Bの作曲家



ヨーク・ボーエン York Bowen (1884-1961)

イギリスの作曲家,ピアノ奏者。1884年2月22日ロンドンのクロウチ・エンド生まれ。本名はエドウィン(Edwin)ヨーク・ボーエン。幼少期からピアノに才能を発揮し,演奏家として活動。8才でブラックヒース音楽院(Blackheath Conservatoire)へ進み,程なくエラール社の奨学金を得て王立音楽大学へ進学。1898年から1905年まで在籍してピアノと作曲法を学び,それぞれ賞を得て卒業した。卒業後は,トビアス・マッセイのピアノ専門学校で講師となり,次いで1909年に王立音楽学校の教授に就任。教育活動の傍ら作曲家およびピアニストとして活躍。クイーンズ・ホールや王立アルバート・ホールを拠点にリサイタルを多数開催。ライオネル・テルティス(ヴィオラ奏者)やハリー・イサークス(ピアノ奏者)の伴奏者としても多くの演奏会をこなしたほか,第一次大戦中はスコットランド近衛軍楽隊(Scots Guards)のホルン奏者も務めている。作曲家としては160を超える作品を執筆。自作で1919年3月にサンデー・エクスプレス賞を受賞のほか,1922年にカーネギ財団賞,ホークス&カンパニー社賞の受賞経験があるが,現在では極めて冷遇されている。再評価を熱望したい。1961年11月23日ロンドンにて死去。


主要作品

管弦楽 ・交響曲第1番 First symphony in G major, op.4 (1902)
・交響詩【タッソの悲曲】 The lament of Tasso, op.5 (1902)
・演奏会序曲 Concert overture in G minor op.15 (-1904)
・交響曲第2番 Second symphony in E minor, op.31 (1909)
・王立イギリス空軍の行進曲 Royal air force: march past for military band (1919)
・ピエレット Pierrette, a graceful dance (1938)
・交響曲第3番 Third symphony, op.137 (1951)
・交響的幻想曲 Symphonic fantasia in F major, op.16 (-)
・遊びに臨んで At the play, op.50 (-)
・管弦楽のための組曲 Suite, op.57 (-)
・日暮れ時 Tone poem: eventide, op.69 (-)
・祝典序曲 Festal overture in D major, op.89 (-)
・トム・ボーリングによる幻想序曲 Fantasy overture on Tom Bowling, op.115 (-)
・交響曲第4番 Fourth symphony in G major (-) ...紛失
・2つの特徴的な舞曲 Two characteristic dances (-)
・ミニアチュール組曲 Miniature suite for school orchestra (-)
・祝日組曲 Holiday suite (-)
協奏曲 ・ピアノ協奏曲第1番 Piano concerto No.1 in Eb major, op.11 (1903) {p, orch}
・ピアノ協奏曲第2番‘演奏会用小品’Concertstück in D minor, op.17 (1905-1906) {p, orch}
・ピアノ協奏曲第3番 Piano concerto No.3 'fantasia', op.23 (1906-1907) {p, orch}
・ヴィオラ協奏曲 Viola concerto in C minor, op.25 (1906-1907) {vla, orch}
・ヴァイオリン協奏曲第1番 Violin concerto No.1 in E minor, op.33 (-1923) {vln, orch}
・チェロと管弦楽のための狂詩曲 Rhapsody in D major for cello and orchestra, op.74 (-1927)
・ピアノ協奏曲第4番 Piano concerto No.4 in A minor, op.88 (1929) {p, orch}
・交響組曲 Symphonic suite: three pieces for string orchestra with harp ad lib (1942) {hrp, orch}
・ハープと小管弦楽のためのアラベスク Arabeske for harp and small orchestra (1949) {hrp, small-orch}
・ホルン,弦楽とティンパニのための協奏曲 Concerto for horn, strings and timpani, op.150 (1956) {hrn, timp, strings}
・協奏的小交響曲 Sinfonietta concertante for brass and orchestra (1957) {brass, orch}
・ジグ Jig for two pianos and orchestra (-) {2p, orch}
室内楽 ・ヴィオラ・ソナタ第1番 Sonata for viola No.1 in C minor (1905) {vla, p}
・ヴィオラ・ソナタ第2番 Sonata for viola No.2 in F major (1906) {vla, p}
・幻想四重奏曲 Phantasy quartet for four violas (1907) {4vla}
・組曲 suite for violin and piano, op.28 (1909) {vln, p}
・幻想曲 Phantasy for viola and piano, op.54 (1918) {vla, p}
・チェロ・ソナタ Sonata for cello and piano, op.64 (1921) {vc, p}
・弦楽四重奏曲第2番 String quartet No.2 in D minor, op.41 (1922) {2vln ,vla, vc} ...
カーネギー財団賞受賞
・ホルン五重奏曲 Quintet for horn and string quartet, op.84 (1927) {hrn, 2vln, vla ,vc}
・オーボエ・ソナタ Sonata for oboe and piano, op.85 (1927) {ob, p}
・ホルン・ソナタ Sonata for horn and piano in E flat major, op.101 (1937) {hrn, p} ... 未確認ですが,1943年にもホルン作品がある模様
・クラリネット・ソナタ Sonata for clarinet and piano in F minor, op.109 (1943) {cl, p}

・ヴァイオリン・ソナタ Sonata for violin and piano in E minor, op.112 (1945) {vln, p}
・フルート・ソナタ Sonata for flute and piano, op.120 (1946) {fl, p}
・ヴィオラ・ソナタ第4番 Sonata for viola No.4 (-) {vla, p}
・リコーダー・ソナタ Recorder sonata, op.121 (1948) {rec, p}
・狂詩曲 Rhapsody for viola and piano op.149 (1956) {vla, p}
・とんぼ The dragonfly (1961)
・三重狂詩曲 Rhapsody trio for violin, cello and piano, op.80 (-) {vln, vc, p}
・弦楽四重奏曲第3番 String quartet No.3 in G major (-) {2vln, vla, vc}
・フルート二本のためのソナタ Sonata for two flutes (-) {2fl}
・2つの素描 Two sketches for solo violin 'the clown' (-) {vln}
ピアノ曲 ・ピアノ・ソナタ第1番 Sonata for piano No.1 (1900)
・24の前奏曲集 24 preludes, op.102 (1938)
・ピアノ・ソナタ第6番 Sonata for piano No.6 (1961)
・3つの素描 Three sketches, op.43 (-)
・3つのミニアチュール Three miniatures, op.44 (-)
・あの子らの5つの印象 Those children! : five impressions, op.55 (-)
・引用主題による変奏曲とフーガ Variations and fugue on an unoriginal theme for piano, op.62 (-)
・ピアノ・ソナタ第5番 Sonata No.5 in F minor, op.72 (-)
・子守歌 Berceuse, op.83 (-)
・夜想曲 Nocturne, op.87 (-)
・2つの小品 Two pieces, op.106 (-)
 1) カプリース caprice, 2) 夜想曲 nocturne
・演奏会用ワルツ Concert waltz, op.108 (-) {2p}
・2台ピアノのための組曲 Suite, op.111 (-) {2p}
・アラベスク Arabesque, op.119 (-)
 
1) 無言歌 song without words, 2) 小川の歌 song of the stream
・カプリッチョと詩曲 Capriccio and poem, op.129 (-) {2p}
・トッカータ Toccata, op.155 (-)
・パルティータ Partita, op.156 (-)
・バラード Ballade for two pianos, op.157 (-) {2p}


ボーエンを聴く


★★★★★
"Sonata for Flute & Piano / Sonata for Oboe & Piano / Sonata for Clarinet & Piano / Sonata for Horn & Piano" (Dutton : CDLX 7129)
Endymion Ensemble : Helen deen (fl) Melinda Maxwell (ob) Mark Van de Wiel (cl) Stephen Stirling (hrn) Michael Dussek (p)
英ワットフォードに本拠を置くダットンは,スコットやラッブラら英近代の室内楽を次々に発掘する営為を通じて,彼の国の知られざる遺徳を再訪する気鋭のレーベル。彼らに続いて,このたび微かな脚光を浴びつつあるのがボーエンです。1884年ロンドンに生まれた彼は,王立音楽院へ進学し,のち同校の教授となった人物。ただ,生前は作曲家としてよりも演奏家の方で評価され,最初の職はピアノ講師。その後,ホルン吹きとしても活躍するなど,小器用だったのが災いしてしまい,今や唯一の評伝も絶版。いよいよ過小評価に拍車が掛かっていたところでした。これまでに扱った誰よりも重度に無名だけに,ダットン側も肩入れ顕著。管見の限りでも,大挙5枚に渡って各種室内楽を録音しました。本盤はその一枚で,いずれも作者晩年の1940年代,管楽器のために書かれた4つのソナタを併録しています。作風は,六人組臭さを半分に希釈し,その穴に英国ロマン派の香りと擬古典系フレンチ作家(ダマーズやベルトミュー)を詰め直して品位を整えた,穏健なモダニスト。趣向の凝らされた転調と,ロマン派の顔の下で時折顔を覗かせる冒険的な和音やめくるめくリズムの妙が,緊張感を持続。およそイギリス人とは思えぬ洒落っ気があり,プーランクやダマーズの軽妙でエレジアックな空気まで備えていながら,六人組の毒っ気や通俗性は注意深く除かれた,願ったり適ったりの作風に快哉を叫びました。演奏するエンディミオン・アンサンブルは1979年に結成。ロンドン市立響の首席クラスが中心となっているだけに,演奏はレベルが高い。各々細かいアラはあるものの,それを相殺して余りある伸びやかな歌い回しに快哉。各人の鳴管が実に生き生きとしていて素晴らしい。再評価を促す録音が,高品位の演奏で録って貰えたのは幸運でした。お薦め度大です。

★★★★
"Quintet in C Minor / Rhapsody Trio / Trio in Three Movements" (Dutton : CDLX 7115)
Endymion Ensemble: Krysia Osostowicz, Fiona McCapra (vln) Catherine Manson (vla) Jane Salmon (vc) Stephen Stirling (hrn) Michael Dussek (p)
ボーエン詣でもこれで4枚目。こちらは,弦楽重奏にソロ楽器またはピアノが付いた作品を三編収めた2001年の吹き込みです。1927年に書かれた『ホルン五重奏』は,ロンドン初演でバックスの室内楽と並んで演奏されたとの故事が物語るとおりの作品。適度に保守的で後期ロマン派的な主題とリズム構成。そして,バックスやモーランに類を同する,適度にカラフルな和声が好ましく和合した書法は,器楽に聴ける呪術性やプーランク趣味とはやや距離を置いており,ボーエンとしては珍しいほどに英国近代らしい。その前年に書かれた『幻想三重奏』は,冒頭ハープを模したピアノのグリサンドや,全体に漂うアルカイックな佇まいが,これまたいつものボーエンに比べ,擬古典的な瀟洒さをとどめ,印象深く聴きました。ずっと後年の1945年に書いた『三楽章の三重奏』ではより柔和かつたおやかに,美旋律と呪術和声の融合がなされ,実に快い。器楽や吹奏楽ものでは異教徒趣味のリズムや和声ばかりが目立つこの人の,恐らくは本来持っていた英国近代の優等生としての顔が,これほど良く出た作品集もないんじゃないでしょうか。演奏なさるエンディミオン・アンサンブルはロンドン周辺の室内楽やオケの関係者が集まった器楽団。それぞれの楽器が一枚看板でソロをとる器楽ものでは,弦楽器を中心に各人ともソリストとしてやや至らないところを露呈してしまいますけれど,重奏するとお互い補い合い,良くまとまった演奏に。アンサンブルとしてはきっと相性が良いんでしょうねえ。

★★★★
"Suite for Violin & Piano / Sonata for Vello & Piano / Sonata in E Minor" (Dutton : CDLX 7120)
Krysia Osostowicz (vln) Jane Salmon (vc) Michael Dussek (p)
少しずつその才気に対する疑念が生じつつあるボーエンさん。「乗りかけた船だ。今更止められない・・」というわけで,今少し付き合ってみることに致しました。1909年作曲の『組曲』は,本家ほど羽ばたくような自由さはないフォーレみたいですか。いっぽう,ラヴェルの弦楽二重奏を英国初演したことでも知られるベアトリス・ハリソンのために書かれた『チェロ・ソナタ』はさすが1921年。こちらはピアノが奏でる冒頭の8小節からして,『組曲』とは別人。ロマン派情緒を保ちながら,シュミットフルな和声と転調,そして躍動的な異教徒リズムを程良く上乗せした作風に快哉です。これは,続く『ヴァイオリン・ソナタ』(1945年)も同様。ヴァイオリンの奏でる主旋律には,確かに狂気じみてはいるけれどフォーレ的ロマンティシズムがちゃんとある。それでいて,ピアノの伴奏はモーダルでシュミット寸止め。程良く正気を失った精神崩壊ぶりが近代フェティシズムを刺激する佳品と申せましょう。ここまでは嬉しい本盤に難点を挙げるとすれば演奏。例によってエンディミオン団員の演奏は,決して悪くはないんですけど,やっぱりソリスト専業のそれに比べると見劣りがしてしまう。ヴァイオリン担当のオソストヴィツ女史はメニューイン・スクールとケンブリッジ大で学び,ザルツブルクへ留学。その後は室内楽団のメンバーとしての経歴が長く,知る人ぞ知るピアノ四重奏団ドームスで15年間ソリストをやっておられます。この他1995年にはダンテ四重奏団を結成して団長になり,エンディミオン・アンサンブルでは首席ヴァイオリン奏者。天下のハイペリオンに録音したバルトークとフォーレの録音は,シャルプラッテン賞を貰いました。確かに音は甘い光沢があり,抑揚豊かで上手いは上手いんですけど,ちょっとピッチが不安定ですねえ。仕方ないのかな。いっぽう1983年に結団されたシューベルト・アンサンブルの団員もなさっているチェロ奏者は,ピッチも技巧も意外なほど的確で悪くないものの,音色はキコキコ系で苦しそう。速いパッセージや重音もちと苦しそうですねえ。

★★★☆
"Viola Sonata No.2 in F Major / Viola Sonata No.1 in C Minor / Phantasy" (Dutton : CDLX 7126)
James Boyd (vla) Bengt Forsberg (p)
恵まれないモダニストへ愛の手を差し伸べる,英国CDベンチャー企業界のユニセフことダットンは,ボーエンに大きく肩入れ。2002年に出た本盤は,2編のヴィオラ・ソナタを併録したものです。冒頭から,わざとなのかとすら思わせるほど保守的なフランキズム書法。最も後年の『幻想曲』でピアノ譜が近代化するところを見ると,1番1905年,2番も翌年と,早い時期の作品だからですかねえ。つらつらと儚げな半音階と保守的な和声。一応は佳曲なんですが,木管ソナタ集に聴ける進取の気性は希薄です。木管ソナタ集を聴いた印象はイギリス版プーランクやダマーズでしたが,そういえば彼らも自我が色濃く出るのはむしろ小編成の管楽作品でした。フランクやフォレの影響があったとも思えない彼岸の作曲家にまで,同じ傾向が出てしまうのはどういうわけでしょう。それだけ弦楽ソナタの世界は,保守ロマン派の精神的支配が強烈だったのかも知れません。ドビュッシーもラヴェルもこのジャンルはあまり手を入れませんでしたし。伴奏を担当するのはご存じオッターの伴奏者フォルベリさん。ピエルネのチェロ・ソナタに聴ける,吸い込まれるように透明かつデリケートな伴奏はここでも健在です。ただ,ヴィオラはちょっとだけ格落ちな気が。メニューイン校を出てラファエル五重奏団に五年在籍したのち,ヴェリンジャー四重奏団の創設メンバーとなり,1994年のロンドン国際弦楽四重奏コンクールで入賞。ギルドホール音大の講師です。ロンドン・ハイドン弦楽四重奏団とかいう,語呂遊び半分な四重奏団も2001年に結成したとかで,活動は室内楽がメイン。柔らかな旋律の曲線美は美しく,技術的には鍛錬されてはいる反面,細部のピッチが少し不安定。ヴィオラ奏者が全面に出るCDは,それこそ数限りなく聴きましたけど,大物と言われる演奏家の録音ですら,ピッチや鳴動の不安定なものが妙に多い。楽器固有の問題でもあるのかと思い,以前プロのヴィオラ奏者さんに伺ってみたんですけど,特別なことはないようで。演奏家が少なく層が薄いって事なんでしょうかねえ?

(2006. 3. 30 upload)