Gの作曲家



チャールズ・グリフェス Charles Griffes (1884-1920)

アメリカの作曲家。ミドルネームはトムリンソン(Tomlinson)。1884年9月17日,ニューヨーク州エルミラ(Elmira)生まれ。幼少期から姉のキャサリーヌ(Katharine)にピアノを習い,1899年からエレミア・カレッジの講師マリー・ブルートン(Mary Selena Broughton)へピアノを師事。やがてピアニストを目指すようになったグリフェスは,1903年8月に,彼女の援助を得てベルリンへ渡り,スターン音楽院へ入学して,ピアノをエルンスト・イェドリツカ(Ernst Jedliczka)とゴッドフリート・ガルストン(Gottfried Galston)に,作曲法をフィリップ・ルーファー(Philippe Rufer),対位法をマックス・ローウェンガルト(Max Loewengard)とウィルヘルム・クラット(Wilhelm Klatte)に師事した。当初,留学の目的はピアニストになることであったが,その後徐々に作曲への関心を深め,1905年9月,ブルートンの制止を振り切ってルーファーの作曲法科を中退。翌10月から1906年の4月に掛け,12度にわたってフンパーディンクから作曲法を私的に師事。帰国する1907年6月まで,ガルストンからピアノを学びながら,6人の弟子に和声法とピアノを教え,2手ピアノの伴奏者として生活を立てる日々を過ごした。帰米後,1907年9月にはニューヨーク州タリータウンのハックリー校(Hackley School)の校長へ就任。その後は亡くなるまでその地位を務めた。なお,彼が肺炎で夭折していることから,極貧のうちに世を去った不幸な作家であったとみなす記述は専門書にも数多い。しかし,姉宛ての書簡で,自らを「(芸術のために)屋根裏で飢えに耐えることを潔しとするような人間ではない」と評していた通り,これは判官贔屓の心情が生んだ全くの誤解。実際は周囲の人々と暖かく交流し,平穏に人生を送っていたことを,ここで記しておく必要があろう(遺作『世界の挨拶』)は,地元の遊技場で行われる祝祭のために書いたもの)。作風は初期のものはドイツ・ロマン派の影響が濃く,後年(1911年以降)はその影響を離れ,特に和声面でフランス近代音楽の顕著な影響を示した。1920年4月8日死去。


主要作品

ぐっへ〜ドイツ語だよ・・(-_-;) 翻訳はまた後日。

舞台作品 ・舞踏劇【コルドヴェンの園】 the kairn of Koridwen (1916) {fl, 2cl, 2hrn, hp, cel, p /p} ...2幕,E. Schuréが1892年に書いた'Les Grandes Legendes de Franceが元。
・少女 sho-jo (1917/1919) {fl, ob, cl, hrp, chinese-ds, tam, timp, 4strings} ...1幕,伊藤道郎が踊るバレエ・リュスの委託作。
・さくらさくら sakura-sakura (1917) {fl, cl, hrp, 2vln, vc, b} ...
童謡「さくらさくら」の編曲作品。
・白孔雀 the white peacock (1915/1917/1919) {p /orch} ...
ピアノ版が原典。次いで管弦楽,バレエ版。
・祝祭劇【世界の挨拶】 salut au monde (1919) {fl, cl, 2hrn, tp, 2tb, timp, ds, 2hrp, p} ...
3幕,W. Whiteman台本。
管弦楽曲 ・序曲 overture (1905)
・幻想交響曲 symphonische phantasie (1907/1910) {orch /2p}
・クブラ・カーンの楽園 the pleasure-dome of Kubla Khan, op.8 (1912/1917) {p /orch}
・ノットゥルノ notturno für orchester (1918) {p /strings}
・舟歌 bacchanale (1913/1919) {p /orch}
・雲 clouds (1916/1919) {p /orch}
・ノクチュルヌ nocturne (1917-1918/1919) {p /orch}
協奏曲 ・詩曲 poem (1918) {fl, orch}
室内楽曲 ・コラール chorale on 'Allein Gott in der Hoh' sei Ehr' (1910) {org}
・3つの音画 three tone-pictures (1910-1912/1915) {p /winds?, hrp /p, fl, cl, bssn, ob, hrn, 5strings}
 1) 夕べの湖 the lake at evening
 2) 夢のヴェール the vale of dreams,
 3) 夜の風 the night winds

・子守歌,野毛の山(ノーエ節) komori uta, noge no yama (1917) {fl, ob, cl, hp, 2 vn, vc, db, chinese-ds}
・2つの素描 two sketches based on Indian themes (1918-1919) {2vln, vla, vc}
 1) レント・エ・メスト lento e mesto
 2) アレグロ・ジョコーソ allegro giocoso

ピアノ曲 ・6つの変奏曲 six variations, op.2 (1898)
・マズルカ mazurka (1898-1900)
・4つの前奏曲 four preludes, op.'40' (1899-1900)
・ピアノ・ソナタ ヘ調 sonata in F (1904)
・ピアノ・ソナタ 変二調 sonata in Db (1910) ...
単楽章
・幻想交響曲 symphonie phantasie (1910) {2p} ...
1907年の管弦楽曲を編曲。
・3つの音画 three tone-pictures, op.5 (1910-1912/1915) ...{p /chamber} ...
室内楽の項目を参照
 1) 夕べの湖 the lake at evening
 2) 夢のヴェール the vale of dreams,
 3) 夜の風 the night winds

・ピアノ・ソナタ 変ニ調 sonata in Db (1911) ...2楽章,1910年のソナタとは異曲。
・クブラ・カーンの楽園 the pleasure dome of Kubla Khan (1912) ...
1915年に管弦楽配置,上記。
・ピアノ・ソナタ 嬰ヘ調 sonata in F# (1912)
・冬の情景 winter landscape (1912)
・幻想的な小品 fantasy pieces, op.6 (1912/1915/1913) ...
1919年に「スケルツォ」を「バッカナール」へ改作。
 1) 舟歌 barcarolle
 2) 夜想曲 notturno
 3) スケルツォ scherzo

・狂詩曲 rhapsody (1914)
・小品 変ニ調 piece in Bb (1915)
・プロファンディス de profundis (1915)
・伝説 legend (1915)
・小品 piece (1915)
・ローマの素描 Roman sketches, op.7 (1915-1916/1919) ...1919年に 1),4) を管弦楽配置,上記。
 1) 白孔雀 the white peacock
 2) 夜のとばり nightfall
 3) the fountain of the Acqua Paola
 4) 雲 clouds

・ホ調の小品 piece in E (1916)
・舞曲 dance (1916)
・ピアノ・ソナタ sonata (1917-1918) ...
第2楽章を「夜想曲」として1919年に管弦楽配置。
・子どもたちのための小品集 children's pieces (1918-1919) ...
独立した小品集。出版に際してArthur Tomlinsonの変名を用いる。
 1) 6つの短い小品 six short pieces
 2) 6つの愛国的な歌 six patriotic songs
 3) 6つの集合の合図 six bugle-call pieces
 4) 6つの親しみやすい歌 six familiar songs
 5) ト音記号のための6つの小品 six pieces for treble clef

・ノットゥルノ notturno (1918) ...
「管弦楽のためのノットゥルノ」を編曲。
・3つの前奏曲 three preludes (1919)
歌曲集 ・音像 tone-images, op.3 (1912-1914)
 1) la fuite de la lune (1912) ...O. Wilde詩
 2) 黄色の調和 symphony in yellow ...
O.Wilde詩
 3) we'll to the woods, and gather May ...
W.E. Henley詩
・2つのロンデル two rondels, op.4 (1914)
 1) this book of hours ...W. Crane詩
 2) come, love, across the sunlit land ...
C. Scollard詩
・4つの心象 four impressions (1912/1914/1915-1916) ...
O. Wilde詩
 1) 庭 le jardin
 2) 朝の印象 impression du matin
 3) 海 la mer
 4) 新たな状況 new setting
 5) le reveillon

・3つの詩 three poems, op.9 (1916)
 1) in a myrtle shade ...W. Blake詩
 2) ワイキキ Waikiki ...
R. Brooke詩
 3) 幻影 phantoms ...
A. Giovannitti詩
・古代中国と日本の5つの詩 five poems of ancient China and Japan, op.10 (1916-1917)
 1) so-fei Gathering Flowers ...Wang Chang-Ling詩
 2) 風景 landscape ...
Sada-ihe詩(藤原定家のこと?)
 3) 山麓の寺 the old temple among the mountains ...
Chang Wen-Chang詩
 4) 涙 tears ...
Wang Seng-Ju詩
 5) a feast of lanterns ...
Yuan Mei詩
・メーズフィルドの2つの詩 two poems (1917-1918) ...
J. Masefield詩
 1) いにしえの歌 an old song Re-Sung
 2) ミダスの悲嘆 sorrow of Mydath

・フィオナ・マクレオードの3つの詩 three poems of Fiona MacLeod, op.11 (1918)
 1) 悲曲 the lament of Ian the Proud
 2) 我が黒き瞳 thy dark eyes to mine
 3) 夜の薔薇 the rose of the night
歌曲 ・ si mes vers avaient des ailes (1901) ...V. Hugo詩
・ sur ma lyre l'autre fois (1901) ...
C.A. Sainte-Beuve詩
・ auf dem teich, dem regungslosen (1903-1909) ...
N. Lenau詩
・ auf geheimen waldespfade (1903-1909) ...
Lenau詩
・ nacht liegt auf den fremden Wegen (1903-1909) ...
H. Heine詩
・ der traumende See (1903-1909) ...
J. Mosen詩
・ wohl lag ich einst in Gram und Schmerz (1903-1909) ...
E. Geibel詩
・ zwei Konige sassen auf Orkadal (-1910) ...
Geibel詩
・ am kreuzweg wird begraben (1903-1911) ...
Heine詩
・ an den wind (1903-1911) ...
Lenau詩
・ auf ihrem grab (1903-1911) ...
Heine詩
・ das ist ein Brausen und Heulen (1903-1911) ...
Heine詩
・ das sterbende kind (1903-1911) ...
E. Geibel詩
・ des muden abendlied (1903-1911) ...
Geibel詩
・ Elfe (1903-1911) ...
J. von Eichendorff詩
・ entflieh mit mir (1903-1911) ...
Heine詩
・ es fiel ein Reif (1903-1911) ...Heine詩
・ Fruhe (1903-1911) ...
Eichendorff詩
・ gedicht von Heine (1903-1911) ...
Mit schwarzen Segeln詩
・ ich weiss nicht, wie's geschieht (1903-1911) ...Geibel詩
・ konnt' ich mit dir dort oben gehn (1903-1911) ...
Mosen詩
・ meeres Stille (1903-1911) ...
J.W. von Goethe詩
・ mein Hetz ist wie die dunkle Nacht (1903-1911) ...Geibel詩
・ mir war, als musst' ich graben (1903-1911) ...
Das Grab, F. Hebbel詩
・ so halt' ich endlich dich umfangen (1903-1911) ...Geibel詩
・冬の夜 winternacht (1903-1911) ...
Lenau詩
・ wo bin ich, mich rings umdunkelt (1903-1911) ...Heine詩
・水仙 the water-lily (1911) ...
J.B. Tabb詩
・半月 the half-ring moon (1912) ...
Tabb詩
・夜曲 nachtlied (1912) ...Geibel詩
・道化師 pierrot (1912) ...
S. Teasdale詩
・風船 les ballons (1912/1915) ...
Wilde詩
・エジプトの蛇クレオパトラ Cleopatra to the asp (1912) ...
Tabb詩
・夕べの歌 evening Song (1912) ...
S. Lanier詩
・初めての雪模様 the First Snowfall (1912) ...
Tabb詩
・幻影 phantoms (1912) ...
Tabb詩
・海賊の戦の歌 the war-song of the Vikings (1914) ...
F. MacLeod詩
・日没の輝きへ溶け込む二羽の鳥 two birds flew into the sunset glow (1914) ...
ローマの民謡
・短刀の歌 song of the dagger (1916) ...ローマの民謡
・貧民窟にて in the Harem (1917) ...
Chu Ch'ing-yu詩
・(邦訳不詳) Hampelas, Kinanti, Djakoan (1917) ...日本の民謡
合唱曲 ・受難曲 passionlied: O Haupt voll Blut (1906) {2sop, alto, tnr, b} ...P. Gerhardt詩
・ lobe den herren (1906) {sop, alto, tnr, b} ...
J. Neander詩
・ dies ist der tag (1906) {sop, alto, tnr, b} ...
I. Watts詩
・ these things shall be (1916) {unison-choir} ...
J.A. Symonds詩
典拠 Anderson, D.K. 1993. Charles T. Griffes. Smithsonian Institution Press.
Anderson, D.K. 2004. Charles Griffes. In Sadie ed. New Grove online. Oxford. Univ. Press.


グリフェスを聴く


★★★★☆
Charles Griffes "The White Peacock / Three Poems / Bacchanale / Clouds / Three Tone Pictures / Poem / The Pleasure Dome" (Naxos : 8.559164)
JoAnn Falletta (cond) Barbara Quintiliani (sop) Carol Wincenc (fl) Buffalo Philharmonic Orchestra
僅か35才で亡くなってしまったアメリカの作家グリフェス。近代フランスにどっぷり被れた作家とは聞いていましたけれど・・いや〜,確かに呆れるほどどっぷりフレンチだこれは(笑)。帯の釣書では,ドビュッシーとラヴェルの影響を指摘していますが,影響は圧倒的に前者でしょう。『イベリア』の拍動が頻出する『舟歌』,『夜想曲』の波や雲のモチーフと,『牧神』冒頭部のフルートによる半音階主題が両方登場してくる『白孔雀』を聴けば,ドビュッシー好きは「パクリ野郎!」と激怒するか「好きだったのね・・」と頬が緩むかのどちらかに違いありません。くだんの孔雀は確かにドビュッシアンもろ出しなんですけど,それ以外の曲はもう少し前の後期ロマン派爛熟期の筆致。イギリスで言えばバントックとホルスト,フランスで言えばデュパルクやショーソンの管弦楽付帯歌曲に酷似した,穏健かつ甘美な作風。こんな作家がアメリカにいたのかと感心しました。例によって聞いたことないオケを引っ張り出すナクソスが今回駆り出したのは,ナイアガラの滝だけで食っているのではないかと思わせるニューヨーク州はバッファローの管弦楽団。笑いのネタにしようと耳を傾けてみましたら,聴いてびっくり玉手箱。演奏は意外にも相当の高レベル。曲がゆったりとしていて,難しくないというのもあるでしょうし,ナクソスとは思えぬほど良く準備された録音が,クリヴィヌのデノン盤効果を挙げているのも事実。実際,『詩曲』のフルートはボロが出てかなりきっびすぃ〜っ(悩)。しかし,地方のいちオケから,指先にまで神経の行き届いた一流バレリーナの踊りを引き出そうとする,指揮者の丁寧な推敲の跡が,フレーズの掉尾や,官能的な弦部のしなから色濃く感じられるのもまた確かです。細かい技術の至らなさを,皆の至誠で見事に穴埋めした,大変良心的なディスク。この楽団でなら『牧神』も聴いてみたいですねえ。結構頑張るんじゃないでしょうか。少なくともあのブリュッセル放送よりは・・(以下伏字)。

★★★★
"Four German Songs / Four Impressions / Song of the Dagger / Three Poems of Fiona Macleod / Three Tone-Pictures" (New World : NW 273-2)
Seiji Ozawa (cond) Phyllis Bryn-Julson (sop) Sherrill Milnes (btn) Olivia Stapp (msp) Diane Richardson, Jon Spong (p) The Boston Symphony Orchestra : New World Chamber Ensemble
本盤は米国音源アンソロジーなる団体が,ロックフェラー財団と連邦芸術財団の助成を受け1976年に制作したもので,おそらくグリフェスの作品集としては最も早い時期に制作されたものじゃないかと思います。新世界レコードは以前,レフラーの管弦楽作品集も出してましたが,グリフェスも録音しているとなると,音源の形でアメリカ近代音楽研究の基礎資料を整備しようという,やや高邁で学究的な目的を持った会社なのかも知れません。学究肌の色合いは収録曲にも。ドイツに渡ってまずワグネリズムに浸かり,その後次第に仏近代の影響を受け語法を変化させた彼の作風が効率よくまとめられている。さらには解説も,グリフェス研究の第一人者ドナ・アンダーソンさんに依頼する徹底ぶり。隅々まで手抜かりがないのはさすがといえましょう。となれば,問題は演奏のみ。正直に申し上げて,良くも悪くも技量は四半世紀前の水準でしょうか。『クブラ=カーン』と『マクレオードの3つの詩』に聴ける小澤〜ボストン響の演奏は,彼らの残したデュティーユ録音と同様,参照枠に徹したかの如く淡泊で素っ気ない。やや牧歌的な(悪く言えば垢抜けない)演奏技量は好みが分かれるでしょう。『3つの音画』で登場する謎アンサンブルも各人の力量はバラバラで,特に弦部のピッチは不安定です。反面,『マクレオード』でソロを取るブリン=ジュルソン女史は,競合するナクソス盤より明らかに数段,力量が上。他にお見かけしない初期の(シューベルトもどきな)歌曲が,それぞれ達者なソロ歌手で聴けるのも本盤ならでは。「作曲家グリフェス」の相貌を,手早く俯瞰する目的でなら,音楽研究者の編纂らしく目配りが心憎い本盤に軍配。いっぽう,仏かぶれな彼の醍醐味を,より音楽的な演奏で愉しむことを望むなら,おそらく本盤よりもナクソス盤のほうが遙かにお買い得。要は聴き手がこの一枚に望むものの違いで買い分けるべきCDといえましょう。

★★★★
"Sonata / Three Tone-Pictures / De Profundis / Roman Sketches / A WInter landscape / Rhapsody / Barcarolle / Legend / Prelude" (Naxos : 8.559023)
Michael Lewin (piano)
これまで,管弦楽が少々紹介されたくらいで,あまりまとまった録音を見ることのないグリフェス氏。本盤はそんな彼のピアノ曲を全集にしてくれた,素敵な録音の第一巻です。グリフェスといえば,アメリカのドビュッシストの印象が強く,実際彼の管弦楽を聴いたときは「おおっ,これって映像のモチーフぢゃん」などと興奮したものでしたけれど,ピアノ曲を聴くと随分そのイメージとは違っていてびっくり。特に後年の作品群は,トレモロや装飾音が不自然に厚塗りされ,リズムは奇妙に硬直化し,主旋律と和声の分離が著しい。ピアノを念頭に置いたというよりは,最初から管弦楽版を作ることを頭に置いていたかのような響きです。正直申し上げて,壮麗に音を並べている割には充分な効果が得られていず,あまり器用な筆遣いとは思えません。大半がのちに管弦楽配置されたことを見ても,彼自身半ば意図的だったのでは。これを聴いて納得したのは,彼が作曲家としての基礎を学んだのはドイツであったという事実。いかに印象派が大好きでも,曲作りのノウハウはドイツ流。気持ちとは裏腹に,どうしても曲の輪郭を具象的に描いてしまう。ここに彼の哀しきアンビバレンスがありますねえ。ソリストのマイケル・レヴィンはニューヨーク出身。ジュリアードを出たボストン音楽院ピアノ科の教員で,1983年のカペル国際,1983年のベートーヴェン国際,1986年のリスト国際で入賞したそうな。タッチは硬めで,あまり綺麗な音ではありませんけれど,技術的には達者。両手をフルに使ってガンガンやってるときに少しミスタッチが目立つくらいで,安心して聴けます。

★★★★
"The Preasure-dome of Kubla-Khan / Three Preludes / Piece in E Major / Dance in A Minor / Three Fantasy Pieces / Piece in D Minor / Piece in B Flat Major / Humperdinck: Hansel and Gretel Overture / Symphonische Phantasie" (Naxos : 8.559046)
Michael Lewin, Janice Weber (piano)
ボストン音楽院のピアノ科で学科長をなさっているマイケル・レヴィンさんの独奏によるグリフェスのピアノ曲集。こちらはその第二集で,たぶんグリフェスの曲としては最も有名な『クブラ・カーンの楽園』と,数点の初期作品が収録されています。くだんの有名曲のつらつらしたグリサンドをピアノでどう書いているのかと思っていましたら,やっぱり壮麗な装飾音で具象的かつリスティアン的に再現前していましたよ(苦笑)。彼の曲作りのノウハウは,基本的にドイツ流儀。和声や主旋律に,一生懸命全音階を織り交ぜてドビュッシーへの思慕を明らかにするいっぽう,やっぱり骨格の部分は具象から抜けきれないもどかしさが漂います。そうした彼のスキゾフレニーぶりを良く表しているのが,掉尾に収録された二台ピアノのための『交響的幻想曲』でしょう。唯一,標題がドイツ語で記されたこの作品は,まだフランスの最先端の音を知らず,苦悩の渦へと落ち込む前のグリフェスが,本来学びとろうとしていた穏健・壮麗なドイツ・ロマン派書法が聴ける。皮肉にもこの作品が,最も旧式で,もっともしっくりとピアノ曲らしい相貌を保っている事実。ここに晩学の作曲家グリフェスのジレンマがあったと見るのは,間違っておりますでしょうかねえ。というわけで,どちらか一枚をと仰る向きには,こちらの第二集のほうをお薦め申し上げます。

(2005. 09. 09)