Hの作曲家



アルベール・ユイブレシュト Albert Huybrechts (1899-1938)

ベルギーの作曲家。1899年2月12日ディナン(Dinant)のアンフェル通り(Rue d'Enfer)に生まれる。父は楽団のチェロ奏者という音楽的な環境であったが,その父は息子の作曲の才には無頓着であり,アルベールは奏者として生活するため,16才まで興味のないオーボエを学ぶことを強いられた。その後,ブリュッセル音楽院へ進学。ジョセフ・ジョンゲンに師事したものの,彼が21才の時に父は他界。彼は家計を支えるため教師や編曲などを学業と併行して行って家計を支える必要に迫られ,生活は困窮を極めた。1925年に書いたヴァイオリン・ソナタがようやくアメリカで評価され,クーリッジ賞(Coolidge Prize)を獲得。さらに弦楽四重奏曲第1番がオージェイ・ヴァレー(Ojay Valley)音楽祭で一等を得るなどしたにもかかわらず,彼は持ち前の自己規制の強さからその名声を利することなく,自身を不遇のままに置くこととなる。彼が本国でも評価されたのは最晩年になってからのことで,漸くブリュッセル音楽院和声法科に教職を得たのは死の前年,1937年のことであった。1938年2月22日,尿毒症のため,ブリュッセル近郊のウォルウェ=サン=ピエール(Woluwé-Saint-Pierre)にて死去。享年僅かに39才であった。なお,彼の姓名はフラマン語(オランダ訛)に読みくだすこともでき,その場合はアルベルト・フイブレヒツとなる可能性があることを付記しておく。


主要作品

管弦楽曲 ・ダビデ David (1923)
・妖精の詩 poème féerique (1923)
・3楽章のセレナード sérénade en trois mouvements (1929)
・苦悩の歌 chant d'angoisse (1930)
・夜想曲 nocturne (1931)
協奏曲 ・葬送の歌 chant funèbre (1926) {vc, orch/vc, p}
・コンチェルティーノ concertino (1932) {vc, orch/vc, p}
吹奏楽 ・組曲 suite (1929) {winds, p}
・ファンファーレ fanfares (1931)
・喜遊曲 divertissement (1931) {brass, perc}
室内楽 ・弦楽四重奏曲第1番 quatuor à cordes No.1 (1924) {2vln, vla, vc}
・ヴァイオリン・ソナタ sonate (1925) {vln, p}
・三重奏曲 trio (1926) {fl, vla, p}
・弦楽四重奏曲第2番 quatuor à cordes No.2 (1927) {2vln, vla, vc}
・六重奏のためのパストラール sextuor : pastorale (1927) {2fl, ob, cl, hrn, bssn}
・コラール choral (1930) {org}
・田園詩 pastourelle (1934) {vla (vc), p}
・ソナチヌ sonatine (1934) {fl, vla}
・弦楽三重奏曲 trio à cordes (1935) {vln, vla, vc}
・五重奏曲 quintette (1936) {fl, ob, cl, hrn, bssn}
ピアノ曲 ・シシリエンヌ sicilienne (1934)
歌曲 ・サーディの薔薇 les roses de Saadi (1919) {sop, p}
・妖精たちの夕べ c'etait un soir de féeries (1920) {sop, p}
・秋の歌 chant d'automne (1920) <sop, p>
・エミル・ヴェルハーレンの2つの詩 deux poèmes de Emile Verhaeren (1923) {msp, 2vln, vla, vc}
・ホロスコープ horoscopes (1926) {sop, p}
・3つの詩 trois poèmes (1928) {msp, p}
・葦笛 mirliton (1934) {sop, p}
・祈り prière pour avoir une femme simple (1934) {tnr, orch (p)}


ユイブレシュトを聴く


★★★★☆
"Sonatine / Sonate / Trio" (Syrinx : CSR98101)
Marc Grauwels (fl) Véronique Bogaerts (vln) Jacques Dupriez (vla) Dominique Cornil (p)
ジョンゲンのフルート作品集の録音もあるベルギー屈指のフルート吹きグロウウェルズ,フランクのピアノ作品集の録音があるドミニク・コルニルらベルギー陣が集まって制作した,多分一枚きりのユイブレシュト作品集です。幼少期から逆境の中で過ごし,そのため,すっかり名声や富に対して不信感を持ってしまった彼の作風は,そんな厭世的でペシミスティックな人生観を反映した鋭角的なもの。印象主義やベルギー・ロマン派に学び,それらを基調に据えていながらも,無多調や変拍子をとりいれ,強い激情性と陰鬱なムードをたたえた作風へと至ったようです。曲の持つ沈鬱な香りは最晩年の狂気じみたドビュッシーやオネゲル,フロラン・シュミットに良く似ている。随所にジョンゲン経由で印象派の語法が挿入され,あくまで装飾程度に甘美な飴が挿入されます。上述の作家が好みに合わない方はお聴きにならないのが無難でしょう。白眉はやはり,国際的に評価されたという『ヴァイオリン・ソナタ』と,『三重奏曲』。前者はシュミットの『幻影』を思わせる呪術的な筆致の巧みさに,後者はジョンゲンの室内楽をシュミット風に再解釈したオマージュの見事さに。いずれも充実した筆致で溜飲が下がります。

(2003. 6. 22)