Oの作曲家



モーリス・オアナ Maurice Ohana (1914-1992)

モロッコの作曲家。アラブ,スペイン,ユダヤ人の混血(母方がスペイン人)。1914年6月12日カサブランカに生まれ,1927年にスペインのバルセロナへ渡って音楽の基礎を学ぶ。彼は英国籍だが,モロッコは当時仏領であったため,1932年にパリへ進出。建築学を学ぶ傍らラザール・レヴィ(Lazare Levy)にピアノを師事。次いで1937年から1940年まで,スコラ=カントールムへ進んでダニエル=ルシュールに和声法と対位法を師事した。大戦中は英軍兵士として従軍し,1944年までエジプトおよびアフリカ戦線を転戦。戦後,1946年にはバルセロナに移って聖セシユ音楽アカデミーに入学し,アルフレド・カゼッラに師事して研鑽を積む。1947年の帰仏後は生涯をパリで送った。ドビュッシーからバルトーク,ウェーベルン,ニグロ・スピリチュアルまで雑多な音楽に影響を受け,作風は多岐に渡るが,微分音を駆使した現代的な筆致を得意とする。1969年にイタリア賞,1982年にオネゲル賞,1985年にラヴェル賞を受賞。死後にSASEM賞も授与されている。1992年11月13日死去。


主要作品
※Rae, C. 2000. The music of Ohana. Ashgate. を入手しました。作品表は時間が出来次第,完全版へ改訂します。

歌劇/カンタータ他 ・オラトリオ『イグナチオ・サンチェス・メヒアスへの哀歌』 llanto por Ignacio Sanchez Mejias (1950) {narr, btn, orch}
・フェードルのための音節譜 syllabaire pour Phèdre (1966-1967) {sop, msp, orch}
管弦楽曲 ・タラーン=ンゴー t'harân-ngô (1973-74)
・奇跡の書 le livre des prodiges (1979)
協奏曲 ・サラバンド sarabande (1950) {vc, orch}
・3つの描写 trois graphiques (1957) {g, orch}
・トランペット協奏曲 concerto pour trompette et orchestre (1957) {tp, orch}
・シナクシス Synaxis (1965-1966) {2p, 4perc, orch}
・暗号 chiffres de clavecin (1967-1968) {clvcn, orch}
・守機密官 silenciaire (1969) {6perc, strings}
・タマリットの輪 anneau du Tamarit (1976) {vc, orch}
・ピアノ協奏曲 concerto pour piano (1980-1981) {p, orch}
・チェロ協奏曲 concerto pour violoncelle 'in dark and blue' (1990) {vc, orch}
室内楽・器楽 ・舞踏用練習曲集 études chorégraphiques (1955){4perc}
・ティエント tiento (1957) {g/clvcn}
・昼の鐘,夜の鐘 carillons pour les heures du jour et de la nuit (1960) {clvcn}
・4つの即興曲 quatre improvisations (1961) {fl}
・斯様な一日 si le jour paraît (1963-1964) {g}
・記号 signes (1965) {zither, fl, p, orch, 4perc}
・聖なるイルクス sacral d'Ilx (1975) {clvcn, ob, hrn}
・サチュロス Satyres (1976) {2fl}
・月時計 cadran lunaire (1982-1983) {g}
・2つの小品 deux pièces pour clavecin (1982-1983) {clvcn}
・ソー・タンゴ:カルロス・カルデルを偲んで so tango : in memoriam Carlos Gardel (1987) {clvcn}
ピアノ曲 ・3つの狂想曲 trois caprices (1944/1953/1948)
・ソローン=ンゴー Sorôn-Ngô (1969-1970)
・24の前奏曲集 24 préludes (1972-1973)
・解釈法のための12の練習曲集 douze études d'interprétation (1982/1984-1985)
・作者不詳,20世紀 anonyme XXe siècle (1988)
歌曲・合唱曲 ・頌歌 cantigas (1953-1954) {vo, choir, orch}
・クロード・ドビュッシーの墓 tombeau de Claude Debussy (1962) {sop, zither, chamber-orch}
・焚刑 autodafé (1971-1972) {vo, fl, orch}
・託宣典儀 offices des oracles (1974) {vo, choir, 2fl , p}
・ユリのマドリガル lys de madrigaux (1976) {vo, f-choir, zither, p, org, perc}
・ミサ曲 messe (1977) {vo, choir, chamber-orch}
・4つの合唱曲 quatre choeurs (1987) {choir}
・夜の光−日の光 lux noctis-dies solis (1982-1988) {child-choir, 3choir, 2org, perc}
・白鳥の歌 swan song (1988) {12vo}
・プーシュキンの夜 nuit de Pouchkine (1990) {12vo, tnr, vla}
・ルイーズ・ラベの墓 tombeau de Louise Labé 'O beaux yeux bruns' (1990)
・アヴォアー avoaha (1991) {2p, choir, perc}


オアナを聴く


★★★★★
"Concerto pour Violoncelle / T' Haran-Ngo / Concerto pour Piano" (Timpani : 1C1039)
Sonia Wieder-Atherton (vc) Jean-Claude Pennetier (p) Arturo Tamayo (cond) Orchestre Philharmonique du Luxembourg


最近,ティンパニがやたらと肩入れし,いずれも高水準の演奏で3枚ほどが世に出て,専門誌上で軒並み最高賞を獲りまくったことから,彼の地を中心に認知されつつある作曲家です。非常にユニークな経歴などまさにポスト・モダンそのもので,却って分かりやすいのも評価の所以でしょうか。無調を絡めつつ微分音を駆使する先鋭的な語り口ですが,オーケストレーションは流動性が高く,ドビュッシーの影響下にあると言えるでしょう。解説書ではドビュッシーとバルトークの名前を挙げていますが,私はむしろ世代的にもほぼ同じデュティーユの影響が顕著だと思います。デュティーユに比べると,冷徹さや流動感は少し控えめ。調性もやや明瞭で,和声進行などにジャズの影響がより強く反映されているのが特徴。少し大味なのは気になりますが,兄弟と言って良いくらい似た作風なので,あの手の低体温系ドビュッシアンが好きな方であれば,殆ど抵抗なく聴けるでしょう。個人的には,同じ楽器のための協奏曲としてはデュティーユに勝ったと思われる『チェロ協奏曲』の響きに参りました。途中にジャズ曲『アイ・ガット・リズム』が引用されているように聞こえますが気のせいかな?演奏は稀に見るほど優秀。ここ2,3年聴いたあらゆるクラシックのCDでも最上位の一つにランクされると思います。

★★★★☆
"Tombeau de Claude Debussy / Silenciaire / Chiffres de Clavecin" (Timpani : 1C1044)
Arturo Tamayo (cond) Sylvie Sullé (sop) Christian Ivaldi (p) Elisabeth Chojnacka (clvcn) Béatrice Daudin, Paul Mootz, Éric Chartier, Netty Glesener, Klaus Brettschneider, Chris Opsteyn (perc) Orchestre Philharmonique du Luxembourg
どこか日本人みたいなお名前のタマヨさんはマドリード生まれ。王立音楽学校を出たのち,フライブルク大学でブレーズにも師事し,欧州を拠点に活躍なさってきたようです。オアナとは,1988年にパリのオペラ・ハウスで歌劇を指揮したのが縁となり,最晩年の作曲者とも交流があった模様。本盤を含め数枚に及ぶ連続録音を監修し,かなりの肩入れを見せるのも,個人的な思い入れが多々あってのものなのでしょう。本盤は,1960年代に作曲された3品の協奏作品を集めたもの。行くとこまで行ってしまったストラヴィンスキーみたいな,ゴツゴツとした野蛮な変拍子と,頭を抱えたくなるような不協和音の洪水が支配するオアナの作品は,精妙な和声さえなかったら,絵に描いたようにポリティカルなだけのゲンダイオンガク。ここでも,ひたすら不規則で激情的なリズムと,隙間を充分に取った神秘主義的な間合いとが支配する「ポスト野蛮主義」めいた作風が基調にあるところは変わりなく,根っからの現代ファン以外の全ての音楽好きにとって,残る関心事は唯一の飴である和音ということになりましょう。『チェロ協奏曲』を聴くに堪えるものにした管弦楽のバックが,協奏曲主体のこの盤でも全てを救いました。調弦が平均律を逸脱するシタールや,ピアノに比べ倍音効果のデカいチェンバロをフィーチャーするオアナが狙っているのは中近東趣味を織り交ぜたモンク的微分音フェティシズム。ヒャ〜っと冷や水を浴びせるような和音が,この嗜好を適度に抑制し,緊張感を持続します。『チェロ・・』に比べると弦はパーカッシブ。優秀なオケの出番はやや少ないですが,何せドビュッシーへの讃歌ですから。今のところ入手可能なオアナ作品の中では,『チェロ協奏曲』に次いで,一般人にも理解可能なものになっているのでは(笑)。

★★★★
"Office des Oracles / Messe / Avoaha / Lys de Madrigaux" (MFA-Naïve : MO 782171)
Roland Hayrabedian (cond) Choeur Contemporain Aix-en-Provence et Musicatreize
この2枚組CDは,モロッコ生まれの作曲家オアナの宗教・合唱作品を集めたものです。指揮者は,1978年にエクス=アン=プロヴァンスで,本盤に聴けるコンタンポラン合唱団を創設した人物。その後1987年には,器楽アンサンブルを担当するムジカトレーズのほうも創設し,いらい彼の地の音楽界に君臨している模様です。実は古楽もレパートリーに入っているらしいのですが,名前からも伺えるとおり,得意分野は現代。この2枚組のうち,後半の2作品は1994年の録音で,幾つか賞を獲り,オアナの合唱曲指揮者としての彼の評価を一躍高めたものなんだそうです。どうも作曲者はエクスと因縁が深い様子で,1974年の作『神祇官』は彼の地の音楽祭向けに書いたもの。各種管楽器,パーカッション,ピアノが不穏なパルスを打ち出す中を,チャット,音律無視宣言気味の上下降グリサンド,雄叫びなどを駆使(?)した合唱団が,ときにデタラメを装ってバラバラに,ときに野蛮なデュティユーさながら精妙に発声しております。今世紀に出てきたあらゆるアヤシイ現代書法は一通り全部入っていながら,和声,リズム,形式のいずれかが絶えず辛うじて音楽としての輪郭を保ち,緊張感を持続。続く1977年作『ミサ』でも,弦楽四重奏やオルガンが替わって入るものの,同じく聴き手のマゾ度を極限まで追求する。精緻な和声が,辛うじて停止ボタンに伸びた手を押し止める感じ。いや,きっと聴く人が聴いたらスバラシイんでしょう。しかし,あっしは正直に申し上げます。いい年した紳士淑女が大まじめな顔してこれを歌ってるのを想像するにつけ,不謹慎にも笑いと脂汗が・・(笑)。『チェロ協奏曲』があっしにも理解可能だったのは,やっぱりデュティユーと一緒で,作曲家が老成して丸くなったせいなのかなあ?実際,この盤でも1991年作の『アヴォアー』になると書法がやや穏健になり,メシアンの流れで楽しめました。こういう作風なので判然とせぬものの,合唱隊は少し弱い気が。笑ってしまった前半戦と足して星一つ引かせていただきます。

★★★★
"La Musique de Chambre : Quatre Improvisations / Neumes / Syrtes / Sarc / Noctuaire / Satyres / Kypris" (Timpani : 1C1071)
Pascal Devoyon (p) Solistes de l'Orchestre Philharmonique du Luxembourg
モロッコ出身のフランス作家,モーリス・オアナが認知されるようになったきっかけは,ルクセンブルク放送管弦楽団関係者によるティンパニへの連続録音からでしょう。本盤は2002年に出た,多分一番新しいもので,寡作だったオアナの室内楽はこれで全部揃うという代物のようです。冒頭のフルート独奏は,明らかにドビュッシーの『シリンクス』を意識したもの。同じように安易な調性への迎合を拒否していながら,印象派の作家がみなつらつら茫洋とした旋律と気怠くもギリシャ神話然とした,アルカイックな佇まいをたたえているのに対し,オアナのそれはグロテスクでぎこちなく,不穏な節回し。ストラヴィンスキー版シリンクスとでも言えば宜しいでしょうか。以降,ピアノ伴奏が入っても,主旋律の流れはみんな類同的。クラスター寸前の不協和音の石のつぶてをぶつけられながらのたうち回る,羽のもげた天使の慟哭が延々と続きます。オケ作品ではデュティーユよりの艶めかしい和声が印象的でしたが,ピアノという楽器の特性からでしょう。室内楽は完璧にメシアン系。いわゆる現代ものが苦手な人は止めた方が良いでしょう。小生もピアノが時折くれる醒めた和音の飴に支えられて,辛うじて聴けましたが,一枚通してつき合うのはかなり苦痛。静かな狂気を演出するのはハーモニクス,フラッター,グリスアップ,グロウ,フラジオなど特殊奏法のオンパレード。演奏するのも無駄に大変そうです(笑)。

★★★★☆
"Résurgences (Escaich) Concerto pour Trompette et Orchestre (Ohana) Concerto No.2 por Trompette et Orchestre (Bacri)" (Pierre Verany : PV703021)
Jean-Jacques Kantorow (cond) Eric Aubier (tp) Orchestre de Bretagne
デュティーユと並ぶ厳つい面構えと,繊細過ぎて狂気すれすれの和声フェチぶりを誇ったモロッコ出身の作曲家モーリス・オアナのラッパ協奏曲。ただでさえ強面なこの作家に,パリ音楽院で8部門に渡り一等賞を獲ったオルガン奏者兼作曲家エスケーシュ,パリ音楽院和声法科で一等を獲ったバクリのラッパ協奏曲2編をぶつけるという,およそ一般市場では受け入れて貰えそうにない趣向の本盤。随分前に同じピエール・ヴェラニーから近代フランス無名作家のラッパ入り管弦楽作品集を発表したオービエ〜ブルターニュ響の競演による仏近代ラッパ作品集の第2弾です。何と指揮棒を執ったのはかのヴァイオリン奏者ジャン・ジャック・カントロフ。最近あまり顔を見かけないと思ったら指揮者なんてやってたんですかと目が点のおまけ付きです。数分前後の小品や,ピアノ伴奏曲の管弦楽編曲版などで占められた前作に比べ,こちらは全て元々協奏曲として書かれた大掛かりな作品で,中身も俄然気合いが入った濃密なもの。高い流動感と鋭敏な和声感覚が光ったチェロ協奏曲に比べると,オアナのラッパ協奏曲は随分と新古典的。1957年と初期に書かれたことも関係しているのでしょう。バルトークとオネゲルを足して二で割ったような作品と形容すれば良いでしょうか。これはバクリも近いところがあり,やはり複雑ながら拍節構造は明確。バローやバルトークなどと同様,和声の繊細さや形式の流動感よりは,堅牢な拍節構成が目立つ作品との印象を受けました(ラッパという楽器のための協奏曲・・という特性を考えたのかも知れません)。反面,エスケーシュの書法はより旋法基調でマルタンぽい。ブーランジェの最晩年作品をいっそう即物的に書き直したような沈鬱な和声が,細かく上下に拍動しながら不穏な空気を煽る中,クロマチックにのたうつラッパの主旋律が金切り声を。先に出た彼の作品集と同じスタイルに乗っ取ったもので,これが彼の書法なのでしょう。マルタンほどの艶めかしさや思索性はない代わり,より直線的な推進力のあるエスケーシュの作品は,近代ファンでも少し背伸びをすれば受け容れ可能。ブルターニュ管はフランスの地方オケの中でも屈指の性能を誇り,近代ものに最も積極的なオーケストラ。演奏は高レベルに安定していると思います。

(2003. 1. 16)