Bの作曲家



メル・ボニ Mel Bonis (1858-1937)

フランスの作曲家。本名メラニー・ボニ(Mélanie Bonis)。1858年1月21日,パリの中流階級の家庭に生まれる。芸術に関心のない厳格な両親のもと,ピアノは独学を強いられた。12才のとき,知人だったパリ音楽院コルネット科教授アンリ・モリー(Henri Maury)の強い薦めに応じ,両親が音楽教育を受けさせることに同意。最初の音楽教育を受ける。次いで1875年,モリーの紹介でセザール・フランクにピアノを師事し,彼に認められて1876年12月にパリ音楽院へ入学。1881年までの5年間に渡ってエルネスト・ギローに作曲法,オーギュスト・バジュ(Auguste Bazille)にピアノ伴奏,和声法を学び,ピアノ伴奏科2等,和声法科で1等を得た。しかし,同院の歌唱科で新進批評家アメデー・ランドリー・エティシュ(Amédée Landry Hettich)と出逢い恋に落ちた彼女は,両親の怒りに触れ,同院から退学させられる。1883年,両親は彼女を,5人の子を持つ25才年長の中年資産家アルベール・ドマンジュ(Albert Domange)と結婚させた。彼女は失意の中,その後10年に渡って育児に専念することを余儀なくされたが,やがてエティシュの強い激励によって再び作曲の筆を執るようになる。第一次大戦頃までは音楽家として精力的に活動。1910年に『組曲』で作曲者協会(Société des compositeurs de musique)賞を獲得し,同協会の秘書にも就任。またエティシュの計らいでルダックと知遇を得た彼女の作品は出版され,『幻想曲』はピエルネによりシャトレ座で,チェロ・ソナタはフルニエとヴィニエスによりサル=ベルリオーズで初演されるなど,一定の評価を得た。しかし,それらは彼女の作曲家としての名声を高めるまでには至らなかった。やがて,エティシュとは不倫関係となり,のちに一人娘(マドレーヌ)も出産するが,彼女は道ならぬ恋に苦悩。やがて彼との関係も破綻を迎え,晩年は失意と孤独のうちに過ぎた。1937年3月18日,サルセル(Sarcelles)にて死去。作風は後期ロマン派の枠内にあるが,ドビュッシーの影響のもと,ポスト・ロマンティックな傾向も併せ持つ。(関連サイト:mel-bonis.com 仏語)


 主要作品

管弦楽曲 ・小川 le ruisseau (1894) {vo, orch (p)}
・ワルツ形式の組曲 suite enforme de valse (1898) {orch (2p)}
・舞踏=パヴァーヌ=サラバンド bourrée-pavane-sarabande (1905) {orch (p)}
・屋根の上の猫 le chat sur le toit (1911) {vo, orch (p)}
・オフェーリア ophélie (-) {orch (p)}
・クレオパトラの夢 le songe de Cléopâtre (-) {orch (2p)}
・戯けた交響曲 symphonie burlesque (-)
・サロメ Salomé (-)
器楽/室内楽 ・夜想曲 nocturne (1892) {vln, vla, vc, hrp (p)}
・瞑想曲 méditation (1898) {vc, p}
・セレナードニ長調 sérénade en ré majeur (1899) {vc (vln), p}
・東洋風の組曲 suite orientale (1900) {vln, vc, p /orch}
・三重奏のための組曲 suite en trio (1903) {fl, vln, p}
・フルート・ソナタ嬰ハ短調 sonate en do dièse mineur (1904) {fl, p}
・ヘンデルによるラルゴホ長調 largo en mi majeur (1904) {vln, p}
・ピアノ四重奏曲第1番変ロ調 premièr quatuor en si bémol (1905) {vln, vla, vc, p}
・チェロ・ソナタヘ短調 sonate en fa majeur (1905) {vc, p}
・三重奏曲 trio pour harpe chromatique et deux instruments à vent (1905) {fl, hrn, hrp}
・幻想曲 fantaisie (1906) {2fl, 2vln, vla, vc, p}
・夕べと朝 soir, matin (1907) {vln, vc, p}
・3つの小品 trois pièces pour violon (1909-1910) {vln, p}
・子ども達のための2つの短い小品 deux petites pièces (1914) {vln, p}
・ヴァルド派風のアリア air Vaudois (1916) {fl, p}
・宗教的なアンダンテ andante religioso (1917) {vln, vc, org}
・ヴァイオリン・ソナタ嬰ヘ短調 sonate en fa dièse mineur (1923) {vln, p}
・組曲 suite en do majeur (1926) {vln, p}
・森の情景 scenes de la forêt (1927) {fl, hrn, p /fl, vla, hrp}
・ピアノ四重奏曲第2番 deuxième quatuor en ré (1927) {vln, vla, vc, p}
・祝婚歌 chant nuptial (1928) {vln, hrp, org}
・古風な形式の組曲 suite dans le style ancien (1928) {2fl, ob, cl (si bemol), hrn (fa), 2bssn/2p}
・アンダンテとアレグロ andante et allegro (1930) {fl, p}
・嘆きの笛 une flûte soupire (1936) {fl, p}
・夜想曲ロ長調 nocturne en ré majeur (-) {vln, vc, p}
・フルートのための小品 pièce pour flûte et piano (-) {fl, p}
・組曲 suite pour harpe chromatique et quatre instruments à vents (-) {hrp, 4winds}
オルガン曲 ・前奏曲とフゲット prélude et fuguette (1913-1914)
・トッカータト短調 toccata en sol mineur (1914)
・ホ調のカンタービレ cantabile en mi (1914)
・アダージョ変ロ短調 adagio en mi bémol mineur (1930)
・コラール変ロ調 choral en si bémol (1933)
・ト調のパストラール pastorale en sol (1933)
・祈り ハ短調 prière en do mineur (1933)
・ニ調のエレバツィオ élévation en ré (1936)
・宗教的なアンダンテ andante religioso re bémol majeur (-)
・婚礼の行列 cortège nupitial en la (-)
・牧歌 idylle (-)
・ト調の行進曲 marche en sol (-)
・オフェルトワールニ長調 offertoire en ré majeur, modéré - maestoso (-)
・小即興曲変ロ調 petite improvisation en si bémol (-)
オルガン又は
ハーモニウム
・祈祷曲変イ調 prière en la bémol (1913)
・退祭曲変ホ調 sortie en mi bémol (1914)
・前奏曲ト短調 prélude en sol mineur (1933)
・ヘ調のコミュニオン communion en fa (1937)
・黙祷曲 contemplation (-)
・エレバツィオ élévation en mi bémol (-)
・祈り invocation en mi bémol (-)
・ト調の聖餐奉献曲 offertoire en sol (-)
・聖餐奉献曲ハ短調 offertoire en do mineur (-)
・ト調の聖餐奉献曲 offertoire en sol (-)
・前奏曲変ホ調 prélude en mi bémol (-)
・韻詩 verset en mi bémol (-)
・退祭曲ニ長調 sortie en ré majeur (-)
連弾・4手 ・子守歌 berceuse (1895) {2p /p}
・短い小品 pièces brèves (1898)
・パヴァーヌ pavane (1909) {2p /p /orch}
・変奏曲集 variations (1910)
・スケルツォ scherzo (1912)
・4手のための6つの小品 six pièces pour piano à quatre mains (1930)
・ワルツ・カプリス six valses caprices (-)
・無頓着 insouciance (-)
・憂鬱 mélancolie (-)
・ミュゼット musette (-)
・夜想曲変ニ調 nocturne en ré bémol (-)
・前奏曲イ短調 prélude en la mineur (-)
・前奏曲変ロ調 prélude en si bémol (-)
ピアノ曲 ・即興曲 impromptu (1881)
・老い etiolles (1884)
・5つの作品集 recueil de cinq pièces (1889)
・東洋風 orientale (1890)
・放浪者たち les gitanos (1891) {p (2p /orch)} ...
『ピアノの太陽』誌のワルツ作品コンクール一等。管弦楽版1904年。
・古楽風のロンドー rondeau dans le genre ancien (1893)
・小川の側で près du ruisseau (1893)
・秋の想い pensées d'automne (1894)
・紡ぎ車の歌 chanson du rouet (1895)
・太鼓とラッパ tambours et clairons (1895)
・5つの小品 cinq pièces (1897)
・マズルカ mazurka (1897)
・言葉のないロマンス変ト長調 romance sans paroles en sol bémol majeur (1897)
・バラード ballade (1897)
・神秘の鐘 carollon mystique (1898)
・瞑想曲 méditation (1898)
・東洋風ワルツ orientale (1898)
・セヴィラーナ sevillana (1898)
・舟歌第2番 deuxième barcarolle (1899)
・間奏曲とゆるやかなワルツ interlude et valse lente (1899)
・マリオネット marionnettes (1899)
・スケルツォ=ワルツ scherzo-valse (1899)
・バルカロール=エチュード barcarolle-étude (1899)
・ぶらんこ l'escarpolette (1901)
・前奏曲変イ長調 prélude en la bémol majeur (1901)
・シュザンヌに捧ぐ à Suzanne (1904)
・オーベルニュ舞踏曲 bourrée (1904)
・ソレント sorrente (1904)
・黒真珠 black pearl (1905)
・蚊 la moustique (1905)
・舟歌変ホ調 barcarolle en mi bémol (1906)
・サラバンド sarabande (1909)
・月の光 clair de lune (1909)
・2つの小品 deux pièces (1910)
・オムファール omphale (1910)
・子どもの情景 scènes enfantines (1912)
・全ての小さきものへのアルバム album pour les tout-petits (1913)
・守護天使 l'ange gardien (1913)
・雨が降る il pleut (1913)
・頽れた寺院 la cathédrale blessée (1915)
・5つの演奏会用小品 cinq pièces de concert (1922)
・黄昏時に au crépuscule (1922)
・2つの小品 deux pièces pour piano (1924)
・アリエル ariel (1925)
・17の子どもらしい小品 dix-sept pièces enfantines (1926)
・5つの小品 cinq pièces pour piano (1926)
・風車小屋の側で près du moulin (1926)
・練習曲変ト調 étude pour piano en sol bémol (1927)
・子ども部屋 miocheries (1928)
・4手のための小品 pièces à quatre mains (1930)
・舟歌変ト調 barcarolle en sol bémol (1930)
・ボレロ boléro (1932)
・ドロローザを偲んで in memoriam Dolorosa (1932)
・9つの易しい小品 neuf pièces faciles (1936)
・黒のダイアモンド diamant noir (-)
・舞曲風のマズルカ mazurka ballet (-)
・去年(こぞ)の夜 soirs d'antan (-)
・ウイーン風 viennoise (-)
宗教曲 ・オ・サルタリス o salutaris (1893) {tnr, btn, vln, org}...弦は即興演奏
・降誕祭の祈り prière de noël (1899) {4vo}
・レジナ・コエリ regina coeli (1899) {2sop, vln, hrp (p)}
・スブ・トゥーム sub tuum (1921) {sop, c-alto, org}
・インヴィオラータ inviolata (1922) {4vo}
・オ・サルタリス o salutaris (1930) {4vo, org}
・ラシーヌの讃歌 cantique de Jean racine (1934) {tnr, choir, hrp, org}
・パニス・アンジェリクス panis angelicus (1935) {2vo}
・アヴェ・ヴェルム ave verum (-) {4vo, org}
・アドロ・テ adoro te (-) {4vo}
・アヴェ・マリア ave maria (-) {sop, tnr, org}
・キリエ kyrie en fa dièze mineur (-)
・セレニテのミサ messe à la Sérénité (-) {choir, org}
・タントゥム・エルゴ tantum ergo (-) {4vo, org}
・タントゥム・エルゴ tantum ergo {3vo, org}
・サルヴェ・レジナ salve regina (-) {sop, c-alto, org}
合唱曲 ・小川 le ruisseau (1894) {2f-vo}
・マドリガル madrigal (1901) {2f-vo}
・祝婚歌 epitharame (1907) {2f-vo}
・青い鳥 l'oisseau bleu (1907) {2f-vo}
・カノン形式のロンドー rondeau en forme de canon (-)
・月の光に au clair de la lune (-) {4vo}
歌曲
・波のあたりに sur la plage (1884) {btn, p}
・ヴィラネル villanelle (1884)
・祈願 invocation (1887) {msp (btn), p}
・3つの歌 trois mélodies (1888-)
・降誕祭のパストラール noël pastoral (1892) {vo, org (p)}
・子守歌 berceuse (1893)
・ある夜明けに dès l'aube (1893)
・讃えよう愛しい君を élève-toi mon âme (1894) {msp, btn (vln, vc), hrp (p)}
・クリスマス前夜 la veille de noël (1900)
・オ・サルタリス o salutaris (1901)
・言わずにおいて pourriez vous pas me dire? (1901)
・穏やかな諫め reproche tendre (1901)
・海 la mer: melodie italienne (1903)
・降誕祭の子守歌 berceuse de noël (1903) {msp (btn), org}
・聖女マリーのクリスマス noël de la vierge Marie (1903) {vo, org (orch)}
・アヴェ・マリア ave maria (1905) {msp (btn), org}
・願い allons prier (1906) {vo, org}
・夕べに un soir (1908)
・最後の想い出 le dernier souvenir (1909)
・変わらぬ優しさ immortelle tendresse (1910)
・恋歌 chanson d'amour (1912)
・3つの歌 trois mélodies (1912) {tnr, p}
・操り人形たちの輪舞 ronde des marionnettes (1913)
・古風な旋法による哀歌 élégie sur le mode antique (1918) {msp (btn), p}
・マリーへの頌歌 cantique à Marie (1927) {tnr (sop), hrp (p)}
・(邦訳不詳) couboulambou à Paris (1930)
・カタロニアの歌 chanson Catalane (1931)
・古風なノエル noël ancien (1934) {vo, org?}
・2つの頌歌 deux cantiques de première communion (1934-1936)
・化粧戸棚 vestiaire (-)


 ボニを聴く


★★★★☆
"Pièces pour Piano" (Voice of Lyrics : VOL C 341)
Luba Timogeyeva (piano)
メル・ボニは1858年,パリ生まれの女流作曲家。「女に芸事なんて・・」という家庭環境に育った彼女は,12才のとき,理解ある知人の説得で両親が折れ,音楽学校への入学を認めるまで,独学で学ぶことを強いられました。余程才能があったんでしょう。人づてに彼女を知ったフランクは,1876年にパリ音楽院への入学を許可。彼女は5年間に渡って和声法,ピアノ伴奏,作曲法を学びます。ここで彼女は初恋を経験することになったのですが,両親はまたしても大反対。彼女を無理矢理退学させた挙げ句,1883年には5人の子を持つ中年資産家の後添えにしてしまいました。失意の中,子育てに追われる彼女を,初恋の相手アメデー・エティシュは励まし続け,やがて二人は道ならぬ仲に陥ります。恋に力を得て,彼女は作曲活動を継続。1937年に亡くなるまで,不倫相手との間に子どもを一人と,相当数の作品を遺しました。左手で取る基本リズムは調性感明瞭。シャミナードに通じるパリジャン趣味をたたえた軽めのロマン派音楽。そのいっぽう,右手の主旋律や装飾音に頻出する旋法表現には,明らかにドビュッシーの影響が。そして,ずっと女性的である点を除けばショパンを思わせる,どこか物悲しい儚さを湛えた主旋律は,早すぎた自由人ボニの薄幸の人生を端的に物語るものです。ピアノを弾くティモフェーバ女史は,タイユフェールのピアノ独奏曲集で素晴らしい演奏を披露し,鮮烈な印象を残したロシアの才媛。ここでの演奏もまた,非の打ち所のない技巧と高度の共感に支えられた素晴らしい内容。この弾き手だから,良く聞こえる面は確かにあるでしょう。プラハ,ロン=ティボー国際の優勝者。ドビュッシーを弾いたって売れるでしょうに。敢えて裏街道を突っ走る心意気にはひたすら頭が下がります。

★★★★☆
"Sonate pour Flûte et Piano / Sonate pour Violon et Piano / Sonate pour Violoncelle et Piano" (Voice of Lyrics : VOL C 342)
Clara Novakova (fl) Kai Gleusteen (vln) Jean-Marie Trotereau (vc) Laurent Martin (p)
薄幸の女流作家ボニに肩入れするヴォイス・オブ・リリクスからは,ボニの作品集が4枚ほど出ています。本盤は,当時の名フルート吹きルイ・フリュリへ献呈された『フルート・ソナタ』に,1905年作のチェロ・ソナタと1922年作のヴァイオリン・ソナタをカップリングした器楽ソナタ集。結構幅広い年代に跨って書いているわけですが,曲の作りそのものはどれも独ロマン派流の美意識が基調。調性は明瞭,和声的にも目新しいところはない反面,分散和音を中心にした流麗な伴奏と,経過音をたっぷり含んだ物憂げな旋律には,いかにもフランスの女流作家らしい洒脱さがある。喩えていうなら,曲全体の醸し出す形式感はフランク風で,遊びをたっぷり含んだ自由な拍動や主題はやや薄味なフォレですか(笑)。全音階や旋法性を匂わすモチーフがちょこちょこ挿入され,ごく遠慮がちに近代を主張します。演奏陣は総じて高水準。モニク・アースの弟子で,1973年のマリア・カナルス国際覇者が弾くピアノを核に,3名のソリストが華を添える。パリ器楽アンサンブルのフルートはややハスキーで湿り気を帯びていますし,コモンウェルス協奏コンクール優勝者のヴァイオリンは美音ながら線がやや細く,表情もやや淡泊。ヴィエルゾン・ソナタ・コンクールの覇者トロトローのチェロは少し音色に棘があるなど,三者三様にごく僅かずつ疑問符はつきますけれど,それらのアラはほとんど原曲の美点を損なわない程度。贅沢の域です。基本的に,遅れてきた後期ロマン派の優等生だった作曲者。何か一枚と仰る向きには,やはりフランク周辺の美旋律至上主義者の魅力が最も色濃く出るこの手のソナタ集が一番良いんじゃないでしょうか。

★★★★☆
"Quatuor en Si Bémol Majeur / Quatuor en Ré Majeur / Deux Pièces" (Voice of Lyrics : VOL C 344)
Gordan Nikolitch (vln) Jean-Philippe Vasseur (vla) Jean-Marie Trotereau (vc) Laurent Martin (p)
ひと頃レフラーの歌曲集なんかを録音していたヴォイス・オブ・リリクスは,最近では女流作家シリーズと題する音盤製造プロジェクトを推進中。特にフランス近代に咲いた薄幸な花メル・ボニ女史には御執心で,4枚ほどを録音済みです。こんな奇特なレーベルでもない限り,まず当分は日の目を見ることもなかったでしょう。やはり音楽の専門家たるもの,こうでなくてはいけません。彼女に限らず,近代までに名を残せなかった女流作家というのは,「女に作曲なんて・・」という旧弊の犠牲になった部分が少なからずあるわけで,それが却ってフェミニスト研究者の音楽領域への流入を招いたりもするわけですが,「無能ゆえに無名」という単純な等式で切り捨てられたわけではなかったぶん,女流作家の無名作品は宝の山なのも確か。ボニさんもまさしくそれでしょう。ドビュッシーより少し年長で,フランクに師事するいっぽうギローにも学んだ経歴が,この人の音楽性を端的に表すキーワード。形式のうえではあくまで,懐旧的なフランク趣味を踏襲。自由な転調と循環する主題の織りなす美意識は,フォレの周辺を浮遊してもいる。それでいて,特に後年の『四重奏曲第2番』では,ドビュッシー世代の語法が,全体の相貌を壊さぬよう,心憎いほど巧みに挿入される。フランク辺りが愉しめる作家の分水嶺になっている近代フェチの耳にも,フランクより後はキビシーッと仰る正統派古典万歳リスナーのどちらにもアピールするバランス感覚は,新旧パラダイムが激しく鍔迫り合いを演じたこの時代特有の,危ういリリシズムを体現しておりましょう。ロパルツとミゴのチェロ曲集でお見かけしたチェロ以下の演奏陣は,少しばかり音がキコキコしてはいるものの,高水準に安定。特に,これがヘロヘロだと話にならないヴァイオリンが,美音と滑らかな鳴動できっちり弾ける人物なのは有り難い。バーゼル音楽院でカントロフのお弟子さんだったそうです。

(2005. 1. 10 upload)