒトゲノムの全塩基配列の解析から明らかになったことの記述で誤りを選ぶ問題。

@ヒトゲノムの遺伝子の数はハエの2〜3倍くらいの3万〜4万である。

Aヒトの遺伝子のうち80%についてはショウジョウバエ、線虫など無脊椎動物やパン酵母、

細菌などの微生物と相同性がある。

Bヒトゲノムの中では免疫など生体防御系遺伝子や細胞間の情報伝達系の遺伝子が発達して

いる。

Cヒトゲノムの約5%は繰り返し配列で占められている。

Dヒトの個人差となるSNP(一塩基多型)は、一説によると、200万〜300万と推定

される。

ヒトの遺伝子の数は3万ほど、大腸菌の10倍以下。線虫だって動物だからヒトの遺伝子

と相同性が高いのは当然。免疫系は同じ脊椎動物でもヒトとサメ(軟骨魚類)では随分違う

し、ホヤなどと比べるとさらに違います。それでもサンゴで接木ができないので、サンゴでも

自己、非自己の区別は持っているようです。SNPは1200-1500塩基に一つぐらいあると言わ

れるので、200-300万あっても不思議ではありません。

ヒトの遺伝子配列で繰り返し配列は意外に多く、35%ぐらいとも50%ぐらいとも言われ

ています。

 

19)アミノ酸生産の歴史でやられていないものを選ぶ問題です。

@昆布から抽出したり、小麦や脱脂大豆の蛋白質を塩酸により加水分解した。

AL−グルタミン酸生産菌から、種々なL−アミノ酸を著量蓄積する栄養要求性突然変異

株が発見された。

BL−アミノ酸のアナログ物質に対する耐性変異株がL−アミノ酸を著量蓄積することが
発見された。

C化学合成由来のNーアシルーDL−アミノ酸を酵素分解して生産した。

Dビオチンが過剰にあると、L−グルタミン酸を培養液中に蓄積生産する微生物が発見

された。

アミノ酸製造の歴史は昆布や小麦のグルテンの酸分解から始まって、ここに書かれて

あることはすべて試みられたようです。ビオチンがあるとL−グルタミン酸の生産性は

良くなるようですが、過剰にあっては生産が低下するようです。少し専門的な問題です。

 

20)回分培養法の一般的な特徴について、誤った記述を選ぶ問題

@少量生産が可能、A同一装置で各種物質が生産できる、B雑菌汚染の可能性が少ない、

C大量処理が出来る、DpH調整が容易

この問題は回分式のバイオリアクターと連続式のバイオリアクターの比較でも同じです。

「少量生産が可能」と「大量処理が出来る」は反対言葉ですが、回分培養で大量処理する

には大きなタンクが必要になります。設備の大きさと処理能力を考えると、培養効率がよけ

れば連続式の方が大量処理に向いていますが、連続培養すると効率が著しく落ちるものもあ

ります。

 

今年の5者択一問題の特徴は、最初基礎的な分かりやすい問題が多く、次第に専門的な

問題になっており、受験者の時間配分を考慮した出題になっています。14年度は免疫、

アミノ酸に関する問題がそれぞれ2問出ていますが、他はバイオ関係の広い範囲から出

ており、広い基礎知識をテストする問題といえるでしょう。設問の仕方がストレートで

分かりやすいので一見やさしく見えますが、高得点を取るにはなお慎重な思考が必要な

ようです。過去問となったこの問題を学習する人は、正解を求めるだけでなく、是非

周辺の基礎知識を学んで欲しいものです。

 

TOPに戻る

〜過去問から学ぶバイオの知識へ


ホームに戻る


All Right Reserved Copyright (C) TERUO HIRAI, Since 11 Nov. 2000
 

いろいろ素材ありがとうございます