こうして椅子に座ってファイナルログを書きながら、私はちょっと戦慄を覚えている。実際、この旅に 最後の言葉は無いのだから・・・過去2ヶ月で私たちが見、体験し、楽しんだことは、これからの私たちの人生から離れることはないだろう。
私は毎晩のようにこの旅の夢を見る。素晴らしいものもあれば、怖いものもあるが、この2ヶ月間の模 様は鮮烈に私の心の中に残っている。今まで書いてきたログはしばしば日々の旅に展望を与えるもの で、暑く長い一日の後でPCに向かってそれらを綴っていくのに気乗りしないこともあったが、メールを通して伝わってくる皆さんからのコメントや思いをいつも楽しませて頂いた。
このことが、モハベ砂漠の真中にいたり、5200mを超える高度で4時間を過ごした後で、遥か遠く に感じられるこの世界と私たちを結び付けてくれていたのだ。だから、いつものように特に順序だったものではないけれど、私がこの旅を終えて考えたことの幾つかをここに記しておきたいと思う。
1:空を飛ぶことは恵みである。もしあなた方が空を飛びたいとずっと思っていて、まだ実現していな いのなら、それがパラグライダーやセールプレーンやその他どのような小さな飛び道具(aircraft)であれ、ぜひ始めてみることをお勧めしたい。
飛び道具が小さいものであればあるほど、より迅速に大気や地面との関係が生まれてくる。気象担当の Garyは、私たちが飛行していた気象規模を「マイクロ気象」と呼んでいた。何故かと言えば、私た ちは高性能のセールプレーンや世界記録をつくるようなハンググライダ−に比べたら、はるかに限られ た範囲を飛行しているに過ぎなかったから。
しかし、私はゆっくり飛ぶことは良いことだと考えている。もし歩いて1〜2キロも移動すれば、その土地のことがよく分かるだろうが、何百キロも車で移動しても、地面が広いということの他はほとんど
何も知ることは無いだろう。 今私の頭の中には決して忘れることの無い、合衆国という一枚の絵がある。もちろん、もう一度訪れてみたい多くの場所も・・・。
成り行き任せで、出来る限り小さなフライトギアに頼りながら、風やサーマルの恩恵と共にゆっくり飛 行することは、疑いも無く私の好むフライトスタイルだ。
飛び終えたら翼をバッグに詰め込んで、飛行機で家まで帰ってくる・・・こんな自由を与えてくれる翼 は他には無い。少なくとも私にとっては、どれだけ遠くまで飛ぶかということと同時に、どれ位長く空中にいるか、が大事なことなのだ。
2:冒険は良いことである。それが大掛かりである必要は無い。野外に出て動物になること(鳥であれ何であれ)。そこが本当に現実が存在する場なのだ。
いつだったか、建物の「出口」の標識は、そこから本当の現実世界へ向かって入って行く所という意味 で「入口」と読み返られるべきである・・と何かで読んだことがある。
私たちは皆、生活の為に働く必要があり(もちろん私も!)、デスクワークやその他のことで時間を費やさなければいけないが、野外にいることは間違いなく人の魂を復活させ、素朴で古いものが良いもの だ・・と感じさせてくれる。それだけで充分なのだ。
友人と出かけるのも良いだろう。たぶん私たちは、オフィス(仕事場)が元々野外に適した私たち体や 心を死の縁に縛りつけるようになるまでは、そうやって生きてきたのだろうから。
反撃しよう・・その価値はある。誰ももう一日働いたらよかったな〜・・なんて思いながら死んでいく人なんかいない。あるノースカロライナの農夫は言っていた、「野外で過ごした一日は、一人の人間の 平均寿命の日数には入らない。何故なら、神はその一日を最後に返してくれるから。」
私はこの言葉を、仕事の締め切りで午後のジョギングや散歩やサイクリングが出来そうもないと思った 時に思い出そう。野外で過ごした良き一日の後で、もっと仕事に時間使うべきだったなー・・などと後悔することはまず無いだろう。
3:概して、北アメリカ、特に合衆国は広大である。モハベ砂漠の焼け付くような暑さは、私の記憶の中でその対照を成すアルカンザスやノースカロライナのアウターバンク(海に向かって広がる広大な浅 瀬)の霧に包まれた朝の情景にまで跳躍する。
それぞれの場所が独特の文化や地勢や形にならない「感じ・雰囲気」を持っている。
たぶんその大きさ によって、合衆国は同じ言葉を話し、同じような願望を持つ人たちの巨大なマーケットになっているのだ。ウォール・マート(大型集合商店街)やオフィス・デポット(巨大倉庫街)やマクドナルドやその 他の全国チェーン店は我々消費者の需要を満たすのに必要なものなのだろうが、私にとっての本当のアメリカは小さな町の個人経営の店にある。
グローバリゼーションと戦うことは、可能でも合理的でもないとは思うが、あなた方が何処に住もうとも、その「小さなもの」の為に戦うことは価値があると私は思う。これはまだ完成した価値観とは言えないが、ローカル(地方的)であることは、単に旅行者の視点からだけでなく、コミュニティー的市民 覚からも大事なことだ。
4:都市化は暴虐的である。商店街や住居を作る為に、国中でブルドーザーが太古からの穢れ無き原野を引 っ掻き回している。その結果は、計画性の乏しい細長いモール、交通地獄、郊外からの長距離化。私は元々の土地よりも良くなった駐車場を見ることが無かった。僅かな例外を除いて、何か価値あるものに開発された場所もアメリカ中にほとんど無かった。
「限りなき大地」は当初、北アメリカを開拓してきた人たちにとっての基本的な考え方で、簡単には拭えないものだが、もう見直すべき時が来ている。
確かに北アメリカは広大な大地だが、そんなに多くの土地はもう残っていないのだ。
もし私たちが更に必要以上のモール街や都市の大陸を求めたら、そうなるだろう。そして、その結果住むところが無くなって、まず姿を消すのはタカやその他の猛禽類だ。
私は開発自体に反対しているのではない。しかし、古いもののすぐそばに建てられている巨大な新しいショッピングモールを何度か見てきたし、これは深刻なスペースの無駄遣いだと思わずにいられない。
なんで、古い店を拡張しようとしないのか。新しいものを作る方が安上がりになるということは分かるが、それによって多くのものが失われるのだ。
ヨーロッパではいくらお金を持っているからといっても、家を建てる為に新しい土地を剥ぎ取ることなんか出来ない。私はそのような姿勢をこの国でももっと採用 すべき時が来ていると思う。
5:良きアイデアは、たとえ自分が何をやっているかよく分かってないとしても追求してみる価値がある。
私はこの旅を始めるまでPPGの経験は無かったが、出来るに違いないと思っていた。
私たちのことを、「大バカ者だ。死ぬに違いない」と言った人達もいれば、ただ笑って「幸運を祈る。」と言った人達もいた。ほんとに僅かな人達だけが、「素晴らしいじゃないか・・私も行きたいよ!」と言ってくれたに過ぎない。
この旅が成し遂げれれたのは、成功が保証されていたからではなくて、私たちが成功の可能性に賭けたからなのだ。
実際に何かをやってみることなく、失敗を回避する姿勢からは何も痛みは生じないが、そのような生き方からはあんまり面白いことは起こらない。キティホークではライト兄弟がどうやって飛行を可能にしたかを見た。無論それは私にとって貴重な啓示とも言うべきものだった。
フランシスとガートルード・ロガロもそこに生きていた。彼らはロガロ翼を作り、皆の楽しみの為にその特許を公開することによって、同じことをしたのだ。私たちはこれらの非常に度量の広い先人達のおかげで大陸を横断する事が出来たのだ。
6:この旅は、このログを呼んでくださっている皆さんも含めて、多くのサポーターによって可能となった。キムとエリックはイクスペディション(フォードのRV車)で地上サポートに奔走してくれた。
スコットとダリルとアンナはイクスペディションで非常に長い距離に渡ってビデオやフィルム撮影してくれた。ゲリーはどこにあっても毎朝、気象情報を提供してくれた。最後に多くのスポンサーがこの旅に現実性を与え、どう考えても空想的な私たちの夢を信じてくれた。
レッド・ブル社
(エネルギー飲料などの会社でWillは過去にもスポンサード されている)は文字通り(文字通りじゃなくても)翼を与えてくれた。私たちは一人一日平均 2缶(ハードな日はもっと)のエネルギードリンクを消費し、これは効いた。サザンスカイのクリスと タミーは何時間も電話でアドバイスをくれたり、どこにいてもユニットのスペアパーツを送ってくれ た。スーパーフライはグライダーとリペアキットを提供してくれた。オゾンのオクタン(グライダー)は私が使った中でも際立って素晴らしいグライダーで、かつてこんなに信頼でき、楽しめたものは無い。
(Willは様々な高度で計4回コラプスを経験したが全く問題が無かったとも言っている)
イリジウム衛星電話はどこにいてもコミュニケーションを可能にした、ライ フセーバーだ。 フォードのイクスペディションはどんな過酷な道中も全く問題なく、重いトレーラーを引きながら動い てくれた。キムとエリックはその快適性と機能性をよく知っている。ブッシュネルは双眼鏡を提供して くれて、そのおかげで地上クルーは飛行中の私たちの姿を見失うことが無かった。
これら数行の言葉では、とてもサポートしてくれた方々に対する私の感謝の気持ちを表し尽くすことは 出来ないが・・・ともかく有難う!!
皆さんにとって良い夏になりますように・・また充分に強いサーマルと良い方向からの風が吹きますように。
最後に:もし私のログをお楽しみいただけたら、是非
「ハヤブサ基金のサイト」を訪れ てください。ここほんとに素晴らしい組織でサポートするに価値ある団体です。