Sの作曲家



ギュスターヴ・サマズィーユ Gustave Samazeuilh (1877-1967)

フランスの音楽理論家,批評家,作曲家。本名ギュスターヴ・マリー・ヴィクトル・ファルナン・サマズィーユ(Gustave Marie Victor Fernand Samazeuilh)。1877年6月2日ボルドーの銀行家の家に生まれ,音楽を愛好した父の影響で音楽に親しむ。当初は法科に進んで学位を得たが,その後音楽の道を志し,パリ音楽院へ進んでエルネスト・ショーソンの最後の弟子の1人となり,ポール・デュカにも師事。1899年にショーソンが他界すると,翌1900年からはスコラ・カントールムに転じてヴァンサン・ダンディ,シャルル・ボルドにも学んだ。当初はワグネリズムに傾倒。シブール(Ciboure)に居を構え,『トリスタンとイソルデ』の仏語版翻訳,ポール・デュカに関する評伝(1913年),『当代作曲家群像』(1947年:M.Daubin刊)などを執筆し,批評家および理論家として名声を博した。親友のラヴェルとは生涯に渡って交流があったが,作曲家としては12才で『ペレアスとメリザンド』の初演を聴き,1896年に邂逅したドビュッシーの直接的な影響下にあり,「ドビュッシスト」を自認。寡作ながら印象主義色顕著な作品を遺す。編曲家としても活躍し,100曲以上にわたって,仏近代作曲家の管弦楽曲をピアノ版に編曲している。1967年8月4日パリにて死去。


主要作品

管弦楽曲 ・喜遊曲とミュゼット divertissement et musette (1902) {fl, ob, cl, bssn, hrn, 2vln, vla, vc /small orch}
・交響的練習曲 étude symphonique (1906) {orch /2p}
・夕べのナイアード naïades au soir (1925)
・夜 nuït (1925) {orch /2p}
・セレナード sérénade (1925) {orch /g /hrp /p}
・流浪の民 gitanes (1931)
・舞踏への招集 l'appel de la danse (1944)
器楽曲 ・哀歌風の幻想曲 fantaisie élégiaque (1897/1914) {vln, p}
・弦楽四重奏曲 quatuor à cordes en fa mineur (1900) {2vln, vla, vc}
・ヴァイオリン・ソナタ sonate pour violon et piano en ré mineur (1903) {vln, p}
・スペインの素描 ésquisses d'Espagne (1914) {fl, p}
・スペインの歌 chant d'Espagne (1925) {cl(vc), p}
・蛍 luciole (1934) {cl(fl), p}
・弦楽三重奏のための組曲 suite en trio (1937) {vln, vla, vc}
・組曲 suite (1937) {2vln, vla, vc}
・カンタービレと狂想曲 cantabile et capriccio (1948) {2vln, vla, vc}
・2つの(短い)小品 deux pièces (brèves) (1948) {vc(vla), p}
・ラメント・エ・モート・ペルペチュオ lamento et moto perpetuo (-) {vln}
・前奏曲 prélude (-) {org}
歌曲 ・ l'âme des iris (1897) {vo, p}
・日本趣味の古美術品 Japonnerie (1900) {vo, p}...
J.Lahor詩
・心のひと葉 feuillage du coeur (1903) {vo, p}...
M. Maeterlinck詩
・ dans la brûme argentée (1907) {vo, orch}...
A.Samain詩
・2つの詩歌 deux poèmes chantes (1925) {vo, orch}...Maeterlinck, De Régnier詩
・スペインの歌 chant d'Espagne (1925) {vp, p(orch)}
・繰り返す時間 cercle des heures (1933) {f-choir, orch}
・優しさ tendresses (-) {vo, p}
ピアノ連弾 ・カノプス壺の太陽 sommeil de canope (-) {2p}
ピアノ独奏 ・組曲 suite en sol (1902/1911)
・ピアノ・ソナタ sonate pour piano (1902)
・わたしの人形に送る歌 chanson à ma poupée (1903)
・3つのインヴェンション trois petites inventions (1903)
・夕暮れの妖精 naïades au soir... (1910)
・海の歌 le chant de la mer (1918)
・セレナード sérénade (1925)
・夜想曲 nocturne (1938)
・素描 esquisses (1944)
・祈り evocation (1947)


サマズィユを聴く


★★★★
"Le Chant de la Mer / Suite en Sol / Trois Petites Inventions / Esquisses / Évocation" (Atma : ACD 2 2210)
Stéphane Lemelin (piano)
ギュスターヴ・サマズィユは1877年ボルドーに生まれた作曲家。しかし,一般には作曲家としてよりも,ラヴェルに関する論考のほうで知られているんじゃないでしょうか。実際私も長いこと,この人は評論家だとばかり思ってました。そんな認知度を反映してか彼の作品がCDになった例は非常に僅少で,小生が知っている限りではマリー・カテリーヌ・ギローが3Dに録音したデュポンの『砂上の家』に,カップリングで本CDにも入っている『海の歌』が収録されていたのを聴いたくらいです。しかし,ショーソンに学んだのちスコラ・カントールムへ転じてダンディ,デュカにも師事したくらい作曲は本格的にやっていた人物ですから,これまでロクに録音して貰えなかったのは不遇と言わねばならないでしょう。彼の作風はこれ以上ないほど典型的なドビュッシアン。代表作『海の歌』は,ドビュッシーの代表作『海』と,モチーフはおろか3楽章に激情的で不穏な曲を持ってくる構成まで一緒。『版画』と『映像』を足して二で割ったような音使いはそっくり以上ですし,ときにはドビュッシーのフレーズまでそのまんま出てきたりして・・もはや剽窃の一歩手前。よっぽど心酔してたんでしょうねえ。尤も併録で入ってる初期作品には,『インベンション』というだけあって擬古典的で印象派版バッハみたいなものもあり,理論家の面目躍如。ピアノを弾くルムランはケベック州生まれのカナダ人で,エール大学の博士号を取った研究者。国際的な受賞経験はカサドシュ国際の入賞くらいでソリストという感じの人ではなく,ベタ踏みのペダルにそれが集約されてますけれど,サマズィユ一本でCDを作るというコロンブスの卵ぶりは彼の博識が最大限に発揮されたものといえるでしょう。

★★★★★
"La Maison dans les Dunes (Dupont) Le Chant de la Mer (Samazeuilh)" (3D Classics : 3D 8020)
Marie-Catherine Girod (piano)
フレムやエマニュエル,フェルーなど,知名度に恵まれない仏近代の作曲家を数多く救済してくださる仏近代愛好者のジャンヌ・ダルクこと名手マリー=カトリーヌ・ジローの演奏によるデュポン。『憂鬱な時間』から僅か2年弱ほどの時間しか経過していない計算になりますが,ここに収録された『砂上の家』は一転,同じ作曲家とは思えないほどの名品。書法は一気に旋法的な自由度が増し,デリケートな分散和音が叙述的な効果を挙げる。同じく分散和音を多用して,けばけばしい形式から,心象の靄の中へ次第に逸脱していったドビュッシーの名品『映像』「〜水の反映」さながらの展開に唖然としました。加えて素晴らしいのがジローのピアノ。打鍵の一音一音,ペダルのひと踏みにいたるまで推敲が行き届き,静謐な情感をたたえた,特筆すべき名演であると思います。彼女は1980年代前半に,鬼神の如くすさまじいデュティーユのソナタも吹き込んでいる凄腕。その慧眼も,想いを音に乗せる確かなテクニックの裏付けがあるからこそ生きる。併録のサマズィユは,ラヴェルの論考でも知られる作曲家。もとはワグナーやフランクの影響から出発したとは思えないほど,印象主義の影響顕著。透明感のある分散和音と,頑迷な拍動から適度に解き放たれたリリシズムの妙。まさしく2度美味しい。もう何も言うことはないっ!ない!ドビュッシー世代の音楽が好きな全ての方に,甲種大推薦いたします。(付記:本CDの入手に際してはmyaさんのご助力を頂きました。有り難うございます)

★★★★
"Quatuor à Cordes en Ré Majeur (Franck) Quatuor à Cordes en Ré Mineur (Samazeuilh)" (Calliope : CAL 9889)
Le Quatuor Joachim: Zbigniew Kornowicz, Jonna Rezler (vln) Marie-Claire Méreaux (vla) Laurent Rannou (vc)
相変わらず日の当たらない可哀相な作曲家サマズイユさんに,珍しい弦楽四重奏曲の録音です。併録のフランクは1890年1月と,まさしく最晩年に書かれた作品。ベートーベン《四重奏》の影響力があまりに大きかったため,当時のフランス人がみな弦楽四重奏を避けたという話は有名ですけど,フランクもこの曲を書くにあたっては,御大やブラームス,シューベルトの四重奏曲を随分研究したとか。それが災い半ばしてか,3曲が10分を超える長尺で,表情もやや硬め。ソナタに比べると旋律線はいかにもドイツ・ロマン派臭いですし,循環形式もちょっと取って付けたような印象を拭えません。それでも,生真面目そうな律動のそこここに,慎み深い叙情のチラリズムが潜んだ本品は,地味な魅力を放つ佳品ではありましょう。いっぽうサマズィユの『四重奏』は1900年,20代前半の若い時期に書かれた作品。まだドビュッシーの影響は薄く,書法はフランク基調のロマン派で,循環形式。しかし主題の一部に出てくる音型が,ドビュッシーの『夢』に出てくるモチーフとうり二つだったりと,随所に小さなサプライズが。ベートーベン御大を前に萎縮したかのようなフランクの四重奏に比べ,若く自信満々でもあったろうサマズィユの四重奏は,特にリズム面で格段に生き生きとしており,いかにも若く野心含み。象徴的な第二楽章は,まさしく彼のドビュッシー傾向を予見させる佳品。上の空で授業を聞きながら,外の景色を眺める学生みたいな作品といえましょう。ヨアヒム四重奏団は1984年に結成され,ピカルディ文化省から助成を受けながらアミアンを拠点に活動するアンサンブル。初めて聞くお名前ですけれど,先に録音したダンディの四重奏曲全集でディアパゾン誌から5音叉をもらった実力は伊達ではありません。仏人じゃないからでしょうか。第一ヴァイオリンの音色にやや癖があり,少しフラット気味なのは気になるものの,なかなか良好な演奏と思います。

(2003. 2. 13)