Lの作曲家




アルテュール・ルリエ Arthur Vincent Lourié (1892-1966)

ロシア前衛世代の作曲家のひとり。ユダヤ系。本名アルトゥール・セルゲイェヴィチ・ルリイェ (Artur Sergeyevich Lur'ye)。1892年5月14日,サンクトペテルブルクに生まれる。当初はサンクトペテルブルク音楽大学へ進みピアノをバリノヴァに,作曲をグラズノフに師事し,1913年に卒業。しかし,アカデミズムを頑ななまでに嫌い早々にこれを退け,独学で学んだ。スクリャービンの影響から出発し,1914年に十二音技法へ到達。また未来派詩人に傾倒し,ゲオルギー・ヤクーロフ(画家),ベネディクト・リフシッツ(詩人)とともに,《我々と西欧(Mi i zapad)》誌上で共同声明を発表した。1917年のボルシェヴィキ革命により,その反アカデミズムの姿勢を評価され,民衆教育相の音楽部門の人民委員となる。しかし,ほどなく体制に幻滅し,1921年にベルリンへ出張した際,フェルッチョ・ブゾーニと知遇を得てそのまま帰国せず,1924年にはパリへ移住。ストラヴィンスキーと知遇を得,その庇護のもと1939年までパリで過ごした。ユダヤ系の彼は,1941年のパリ陥落を受けて渡米。以後,終生をアメリカで送った。シェーンベルクに先駆けて無調やセリー楽派を思わせる先鋭的なピアノ作品を残したが,その存在は現在に至るまで,ほとんど認知されていない。作風は初期には後期ロマン派,次いで亡命前までは前衛音楽に傾倒。渡欧後は中世旋法様式を採り入れて新古典主義的な作風へと進んだ。1966年10月12日,米国ニュー・ジャージー州プリンストンにて死去。


主要作品

舞台作品 ・バレエ【黒死病の仮面劇】 La masqe de niege (1922) {choir, orch}
・バレエ【疫病の饗宴】 Das festmahl während der pest (1933)
・歌劇【黒いムーア人ピョートル大帝】 Der mohr peter des großen (1961)
・バレエ【びっこの悪魔】 Le diable boiteux (-)
管弦楽 ・霊的な協奏曲 Concerto spirituale (1919)
・交響曲第1番 Synfonie No.1 'Sinfonia dialectica' (1930)
・コルムチャイア交響曲 Sinfonie No.2 'kormtchaia' (1939)
・交響曲第2番 Sinfonie No.2 (1941)
・疫病の饗宴 The feast during the plague, suite (1947) {sop, choir, orch} ...
舞台版から編曲
・黒いムーア人ピョートル大帝 The blackamoor of Peter the Great, suite (1961) ...
歌劇から編曲
・アペイロン Apeiron (-)
協奏曲 ・小管弦楽曲 A little chamber music (1924) {vln, orch /strings}
・室内協奏曲 Concerto da camera (1947) {vln, strings}
室内楽 ・弦楽四重奏曲 Streichquartett in mikrotönen (1910) {2vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第1番 Streichquartett No.1 (1915) {2vln, vla, vc}
・ヴォルガ地方のパストラール Pastorale de la Volga (1916) {ob, bssn, 2vla, vc}
・弦楽四重奏曲第2番 Streichquartett No.2 (1924) {2vln ,vla, vc}
・ヴァイオリンとコントラバスのためのソナタ sonate (1924) {vln, b}
・弦楽四重奏のための組曲(弦楽四重奏曲第3番) Suite für streichquartett (1924) {2vln, vla, vc}
・喜遊曲 Divertimento (1929) {vln, vla} ...
vla複数?
・ヴァイオリンの周囲をめぐるフルート La flûte à traverse le violon (1935) {fl, vln}
・フルート独奏のための酒神讃歌 Dithyrambe (1942) {fl}
・無言劇 Pantomime (1956) {cl}
・パンの笛 The flute of pan (1957) {fl}
・クロノスを偲ぶ葬列 Funeral games in honor of Chronos (1964) {fl, p, cymbal}
・日の出 sonnenaufgang (-) {fl}
・終曲 epilog (-) {2vln, vla, vc, b}
・楽句 phrasen (-) {fl, p}
ピアノ曲 ・5つの脆い前奏曲 fünf zerbrechliche präludien (1908-1910)
・2つの版画 zwei estampes (1910)
・子どもらしい間奏曲 intermède enfantine (1910-1914?)
・3つの練習曲 drei etuden (1910-1914?)
・2つの詩曲 zwei poeme (1912)
・4つの詩曲 vier poeme (1912)
・2つのマズルカ zwei mazurkas (1914)
・ソナチヌ sonatine (1912-1913?)
・7つの仮面 masken (1913)
・ほろ苦い溜息 spleen empoisonnée (1913)
・グルックの名によるメヌエット menuett nach Gluck (1914)
・5つの合成 synthesen (1914)
・狂気 wahnsinn (1914-1915?)
・大気の形〜ピカソに捧ぐ formes en l'air (1915)
・日課 tagesplan (1915)
・(邦訳不詳) upmann (1917)
・ソナチヌ第1番〜第3番 sonatine No.1-No.3 (1917)
・貧民のピアノ piano-gosse (1917)
・王デツコイ5世 royal'V detskoy (1917)
・4つの小品 vier stücke (1924-1927)
・夜想曲ト長調 nocturne in B (1928)
・間奏曲 intermezzo (1928)
・2つの作品 zwei kompositionen (1938)
・小組曲 kleine suite in F (1957)
声楽曲 ・儀礼的なソナタ第1章 sonata liturgique teil 1 (1928) {vo, chamber}
・美の誕生 la naissance de la beauté (1937) {sop, orch /f-choir}


ルリエを聴く


★★★★☆
"5 Preludes / Syntheses / Piano Gosse / Nocturne en si bemol / 4 Pieces / A Phoenix Park Nocturne / Emploi du Temps" (Accord : 201072)
Marie-Catherine Girod (piano)
同郷にして同じくパリ参詣組のストラヴィンスキーやスクリャービンが今や巨人の仲間入りなのに比べ,全く知名度がないカワイソー過ぎるルリエ。しかし,それは彼にも責任の一端があり,作風は近代から現代を彷徨します。作品1と番号を振られた最初の5曲の前奏曲集は初期のスクリャービンやフレム,シューマンなどを思わせる穏健なロマン派の佳品。それが6曲目に入った途端,到底同じ人間の作ったものとは思えないキチガイじみた無調旋律が躁鬱的にのたうち回る荒涼とした音風景に突入します。しかし,後年には西欧圏の作家の影響からか,再び落ち着いて晦渋なミヨーやメシアン風に変移。数奇な彼のライフステージが,そのまま譜面に載ったような,地雷原多数の危険地帯であることを承知の上でなら,思わぬところでフランス近代の種が実を結んでいることに気が付くことになるでしょう。独奏者は仏近代およびその周辺の秘宝発掘に精力を傾ける名女流。デュティーユ,エマニュエルの名演もあるその演奏は堅実です。

★★★★
"String Quartets No.1-3 / Duo for Violin and Viola" (ASV : CD DCA 1020)
Utrecht String Quartet : Eeva Koskinensu, Katherine Routley (vln) Daniel Raiskin (vla) Sebastian Koloski (vc)
ルリエは1892年生まれのロシアの作曲家。早くから欧州へと脱出したストラヴィンスキーやスクリャービンと同様,やはり進歩的に過ぎて故国では受け入れられず,自由を求めてドイツからフランス経由で,晩年はアメリカにまで渡っていきました。彼の作品集としては,これまで,マリー・カテリーヌ・ジロによるピアノ作品集がほとんど唯一といって良いカタログを提供しており,ショパンの亜流に始まった不遇のロシア時代から,無調やセリー楽派を思わせるモロ前衛を経て,やがて先鋭的な新古典主義へと昇華されていく彼の作風の変遷が効率よくまとまっていました。現在,同盤と並んで,殆ど唯一に近い彼の作品集となっているのが本盤。1920年代の頭,ドイツに移住してからフランスに移るまでの僅かの間に書かれた,3編の弦楽四重奏曲を収録しています。最も先鋭的なのは,やはり亡命直後の第1番。激情的な不協和音と,頭を掻きむしるようなトレモロが荒々しく曲の輪郭を削り出していく。新古典主義に根ざした形式感が辛うじて輪郭を留め,時折色彩感を増す尖った和声がマゾヒスティックな快楽を鼓舞します。演奏するユトレヒト弦楽四重奏団は初めて聞く名前。国際的な受賞歴も見えず心配しましたが,演奏は驚くほど良好。シェバーリンの弦楽四重奏団あたりとは,到底同じジャンルの演奏家とは思えぬ高水準の演奏を披露します。



(2003. 12. 12 upload)