Gの作曲家



エンリケ・グラナドス Enrique Granados (1867-1916)

スペインのピアノ奏者,作曲家。1867年カタルニア地方のレディーナ(Lédina)生まれ(父はキューバ人の軍属であった)。バルセロナ音楽院へ進んでJ.ジュルネ(J. Jurnet)とジョアン・バプティスタ・プジョール(Joan Baptista Pujol:リカルド・ヴィニェスの師)にピアノを師事し,1883年に一等を獲得。次いで作曲法をF.ペドレル(Felipe Pedrel)に師事し,さらにはパリへ出てシャルル・ド・ベリオにピアノを学んだ(2年間)。彼は当代随一のピアノの名手であったが,人一倍旅行に出ることを嫌い,1889年にバルセロナへ帰郷したのちは,1901年に自ら創設したグラナドス・アカデミーでピアノの教鞭を執ることに専念した。1914年にパリで行ったリサイタルで評価され,レジオン・ドヌール賞を獲得。代表作『ゴイェスカス』が編曲され,パリ・オペラ座で上演されることが決まったものの,第一次大戦が勃発したため頓挫。ニューヨークのメトロポリタン・オペラが代わってその初演を引き受けることになり,彼は妻と共にその初演(1916年1月28日)に立ち会うべく渡米する。その際,時の大統領ウィルソンの求めに応じ,彼はホワイトハウスでリサイタルを敢行したが,そのために帰国の船便を変更。これが運命の分かれ目となった。1916年3月24日,旅程を変更しての帰路,乗船した船は潜水艦の魚雷を受け沈没。僅か40才でのあまりに早すぎる死であった。彼の死後,グラナドス・アカデミーは弟子のフランク・マーシャルに引き継がれ,名をマーシャル・アカデミーに改めた。


主要作品

舞台音楽 ・カルメンのマリア María del carmen (1898)
・リリアーナ liliana (1911)
・ゴイェスカス goyescas (1913) ※ピアノ版を改訂したオペラ
管弦楽 ・死の夜 la nit del mort (1897)
・間奏曲 intermezzo (1916)
室内楽・器楽 ・ピアノ三重奏曲 trio (1894) <vln, vc, p>
・ピアノ五重奏曲 quinteto (1894) <2vln, vla, vc, p>
・ヴァイオリン・ソナタ sonata (1910) <vln, p>
・ラ・トロヴァ la trova (1912) <vc, p>
・セレナータ serenata (1912) <2vln, p>
・エリゼンダ Elisenda (1912) <fl, ob, cl, 2vln, 2vla, vc, p?>
・3つの前奏曲 3 preludios (-) <vln, p>
・ロマンス romanza (-) <vln, p>
・ガレガ舞曲 danza Gallega (-) <vc, p>
・ヴァイオリンのためのアンダンテ andante (-) <vln, p>
・チェロのためのマドリガル madrigal (-) <vc, p>
ピアノ曲 ・スペイン舞曲集 danzas espagñolas (1890)
・6つの情動的な練習曲 seis estudios expresivos (1902-1906)
・詩的な風景 escenas poéticas (1903-1907)
・協奏的アレグロ allegro de concierto (1904)
・ゴイェスカス goyescas (1909-1911)
歌曲
(拙訳。正訳を
ご教示下さい)
・ボイラ la boyra (1900) <vo, p>
・愛の歌 canto d'amor (1901) <vo, p>
・ダンテ dante (1908) <msp, orch>
・愛と憎悪 amor y odio (1910) <vo, p>
・賢者を見よ el mirar de la maja (1910) <vo, p>
・賢明なるゴヤ la maja de Goya (1910) <vo, p>
・賢きものその痛み la maja dolorosa No.1-3 (1910) <vo, p>
・おお我が賢明なる生と愛,そして冷酷なる死よ ay majo de mi vida! oh muerte cruel! de aquel majo amante (1910) <vo, p>
・忘れられし賢者 el majo olvidado (1910) <vo, p>
・永遠の哀歌 elegia eterna (1912) <vo, p>
・ポスティリョンの歌 song of the postilion (1916) <vo, p>


グラナドスを聴く


★★★★★
"Music of Spain - Granados Complete Piano Music, Vol. 1 :
Goyescas / Two impromptus / Aparición / Estudio / Capricho Espagñol / Seis estudios expresivos / Danza lenta / Allegro de concierto / Cuentos de la juventúo / Barcarola / Preludio y seis sobre cantos populares espagñoles" (Vox : CDX 5075)

Marylène Dosse (piano)
ファリャばかりが独り勝ちしている近代スペイン音楽界。しかし,その基礎を作ったのはこの人です。言うならちょうどラヴェルに対するシャブリエと同じ位置の作曲家と思えば良く,実際,ファリャをラヴェルと考えたとき,ちょうどこの人の作風はまさしくショパンやシューマンそのものです。印象主義者に見られる美しい和声感は希薄ながら,その後の全ての同国人作曲家の範となるピアノ書法の(スペイン人なので,特にスペイン民謡などのリズムに学んで,それをピアノの書法としてクラシックの土台に上げた)功績は評価されて然るべきもの。いきおい,彼のそうした独自性が最も出ているのはピアノ曲で,彼が最も評価されているのもこの分野です。全集も幾つかあるようですが,お薦め盤と言われて真っ先に挙げたくなるのはこのCD。パリ音楽院を一等で出たものの,アメリカに渡ったためか過小評価気味のマリレーヌ・ドッセの演奏は,露骨なスペイン臭でお茶を濁すことなく,非業の作家グラナードスのショパン的ロマンティシズムを鮮やかに捉えた名演中の名演。おまけに安い!(4枚買っても3000円)

★★★★★
"Music of Spain - Granados Complete Piano Music, Vol. 2 :
Danzas Españolas / Escenas Románticas Serie 1 / Valses Poéticos / Paisaje / Cartas de Amor / Escenas Poeticas Serie 2 / A la Pradera / El Pelele / Moresca, Canción Árabe / Libro de Horas / Carezza / Rapsodia Aragonesa" (Vox : CDX 5076)

Marylène Dosse (piano)
グラナードスというと,まず間違いなくファンが挙げるのはアリシア・デ・ラローチャのEMI盤でしょう。もちろんあれはあれでいい演奏だと思うのですが,そんなファンも含めぜひ御一聴頂きたいのがこの録音。グラナードスは間違いなく,書法の上ではショパンに立脚していると思うのですが,そこにスペインらしい強いリズムや民謡的な旋法性を折衷して,近代スペイン音楽のひとつの様式を確立しました。それだけに,どちらにも比重を置いて演奏できると言うことになります。同国人の多くが後者を強調する余り,過剰に泥臭くなるのに比して,仏人ドッセのピアノの何と洒落ていて,ショパン的な儚さを捉えていて,しかも軽やかで明晰であることよ!これほどの名手がまるで無名な現状,全く理解に苦しみます。ラローチャと同格程度には評価されて良い演奏です。個人的には数多のグラナードス作品集でも間違いなく最上位に君臨する名盤と思います。この4枚を耳にして,その早すぎた非業の死に思いを至すとき,ロマン派を愛する全てのファンは須く運命の皮肉と,そのどこか悲壮感溢れる旋律に涙することでしょう。印象派ファンにはこの作品,プレモダンかも知れませんが,たまにはこういうのもいいものです。

(2002. 12. 29)