Lの作曲家



ポール・ラドミロー Paul Ladmirault (1877-1944)

フランスの作曲家。本名ポール・エミーユ・ラドミロー(Paul Emile Ladmirault)。1877年12月8日ナント生まれ。まずナント音楽院へ進学し,16才で和声法科一等を獲得。次いでパリ音楽院へ入学し,1895年にアンドレ・ジェダルジュに対位法とフーガを師事。さらに1897年には,ガブリエル・フォレのクラスへと進み,1904年まで学んだ。この間,1899年には和声法科で一等を獲得している。ローマ大賞は2度応募しいずれも落選したが,師フォレ,先輩のラヴェルやドビュッシーに認められ,特にドビュッシーからは高く評価されて国民音楽協会(Société Nationale de Musique)の委員を務めた。第一次大戦に応召して4年半にわたり前線へ配属され,その後はパリを離れてモリビア地方のカルモエル(Carmoël)へ転居。1920年にナント音楽院の教授に就任し,和声法,対位法,作曲法の教鞭を執って後進の育成に尽力する傍ら,シャンテクレール誌上などで批評家としても活躍した。ブルターニュを愛した作曲家らしく,同郷のル・フレム,ロパルツらに通じる穏健なポスト・ロマン派書法を得意とし,近代的な和声法をとり入れながらも土着の音楽性に根ざす素朴な叙情性をたたえた作風を展開している。晩年は右手が不自由になって作曲が困難となり,1944年10月30日カルモエルにて死去。(関連ページ: ポール・ラドミロー協会 孫のPaul Ladmirault氏運営。仏語)


主要作品

歌劇・バレエ ・ジル・ド・レ Gilles de Retz (1892)...ジャンヌ・ダルクの戦友であり、かつ童話『青ひげ』のモデルになったGilles de Raisのこと
・ミルダン Myrdhin (1905?)
・バレエ音楽【コルドウェンの王女】 la prretresse de Korydwenn (1917)
付帯音楽 ・トリスタンとイズー Tristan et Yseult (1927?)
管弦楽曲 ・ブルターニュ組曲 suite Bretonne (1905) {2p/orch}...1903年との資料あり
・ビニュのアリアによる変奏曲 variations sur des airs de Biniou (1906) {2p/orch}
・ゲール風狂詩曲 rhapsodie gaélique (1909) {2p/orch}
・交響詩【森にて】 en forêt (1913)
・トリスタン物語 le roman de Tristan (1913)
・交響詩【ラ・ブリエール】 la brière (1925)...
同名映画より6曲を抜粋。コーダを付けて交響組曲にしたもの
・ハ調の交響曲 symphonie en Ut (1926)
・スコットランドの歌 chanson écossaise (-)
・砂漠 les sablaises (-) {brass}
協奏曲 ・悲哀のワルツ valse triste (1901) {2p/p, orch}
・婚礼 épousailles (-) {p, orch}
室内楽 ・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano (1931) {vln, p}
・弦楽四重奏曲 quatuor à cordes (1933) {2vln, vla, vc}
・ピアノ三重奏曲 trio (1933) {p, vln, vc}
・ピアノ五重奏曲 quintette (1933) {p, 2vln, vla, vc}
・コラールと変奏 choral et variations (1936) {p, 5winds}
・チェロ・ソナタ sonate pour violoncelle et piano (1939) {vc, p}
・クラリネット・ソナタ sonate pour clarinette et piano (1942) {cl, p}
ピアノ曲 ・夕べに教会へ向かって vers l' église dans le soir (1902)...「4つの素描」に再編
・物憂いワルツ valse mélancolique (1902)...
「4つの素描」に再編
・真夜中に森の空き地で minuit dans les clairières (1902)...
「4つの素描」に再編
・田舎風の音楽 musiques rustiques (1909){2p}
・驢馬の想い出 les mémoires d'un âne (1932)
・2つのブルターニュ舞曲 deux danses Bretonnes (1944)
・即興曲 impromptu (-)
・後悔 regrets (-)
・冗談 plaisanterie (-)
・幻想ワルツ valse fantastique (-)...valse fantasqueとの資料もあり
・窪んだ道 chemin creux (-) {p/orch} ...
「4つの素描」に再編
・子守歌 dan Lullaby (-) {2p}
・愛らしいワルツ valse mignonne (-) {2p}
合唱曲 ・森の生き物たちの歌 le chant des âmes de la forêt (-) {choir, orch}
・小ミサ曲 messe brève (-) {choir, org}
・伝令 plantons le may (-) {4vo}
・小唄「ブドウ畑からワインまで」によるフーガ fugue sur la vigne au vin (-) {4vo}
・白い雌鶏 la poule blanche (-) {4vo}
・炭焼き le charbonnier (-) {4vo}
・四月 avril (-) {4vo}
・私は朝起きて je me levay par matin (-) {4vo}
・五月になって voici le mai (-) {4vo}
・天国にて en paradis (-) {4vo}
・すみれ la violette (-) {4vo}
・10のスコットランド民謡 10 chansons écossaises (-) {4vo, p}
・粉屋の歌 the miller's song (-) {4vo, p}
・古いブルターニュの頌歌集 quelques vieux cantiques bretons (-) {4vo}
・古風なクリスマスの歌 noëls anciens (-) {4vo}
・3つの讃歌 trois hymnes (-) {4vo}
・プロヴァンスの長太鼓打ち le tambourinaire (-) {3vo}
・春がまた来た revoici le printemps (-) {3vo}
・村の目覚め le réveil du village (-) {3vo}
・春の歌 chanson du printemps (-) {3vo}
・アナイーク Annäik (-) {3vo}
・麗しきサンザシよ bel aubépin (-) {2vo}
・ロゼイース Roséis (-) {2vo}
・雲雀 l' alouette (-) {2vo}
歌曲 ・あなたへの本 le livre pour toi (1907) {vo, p}
・愛への畏れ j'ai peur de t'aimer (-) {vo, p}
・マドリガル madrigal (-) {vo, p}
・憂鬱 spleen (-) {vo, p}
・歌 lied (-) {vo, p}
・秋の歌曲集 mélodieux automne (-) {vo, p}
・栗色の髪の娘よ brunelette (-) {vo, p}
・薔薇 la rose (-) {vo, p}
・ロマンス romance (-) {vo, p}
・祝福 les béatitudes (-) {vo, p}
・地の精 les gnomes (-) {vo, p}
・バイーフの6つの歌 six chansonnettes de Baïf (-) {vo, p}
・ブルターニュとヴァンデー地方の歌 Chansons de Bretagne et de Vendée (-) {vo, p}
・捨てられた人 la délaissée (-) {vo, p}
・カテリーヌへのトリオレ triolets à Catherine (-) {vo, p} ...
トリオレは詩型のひとつ
・揺りかごのメルラン Merlin au berceau (-) {vo, p}
・メルランを葬う歌 chant funèbre de Merlin (-) {vo, p} ...
アーサー王伝説に出てくる魔法使いマーリンのこと
・聖ジャン・デテを讃えて hymne de la Saint Jean d' été (-) {vo, p}
・聖母への祈り prière a Notre Dame (-) {vo, vln, p}
・アヴェ・マリア ave Maria (-) {vo, vln, p}

※作曲年代についての情報を“指揮者”氏,邦訳についての誤謬を相場ひろ氏,黒山羊氏にご教示頂きました。


ラドミローを聴く


★★★★★
"En Forêt / Valse Triste / Brocéliande au Matin / La Brière" (Pierre Verany : PV700021)
Stefan Sanderling (cond) Orchestre de Bretagne
スカルボの連続録音のみで知られるラドミローの管弦楽作品集がピエール・ヴェラニーから登場しました。趣味の悪いジャケットに聴く意欲も減退しますが,聴いてびっくり大名盤。ドビュッシーに薫陶を得た作者の筆致には一聴,『夜想曲』や『イベリア』を思わせる優美な弦あしらいが随所に(例えば冒頭2:22は「雲」のモチーフ)。しかし,ブルターニュ民謡をベースとしたモーダルな旋律と和音が,ロマン派的な枠組みの中を自由に移調していく体裁は,同郷のル・フレムとベクトル的にかなり近い。初夏のそよ風が吹く高原で日向ぼっこをしているような,心暖まるポスト・ロマン派音楽。専ら譜面上でドラスティックに音楽の革命を推進していたパリ楽壇を横目に,あくまで土着の音楽的遺産を発展的に咀嚼していこうとする地に足の着いた創作態度に感服しました。まさに,模範的と言って良いほどの【穏健なモダニスト】です。演奏するは,フレムやロパルツのティンパニ盤でお馴染み彼の地のトップ・オーケストラ。ザンデルリンクを新たな音楽監督に迎え,ますます意気軒昂。ごくたまに木管がミスるほかは相変わらずハイレベルの演奏で願ったり叶ったりです。余談ながら辞書にも掲載のない『ブリエール』について一言。これはブルターニュの地名で,サン=ナゼール近郊の自然公園の名前だとか。もとはアルフォンス・ド・シャトーブリアンの小説をもとにレオン・ポワリエが制作した映画のための付帯音楽として作曲されたもので,のちにそこから交響詩として編曲され,あのルネ=バトンの指揮で初演されています。

★★★★☆
"Quatuor à Cordes / Fantaisie / Chevauchée / Romance / Trio en Mi majeur" (Skarbo : D SK 4001)
Louis-Claude Thirion (p) Quatuor Liger
同じレーベルにラドミローのピアノ曲全集も録音しているルイ=クロード・ティリオン氏は,国立パリ高等音楽院でイヴ・ナット,ピエール・サンカンのお弟子さんだった人物。ヴェルツェリ及びボルツァーノ国際で入賞なさったのち,ブリュッセル音楽院やナント音楽院の教員を経て,現在はブローニュ音楽院の教授をなさっているとか。本盤は彼が,ロワール州立管とロワール音楽院の教授が結成した弦楽四重奏団を迎えて制作した室内楽作品集です。やっぱり地方の方々は中央の連中ほどぎすぎす凌ぎを削ってはおられないのか,やや音が痩せてキイキイしている弦楽四重奏の演奏は,ピッチも含めて頼りなくはあるのですが,許せぬほどの破綻もなく,まずまず安心して聴けます。保守的な弦楽四重奏は,トリッキーなところの少ない大変に穏やかな田園詩調の佳曲。続く『幻想曲』の,些かタンゴ風の奇妙な前振りはいただけないものの,その後はどこを切ってもフォレ門下ならではの甘美な旋律のオンパレード。小鳥の羽ばたきのように軽やかで自由な転調技法には惚れ惚れとさせられます。水も滴るこの叙情。もう少し演奏がしっかりしていたなら,間違いなく5つ星を上げても良い佳曲揃い。いや,素晴らしきこの高打率。堕曲がどこにもないではないか。フォレ以降の穏健なモダニストたちに目がない方は感動必至。ぜひお試しになってみてください。ちなみに本盤,レペルトワール誌で10点(満点)を獲った模様です。評者はよっぽど後期ロマン派好きだったのでは。この弦で満点は幾ら何でも誉めすぎでしょう。

★★★★☆
"Sonate pour Violon et Piano / Sonate pour Violoncelle et Piano / Sonate pour Clarinette et Piano" (Skarbo : SK 4952)
Roland Daugareil (vln) Yvan Chiffoleau (vc) Jacques Lancelot (cl) Robert Plantard (p)
本盤はラドミロー贔屓なスカルボから出たもので,3種類の楽器に書かれたソナタを集成。フォレの弟子だったラドミローだけに,嫌が応にも高まる,フォレ筋の美旋律と極大化されたポスト・ロマンティシズムへの期待。その期待は裏切られなかったようです。冒頭,ヴァイオリン・ソナタに聴ける,拍節をすり抜けるように自由で甘美な旋律線は,紛れもなく師の匠の技を受け継いだもの。ロパルツの『3番』と肩を並べる逸品ではないかと思います。演奏陣のうち,出ずっぱりのピアノ奏者については寡聞にして良く知らず,演奏レベルを心配しましたが,演奏は意外なほどの好演。よくよく見ましたら,いかにもパリ楽壇らしいハスキーで軽く,滑らかで甘い鳴りっぷりのヴァイオリンはラヴェル四重奏団の一員ガドレイユ氏。元仏国立管のコンサートマスターです。彼は古楽器好きで,木の木目と毛羽が見えるような音色のヴァイオリンは1708年製ストラディバリなんだそうな。チェロはリヨン音楽院で教鞭を執っていたこともあるシフォローさんが担当。クレティアンなんかに比べると音が痩せ棘があるものの,大きな振幅の良演。また,クラリネットには仏木管五重奏団の一員として活躍したランスロさんのお名前が!1920年生まれですから,録音当時は60才だったんですねえ。お年のせいかパッセージによっては辛そうですが,強弱の表情を付けず,さらっと素っ気ないようでいて,炭焼き爺さんのようなコクのある演奏ではないかと。彼は縮緬ビブラートと言われる微かなビブラートが特徴で,この盤でも良く聴くと確かに震えてます。お年のせいじゃなかったんですねえ(笑)。

★★★★
"Quatre Pièces / Mémoires d'un Ane / Deux Danses Bretonnes / Hommage à Fauré / Carillon / Quatre Esquisses" (Skarbo : D SK 1962)
Louis-Claude Thirion (piano)
音楽監督のフェリーさんのお陰か,仏のマイナー作曲家には殊の外理解があるスカルボから出た本盤は,ラドミローのピアノ曲を集めたおそらく唯一の選集。一般に穏健なモダニストのピアノ曲は懐旧的な傾向が強まるもので,これはラドミローの場合にも当てはまりました。ショパンやシューマンがパリの風に吹かれたような『4つの小品』に始まり,どこかグラナードスを思わせる『ロバの想い出』へ流れる下りは,実際いかにも懐古趣味に富んでいますけれど,それ以降の各曲はいずれも,巧みに旋法起源の旋律を絡めて色彩感覚を強め,民謡臭を絡めて土臭さを醸し出す,彼一流の熟達した書法を堪能できます。分けても『4つのエスキス』は圧巻。初期ドビュッシーの旋法性と分散和音のデリカシーにセヴラックの土臭いエキゾチズムを絡め,フォレのピアノ曲に挟み込んでブレンドしたかのような衒いのない筆致は,紛れもなくこの人のバランス感覚の良さを示すものかと思います。この後録音された室内楽作品集でもピアノを弾いていたルイ=クロード・ティリオン氏は,現在ブローニュ音楽院の教授職にある人物。11才でナンシー音楽院ピアノ科の一等を得た往時の神童は,その後に進学したパリ音楽院でも3部門に渡って一等賞を取りました。ピアノはイヴ・ナット,ピエール・サンカンに学びましたが,この他にアンリエット・ピュイグ=ロジェやピエール・パスキエのクラスも受講し,メシアンに指導を受けたこともあったようです。今では結構お年なのか,民謡起源の土臭いリズムが頻出するこの曲を弾くにはアタックも弱いですし,リズム感ももう一つ。運指も重くもたついてますけれど,良くも悪くも自己主張控えめで,曲を聴くにはさほど不自由ない演奏ではないでしょうか。

★★★
"Tu M'as Demandé (Ladmirault) Maintenant Je Puis Marcher Légère / En Te Quittant (Ferrari) Chansons Rustiques (Jaques-Dalcroze) Tandis que la Lune Montait (Ehrenberg) Fünf Lieder (Mahler-Schindler) Eight Songs (Huh-Jones)" (Gall : CD-1070)
Velma Guyer (sop) Martine Jaques (p)
ラドミローが一番有名な部類に入るという,かなり珍妙なこの歌曲集。その真相は,19世紀末に活躍した女流詩人マルグリト・ブルナ=プロヴァン女史と,2名の女流作曲家アルマ・マーラー=シンドラー女史,エレーヌ・ヒュー=ジョーンズ女史の作品を集成した企画盤という趣旨。プロヴァン女史の場合は,当時の作曲家が彼女に代わって詩に付けた歌曲を収める体裁になっています。元々,シンドラー女史がかのマーラーの奥さんという以外,どなたもまるっきり聞いたことのない(私だけかも知れませんが)名前だけに,曲を寄せる方も寄せる方。ジャック=ダルクローズが吹き込まれるところなんて,まず余所ではお目に掛かれませんし,「フェラーリは有名じゃんか」と私に突っ込みを入れる貴殿には「ヴォルフ・フェラーリじゃないっすよ?」との返り討ちを食らわすことすら可能です。当然ながらマーラー好きでもない小生の購入動機は,たった一曲収録されたラドミローなわけですが,フォーレを薄味にしたような同曲はさして目立つ作品ではなく,ダルクローズの第3曲冒頭のピアノ序奏で,一瞬だけドビュッシーの影が落ちる以外は,いたって穏健なロマン派歌曲。仏近代,それもやや保守派寄りの歌曲集がお好きな方には,それなりに興じ入って頂けるのではないかと思いますけれど,全体にやや一本調子かつ大味(特にマーラーの奥さん:笑)で,大多数の方には,珍しいという以外さしたる妙味も沸かないのでは。ソリストはアイダホ大卒のアメリカ人。オーストリアのヴェルヴェデール国際で準決勝まで進んだのを機に,拠点をオーストリアへ移し,本盤はそこでプロヴァン協会から委託を受けて制作することになった模様です。まずまず音程は揃っているものの,声はまるで伸びやかさがなく張りも乏しいですし,基礎が不十分なのか,腹式呼吸が十分出来ず,発声がポピュラー音楽家みたい。何を歌ってもクラシック歌手という感じがしません。近代以降のシャンソン化した歌曲ならまだ良いですが,古臭い歌劇は歌えなさそうだなあ・・といった感じの歌唱です。

幾つかの入手に際して,“無名の指揮者”氏(ラミドロー協会会員)からご配慮頂きました。記して感謝申し上げます

(2003. 12. 24)