Hの作曲家



ジャン・ユレ Jean Huré (1877-1930)

フランスのオルガン奏者,教育者,作曲家。1877年9月17日ロワレ(Loiret)のギアン(Gien)生まれ。アンジェの通信制のサン・モーリル(St-Maurille)校で人類学,作曲,即興演奏,中世教会音楽などを学んだのち,1895年に18才でパリへ出てウィドール,ケックランと邂逅。彼らにパリ音楽院への進学を勧められたが独学の道を選んだ。1897年の時点で,生涯苦しむことになる肺結核に罹患していたが,精力的に活動。1910年にエコール・ノルマルの創設に携わり,イヴ・ナット,マニュエル・ロサンタールらを輩出。翌年にはモーツァルト協会(のちのコンセール・モーツァルト=ハイドン)の創設にも関与する傍ら,【大オルガンとその奏者たち(L'orgue et les organistes)】誌の創刊(1924年)にも貢献した。オルガン奏者としても活躍。サン=サーンスと共に聖セヴラン(St-Sévelin)教会のオルガニストを務めたのち,1924年にルシアン・グランジャーニ(Lucien Grandjany)の後任として,パリ・モンマルトルにあるサクレ・クール教会のオルガン奏者の座に就任。さらに1926年にはウジェヌ・ジグ(Eugène Gigout)の後任として聖オギュスタン教会(St.Augustin)教会のオルガン奏者を務めている。1930年1月27日パリにて死去。


主要作品

舞台作品 ・寺院 la cathédrale (1910)
・聖なる森 le bois sacré (1921)
管弦楽 ・アリア air (1902) {vln, orch/vln, p (org)}
・夜想曲 nocturne (1908) {p, orch}
・交響的前奏曲 prélude symphonique (-) {orch}
・交響曲第1番 symphonie No.1 (-)
・交響曲第2番 symphonie No.2 (-)
・交響曲第3番 symphonie No.3 (-)
室内楽・器楽 ・子どもらしい詩曲 poèmes enfantins (1906) {p/orch}
・チェロ・ソナタ第1番嬰へ短調 sonate pour violoncelle et piano No.1 en fa# mineur (1903) {vc, p}
・チェロ・ソナタ第2番ヘ長調 sonate pour violoncelle et piano No.2 en fa majeur (1906) {vc, p}
・チェロ・ソナタ第3番嬰ヘ長調 sonate pour violoncelle et piano No.3 en fa# majeur (1909) {vc, p}
・ソナチヌ sonatine pour violon et piano (1909) {vln, p}
・ブルターニュの民謡に基づく組曲 suite sur des chants bretons (1913) {p}
・ピアノ五重奏曲 quintette pour piano et quatuor à cordes (1914) {p, 2vln, vla, vc}
・三重奏のためのセレナード sérénade en trio (1920) {p, vln, vc}
・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano (1920) {vln, p}
・ピアノ・ソナタ sonate pour piano (1920) {p/hrp}
・弦楽四重奏曲 quatuor à cordes (1921) {2vln, vla, vc}
歌曲・合唱曲 ・テ・デウム te deum (1907) {sop, org}
・7つのブルターニュの歌 sept chants de Bretagne (1910) {vo, p (orch)}
・アヴェ・マリア ave maria (1924) {2f-vo}
・哀しき心 l' âme en peine (1925) {4vo}
・4通の女の手紙 quarte lettres de femmes (1929) {vo, p}
・3つの単旋律風の歌 trois chansons monodiques (1930) {vo}
オルガン曲 ・降誕祭ミサのためのコミュニオン communion pour une messe de noël (1914) {org}
・ミサ司教のための前奏曲 prélude pour une messe pontificale (1915) {org}


ユレを聴く


★★★★★
"Les Trois Sonates pour Violoncelle et Piano"(Daphénéo : 9812)
Raphaël Chrétien (vc) Maciej Pikulski (p)
ジャン・ユレは,パリ音楽院への誘いを断って独立独歩の道を歩んだ気骨の人。そんな選択が災いしてか音楽史の表舞台からは消えてしまいましたが,エコール・ノルマルやモーツァルト協会の創設に関与して,音楽史を後ろで支えた,いわば影の実力者だったようです。パリへ出た当初からウィドールやケックランに認められていたわけですからオルガン奏者としての力量はかなりのものだったらしく,サクレ・クール教会,聖セヴラン教会,聖オギュスタン教会のオルガン奏者の座をかたっぱしから征服するなど,活動の多くはオルガン奏者としてのもの。そのためか,彼の作曲家としての側面には殆ど光が当たりません。このCDは目下,恐らく世界唯一のユレ作品集。それだけに演奏者が優秀だったのは幸運でした。デュパルクのチェロ・ソナタで名演奏を残したフランスのチェリスト,クレティアンの演奏は相変わらず飴のように滑らかで文句なしです。ユレの作曲センスはフレムやロパルツ辺りに似ているでしょうか。フランクの気品と,フォレの匂い立つような半音階的旋律美を基調にしつつ,和声面で印象主義へと一段前進した,何とも官能的で高雅な筆致。群雄割拠の仏近代の世界で中庸を得た,見事なバランス感覚に感服します。(本CDの入手に際してはmyaさんからご配慮を頂きました。記して感謝申し上げます。

★★★★★
"Suite Gothique: Toccata (Boellmann) Scherzo (Gigout) Impromptu / Toccata (Vierne) Communion sur un Noël (Huré) Paraphrase-Carillon (Tournemire) Toccata (Barié) La Vallée de Béhorléguy (Bonnal) Callion Orléanais (Nibelle) Suite pour Orgue / Variations sur un Thème de Janequin / Litanies (Alain)" (Calliope : CAL 9924)
André Isoir (organ)
ソリストは1935年フランスのサン・デジェ生まれ。フランク校を経てパリ高等音楽院へ進み,1960年にオルガン科,即興演奏科で一等。1970年代には黄金期を迎え,7年間続けて仏ディスク大賞を貰ったこともあるそうです。本盤はそんな彼が1976年に吹き込んだフランス近代オルガン秘曲選。フランク傍系の懐旧的なボエルマンとジグに始まり,フランクをベースにしつつも装飾音が絢爛豪華なヴィエルヌを緩衝帯として一気にドビュッシー世代へ。神秘主義的で晦渋なアランを除く全員が,フランク,ヴィエルヌらの直弟子世代。ドビュッシアン語法を参照しつつも,デュプレ以降の変態系オルガニストとは一線を画す楽曲は,いずれも繊細な和声とかっちりした形式感で,ポスト・フランキズムかくあるべしと主張する。近代フランス音楽史を,教会演奏家の系譜で概観させる構成には拍手喝采の一語しかございません。個人的には,他の作家が穏健なモード趣味に止まるところ,一人場違いに感性を炸裂させるトゥルヌミール『パラフレーズ=カリヨン』のオーラに脱帽。シュミット的な呪術性と躍動感を,教会音楽の神秘性と融合。即興演奏の如く自由な拍節上へ,煌びやかな和声の塊が天恵の如く降り注ぐ。10分近いにも拘わらず一切間延びしない構成美。これほどのオルガン曲を書く人だとは,正直思っていませんでした。なにぶん即興性の濃い曲。血肉の如く作品を理解しているのが明らかなシンコペーションで,曲の持つ野趣と妖気を生き生き再現前する演奏ゆえに良く聞こえるところは少なからずあるでしょう。たぶん別人で聴いたら,呆気にとられるほど散漫になるのでは。その意味でも,本盤最大の成功要因は,慧眼に裏打ちされたイゾワールの演奏。ユレやボナールら,日頃お天道様がまず気にも掛けない彼らが珍しく脚光を浴びたこの機会。演奏者が彼のような人物だったのは,まさしく幸運と言わねばなりますまい。

(2003. 4. 19)