Cの作曲家



ジョセフ・カントルーブ Marie-Joseph Canteloube (1879-1957)

フランスの音楽史家,ピアノ奏者,作曲家。本名マリー=ジョセフ・カントルーブ・ドゥ・マラレ(Marie-Joseph Canteloube de Malaret ※ニューグローブ辞典1980年版ではCalaretとなっています)。1879年10月21日,オーベルニュ地方アルデシュ(Ardèche)のアノナイ(Annonay)生まれ。マラメで幼少期を過ごしたのち,1900年にパリへ出てショパンの弟子アメリー・デツェル(Amélie Daetzer)にピアノを師事するとともに,1901年からスコラ・カントールムでヴァンサン・ダンディに作曲法を師事。1925年にはオーベルニュ地方出身の民謡愛好者たちの組織である『オーベルニュ民謡協会(La Bourrée)』を創設した。彼の最大の功績は音楽史家としてのもので,出自オーベルニュ地方の民謡をオック語(Langue D'oc南仏起源の方言:現在の仏語は北仏起源のオイル語がルーツ)で収集採譜して編曲した『オーベルニュの歌』で知られるほか,著述も行い,1939年から1944年にかけて【フランス民謡大全(Anthologie des chants populaires Français)】,1946年にプロヴァンス地方の歌曲集を刊行したほか,1949年にヴァンサン・ダンディの評伝,1950年にはデオダ・ドゥ・セヴラックの評伝を執筆している。1957年11月4日グリニュイ(Gridny)にて死去。


主要作品

歌劇 ・農家 le mas (1910-1913)
・ヴァルサンジェトリクス vercingétorix (1930-1932)
管弦楽曲 ・遠方の王女への詩句 vers la princesse lointaine (1910-1911)
・3つの交響的素描【月桂樹】 trois esquisses symphoniques 'lauriers' (1929)
協奏曲 ・フランス風の小品集 pièces Françaises (1934-1935) {p, orch}
・詩曲 poèmes (1937) {vln, orch}
室内楽/器楽 ・感情的な協議 colloque sentimental (1903) {vo, 2vln, vla, vc}
・山地にて dans la montagne: suite (1904) {vln, p}
・田舎風 rustiques (1946) {ob, cl, bssn}
歌曲
(自作)
・秋の牧歌 eglogue d'automne (1909) {vo, orch}
・おお春よ au printemps (1913) {vo, orch}
・三部作 tryptique (1914) {vo, orch}
・ララダ l'arada six pièces (1918-1922) {vo, p}
編曲作品
(民謡)
・オーベルニュ,クレ高地の民謡集 chants populaires de Haute-Auvergne et Haut-Querey (1907) {vo, p}
・オーベルニュの歌 全4巻 chants d' Auvergne (1923-1930) {vo, orch}
・アルス・カタラン als catalans (1923) {6vo}
・5つの百姓たちの歌 cinq chants paysans (1927) {choir}
・オーベルニュ高地の宗教歌集 chants religieux de Haute-Auvergne (1929) {vo, p}
・新選 百姓たちの歌 nouveaux chants paysans (1931) {choir}
・百姓たちの歌 第3集 chants paysans trosième série (1935) {choir}
・仏領民の歌 chants des terroirs Français (1939) {choir}
・フランスの歌 第2集 chants de France, deuxième série (1939-1940) {choir, orch}
・アルザス地方の歌 chanssonier alsacien (1945) {choir}
・ラングメの歌 chants de l'Angoumais (1947) {vo, p}
・オック語圏地方の歌 chants du languedoc (1947) {vo, p}
・バスク地方の歌 chants des pays Basques (1947) {vo, p}
・感謝祭のためのフランス民謡集 noëls populaires français (1948) {vo, p}
編曲作品
(民謡以外)
・18世紀の祝宴歌集 chansons galantes du XVIII siècle (1933) {4vo, p (clvsn)}
・祝宴歌集第2集 chansons galantes deuxième série (1935) {vo, p}


カントルーブを聴く


★★★★☆
"Chants d'Auvergne (Canteloube) Chansons Bourguignonnes du Pays de Beaune (Emmanuel)" (Erato : WPCS-11016/7)
Dawn Upshaw (sop) Kent Nagano (cond) Orchestre de l'Opera National de Lyon
カントルーブは,師ダンディの影響のもとに,出自フランス中南部の山地オーベルニュ地方へ入り,土着民謡や原詩の収集に明け暮れた音楽史家兼作曲家。ちょっとクラシックを囓った人になら誰にでも良く知られている割に,少し本腰を入れてこの人のまともな情報を探すと,世界的にも殆ど皆無。この不可思議な現状は,いわば裏方である音楽史家の社会的地位の低さを反映したものでしょう。彼は長年に渡って集めた民謡を編曲した『オーベルニュの歌』だけで,今日にその名を留めています。内容は,ダンディの影響下に程良く色彩的な後期ロマン派の書法を堅持しつつも,その素材が過度なワグネリズム的大仰さの表出を抑えた名品。唯一のヒット作であり,当然競合盤も数多く存在しますが,不思議なことに小生は,まるで満足行く演奏に出逢ったことがない。このCDはそんな中,ほとんど唯一の例外と言うべきものです。この盤の美点はやはりドーン・アップショウの美しく張りのある歌声に尽きましょう。柔和と言うよりは力強く,雄々しく歌いますが,他盤に比して声が伸び,艶やかで美しい。加えて録音僅少のエマニュエルまで入って有り難いの何の。この内容で2枚1900円なら文句なし。デフレ万歳です。

★★★★☆
"Violin Sonata No.1 in C#Minor (De Bréville) Suite: Dans la Montagne (Canteloube)" (Hyperion : CDA67427)
Philippe Graffin (violin) Pascal Devoyon (piano)
同じレーベルから出た『仏近代レアものV協奏曲選』で独奏者を務めているグラフィンと,タンパニから出た近代室内楽ものでピアノを弾いていたドヴォヨン。仏近代落ち穂拾い界の新たな貴公子二名が組んだのです。今さらフランクやフォレのソナタなんてやるわけありません。まともな作品集は1枚しかお見かけしない隠れ名匠ブレヴィユと,『オーベルニュの歌』以外で評価してもらってるのをおよそ見たことがないカワイソーな作家カントルーブの秘曲2編をカップリングした,オタ泣かせの選曲。この時点で買う人は買う,買わない人は買わないに違いなく,最早紹介すること自体が暖簾に腕押しとの疑念を禁じ得ません。ブレヴィユのソナタは1919年に書かれていながら嬰ハ短調の調号が示す通り,循環形式に則った保守的な後期ロマン派ソナタ。既に歌曲を書いていた彼も,室内楽を書いたのはこれが初めてで,きっと習作的な意味合いも多少はあったのでしょう。フランクよりも遙かに自由な主旋律をもつ曲想は,やや簡素なフォレといった風情。随所に用いられたドビュッシアン要素が近代を主張するも,骨格は,フランクのソナタへ心酔した男の書く,次世代のVソナタです。個人的には併録のカントルーブ『山地にて』にびっくり。くだんのレアもの曲集でもひときわ輝きを放っていた彼は,やはりただ者じゃありませんでした。ポスト・ロマン派流儀のこの曲は,1904年の作。村祭りに奏でる民謡の如く簡素な主旋律に,注意深く処方されたピアノの分散和音が水彩画の如くデリケートな色合いを添える。確かにより簡素で薄味ですけど,ロパルツの作だと言われても信じてしまいそう。充分まともな作曲家じゃないですか。なんでいまだにオーベルニュの歌オンリーなんでしょうか。民謡収集家として有名になったのが,完全に裏目に出ちゃったんでしょう。可哀相に。演奏も良好。グラフィンの弦は,オケ伴の時より随分こなれて良くなりました。

★★★★
"Rare French Works for Violin and Orchestra : Violin Concerto (Fauré) Morceau de Concert (Saint-Saëns) Fantaisie Norvégienne (Lalo) Caprice (Guiraud) Guitarre (Lalo) Poème (Canteloube)" (Hyperion : CDA67294)
Thierry Fischer (cond) Philippe Graffin (vln) The Ulster Orchestra
ハンドレーやトゥルトゥリエの下で近代作家を数多く救済してきたアルスター管の手になる仏近代の秘曲集。レアという割には有名人が並んでいるため,見かけ倒しかと思ったら,確かにあまり録音を見たことがない穴場的な作品が巧妙に集められています。有名な3人(フォレ,ラロ,サン=サーンス)の名前を見れば明らかなとおり,ここに収録されたのはいずれもドビュッシー以前の語法を得意にした人物。いわば後期ロマン派世代の優等生を集めるというコンセプトのもとに作られたものでしょう。レアだけに,有名人の作品はそれぞれ理由含み。フォレの協奏曲は初期ものらしく,ドイツ臭丸出しで,のちの慎ましやかなな香気はほとんどありませんし,サン=サーンスのは,演奏会用という題が示すままに旋律がテク誇示に走るあまりパガニーニ臭の中へ薄まったような凡作。唯一,ラロの『ノルウェイ風幻想曲』が,エキゾチックな旋律で心惹く佳品なくらいです。となれば,好事家的な関心を満たすのは,ドビュッシーの師匠あるいはビゼー「アルルの女」の組曲版を作った人,としてしか認知されていないギローと,『オーベルニュの歌』だけしか知られていない民謡蒐集家カントルーブの歴としたオリジナル『詩曲』の2品。ギローのは優等生的な後期ロマン派作品で,タイスの瞑想曲を思わせる1楽章がやや趣があるくらいですが,さすがにカントルーブのほうは民謡蒐集家だっただけに,他の作家のように宮廷臭くない素朴でエキゾチックな節回しが快い。演奏は少しヴァイオリンが硬いようですが,悪くないと思います。

(2003. 2. 6)