Hの作曲家



グスタフ・ホルスト Gustav Holst (1874-1934)

イギリスの作曲家,教育者(ギュスターヴ・ホルストと表記される場合もある)。1874年9月21日,チェルテンナム(Cheltenham)に生まれる。父アドルフはピアニストだったが家庭を顧みず,8才で母を亡くした彼は,父方の姉に育てられた。ピアニストだった父アドルフの影響でヴァイオリンとピアノを学ぶ。父の希望ではじめピアニストを目指したが,生来病弱であった彼は神経障害のためこれを断念。作曲を志し王立音楽学校の奨学金を受験するも果たせず(進学後に獲得),いったんウィック・リッシントン(Wick Rissington)で合唱団長およびオルガニストとなる。1893年に父の援助で一般受験により王立音楽学校へ進学。トロンボーンを学ぶとともにチャールズ・スタンフォードに作曲法を師事。この間在学中の1985年にヴォーン=ウィリアムスと知遇を得,その友情は生涯続いた。1898年に,トロンボーン奏者としてカール・ロサ劇場に就職した頃からヒンズー教義やサンスクリット文学に傾倒。当初は作品が売れず不遇であったが,次第に認められ,ダルウィッチのジェームス・アレン校の音楽教師,次いで1905年にはハマースミスのセント・ポール校音楽科の学科長に就任。さらに第一次大戦後の1919年にはリーディング大学および王立音楽学校でも教鞭を執るようになり,1920年代には高い人気を得た。1923年にリーディング大学で指揮壇から転落して頭部を強打し,その後その怪我がもとで神経障害が悪化。サクステッド(Thaxted)に隠棲し,セントポール校以外の教職はほとんどを辞任。1926年にリバプール及びグラスゴー大学で教鞭を執る傍ら,イタリアやアメリカを歴訪するなど各地を歴訪しつつ作曲活動を続けたが,後年の作品はあまり評価されなかった。1934年5月25日,前々日に受けた手術がもとで死去。1970年代にカラヤンが『惑星』を録音したのがきっかけで,再評価されるようになった。作風は後期ロマン派の流れに属するが,大半を独習に近い形で修得したため,東洋趣味の題材をとるなど独創性も兼ね備えている。(関連ページ:グスタフ・ホルスト Kenrik Taylor氏運営)


主要作品
※Mitchell J.C. 2001. A comprehensive biography of composer Gustav Holst with correspondence
and diary excerpts
. The Edwin Mellen Press.を入手しました。時間ができましたら作品表を全面改訂いたします。

舞台作品 ・撤回 the revoke (1895)
・シータ sita (1899-1906)
・若者の選択 the youth's choice (1902)
・サーヴィトリ Savitri (1908)
・どこまでも馬鹿な男 the perfect fool (1918-1922)
・猪の頭 at the boar's head (1924)
・黄金の鴨 the golden goose (1926) {choir}
・新年の朝 the morning of the year (1926) {choir}
・彷徨える学者 the wandering scholar (1929-1930)
管弦楽曲 ・ウォルト・ホィットマン序曲 Walt Whitman overture (1899)
・舞踏組曲 suite de ballet (1899)
・コズワルド交響曲 Cotswold symphony (1900)
・インドラ indra (1903)
・2つの無言歌 two songs without words (1906) {chamber-orch}
・西方の歌 songs of the west (1906)
・サマセット・ラプソディ a somerset rhapsody (1906/1907)
・ダム・クリスチャンの展望 the vision of Dame Christian (1909)
・ stepny children's pageant (1909)
・東洋組曲 beni mora (1909-1910)
・セント・ポール組曲 St.Paul suite (1913) {strings}
・惑星 the planets (1914-1916)
・日本組曲 Japanese suite (1915)
・フーガ風の序曲 a fugal overture (1922)
・エグドン・ヒース Egdon Heath - hommage to Thomas Hardy (1927)
・ジャズ・バンドの小品 jazz-band piece (1932)
・スケルツォ scherzo (1933-1934)
協奏曲 ・幻想的な小品 fantasiestucke (1896) {ob, strings}
・夜の歌 a song of the night (1905) {vln, orch}
・祈り invocation (1911) {vc, orch}
・フーガ風協奏曲 a fugal concerto (1923) {fl, ob, orch}
・2台のヴァイオリンのための協奏曲 double concerto (1929) {2vln, orch}
・叙情的な断章 lyric movement (1934) {vla, chamber-orch}
吹奏楽 ・第一組曲 first suite in E flat (1909)
・第二組曲 second suite in F (1911)
・ムーアサイド組曲 a Moorside suite (1928)
・鍛冶屋 hammersmith (1930) {winds /orch}
室内楽 ・五重奏曲 quintet (1896) {p, winds}
・吹奏五重奏曲 wind quintet (1903) {fl, ob, cl, bssn, hrn}
・三重奏曲 terzetto (1924) {fl, ob, vla}
ピアノ曲 ・ニューバーンの若者 toccata 'Newburn lads' (1924)
・クリスマスの朝 Christmas day in the morning (1926)
・二つのノーザンプトン民謡 two Northumbrian folk tunes (1927)
・夜想曲 nocturne (1930)
・ジーグ jig (1932)
合唱曲 ・短い歌曲 short partsongs (1896) {f-choir}
・クリア・アンド・クール clear and cool (1897) {choir, orch}
・5部の歌曲 five partsongs (1897-1900) {choir}
・アヴェ・マリア ave Maria (1900) {f-choir}
・5部の歌曲 five part songs (1902-1903) {choir}
・王エストメア king Estmere (1903) {choir, orch}
・「王女」の歌 songs from 'the princess' (1905) {f-choir}
・4つの英国風カロル four English carols (1907) {choir}
・「リグ・ヴェーダ」より合唱讃歌 choral hymns from the Rig Veda (1908-1912) {choir, accordion}
・雲の御使い the cloud messenger (1910-1912) {choir, orch}
・悲曲 Hecuba's lament (1911) {alto, f-choir, orch}
・ディオニソス讃歌 hymn to Dionysus (1913) {f-choir, orch}
・ this have I done for my true love (1916) {choir}
・ lullay my liking (1916) {choir}
・ of one that is so fair and bright (1916) {choir}
・ bring us in good ale (1916) {choir}
・3つの祝祭合唱曲 three festival choruses (1916) {choir, orch}
・6つの合唱民謡集 six choral folksongs (1916) {choir, orch}
・イエスを讃えて the hymn of Jesus (1917) {choir, orch}
・死への頌歌 ode to death (1919) {choir, orch}
・合唱交響曲第1番 first choral symphony (1923-1924) {choir, orch}
・2つのモテット two motets (1924-1925) {choir}
・7部の歌 seven partsongs (1925-1926) {f-choir, orch}
・幻想合唱曲 a choral fantasia (1930) {sop, choir, org, orch}
・6つの合唱曲 six choruses (1931-1932) {choir, orch}
・8つのカノン 8 canons (1932) {choir}
歌曲 ・オーヌルフのドラマ ornulf's drama (1898) {btn, orch}
・6つの歌 six songs (1903) {btn, p}
・6つの歌 six songs (1903-1904) {sop, p}
・神秘のらっぱ吹き the mystic trumpeter (1904) {sop, orch}
・「リグ・ヴェーダ」より9つの讃歌 nine hymns from the Rig Veda (1907) {vo, p}
・4つの歌 four songs (1916-1917) {vo, vln}
・12の歌 twelve songs (1929) {sop, p}


ホルストを聴く


★★★★★
"The Planets (Holst) Pomp and Circumstance, Military Marches (Elgar)" (Decca-Universal : UCCD-5043)
Charles Dutoit, Sir Georg Solti (cond) Orchestre Symphonique de Montréal : London Philharmonic Orchestra
1987年に録音されたデュトワの『惑星』に,かなり不釣り合いなエルガーの『威風堂々』をカップリングした本盤は,デッカ安売り再発盤(と言っても1800円。高ぇのぉ)。もはや多言を要しない中身は,1977年に始まって2002年まで続いた,デュトワ〜モントリオール響間の長い蜜月関係においても,屈指の名録音。エジソン賞,アカデミー・ディスク大賞を獲りまくったセンセーションは些かも伊達じゃござんせん。相変わらずテンポを大きく落とす緩楽章の「金星」や「土星」,「海王星」はいかにもデュトワ。少し表現過多かな〜とお感じになる方もおられるでしょうけれど,この盤に限っては,落ちた分を埋めるだけのソノリティの豊かさは充分にあります。デュトワもさることながら,やはりこの盤最大の美点は,従来の銘盤とは比較にならないほど解像度の高い集音,そして,高品位録音にあってもムラを感じさせない,抜群にきめ細やかなモントリオール響の演奏技量でしょう。弦だけでなく金管のすみずみに至るまで実に清明。水彩画のように濁りなく,ハイビジョンの如く色彩感豊かで,なおかつ緻密に鳴っている。甘い囁きについ目を潤ませ,ナンパ男にしなだれてしまう女性の気持ちが分からんでもない,心の底からとろけそうな美音。ほとんど奇蹟です。解釈云々を度外視し,演奏と録音そのものの出来だけを問題にするなら,これを凌ぐ演奏を録るのは,もう不可能なんじゃないでしょうか。・・と,あれこれ誉めるいっぽう,エルガーについては何も書かずにごめんなさい。こちらも大変いい演奏と思います。でもね,この緻密極まりないホルストを前にしたら,おねショルティなんかオマケ!いやホント。

★★★★☆
"The Planets" (CBS : 30DC 732)
Lorin Maazel (cond) Orchestre National de France
あまりに有名なホルストの代表作「惑星」は,カラヤンがとりあげて一躍メジャーの仲間入りをしました。しかし,それだけが再評価のゆえんではないでしょう。録音技術が発達し,楽団の専門化が進んで精緻な和音を綺麗に録音できるようになったことと,近現代の管弦楽書法を盛り込んだこの作品が再評価されたこともまた,深く関わりがあります。いわばこの曲は,ステレオ世代の申し子のような作品でもあるわけです。そのため一般に,初演者でもあったボールトの複数の録音,再評価のきっかけを作ったカラヤンの旧盤に続いて,オケの力量が群を抜くデュトワ盤ばかりに脚光が当たるのは致し方ないことなのかも。その一方,マゼールがパリ管を率いて臨んだ本録音は,時代も新しくはありませんし,カラヤンやボールトのような作品とのつながりも薄い。結果,旧盤と新盤の谷間に落ち込んだ形になってしまいました。しかし,本盤ほど作品の意匠を巧みに捉え,独善的な解釈で飾りたてることなく,中庸に表現しきった録音もないのでは。本曲を沢山聴いているファンには面白く感じられないかも知れない。しかし,それは聴き手が,何枚も別演を聴くうち,頭の中に「曲の鋳型」を作りだし,それを裏切ってくれる「面白み」を無意識のうちに求めているからに他なりません。あくまで曲想に忠実に,この曲のもつ美意識を「面白み」の名のもとに濁すことなく描ききっているところこそ,彼の真骨頂。特に緩楽章における豊かで中庸を得た表現力は他盤の追随を許さぬもの。我々が聴くのはホルストの惑星であって,カラヤン編の惑星ではない・・と考えるとき,さながら太陽の陰に隠れて静かに光る月のように,マゼールの仕事の確かさは美点となって光るのです。

★★★★☆
"The Planets (Holst) Fantasia on Greensleeves (Vaughan-Williams)" (EMI : SAN-15)
Adrian Boult (cond) New Philharmonia orchestra
バブルも弾けて庶民貧乏。そこへナクソスから押し寄せた価格破壊の大波。お高くとまったクラシック円盤製造業界も,もはや廉価盤を出さないことには,どうにも立ちゆかなくなりました。本盤もまた,この価格破壊のおかげでお安く買えるようになった,『惑星』における古典的銘演のひとつ。指揮棒を執るエイドリアン・ボールトは,ブリスやヴォーン=ウィリアムスとも親しかった,前世紀前半イギリス楽壇を代表する重鎮です。彼らと親しいということは,当時代人に擁護的だったということでもあり,実際『惑星』は5回も録音するほどお気に入りでした。で,その十八番が中古で僅か350円とは余りにヒドイということで購入しました(苦笑)。この『惑星』は1966年の録音。何しろ半世紀近く前の代物です。オケの性能最高峰なデュトワ盤の優美でとろけるような鳴動は望むべくもありませんし,細かい構成員の統率力(アーティキュレーション)はその他現代オケと比べ若干分が悪いところもあります。そういう細かいところを気になさる向きにはお薦めできませんでしょう。本盤の魅力は,指揮者の透徹した解釈力と,生き生き躍動感あるオケの,チームとしての推進力。ボールトは全般にやや速めのテンポを取りながら,曲解を感じさせぬ理路整然とした譜読みで骨格を下支え。それでいて木こりのような味わいで細部を彩り,適度な面白さはしっかり確保する。「面白み」と「普遍性」という二律背反する要素を,実に巧くバランスしているのではないでしょうか。この出来映えで新譜でも1000円とはお値打ちです(日●直販の売り文句風:笑)。

★★★★
"The Warriors (Grainger) The Planets (Holst)" (Deutsche Grammophon : 445 860-2)
John Eliot Gardiner (cond) The Philharmonia Orchetsra : Women's Voices of the Monteverdi Choir
手手兵モンテヴェルディ合唱団を率い,古楽の分野では名の知れたガーディナーは,最近近現代も精力的に録音。バッハ以降が守備範囲の日本でも幅広い知名度を獲得。1994年録音の本盤では,たった一曲合唱が入るからっちゅうだけで『惑星』にまで取り組みました。ブーランジェを録音した見識の高さは素晴らしいと思う反面,肝心の中身はいかにもちぐはぐで,正直申し上げてほとんど期待していなかった彼のホルスト。盤装が金ぴかなのと,グレインジャー中最もカッチョエエ『戦士たち』を併録する男気に意気を感じての購入でしたが,蓋を開けてみると意外にも内容は相当に良心的。些か艶めかしさに欠けるぶん,きびきびメリハリ良く振り,古楽研究者らしい舐めるように緻密な譜読みと,細部を疎かにしないリズムの描出力が,良い形で作品と和合している。冒頭の「金星」はわけても白眉で,一つ一つの波形が丁寧に整えられた律動と,的確なテンポ取りが素晴らしく,この1曲だけに限るなら,数多録音中でも先頭集団を行く出来かと思います。他の曲でも,微に入り細に入って音型を整えていく姿勢が,各々に確かな説得力を与えており,感心しました。それだけに少し残念なのは,ややオケにアラがちらつくことと,1曲を全体で巨視的に捉えたとき,おやおやと首を傾げてしまう点が散見されることでしょうか。「木星」の7分17秒は,既往の録音でも屈指のハイテンポかと思いますが,敢えてこのテンポ設定にすることで現れるはずの新たな美点を,聴き手に向かって充分主張できてはいませんし,途中リズムが妙なことになる「金星」も硬い。終曲「海王星」では意図的にか,合唱の入る後半と管弦楽序奏の前半とで,各拍節の細部の描出に雲泥の差が。正攻法でも充分,大関クラスの看板は張れたでしょうに。ちょっと勿体なかったですねえ。それでも,ここ10年の録音の中では屈指の出来映え。併録の『戦士たち』は,ラトル盤と肩を並べる快演です。

★★★
"The Planets" (EMI : HCD-1144)
Simon Rattle (cond) The Philharmonia : Ambrosian Singers
レコ芸の表紙を飾る回数も今やトップ・クラス。日本屈指のブランドへと成長したラトルが1980年に録音した『惑星』です。ラトルといえばバーミンガム市立響で名を上げた人。有名盤の多くもこの時代のもので,近代絡みでも,ラヴェル『シェヘラザード』やグレインジャー作品集を容易に挙げることができます。あまり有名とは言えなかったこのオケを一躍,世界的な楽団へ成長させた力量は特筆に値するでしょう。ところで,これと同じパターンをと問われてすぐ思い出すのがデュトワ。彼も同じく,名盤の大半がモントリオール響とのコンビで生まれている。その反面,仲良し楽団以外の名盤をと言われると,すぐ思いつく録音が意外と少ないことに気が付きます。確かにラトルはその後,世界の一流オケを振り,少なからぬ録音も残していますが,それらがバーミンガム時代ほど楽団の性能をフルに生かし,水を得ているかといわれると,疑問が残るのではないでしょうか。考えてみれば,指揮と演奏は車の両輪。仮にある指揮者の在任中に,そのオケが驚異的に伸びたなら,それは双方が相性的にマッチした結果であり,指揮者の能力でオケが伸びた・・との単純な公式では説明しきれますまい。小生は全天候型なラトルを云々できるほど知りませんけれど,本ホルストやウォルトン,ストラヴィンスキーに聴ける数少ない客演事例と,ラヴェルを振った彼を比べるにつけ,彼はどこのオケでも力量を引き出せる人というよりは,ホームタウンで馴染みの顔と,充分準備をして臨む方が力を出すタイプなんじゃないかなあ・・との感を拭えません。本ホルストも細部はまるで訓練されていず,解釈も杓子定規で粗っぽい。バーミンガム録音に横溢する周到な準備と閃きは殆ど感じられぬ,雑な仕上がりと言わざるを得ません。指揮者の場合は,どうも一カ所に留まっているより世界を飛び回って次々仕事をこなす方がエライみたいな風潮がありますけど,ロジェが伴奏でむしろ力を出すように,指揮者ごとの持ち味は違って然るべきですし,全天候型が偏向型よりエライなんて風潮は短絡的の一語。斯様な一般通念によって,肌に合わない録音を増やさねばならぬとしたら,それは買う側演る側双方にとって,不幸なのではないかと思えてなりませんでした。

★★★
"The Planets" (Grammophon-Polydor : POCG-50041)
James Levine (cond) Chicago Symphony Orchestra
グラモフォンに多くの録音を残しているジェームス・レヴァインは,1943年シンシナティ生まれの中堅指揮者。グラモフォンに伴奏者として吹き込みがあるほど,ピアノ奏者としても腕は確かで,一時はルドルフ・ゼルキンに師事していたそうです。1961年にジュリアード音楽院へ進み1964年に卒業後,ただちにジョージ・セルの助演指揮者としてクリーブランド管に迎えられ,注目を集めます。その後は1970年にシカゴ響を振って懇意となり,1975年に音楽監督へ就任することになったニューヨークのメトロポリタン・オペラと並んで,同響との付き合いはかれこれ四半世紀になります。この録音は1989年のもので,彼の多くの録音の中でも良く知られているもの。一部に高く評価する人間もいるということで,耳に入れてみました。一口に言えば,彼の描き出す惑星は極めてアメリカ的。明瞭な輪郭と,分かり易すぎるほどに一本調子なリズム処理,明るい色調の(悪く言えば頭の悪そうな)鳴動が支配する,極めて通俗的な演奏であると思います。良く言えば極めて間口が広く,この曲の相貌をざっと大づかみに見せてくれる,(彼の惑星に似ているというわけではないですが)カラヤン的な方法論で振られた演奏。速めのテンポ取りもそれを裏付けます。そのため分かり易く素人受けもするでしょうが,反面細部のニュアンスは扁平で,指揮者の目論見や意志を感じさせるような抑揚や含み,面白みは貧弱と言っても良いほどに乏しい。この曲の他盤を好んで聴いたことのある方のどなたにも,おそらく否定的に聴かれてしまうのではないでしょうか。

★★★★
"Hymn to Dionysus / Choral Hymns from the Rig Veda / Two Eastern Pictures" (Unicorn Kanchana : DKP(CD)9046)
David Willcocks (cond) Osian Ellis (hrp) Royal Philharmonic Orchestra : Royal Colledge of Music Chamber Choir
1985年に出た本盤は,『惑星』だけが有名なホルストが1910年代前半に書いた3編の合唱曲を併録。いずれも,彼がインドやサンスクリット文学に触発され,最も強くエキゾチズムに傾倒した時期の作品ということになります。そのせいでしょう。冒頭『ディオニソス讃歌』から,ただもうびっくり。装飾音をキラキラ挿入する鉄琴や,ウォーキング・ベースみたいなピチカート,「惑星で聴いたぞ」なモチーフが随所にちらつく呪術的和声進行。凡才の突然変異的な産物と思っていた『惑星』は,既にこれら合唱曲を母胎として,すくすく成長していたんだなあ・・と納得しました。それでいて曲想は,あくまで和声面に異国趣味を加えて近代化したポスト・ロマンティスト。全音階を含む各種旋法を頻繁に挿入しつつも,主旋律はあくまでワグネリスト基調。初期ドビュッシーのカンタータの如く,穏健に推移します。ロイヤル・フィルの演奏も共感に富み好ましく,ここまでは何一つ文句のない本盤。惜しむらくは合唱隊の出来がお粗末。アーティキュレーションはバラバラですし,声質も不揃い。天下の王立音大といえども,やっぱり学生は学生。何でまた合唱隊だけアマチュアにしちゃったのか。あれこれ考えを巡らすうちに,ハタと膝打つ解答がありました。指揮者のウィルコックスは本盤の出る前年,1984年まで同大で学長をしてました。この録音は退官記念制作なのでしょう。「・・プロなんだからさ〜,私情を挟むんじゃないよっ!買う人間のことも考えろちゅ〜ねん・・」。そういえば彼は以前,ハウエルズとフィンジの合唱曲も録音してました。あまりに曲が素晴らしかったのですっかり騙されましたが,その後無伴奏の『楽園讃歌』を聴いてびっくり。実は譜読みと演奏はチンケでした(苦笑)。

★★★☆
"Suite No.1 / Amoorside Suite / Suite No.2 / Hammarsmith, Prelude and Scherzo" (Reference : RR-39CD)
Howard Dunn (cond) Dallas Wind Symphony
イギリスの作曲家グスタフ・ホルストは『惑星』だけが有名。あの曲がかなり近代的な書法を駆使して書かれているため,ホルストはモダンな作曲家だという印象を受けますが,実際初期の彼の作風は(同時代イギリスの作曲家の大半がそうだったように)意外なほど穏健。アメリカではトップ・クラスらしいダラス吹奏交響楽団の演奏によるこのホルストの吹奏楽作品集では,まさにホルストのそんな顔が見える一枚と言えるでしょう。小中学校のブラスバンド御用達のスーザやスッペなどと本CD挿入曲の違いは,せいぜいリズムがマーチに限定されず,色々あることくらい。極めて明瞭な調性とリズム,メロディと穏健な和声で,ハイジでも踊り出しそうにのどかな風物詩を展開します。そんなノンシャランなこのCDの中で唯一,『惑星』を感じさせてくれるのが掉尾の一曲『ハマースミス』。低域と主旋律の二声が多調風に絡み合いながら反復されるだけの『前奏曲』と同じく多調風ながらポリリズミックな『スケルツォ』からなり,何やら抽象的で意味深な内容。前者では『土星』,後者では『天王星』を思わせる曲想がちらつきます。地味で内向的な傾向が強い作風。これじゃ確かに一般受けはしなかったでしょうねえ。演奏は好いです。

★★★☆
"English Tone Poems : A Somerset Rhapsody (Holst) Concerto Grosso / The Wasps (Vaughan Williams) Air and Dance (Delius) Serenade (Warlock)" (EMI : TOCE 6415)
Norman Del Mar (cond) Bournemouth Sinfonietta ; Bournemouth Symphony Orchestra
イギリス近代の交響詩ばかりを集めた作品集,こちらは『惑星』だけが有名なホルスト他の作品が収録されています。ヴォーン=ウィリアムス絡みの作曲家が殆どを占めるイギリス楽壇,ふと考えてみますと,ドイツもコイツもヴォーン=ウィリアムスもどき。ブラインド・テストをされてイギリスものだとは分かっても,誰の作品だとすぐに分かるほど個性を出すことに成功した作曲家は少なかったな〜,と思わずには聴けない「もどき」な作品満載で,眉間に皺を寄せずには聴けません。ヴォーン=ウィリアムスの2作品も,『グリーンスリーブス』を編曲したときのような軟派な表情が覗く軽音楽風の凡作。気のせいか周りの作品も軽めの作品ばかりでちょっとがっかりしました。そんな中ではビーチャム/ハレ管の連続録音で知られるようになったディーリアスの作品が色彩感豊か。「トーン・ポエム」さながらの瀟洒なロマンティシズムを備えた佳品で,なかなか良く書けており驚きました。彼の作品は通俗的というか甘さに流れているという印象しかなかったのですが,CD買ってちゃんともう一度聴いてみようかなあ。

(2004. 5. 12)