Dの作曲家



フレデリック・ディーリアス Frederick Delius (1862-1934)

イギリスの作曲家。1862年1月29日,ブラッドフォード生まれ。ドイツ系。本名フリッツ・テオドール・アルバート・ディーリアス(Fritz Theodor Albert Delius)。ヨークシャーの羊毛業に携わり富を成した父のもと,音楽的な環境で育ち,12歳までヴァイオリンとピアノを習得。 1874年にグラマー・スクールへ進んだのち,1878年にロンドンへ出て,インターナショナル・カレッジで2年間修学した。卒業後,家業の見習い助手となったが,程なく父を説得して渡米。フロリダ州ジャクソンヴィルのオルガン奏者トーマス・ワードに音楽理論を師事したのち,ヴァージニア州ダンヴィルで音楽教師となる。1886年に父の援助でドイツへ渡り,ライプツィヒ音楽院へ進学。1888年の卒業後はパリへ移り,残る人生はフランスで送った。若くして洋行するなど奔放だったため,旅先で性病を罹患。1922年には全身麻痺に陥るなど,晩年は病状が悪化。1925年には失明したため,ラジオ番組でその窮状を知って記譜助手に名乗りをあげたエリック・フェンビー(Eric Fenby: 1906-1997)の助けを借りながら創作を続けたことは,良く知られている。1934年6月10日死去。妻の死後,ロンドン南部のリムスフィールド(Limpsfield)へ移葬された。作品は穏健なロマン派形式に基づく素朴な旋律線を備え,甘美な曲想でファンも少なくない。再評価のきっかけとなったのは,生前から彼を評価していたイギリスの指揮者トマス・ビーチャムの手になる管弦楽作品集(EMI)であった。(関連ページ:ディーリアス協会 英語)


主要作品

※Jefferson, A. 1972. Delius. Dent & Sons. を入手しました。作品表は時間がとれ次第改訂します。

舞台作品 ・歌劇【イルメリン】 Irmelin (1890-1892) {3act} ...ディーリアス台本
・歌劇【魔法の泉】 the magic fountain: der wunderborn (1894-1895) {3act} ...
ディーリアス台本
・歌劇【コアンガ】 Koanga (1895-1897) {3act} ...
キーリー台本
・歌劇【村のロミオとジュリエット】 a village Romeo and Juliet (1900-1901) {intro, 3act (1act, 6scene} ...
ディーリアス/キーリー台本
・歌劇【赤毛のマルゴー】 Margot-la-rouge (1902) {1act} ...
ローゼンヴァル夫人台本
・歌劇【フェニモアとジェルダ】 Fennimore and Gerda (1908-1910) {11scene} ...
ディーリアス台本
・劇音楽【ハッサン,またはサマルカンドへのすばらしい旅】 Hassan, or the golden journey to Samarkand (1920-1923)
管弦楽曲 ・フロリダ組曲 Florida suite (1886-1887/1889)
・交響詩【ハイヤワサ】 Hiawatha (1888)
・春の牧歌 idylle de printemps: morceau symphonique (1889)
・小組曲 petite suite d' orchestre: little suite (1889-1890) {orch /small-orch}
・3つの特徴的な組曲 suite de trois morceaux caracteristiques (1889-1890)
・フランス行進曲(Marche française (1890)
・3つの小さな音詩 three small tone poems (1890)
・交響詩【山上にて】 paa vidderne: on the mountains (1890/1891/1892)
・幻想序曲【丘を越えて遥かに】 over the hills and far away (1895-1897)
・アパラチア Appalachia: American rhapsody (1896)
・ノルウェイ組曲 Norwegian suite (1897)...
ハイブルクの劇『フォルケラーデット』の間奏曲として作曲。
・交響詩【踊りは続く】 la ronde se deroule: The dance goes on (1898)...
『生命の踊り(訂1911/1912)』に改訂。
・夜想曲【パリ:大都会の歌】 Paris: the song of a great city (1899)
・ブリッグの定期市:イギリス狂詩曲 Brigg fair: an English rhapsody (1907)
・幻想曲【夏の庭にて】 fantasy 'in a summer garden' (1908/1909)
・舞踏狂詩曲第一番 a dance rhapsody No. 1 (1908)
・小管弦楽のための2つの小品 two pieces for small orchestra (1911-1912)
・北国の素描 north country sketches (1913-1914)
・歌と踊り air and dance (1915) {strings}
・舞踏幻想曲第二番 a dance rhapsody No. 2 (1916)
・交響詩【おとぎ話】 tone-poem 'eventyr' (1917)
・日の出前の歌 a song before sunrise (1918) {small-orch}
・人生と愛の詩 a poem of life and love (1918)...
未完
・夏の歌 a song of summer (1930)...
フェンビーによる口述筆記
・【イルメリン】前奏曲 prelude to 'Irmelin' (1931)
・幻想舞曲 fantastic dance (1931)
協奏曲 ・ピアノ協奏曲ハ短調 piano concerto in C minor (1897/1906) {p, orch} ...三楽章から単楽章に改訂。
・ヴァイオリンと管弦楽のための組曲 suite for violin and orchestra (1888) {vln, orch}
・伝説 変ホ長調 legend (1892-1895) {vln, orch (p)}
・ヴァイオリン協奏曲 violin concerto (1916)...
単一楽章
・チェロ協奏曲 concerto for cello and orchestra (1921) {vc, orch}
・カプリースと哀歌 caprice and elegy (1930) {vc, orch}...
フェンビーによる口述筆記
・ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 concerto for violin, cello and orchestra (1915) {vln, vc, orch}
室内楽 ・弦楽四重奏曲 string quartet (1888) {2vln, vla, vc}...未完。紛失。
・ロマンス romance (1889) {vln, p}
・ヴァイオリン・ソナタ ロ長調 sonata for violin and piano in B major (1892) {vln, p}
・弦楽四重奏曲第一番 string quartet No. 1 (1892-1893) {2vln, vla, vc}...紛失。
・ロマンス romance (1896) {vc, p}
・弦楽四重奏曲第二番 string quartet No. 2 (1916/1919) {2vln, vla, vc}...
改訂後三楽章形式から四楽章に。
・ヴァイオリン・ソナタ第一番 sonata for violin and piano No. 1 (1905-1914) {vln, p}
・チェロ・ソナタ sonata for cello and piano (1916) {vc, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第二番 sonata for violin and piano No. 2 (1923) {vln, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第三番 sonata for violin and piano No. 3 (1930) {vln, p}
ピアノ曲 ・戯れ言 badinage (1880-1890)
・2つの小品 two pieces (1889-1890)
・5つの小品 five pieces (1922-1923)
・3つの前奏曲 three preludes (1923)
・舞曲イ短調 dance (1919) {cemb}
合唱曲 ・6つのドイツ語の歌集 six German partrsongs (1887){choir}
・ツァラトゥストラの夜の歌 nachtlied Zarathustras: Zarathustra's nightsong (1898) {btn, m-choir, orch}...
F. ニーチェ詩
・アパラチア:古い黒人奴隷の歌による変奏曲 Appalachia: variations on an old slave song (1902-1904) {btn, choir, orch}
・海流 sea drift (1903-1904) {btn, choir, orch}...
W. ホイットマン詩
・人生のミサ eine messe des lebens: a mass of life (1904-1905) {sop, alt, tnr, btn, choir, orch}...
ニーチェ/F. カッシラー詩
・日没の歌 songs of sunset (1906-1907) {msp, btn, choir, orch}...
E. ダウソン詩
・クレイグ・ドゥーの山頂にて:自然の印象 on Craig Dhu: an impression of nature (1907) {choir}...
A. シモンズ詩
・流離い人の歌 wanderer's song (1908) {m-choir}...A. シモンズ詩
・夏至の歌 midsummer song (1908) {choir}...
ヴォーカリーズ(歌詞のない歌唱)作品。
・高原の歌 the song of the high hills (1911) {choir, orch}...
合唱はヴォーカリーズ。
・アラベスク an arabesque (1911/1915) {btn, choir, orch}...
J.P. ヤコブセン詩
・子どものための2つの歌 two songs for children (1913) {choir, p}...
テニソン詩
・レクイエム requiem (1913-1916) {sop, btn, 2choir, orch}...
ディーリアス詩
・夏の夜,水の上にて歌える to be sung of a summer night on the water (1917) {choir}...
ヴォーカリーズ。
・夕日の輝きは城壁に落ち the splendour falls on castle walls (1923) {choir}...
A.テニソン詩
・告別の歌 songs of farewell (1930) {2choir, orch}...
W. ホイットマン詩
歌曲 ・館にて paa vidderne: on the heights (1888) {narr, orch}...イプセン詩
・シャクンタラー sakuntala (1889) {tnr, orch}...
H. ドラックマン詩
・(邦訳不詳) maud (1891) {tnr, orch}...
A. テニソン詩
・7つのデンマーク民謡 seven Danish songs (1897) {vo, orch (p)}
・シナーラ cynara (1907) {btn, orch}...
E. ダウソン詩。フェンビーが完成時に協力(1929)
・去り行くひばり a late lark: die lerche am abend (1924-1929) {tnr, small-orch}...
W.E. ヘンリー詩
・田園詩曲 idyll - once I passed thro' a populous city (1932) {sop, btn, orch}...
W. ホイットマン詩
・(邦訳不詳) when other lips shall speak (1880) {vo, p}
・山ほどの高みに over the mountains high (1885)...
ビョルンソン詩
・褐色の瞳 two brown eyes (1885)...
アンデルセン詩
・ der fichtenbaum (1886)...
H. ハイネ詩
・ノルウェー民謡より5つの歌 five songs from the Norwegian (1888)
・ hochgebirgsleben (1888)...
イプセン詩
・ o schneller mein ross: plus vite, mon cheval (1888)...
ガイベル詩
・フォルテュニオの歌 chanson de Fortunio (1889)...
A.ミュゼ詩
・ノルウェー民謡より7つの歌 seven songs from the Norwegian (1889-1890)
・優しく森が skogen gir susende langsam besked (1891)...
ビョルンソン詩
・4つの歌 four songs (1890-1891)...
H. ハイネ詩
・シェリーの3つの抒情詩 three Shelley lyrics (1891)...
P.B. シェリー詩
・夢見る夜 dreamy nights (1891)...
ドラックマン詩
・作ったばかりの柳笛を持っていたことが jeg havde en nyskaaren seljeflojte (1891?)...
クラッグ詩
・雲 nuages (1893)...
リシュパン詩
・2つの歌 deux melodies (1895)...
ヴェルレーヌ原詩
・ the page sat in the lofty tower (1895?)...
ヤコブソン詩
・トラウム・ローゼン traum rosen (1898)...
M. ハイニッツ詩
・ニーチェ詩集 Nietzschelieder (1898)...
ニーチェ詩
・祝福の下朗らかに in bliss we walked with laughter (1898)...
ドラックマン詩
・デンマーク民謡より2つの歌 two songs from the Danish (1900)
・黒いばら black roses (1901)...
ヨゼフソン詩
・夜の呼び声 I hear in the night (1901)...
ドラックマン詩
・夏の情景 summer landscape (1902/1903) {vo, p (orch)}....
ドラックマン詩
・夜鳴きうぐいすは金の竪琴を持っている the nightingale has a lyre of gold (1910)...
W.E. ヘンリー詩
・白い月 la lune blanche (1910)...
ヴェルレーヌ原詩
・秋の歌 chanson d'automne (1911)...
ヴェルレーヌ原詩
・イ=ブラゼイル(楽園の島) I-Brazil (1913)...
F. マクロード詩
・4つの古いイギリスの抒情詩 four old English lyrics (1915-1916)
・ avant que tu ne t'en ailles (1919)...
ヴェルレーヌ原詩


ディーリアスを聴く


★★★★☆
"Violin Concerto / Piano Concerto / Two Pieces / On Hearing the First Cuckoo in Spring / Brigg Fair" (Decca : 470 190-2)
Tasmin Little (vln) Jean-Rodolphe Kars, Bengt Forsberg (p) Julian Lloyd Webber (vc) Alexander Gibson, Charles Mackerras, Anthony Collins (cond) Welsh National Opera Orchestra : Welsh National Symphony Orchestra : London Symphony Orchestra
ディーリアスは,本盤でも指揮を担当するビーチャムによって熱烈に賞賛され,彼の積極的な吹き込みによって再発見された作曲家。英国出身ながら若くして渡仏し結婚。その後の生涯を彼岸で過ごしたことや,ライプツィヒで学ぶも,いわゆる音楽エリートではなかったことが過小評価に影響したのでしょう(実際ビーチャムの吹き込みで再評価されたため,殆どをフランスで過ごしたにも拘わらず,イギリス作家扱いされてます)。1888年の渡仏となれば仏楽壇とどのように相互作用したのか気になるところですが,どうやら楽壇の奔流とは離れたところにいたようで,作品に漂うロマンティシズムはチャイコフスキーやラフマニノフ,グリーグに近い。楽壇の表舞台にいた作家と違って,米国や北欧まで歴訪したこの人の作品はとにかく平明。小難しさよりもギミック抜きの簡素な情感描出を重んじ,甘美さをたたえたメランコリックな美旋律をこれでもかと繰り出して涙腺を緩めてきます。ハープやフルートの装飾音に旋法や全音階が使われているものの調性感は明瞭で,いずれも穏健な佳品揃い。とにかくメロディックの一語に尽き,クラシックにさほど興味がない方まで広く聴いていただけるんじゃないでしょうか。本CDは定評あるビーチャムやマッケラスら英楽壇の重鎮の吹き込みを抜粋したもの。7枚からなる再発シリーズの一つらしいです。演奏はいずれも共感に富んでいて大変に好いですし,このシリーズは安価。見かけたら気軽にお手に取ってみてください。

★★★★
"Songs of Farewell / Late Swallows / A Song before Sunrise / The Walk to the Paradise Garden / Cynara / Prelude from 'Margot La Rouge' / Wanderer's Song / La Calinda" (EMI : TOCE-6414)
Malcolm Sargent, John Barbirolli, Philip Ledger, Meredith Davis, Charles Groves, George Weldon (cond) Royal Choral Society : Royal Philharmonic Orchestra : The Halle Orchestra : Choir of King's College, Cambridge : Royal Liverpool Philharmonic Orchestra : Baccholian Singers of London : The Philharmonia Orchestra
イギリス出身の作曲家ディーリアスの管弦楽作品および合唱作品を再編した企画盤。収録された作品は,いずれも1900年以降,彼がセルビア出身の画家イェルカ・ローゼンと結婚し,フォンテヌブローに居を構える後半生のものです。ディーリアスは父親にアメリカへ飛ばされるくらい,若い頃は遊び人だったらしく,その頃の生活が祟って晩年は性病に悩まされます。1925年頃には失明し腕の自由も利かなくなるなど,その生活は悲惨なものでした。この窮状を聞いて同情した若き音楽青年エリック・フェンビーの助けを借りながら,それでも彼は口述で作曲を続けたとか。『告別の歌』はその共同作業の産物で,亡くなる4年前に完成したもの。書法の上では後期ロマン派が誇る自在の移調芸術を基調としつつ,印象主義の語法を援用してその語法を押し広げた,いわゆるポスト・ロマン派的な作風。しかし,イギリスの作曲家らしい清明さとノーブルな品格や,ワグネリスティックな仰々しさを織り交ぜ,ロパルツや後期フォレなどの柔和な仏人ポスト・ロマンティストにはない厳粛さが,フランスに生きたイギリス人たるこの人のアイデンティティの発露だったのかも知れません。演奏はいずれもイギリスのトップ・オーケストラ。現代のものほど肌理の細かさはないぶん,おおらかな暖かみのある好演ではないでしょうか。

★★★★☆
"Sleigh Ride / Intermezzo / Two Pieces for Small Orchestra / A Song before Sunrise / La Calinda / Irmelin - Prelude / Intermezzo and Serenade / Summer Evening / Air and Dance" (EMI : CDM 5 65067 2)
Richard Hickox (cond) Northern Sinfonia of England
ディーリアスは,同じく英国近代の音楽の園にひっそりと咲き,中央ではあまり評価されないままに終わったジェラルド・フィンツィと並び,ひたすらにナイーヴで繊細な曲を多数書いて固定ファンを獲得している作曲家です。尤も,同じデリケートな作風でありながら2人のリリシズムは微妙に異なってもおり,フィンツィのそれがマイナー・キー主体で,哀歌調の翳りと厳しい佇まいを帯びているのに対し,ディーリアスのそれは,ずっと甘美で人なつっこい。案ずるより生むが易しとばかりに故国を飛び出す人生を選択した彼が,田舎に隠れてしまったフィンツィよりも一般受けしてしまう・・。同じロマンティストと言っても,やはり作った人と作った音楽はシンクロ。ディーリアスのロマンティシズムの中には開放的でボヘミアンな相貌が,フィンツィのそれにはどこか内省的で気むずかしい相貌が備わり,その曲に親しもうとする人への人当たりも変わってしまうんでしょうなあ・・なんて複雑な心境になって参ります。故国の大指揮者トマス・ビーチャムによって再発見してもらえたのもそのお陰か。ビーチャムの録音は半世紀に渡る定番となり,ディーリアスの知名度アップに貢献しました。1986年に,敢えてこの牙城に挑んだのが,イギリス近代ものに滅法強いヒコックス〜ノーザン・シンフォニアのコンビによる本録音。ノーザン・シンフォニアは,その後ナクソスから幾つかCDを出したため,ややお安く見られがちなんですが,本来はちゃんと通常版でも演れる力量確かな楽団。難しい譜面でないとはいえ,甘く透明感があり,肌理の揃った弦の鳴動はこのオーケストラならではのもの。そういえばこの楽団,フィンツィの録音も残していますね。それも,フィンツィの名を世界に知らしめるに充分な秀抜演奏で。

(2005. 2. 6: USW Standard time)