Pの作曲家


ポール・パレー Paul Paray (1886-1979)

フランスの指揮者,作曲家。1886年5月24日,ルーアン近郊のトレポル(Tréport)生まれ。象牙彫り職人ながら,聖ジャック教会付オルガニストやオルフェオ歌劇場の音楽監督を務めた父オーギュスト,後にルーアン音楽院教授に就任するほど音楽への造詣が深い兄オーギュストらに囲まれた音楽的な家庭で育ち,1895年にルーアン教会の聖歌隊に入って,兄から最初の音楽教育を受けた。1904年にパリ音楽院へ進学し,ジョルジュ・カサドに対位法と作曲法を,クザヴィエ・ルロウに和声法を師事。1911年にカンタータ『ヤニッツァ(Yanitza)』でローマ大賞一等を獲得しイタリアへ留学した。1914年に第一次大戦に従軍後,1920年にコンセール・ラムルーの助演指揮者に就任(主席はカミユ・シュヴィヤール Camille Chevillard)し,次いで1923年には同楽団の主席指揮者に就任。1928年にモンテカルロ・カジノの音楽監督及びヴィシ(Vichy)大カジノの夏期音楽監督も務めた。1932年には,ピエルネの後任としてコンセール・コロンヌの主席指揮者となり(在任中,1939年にラムルー管に吸収合併),同年にはパリ・オペラ座の指揮者も務める。戦後,1945年にクーセヴィツキーに招聘され渡米してボストン交響楽団を指揮。さらに,1951年に新設されたデトロイト交響楽団の音楽監督に選ばれ,在任中に,同楽団を全米屈指のオーケストラへと成長させた。1963年に職を辞してモナコへ移住。その後は客演指揮者として世界各地を楽遊する精力的な活動のうちに余生を送った。1979年にオーストリアから帰国中,心臓発作に見舞われ,1979年10月10日に他界。生地に埋葬された。1950年に学士院会員。レジオン・ドヌール鉄十字勲章受章(関連ページ: Paul Paray 英語)。


主要作品

バレエ ・アルテミスの受難 Artémis troublée : by Léon Bakst, (1911-12) {ballet /p}
劇音楽 ・カンタータ 【アキスとガラテア】 Acis et Galatée (1910)
・叙情劇 【ヤニッツァ】 Yanitza, scene lyrique : poeme de George Spitzmuller (1911) {vo, orch (p)}
・オラトリオ 【ジャンヌ・ダルク】 Jeane d'Arc : text by Gabriel Montoya (1913)
・ジャンヌ・ダルク没後5世紀のミサ mass for the fifth centenary of the death of Joan of Arc (1931) {vo, choir, orch /vo, p}
 
1) kyrie - 2) gloria - 3) sanctus - 4) benedictus - 5) agnus dei
管弦楽曲 ・弦楽交響曲 symphony for strings (1919)
・ハ調の交響曲第1番 Symphony No. 1 in C (1934)
・イ調の交響曲第2番 symphony No. 2 in A (1936/1939)
・英雄的な序曲 ouverture héroïque (-) {orch}
- 構想のみ
協奏曲 ・幻想曲 fantaisie pour piano et orchestre (1909) {p, orch /2p}
器楽/室内楽 ・ピアノ三重奏曲 trio for piano, violin and cello (1905) {p, vln, vc}
・セレナード 作品20 sérénade for violin or flute and piano (1908) {vln (fl), p}
・ヴァイオリン・ソナタ ハ短調 sonate in C minor for violin and piano (1908) {vln, p}
・ユーモレスク humoresque for violin and piano (1910) {vln, p}
・夜想曲 nocturne for violin and piano (1911) {vln (vc), p}
・弦楽四重奏曲 quatuor in E minor (1919) {2vln, vla, vc}
・チェロ・ソナタ第1番 ロ長調 first sonata for piano and violoncello, in B Major (1919) {vc, p}
・チェロ・ソナタ第2番 ハ長調 second sonate for violoncelle and piano in C Major (-) {vc, p}
ピアノ曲 ・ヴァルス=カプリス valse-caprice (1906)
・ロマンス romance (1909)
・子どもの肖像 portraits d'enfants (1910)
・フランツ・シューベルトの主題によるワルツ valse, sur un thème de Franz Schubert (1911)
・ピアノのための印象 impressions pour le piano (1912)
 1) notalgie - 2) eclaircie - 3) primesaut
・叙情の反映 第1集 reflets romantiques : première séries (1912)
 
1) avec ésprit et charme - 2) ardemment en rêvent - 3) avec fougue
・叙情の反映 第2集 reflets romantiques : deuxième séries (1912)
 1) Souple - 2) Léger - 3) Tender - 4) Energique
・7つの小品 sept pièces (1913)
・プレスト presto (1913)
・主題と変奏 thème et variations (1913)
・前奏曲ニ長調 prélude en fa majeur (1913)
・アレグロ allegro (1913)
・スケルツォ scherzo (1913)
・ある魂に d'une âme... (1914)
 
1) fervènte - 2) naïve - 3) légère - 4) rêveuse - 5) malicieuse -
 6) fantasque - 7) inquiète et passionnée - 8) tranquille - 9) joyeuse

・4手のための小品集 pièces pour quatre mains (1914) {2p}
・前奏曲 prélude (1930)
・講義用小品 moreau de lecture: allegro (-)
・タランテラ舞曲 tarantelle (-)
・スケルツェット scherzetto (-)
・即興曲 impromptu (-)
・めまい vertige (-)
・不確実さ incertitude (-)
・強情さ entêtement (-)
・子守歌 berceuse (-)
合唱曲 ・オ・ユスティ os Justi (1903) {choir, org}
・4つの合唱用小品 four choral pieces (1910/1926)...
7曲。6曲が1910年。4曲の他は断片のみ
・2つの合唱曲 two choral works (1911) {choir, orch}...
断片のみ
・イン・マヌス・トゥアス in manus tuas (1914) {vo, ob, org}
歌曲 ・月の歌言葉 paroles à la lune (1903)
・パニス・アンジェリクス panis angelicus (1904) {vo, vc}
・木立の中で dans les bois (1904)
・枯れた花々 mortes les fleurs (1907)
・ナポリの歌 chanson Napolitaine (1907)
・クリスマスのパストラール pastorale de Noël (1908)
・詩人とミューズ le poète et la muse (1908)
・約束 la promesse (1910)
・理想への参画 l' embarquement pour l'ideal (1911)
・嘆き le plainte (1911)
・蝶々 le papillon (1911)
・決闘場 le champ de bataille (1912)
・3つの歌 trois mélodies (1912)
 1) infidelite - 2) la derniere feuille - 3) serment
・ヴィラネル villanelle (1912)
・すみれの歌 chanson violette (1913)
・山羊の番人 le chevrier (1913)
・ヴィオル viole (1913)
・夜のとばりの中に il est d'entranges soirs (1913)
・ジャン・ラオールの4つの詩 quatre poèmes de Jean Lahor (1921)
 
1) après l'orage - 2) adieux - 3) après le bal - 4) desir de mort
・ヴォーカリーズ=エチュード vocalise-étude pour voix moyenne (1924)
・聖餐の麦 le ble eucharistique (-)
・イタリアの夜 nuit d'Italie (-)
・勝利者 laurette (-)
・墓地 sepultre (-)


パレーを聴く


★★★★★
"Symphony No.1 / Mass for the 500th Anniversary of the Death of Joan of Arc" (Reference : RR-78CD)
James Paul (cond) Lorna Haywood (sop) Terry Patrick-Harris (msp) Joseph Harris (tnr) Jozik Koc (b-btn) Royal Scottish National Orchestra & Chorus
専ら,デトロイト交響楽団の指揮者として知られた存在のポール・パレーは,ホントはフランス出身なのにアメリカ人と思われている上,ローマ大賞を獲ったのに作曲家と思われていないという,実にカワイソーな人(無論,それを補って余りあるほど指揮者としては成功しましたので,元は充分に取れたでしょうけれど)。ある分野で人並み以上に大きな成功を収めたが故に,そのイメージのせいで他が霞んでしまうという例は,ロベール・カサドシュやフィリップ・ゴベールなんかを挙げれば充分でしょう。既にこの人の作品集としては,マイナー盤で歌曲集が出ているようですが,とうとう日本でも手に入りそうな作品集が登場しました。しかも,幸運なことに演奏陣が素晴らしい。指揮者のポール氏はタングルウッド音楽祭でバーンスタインの助演指揮者を務め,1967年にはクーセヴィツキー賞を受賞した人物。オケはしばしばシャンドス録音で登場し,「ロンドン響より良いんじゃないか」と思わせずにはおかないスコットランド響。何でこんなマイナーどころに?の答えは,「1959年にLPで聴いてベッタベタに惚れ込み,ゼッタイいつか録音したると心に誓いました」という,指揮者の個人的な理由含みでした。惚れて入れた録音で外れるわきゃございません。いい人に録ってもらって,パレーも喜んでいることでしょう。作風は平明な新古典主義。ジョンゲンやピストンの名前が挙がってくるでしょうが,調性感や形式は遙かに古典的で,ドイツ臭が濃い。和声面でのみ近代の薫りを受け容れ,ワグナー以前の遺産を真っ当に引き継ごうというのが,彼の美学だったのでしょう。作曲家としても充分素晴らしいです。この機会に再評価されて欲しいですねえ。

★★★★
"Complete Melodies / Nocturne pour Violon et Orchestre" (Grotto Productions : GP-0004)
Eduard Perrone (cond, p) Ruth Lapeyre (sop) Eric Everett (btn) Adam Stepniewski (vln) Nadine Deleury (vc) The Assumption Grotto Orchestra and Choir
本盤はデトロイト聖母被昇天洞窟教会の主任司祭さんであるエドアルド・ペローヌ氏が企画した,4枚からなるパレー作品集の第一弾として2002年に制作されたもの。シリーズ唯一の2枚組として,全曲初録音だったパレー歌曲を一気にコンプリートする壮挙を成し遂げたものです。薄味のフランクな室内楽に対し,ここに聴けるのはショーソンやベルリオーズの流れに属する,宮廷系フランス後期ロマン派の優美な香りと,カントルーブ界隈の仄かなエキゾチズムや庶民的な風情が絡み合った,温故知新の正統派フランス近代歌曲。気取りすぎず,ロマンの香りを崩しすぎず,趣味の良いフランス歌曲の風情を生み出す。もうひとつ薄味な室内楽に比べ,すっきりとまとまった佳品揃いで,さすがはオーケストラの指揮を担当しているだけのことはあるなと瞠目しました。パレーは編成が大きいほど腕が鳴る人だったらしく,本盤でも聴きものなのは管弦楽伴奏の一枚目。ピアノ伴奏の2枚目は,良くも悪くもピアノが定常的な拍動を刻むことが多く,あまり器用ではないなとの印象は拭えません。本盤のもう一つの魅力は,意外なほど真っ当な演奏でしょう。さすがに合唱団はボロが出るも,地場メンバーの寄せ集めにしては意外なほどまともな管弦楽。暖かみのある美声のソプラノは,ニューオリンズのロヨーラ大学を出たのち,1985年からデトロイトに移り住んで仕事をしている人物。器用な人ではないのか,少し情感表現が素っ気ないものの,コントロールはなかなかに達者。そりゃベルガンサやバトルのような訳にはいきませんけど,下手な中央の歌曲録音盤よりいい仕事してるんじゃないでしょうか。音色に改善の余地が残るも,健闘するヴァイオリンはショパン・アカデミー出身で,デトロイト響の副首席。チェロはフランスのアルラス出身で,パリ音楽院でナヴァラに師事。現在はミシガン歌劇場の首席チェリストだとか。

★★★☆
"Jeanne d'Arc / Pastorale de Noël" (Grotto Productions : GP-0005)
Eduard Perrone (cond) David Troiano, Domenico Bertucci (tnr) Leisa Marie Carzon, Gina D'Alessio (sop) Catherine McKeever (msp) Steven Henrikson (bass) The Assumption Grotto Orchestra
本盤は2002年に出たもので,1913年作曲のオラトリオ『ジャンヌ・ダルク』に,1904年作曲の『降誕祭牧歌』を併録したものです。特に後者は,パレーがまだパリ音楽院の学生だった時分の作品なうえ,旧体制派の長老方が最も得意とする舞台作品の流れに属するこの2品。果たして,いかにもローマ大賞で受けそうな,仏流儀ワグネリスト舞台音楽の体で,いずれも,イタリアやドイツものの歌劇を聴いているかのように保守的です。時折旋法表現を織り交ぜつつも,基本的には調性明瞭で,半音階書法の枠内での転調技法ですし,形式もかっちりとロマン派風。和声的にも,ロジェ=デュカスやラボー傍系後期ロマンティストの域を出ません。パレーさんはあくまで,ワグナーの旧とドビュッシーの新とがせめぎ合った時代をバランスして生きる人だったのでしょう。なにぶんにも,パレーが好きでたまらないデトロイトの牧師さんペローヌ氏の肝煎りで作られた連続録音の第2弾な本盤。少なからず不揃いの林檎ぶりを発揮する合唱団は,学生コーラスに毛の生えたレベルですし,メゾの独唱は声を反転させるたびコントロールが狂ってお年と鍛錬不足を露呈。音色がただただ垢抜けない管弦楽団も含め,都会のオケのような訳にはいきません。しかし,その粗い鳴動を駆って,一所懸命に情感を込めるオケの演奏には頬が緩みますし,テノール(トロイアーノ)は,悠々と喉をコントロールできており魅力的。充分本盤の見せ場を作っているのではないでしょうか。比較にならないほど立派なオケから先に録音されてしまった『ミサ曲』や,『アキスとガラテア』を含めた姉妹盤と並べれば,彼の舞台作品はほぼ制覇できます。ドビュッシー前夜の作風が大丈夫な方なら持っていても損はないんじゃないでしょうか。

★★★★
"Artémis Troublée / Symphonie D'Archets" (Grotto Productions : GP-0006)
Eduard Perrone (cond) Adam Stepniewski (vln) Marcy Chanteaux (vc) Hart Hollman (vla) The Assumption Grotto Orchestra
ペローヌさんパレー大好きシリーズ第三弾の本盤は2003年録音で,舞台作品『アルテミスの受難』と『弦楽交響曲』の2編を併録。アドニスとアフロディテの恋物語を描いた『アルテミスの受難』は1922年の作。もとはルビンシュタインの舞踏のためのバレエ音楽で,レオン・バクストがデザインを担当しました。パレーの本分は編成の大きな管弦楽にあると思うんですけど,これを聴いた印象もまさしくそれ。独ロマン派の形式感に則った,宮廷舞踏会調の品位を下地にしながらも,誇大妄想気味のワグネリズム主題に代わって,土臭く素朴な民謡風の主旋律と,ローマ期水準のドビュッシー和声を重ねて近代化しおおせます。併録された『弦楽交響曲』でもこの傾向は変わらず。というのもこの曲は,事実上1919年に書かれた弦楽四重奏曲の管弦楽編曲版。実はパレーさん,1940年に作曲家として擱筆することを決めてしまい,この曲を書いた1944年は,既に引退後。アレンジ以上のことはやらなかったというわけです。で,どちらの作品も,聴後感は大同小異。良くも悪くも,新旧両方のイディオムのうえで巧みに平衡感覚を発揮している。そういえば同じ指揮者のアンゲルブレシュトもそうでした。新旧両方の演奏を務めなければならない指揮者の美意識というのは,こんなものかも知れません。演奏するは,歌曲集でも伴奏していたペローヌさん御用達の昇天祭オーケストラ。B級らしく垢抜けない音色ながら,意外なほど良心的な演奏はここでも不変です。ところでこのシリーズ,全てライナーはペローヌさんが直々に書いてるんですけど,どれも怖ろしく緻密。ちょっとした専門書に匹敵する内容で二度美味しい。とてもお買い得感のあるCDです。ほんとマニアの鑑のような方で,頭が下がりますねえ。

★★★☆
"Sonata for Violin and Piano / Sonata for Cello and Piano / String Quartet" (Grotto Productions : GP-0007)
Varty Manouelian, Marian Tanau (vln) James Van Valkenburg (vla) Robert deMaine (vc)
当地ゆかりの大指揮者パレーが大好きなデトロイトの司祭さんエドアルド・ペローヌ氏。ただの横好きにはとどまらず,とうとう自分でレーベルを作り,パレー作品集の録音を始めてしまいました。2004年発表の本盤はその第4集。シリーズ中で唯一,室内楽ジャンルへ目を向け,弦楽四重奏と2編の弦ソナタを併録。断るまでもないでしょうが,全曲世界初録音です。比較的初期(1908年)の『ヴァイオリン・ソナタ』は,フランクの流れを汲む懐旧的なロマン派ソナタ。村祭りの雇われ楽隊のような奏者の音色も手伝って,本家よりもずっと素朴で庶民的。1921年に書かれたチェロ・ソナタも,ところどころにモードの薬味を利かせつつも,基本はあくまで後期ロマン派。多彩な転調と,甘美な主旋律,デリケートなピアノの分散和音で丁寧に書かれた佳品。少しプロレタリア色の強まったフランクやフォレと思えば,ほぼイメージ通りの音が聴けるのではないでしょうか。いっぽう,1919年ダルムシュタットで捕虜となっていた当時に書かれた『弦楽四重奏』は声部の多さも手伝い,メンデルスゾーン風の肉付け。確かにどの曲も,ご本家様に比べたら確かに旋律が冗長で薄味なのは認めます。けれど,これが世界初録音ですよ?もう少し浮かばれても良かったのに・・との思いを禁じ得ませんでしょう。指揮者として成功し,海向こうに行ってしまったのが徒になってしまったんでしょうか。勿体ない話です。演奏するはご当地メンバー。第一ヴァイオリンのマヌエリアン女史はブルガリア出身で,ソフィアの国立アカデミーを出ている才媛。ヴィオラはデトロイト響の副首席。第二ヴァイオリンは地元音大の演奏助手で,チェロはクレイン国際(聞いたことないです・・)優勝者。かなりビミョーな顔触れからもご想像頂ける通り,チェロを筆頭に屠殺前のニワトリ・テイストの入った,お世辞にも磨かれているとは言い難い音色。それでもまあ,どさ回りメンバーによるどマイナー作家の解題な割には,聴くに堪えるレベルなんじゃないでしょうか。技術の至らなさを超えて好き好きビームが後光のように差してくる演奏に頬が緩みます。

(2004. 3. 4)