Gの作曲家



アレクサンドル・グレチャニノフ Alexander Gretchaninov (1864-1956)

ロシアの作曲家。本名アレクサンドル・ティホノヴィッチ・グレチャニノフ(Alexander Tikhonovich Gretchaninov)。1864年10月25日モスクワ生まれ。音楽に無理解な父のもとに育つも,10才で高校の聖歌隊に入って才能を発揮し,14才から義理の姉に就きピアノを学んで研鑽を積んだのち,1881年にモスクワ音楽院へ進学。サフォノフにピアノ,アレンスキーに和声法とフーガ,タネイエフに対位法とアナリーゼを師事。次いで,サンクトペテルブルクへ転じてリムスキー=コルサコフに師事した。家業を継がせようと考えていた両親は反対し,経済援助は一切受けられなかったが,彼の才能をいち早く認めた師R=コルサコフの援助のもと,1893年まで研鑽を積む。1894年に『演奏会用序曲』で賞を得たのち,1896年にはモスクワ芸術劇場付の作曲家となってモスクワへ戻り,オストロフスキやトルストイの台本のために多くの付帯音楽を作曲。モスクワのバークマン音楽学校の少年合唱団の団長を務め,グネーシン音楽学校で教鞭を執った。初めて作曲した歌劇が成功を収めたものの,1917年のロシア革命によって保守的な楽壇から迫害されるようになり,1925年に故国を離れてパリへ移住。次いで1939年にはアメリカへと渡って余生を送った(1946年に市民権取得)。1956年1月4日(3日とする資料もある),91才でニューヨークにて死去。同時代の中でただ1人,ロシア中世教会音楽の研究に没頭。周囲の無理解と無援助の中で,ロシア正教の唱歌(単旋律)と多声様式とを融合させる試みを推し進め,のちに共産主義者による迫害や粛正によって,宗教関係者の多くが命を落としたロシア正教の教会音楽を継承・発展させた功績は計り知れない。


主要作品
 ※資料不足のため著しく不完全です。暫定版としてご利用ください

舞台作品 ・ドブリーニャ・ニキティチ Dobrinya Nikitich op.22 (1895/1899-1901) {3act} ...Grechaninov台本
・シャクンタラー Sakuntala (1903) ...
KalidasaによりA. Fyodorov台本。スケッチのみ
・駅長 Stantsionniy smotritel' (1906) ...
A. S. PushkinによりGrechaninov台本,スケッチのみ
・尼僧ベアトリス Sestra Beatrisa, op.50 (1908-1910) ...
M. MaeterlinckによりGrechaninov台本
・樅の木の夢 Yelochkin son, op.55 (1911) ...
N. Dolomanova and Grechaninov台本
・ムーシュキンの塔 Mishkin teremok, op.92 (1921) {1act} ...
V. Popov台本
・猫,雄鶏,雌狐 Kot, petukh i lisa, op. 103 (1919-1924) {1act} ...
Grechaninov台本
・喜劇【婚礼】 Zhenit'ba, op.180 (1945-1946) {3act} ...
N. V. Gogol台本
・付帯音楽【スネグロチュカ】 Snegurochka (-) ... Ostovsky台本
管弦楽曲 ・交響曲第一番 ロ短調 Symphony No.1, op.6 (1894)
・交響曲第二番【田園】 イ長調 Symphony No.2 'Pastorale', op.27 (1902-1909)
・交響曲第三番 ホ長調 Symphony No.3, op.100 (1920-1924)
・交響曲第四番 ハ長調 Symphony No.4, op.102 (1923/1924)
・交響曲第五番 Symphony No.5 'Missa oecumenica', op.153 (1936-1938)
・交響曲第六番 Symphony No.6 (1943)
・弦楽のための三部作 Triptych, op.163 (-) {strings}
協奏曲 ・チェロ協奏曲 イ短調 Cello concerto, op.8 (1895) {vc, orch}
・ヴァイオリン協奏曲 Violin concerto, op.132 (1932) {vln, orch}
・フルート,ハープと弦楽合奏のための協奏曲 Concerto, op.159 (1938) {fl, hrp, strings}
室内楽曲 ・弦楽四重奏曲第一番 ト長調 String quartet No.1 in G major, op.2 (1894) {2vln ,vla, vc}
・ピアノ三重奏曲第一番 ハ短調 Piano trio No.1 in C minor, op.38 (1906) {vln, vc, p}
・弦楽四重奏曲第二番 ニ短調 String quartet No.2 in D minor, op.70 (1913) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第三番 ハ短調 String quartet in C minor No.3, op.75 (1915) {2vln, vla, vc}
・ヴァイオリン・ソナタ第一番 ニ長調 Violin sonata No.1, op.87 (1918/1919) {vln, p}
・チェロ・ソナタ ホ短調 Cello sonata in E minor, op.113 (1927) {vc, p}
・弦楽四重奏曲第四番 String quartet No.4 inF major, op.124 (1929) {2vln, vla, vc}
・ピアノ三重奏曲第二番 ト長調 Piano trio No.2 in G major, op.128 (1930-1931) {vla, vc, p}
・ヴァイオリン・ソナタ第二番 ハ短調 Violin sonata No.2, op137 (1933) {vln, p}
・クラリネット・ソナタ Clarinet sonata, op.172 (-) {cl, p}
・縮小された組曲 Suite miniature (-) {cl, p}
ピアノ曲 ・ピアノ・ソナタ第一番 ト短調 Piano sonata No.1 in G minor, op.129 (1931)
・ピアノ・ソナタ第二番 Piano sonata No.2, op.174 (1942)
・8つの水彩画 8 Pastels, op.61 (-)
・子どもたちのためのアルバム Children's album: 15 pieces, op.98 (-)
・緑の草原にて On the green meadow, op.99 (-)
・(邦訳不詳) Brimborions, op.138 (-)
・子どものための12の小さな素描 12 Little Sketches for Children, op.182 (-)
オルガン曲 ・オルガンのための小品集 Pieces for organ, op.159 (1939) {org}
歌曲 ・雪のかけら Snowflakes, op.47 (-) {f-vo, p}
・小径 The lane: five children's songs, op.89 (-) {vo, p}
・東洋風の歌 Mélodie orientale (-) {vo, p}
・カンタータ【サムソン】 Samson (-)
・カンタータ【1861年2月19日】 19 February 1861 (-)
宗教曲 ・聖クリソストムの典礼 第一集 The liturgy of St.John Chrysostom, op.13 (1897) {narr, choir}
・聖クリソストムの典礼 第二集 The liturgy of St John Chrysostom, op.29 (1902) {narr, choir}
・ラウダーテ・ドミヌム Laudate dominum: psalm 117 (1915)
・自由なるルーシへの賛歌 Hymn (1917)
・ミサ・エキュメニカ Missa oecumenica, op.142 (1933-1936)
・祝典ミサ曲 Missa festiva, op.154 (1937)
・地には平和を Et in terra pax, op.166 (1942)
・勝利に向かって Vers la victoire (1943)
・(邦訳不詳) Nïne otpushchayeshï, op.34 (-) {choir}
・ストラシャーナ・セドミッツァ Strastnaya sedmitsa, op.58 (-)
・晩祷 Vespers liturgy, op.59 (-) {choir}
・オラトリオ【ロシアの典礼】 Liturgia domestica, op.79 (-)
・ケルビム風の讃歌 Cherubic hymn in D major, op.29 (-) {choir}
・ヌンク・ディミテイス Nunc dimittis (-) {choir}


グレチャニノフを聴く


★★★★
"Liturgy of St. John Chrysostom No.4" (Olympia : OCD 480)
Ludmila Arshavskaya (dir) Priest Father : Alexei Godunov ; Alexsander Korotsky : Cantus Sacred Music Ensemble
作者はひところ流行ったグレゴリオ聖歌のロシア版(単旋律)と,近代的な和声とを合体させようとしたロシア宗教音楽の大家。旧ソ連の社会では,西欧的な価値観の上での上位者(神・王様・資産家など)は全て「貧しき大衆を搾取する者」として批判されるので,当然ながらそうした職業に従事していた人は須く粛正の対象になりました。ただでさえ同時代の作曲家の殆どが目もくれなかった伝統的なロシアの教会音楽は,共産主義政権下で,継承者である司祭さんや神父さんを皆殺しにされ,もしグレチャニノフのように奇特な人がその知識を持って亡命していなかったら,廃れてしまったかも知れません。この作品は亡命後アメリカで書かれたもの。威厳たっぷりな2人の神父が単旋律でまずお説教。合唱団が,近代的な和声で肉付けされた旋律により,受けの手を入れる。何しろ元ネタが中世音楽なので,印象派だのロマン派だのというカテゴリーで語ること自体もはや無意味。それよりはグレゴリオ聖歌に欠けていた綺麗な和声がくっついて,ぐっと聴きやすくなった,純正の教会音楽(現代風に変形されていない,本来の教会音楽)だと言った方がいいでしょう。これをラッターやフォーレらの書いた,極めて曲らしい形をとる近代の宗教作品と並べて聴けば,クラシック音楽の辿ってきた発展の道がどのようなものなのか,どんな素人にだって一目瞭然。一枚は持っていても損がないでしょう。あらゆる音楽が,とても良く「見える」ようになります。

(2006. 12. 16)