Lの作曲家



アナトル・リャードフ Anatol Liadov (1855-1914)

ロシアの作曲家,指揮者。本名アナトール・コンスタンチノヴィッチ・リャドフ(Anatol Konstantinovich Liadov)。1855年5月11日,サンクトペテルブルク生まれ。父が同地のマリンスキー劇場付け指揮者という音楽的な家庭に育ち,幼少期から父の音楽教育を受けて才能を発揮。ペテルブルク音楽院へ進み,ヴァイオリンを学ぶとともに,リムスキー=コルサコフに作曲法を師事。1878年に卒業後,直ちに同校で楽典と和声法の教鞭を執り,1886年には教授に就任。ミャスコフスキー,プロコフィエフら優秀な弟子を育成した。当初は五人組の一員であったが,1880年代初頭からは【ベリャーエフ・サークル Belyayev circle】の主要メンバーとなって同時代人の音楽活動を擁護。傍ら,ロシア民謡に深い関心を示し,生涯に渡って民謡収集に従事。ロシア地理協会の委託を受け,『ロシア民謡大全(全3巻)』編纂などの業績を残している。作曲家としても,師コルサコフやフランス音楽の薫陶を得た全音階や旋法表現と,民間伝承に基づく土俗的でグロテスクな神秘主義を折衷し,独自の語法を完成させた。1910年に,バレエ・リュスから『火の鳥』を委託されながら果たせなかったことで,代わりに作品を提供した弟子のストラヴィンスキーが成功を手にするきっかけを得たのは有名な逸話である。1914年8月28日,ノヴゴロド州ポルイノヴォク(Poliynovka, Novgorod)にて没。


主要作品
 ※申すまでもなく言語はロシア語です

舞台作品 ・ゾリューシュカ zoriushka (-)...未完。一部を『キキモラ』,『魔法を掛けられた湖』へ改作。
管弦楽曲 ・ババ・ヤガ baba yaga (1891-1904)
・8つのロシア民謡 eight Russian folk songs (1906)
 1. 讃歌 hymm tune
 2. クリスマスの歌 Kojada: Christmas Song
 3. 悲曲 lament
 4. 戯け歌 I danced with little midge
 5. 小鳥のお話 legend of the birds
 6. 揺りかごの歌 cradle song
 7. 円舞 round dance

 8. ホロヴォット(村の踊り) village dance
・キキモラー kiki mora (1909)
・魔法を掛けられた湖 the enchanted lake (1909)
・アマゾンの女の踊り (1910)
・ヨハネの黙示録より from the Apocalypse (1910-1912)
・挽歌 skorbnaya pesn (1914)
室内楽 ・弦楽四重奏曲 string quartet (1885) {2vln, vla, vc}...ソコロフ,グラズノフと共作。
・スラヴレーニャ slavleniya (1890) {brass}...
グラズノフと共作。
ピアノ曲 ・ビリュールキ(子どもの戯れ) biryulki (1876)
・6つの小品 six pieces (1874-1877)
・前奏曲集第1巻 preludes (1878-1891)
・3つの小品 three pieces (1885)
・マズルカ集 mazurkas, op. 15 (1887)
・バラード【古い時代から】 from days of old (1889)
・バガテル 作品30 bagatelle in D flat major, op. 30 (1889)
・2つの小品 two pieces (1890)
・牧歌 idylle (1891)
・小さなワルツ petite valse in G major (1891)
・音の玉手箱 a musical snuff-box (1893)
・前奏曲集第2巻 preludes (1893-1906)
・田舎風マズルカと前奏曲 mazurka rustique and prelude (1893)
・グリンカの主題による変奏曲 variation on the theme of Glinka (1894)
・練習曲と3つの前奏曲 etude and three preludes (1897)
・舟歌 barcarole in F sharp major, op. 44 (1898)
・舟歌集 barcaroles (1898)
・ポロネーズ polonaises (1899)
・バガテル集 bagatelles op. 53 (1903)
・マズルカ集 mazurkas, op. 57 (1905)
・前奏曲,ワルツとマズルカ prelude, waltz and mazurka (1906)
・小品集 pieces, op. 64 (1914)
合唱曲 ・至上の神に栄光あれ glory to the god of highest (-) {choir}


リャードフを聴く


★★★★
"Baba-Yaga / From the Apocalypse / Polonaise / The Enchanted Lake / Mazurka / Kikimora / Eight Russian Folksongs / Schezo / Polonaise" (Chandos : CHAN 9911)
Vassily Sinaisky (cond) BBC Philharmonic
『魔法に掛けられた湖』を聴き,こんなところにもドビュッシー万歳マンが隠れていたかとホクホクさせられたロシアの異端児リャードフ。折良く2001年に出た,決定打とみて差し支えない顔触れと選曲のCDを手にしました。指揮を執るシナイスキーはロシアものになると現れる,シャンドスのお抱え。1973年のカラヤン国際で優勝し,1991年から1996年までモスクワ響の音楽監督を務めたほか,ラトビア響の首席指揮者にも就任。BBCとは1995年以降の付き合いで,現在は主任客演指揮者の地位にあるのだそうです。ロシア人らしい硬めの振りっぷりは,くだんのドビュッシー模造品『・・・湖』などでは少々直線的になり過ぎますけれど,総じて端正にまとまっていますし,何より多言を要しない英国楽壇の戦艦BBCフィルですから!これでヨレヨレなんてことはあろう筈もなく,演奏は高水準に安定。透明感ある弦部の鳴動は素晴らしいの一語です。『・・・湖』の呪術的なイメージで耳を向けたリャードフでしたが,こうして聴くとドビュッシ臭がするのは最晩年の数品くらいで,むしろ五人組からムソルグスキ傍流までの印象。ひょろひょろ上がり降りする大仰なグリサンドと,妙に深刻ぶってみせるティンパニが織りなす,キッチュ戯画的な作風は,ムソルグスキで形容するなら『禿げ山の一夜』っぽく,仏ものであれば,構成がやや大味でロシア臭いデュカか。ディズニーやハリウッド映画臭くすらあるこんな作風では,露楽壇で半ば異端視されるのも無理ないですねえ。その分,ロシアものが駄目な仏近代好きにも,それなりに面白く聴けるのではないでしょうか。

★★★★
"Birds of Paradise (La Montaine) The Last Spring (Grieg) The Enchanted Lake / Kikimora (Liadov) Deux Rapsodies (Loeffler) Fantasy Variations (Hanson)" (Mercury : 434 390-2)
Howard Hanson (cond) John La Montaine, Armand Basile, David Burge (p) Robert Sprenkle (ob) Francis Tursi (vla) Eastman-Rochester Orchestra : Eastman Philharmonia
アメリカのハワード・ハンソンは,自身が米人として史上初めてローマ大賞を獲った優秀な作曲家でもあると同時に,ロチェスター校の校長先生でもあった人。折からメディアの発達で録音が可能になる中,同校ゆかりの楽団を率いて,自作を始め近代の作品を精力的に録音。マイナー作曲家の採録にも意欲的で,近代ファンに多くの素敵な置き土産を残していってくれました。このCDもその一つ。客寄せになるかならないかすら微妙なグリーグを除くと,ひたすらにマイナー。これで売れるとはレーベルも思わなかったのでしょう。「イージー・リスニングですよ,買ってください」とばかりに,精一杯軟派なジャケットを用意。ところが,敵ならぬハンソンもさるもの。初っぱな,いきなりモロにメシアン被れの前衛丸出しアメリカ人作家を持ってきてレーベルの思惑を粉々にしてしまいました。こうして,両者による綱引きの結果,恐らく二度と再発して貰えそうにないヘンテコなCDが出来上がったのです。それぞれベクトルの違う収録作品では,リャードフの2つの交響詩にびっくり。作曲者はリムスキー・コルサコフの弟子。1855年生まれで,ドビュッシーより年長です。にも拘わらず印象派かと思うほど洒落た管弦楽書法は,師匠譲りの色彩感。もちろん本家に比べると遙かに永久凍土臭いものの,民謡経由と思われる旋法臭が,初期ドビュッシーを思わせる並行和音反復〜転調と全音階,フルートや木管で付けられる装飾音に相まって,かなりモダンな色彩感を作り出しており,驚きました。いずれも1909年の作品で,ドビュッシーの印象派時代より後ですから,おそらくは彼方の才人の語法に倣ったのでしょうし,やや間延びした反復の連続に本家の如く突出した才気を見出すのは難しいですけれど,数年後に死を控えたご高齢でこの進取の気性。それだけで素晴らしいです。

(2004. 12. 22)