Bの作曲家



マニュエル・ブランカフォルト Manuel Blancafort (1897-1987)

スペインの作曲家。1897年8月12日バルセロナ近郊のラ・ガリガ(La Garriga)生まれ。父ジョアンはピアノ・ロールの工場長であったが,音楽的な教養もあり,合唱団を率いて合唱曲も作る才人であった。このため彼は,15才で父に就いてピアノ・ロールへの転譜法を習い,その過程で記譜法を習得。次いで工場に勤務していたジョアン・アリウス(Joan Alius)に学び,さらに父の仲介でジョアン・ラモート・デ・グリニョン(Joan Lamote de Grignon)に和声法を学んだ。公的な音楽教育を受けなかったことは障害となるが,1914年にフェデリコ・モンポウと知遇を得て激励され,1923年以降,数度に渡ってパリへ遊学。ラヴェル,六人組,ストラヴィンスキーと交流。さらにモンポウの手引きで,こののち生涯に渡って彼の作品を出版することになるセナール=サラベール(Sénart-Salabert)とも知遇を得た。ここで,同郷のピアニストのヴィニエス,マリア・カザルス,バルセロナ響の指揮者であったエドゥアルド・トルドラ(Edouard Toldrà)らに自作を認められた彼であったが,1930年に家業のピアノ・ロール会社が倒産したため,音楽で生計を立てることを断念。1939年にバルセロナのサーリア(Sarrià)へ転居し,南アメリカ保険会社へ就職。以降は大家族を支える傍ら,作曲を続ける生涯を送る。1953年のスペイン現代音楽協会創設に当たっては中心的な役割を果たした。1987年1月8日,バルセロナにて死去。作風は仏印象主義の影響下に,畏友モンポウを思わせる内省的な書法で独自性を発揮している。1950年に『ホ調の交響曲』でバルセロナ市議会賞,1986年にバルセロナ市議会金賞などの受賞歴がある。モンポウが注目されるに至った今,再評価が最も待たれる作曲家の一人(関連ページ:ブランカフォルト協会 スペイン語)。


 主要作品 ※カタロニア方言らしく,大半が邦訳不詳です。調査中。ごめんなさ〜いっ(;▽;)

舞台音楽 ・ la falç al puny (1931)
管弦楽 ・ matí de festa a puiggraciós (1929)
・ el rapte de les sabines (1931)
・ ermita i panorama - i sardana simfònica (1933)
・イサベルの歌 canço d'isabel (1940)
・前奏曲,アリアとジーグ preludi, ària i giga (1944)
・サルダーニャ交響曲 sardana simfònica (1949)
・ホ調の交響曲 simfonia en mi (1950)
・ナダールのスケルツォ scherzo de nadal (1951)
・ベツレヘム angelorum scherzum in Beethlem (1958)
・エヴォカシオーネ evocaciones (1969)
・子どものセレナーデ serenata de l'infant (1978)
・アメリカ土産 America souvenir (1978)
協奏曲 ・ピアノ協奏曲 ハ短調 concierto i en C menor (1944) {p, orch, perc}
・イベリア協奏曲 ト短調 concierto ibérico en la menor (1946) {p, orch, perc}
・カタロニア狂詩曲 rapsòdia catalana (1953) {vc, p, orch, perc}
器楽・室内楽 ・歌 cançó (1917) {vln, p}
・パストラール pastorel en la (1927/1940) {vln, p/orch}
・ロマンス romança (1942) {vc, p}
・弦楽四重奏曲第1番 primer cuarteto en do (1948) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲 cuarteto de pedralbes (1949) {2vln, vla, vc}
ピアノ曲 ・記録 record (1915)
・土産 notes d'antany (1915-1919)
・山の歌 chansons de la montagne (1916-1918) {p/vo, p}
・石遊びと踊り jocs i dances al camp (1918-1919)
・内なる歌第1集 cants íntims I (1918-1920)
・内なる歌第2集 cants íntims II (1919)
・ camins (1920-1923)
・遊園地 el parc d'atraccions (1920-1924/1929) {p/orch}
・パストラール ト長調 pastoral en sol (1926)
・チャプリン礼讃 homenatge a Chaplin (1929)
・5つの夜想曲 cinc nocturns (1930-1941)
・古風なソナティナ sonatina antiga (1934/1967) {p/orch}
・ロマンス,間奏曲と行進曲 romance, intermède et marche (1942)
・ tonada intermitent (1943)
・ トゥリーナへの3つのコンセーユ tres consejos de Turina (1983)
歌曲・合唱曲 ・ maní de ciena (1920) {choir}
・4つの歌 quatre cançons (1920-1922)
・4つのナダールの歌 quatre cançons de Nadal (1920-1922)
・カタロニア抒情詩集 lírica catalana (1920-1922) {vo, orch}
・ preguntes melangioses (1937) {vo, p (orch)}
・歌 canço (1950)
・ ceiño da mia aldea (1950)
・戯れ joc (1951)
・ plany (1953)
・ la ilum de Nadal (1953)
・ l'aire de montseny (1961) {sop, orch}
・聖母マリアのカンタータ cantata verge maria (1965) {sop, btn, tnr, 2fl, org, ob, p, orch, 4perc}
・ canço de l'únic camí (1966)
・ nit de nadal (1971) {choir}
・聖なる三部作 tripticum sacrum (1976) {choir}


 ブランカフォルトを聴く


★★★★★
"L'Oeuvre pour Piano / Complete Piano Works" (Mandala : MAN 4874/4876)
Antoni Besses (piano)
1993年から翌年に掛けて録音されたこの3枚組CDは,無名のスペイン作家ブランカフォルトに関する,現在最もまとまった作品集。何しろ独学のため,楽壇の本流からは遠く離れたところに身を置くことを余儀なくされている彼の作品が認められる機会も少なそうな現在,恐らく向こう20年くらいは,本盤がブランカフォルトを知る上でのスタンダードとなることでしょう。3枚のうち1枚目は1910年代から20年代に掛けての比較的初期のものが収録されており,このころの作品だけ聴くと「う〜ん,サロン音楽崩れかな」程度の感想しか持てませんでしたが,1930年代に入るや豹変!みるみる情感の彫りが深くなり,モンポウにも引けを取らぬ内省的でオリジナルな語法に到達しており驚きました。極端な話,2枚目以降の作品なら,ECMのピアノ独奏ものを聴くジャズ好きの方でも抵抗なく聴いていただけるんじゃないでしょうか。それもその筈,彼もモンポウ同様,1920年代にパリへと渡り,ドビュッシーやラヴェル,六人組と親しく交流。旋法表現や非機能的な和声法を学んでいたというわけです。実は,モンポウが最初に彼と知遇を得たのは1914年。この時点で彼の才能を見抜き,ライバルになるかも知れない彼を激励して憚らなかったモンポウも立派な人だったんですねえ。ピアニストは1945年バルセロナ生まれ。バルセロナ音楽院を出てバルセロナのフランス研究院で一等を得てフランスへ渡り,メシアンやサンカンにも師事したそうで,1981年以降バルセロナ高等音楽院の教授職にある重鎮。曲想への理解と愛着が滲み出た清明なタッチと感情表現が好ましく,安定した好演であると思います。

★★★★☆
"7 Peces de Joventut / Cançons de Muntanya / Notes d'Antany / 12 Cançons" (Naxos : 8.557332)
Miquel Villalba (piano)
少し前まで,再評価の機運が高かったスペイン近代のかすみ草ことモンポウ。彼の陰に隠れて目立たぬままながら,モンポウ並みに詫び寂びの利いたピアノ曲を数多く残したブランカフォルトのピアノ作品に,ナクソスが光を当てました。ピアニストのミケル・ヴィラルバは1968年バルセロナ生まれで,作曲者とはご同郷。バルセロナ音楽院,次いでアントワープ音楽院で学び,バルセロナ=ベルガ国際コンクールで優勝した実績をお持ちです。本盤はブランカフォルトの作品中でも,1915年から5年ほどの間に書かれた,若年期の作品を選曲。サロン音楽の簡素な形式を基調としてはいるものの,土着民謡の節回しを採り入れた悲哀たっぷりの旋律と,ポスト・ロマン派の影響を匂わせる,洒落た和声は近代のもの。許嫁から貰った質素な髪飾りをつけてはにかむ,薄幸の村娘みたいな曲想に,しみじみとしたシンパシーの念が沸きます。既に入手至難になっているマンダラ盤で弾いていたベッセに比べると,ヴィラルバのピアノは現代的。録音のせいも多分にあるでしょうが,すっきりと脚線美の整った都会的なルバート感覚と,透明度の高いタッチを利して,しっとり小綺麗にまとめていると思います。人によっては,作曲者の作品の無垢な表情を表すには,やや表現過多と思うかも知れません。ただ,技術的にさほど難しい譜面でないとはいえ演奏は良く共感をもってしっかりと弾かれており,このマイナー作家の真価を世に知らしめるものとして,充分にお薦めできる。特に,初期作品を聴くなら,むしろこちらの演奏の方が聴き映えがするんじゃないでしょうか。既に『ピアノ曲全集第1巻』を銘打っている本盤,完結が大変に楽しみです。

★★★★
"Cançons: Canço de l'únic Camí / Joc / Cançó / Plany / Quatre Cançons / Tres Cançons de Nadal / La Ilum de Nadal / Cançons de Muntanya / Ceiño da mia Aldea" (La Mà de Guido : LMG 2026)
Chantal Botanch (sop) Joan Amils (p)
ブランカフォルトは1897年バルセロナ近郊のラ・ガリガに生まれた作曲家。亡くなったのは1987年ですから,89才の長寿でした。教育をまともに受けた経歴は,管見の限り見あたないのですが,父がピアノ・ロール工場の経営者だったため,幼い頃からピアノ・ロールでドビュッシーの演奏を聴き,かなり触発されたようです(ご存じでしょうがドビュッシーやラヴェルのピアノ・ロール演奏は今では簡単に入手して聴くことができます)。その後モンポウと出会い,さらに刺激を受けて作曲を志し,1931年にはカタロニア独立音楽家協会の創設メンバーになりました。彼の作品集は既に,マンダラからピアノ作品集が出ていますが,こちらは珍しい歌曲集。随所にスペイン民謡を思わせるマイナー調の素朴なリズムや節回しが,モンポウやプーランクを思わせる,ややくすみと愁いを帯びた和音によって飾られていきます。喉を絞めて歌われるためか,細かく振動するビブラートが気になるソプラノ歌手・・どこかの教会録音らしく,マイクの位置が遠過ぎるためにボンヤリとエコーが掛かってしまった集音・・などは如何にも垢抜けず。隔靴掻痒の感を禁じ得ませんけれど,殆ど存在すら認知されていない,この可哀想な独学作家の遺産を,取りあえず人々の耳に届くところまで持ってきた功績のほうを,とにかくも評価しておきたいと思います。どこか滝廉太郎的な曲想は日本人の琴線にも触れそうですし,国内のクラシック歌手の皆さん。こういう作家など,採りあげてみては如何でしょう?さらなる対抗馬の登場に期待。

(2003. 10. 31)