Sの作曲家

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フローラン・シュミット Florent Schmitt (1870-1958)

フランスの作曲家。ドイツ系。フロラン・シュミットとも表記する。1870年9月28日仏ロレーヌ県ブラモン(Blamont)生まれ。ナンシーで2年,ピアノと作曲を学んだ後,1889年10月からパリ音楽院へ進み,和声法をアルベール・ラヴィニャックとテオドール・デュボワ,対位法をアンドレ・ジェダルジュ,作曲法をジュール・マスネー,ガブリエル・フォーレに師事。ローマ大賞は4度挑戦し,1897年にカンタータ『フレデゴンド』でローマ大賞第2位,1900年にカンタータ『セミラミス』でローマ大賞獲得。後期ロマン派の甘美な叙情を基調に持ちながらも,いっぽうではドイツ的な形式美も併せ持ち,フォーヴィズムを大胆にとりいれつつ,強靱な躍動感と絢爛たる和声,圧倒的な構成力を利した野趣溢れる作風を得意とした。デュカ同様,シェーンベルクら先鋭的な作曲家と同時代にあっても迷うことなく,あくまで伝統的な書法に立脚してオリジナリティ溢れる作風を堅持したところからアンデパンダン(独立独歩の人)と呼ばれる。1922年から1924年にかけてリヨン音楽院の院長を務め,1936年にはポール・デュカの後を継いでパリ音楽院の院長も経験した。現代音楽の擁護者としても知られ,フランスにおける近代音楽と,現代音楽との中心的な橋渡し役となった。1958年8月17日ヌーイー=スュル=セーヌ(Newilly-sur-Saine)にて没。


主要作品
※Marceron, M. 1959. Florent Schmitt. Paris: Ventadour.
Hucher, Y. 1960. L'oeuvre de Florent Schmitt. Durand. を入手。時間があり次第完全版となります。

舞台作品 ・フレデゴンド frédégonde (1897)
・セミラミス sémiramis (1900) {vo, choir, orch}
・詩編第47番 psaume XLVII (1904) {sop, org, choir, orch}
・サロメの悲劇 la tragédie de Salomé (1907)
・アントニウスとクレオパトラ Antoine et Cléopâtre (1920)
・小さな妖精は目を閉じる petit elfe ferme l'oeil (1924?)
・オリアーヌと愛の王子 Oriane et le prince d' amour (1933)
合唱曲 ・6つの合唱曲 six choeurs (1933) {f-choir, p}
・光の祝祭 fête de la lumière (1937) {sop, choir, orch}
・よい声で en bonne voix (1938) {f-choir}
・3つの三部合唱曲 trois trios (-) {f-choir, p}
・いきいきとした声で de vive voix (-) {f-choir}
・5つのリフレイン cinq refrains (-) {f-choir, p}
管弦楽曲 ・野外音楽 musique de plein-air (1897-99)
・交響的練習曲「幽霊屋敷」 étude symphonique 'le palais hanté' (1900-1904)
・ドイツの想い出 reflets de l'allemagne (1905)
・夢 rêves (1913)
・アビサグの踊り danse d'Abisag (1925)
・ロンド・ブルレスク ronde burlesque (1927)
・交響曲「ジャニアナ」 symphonie 'Janiana' (1941)
・交響曲第2番 symphonie No.2 (1958)
協奏曲 ・伝説 légende (1918) {sax, orch}
・協奏的交響曲 symphonie concertante (1928-1931) {p, orch}
・ハベイッセー habeyssée, suite pour violon et orchestre (1947) {vln, orch}
・三部の組曲 suite en trois parties (1955) {tp, orch}
映画音楽 ・サランボー salammbô (1925) {choir, orch}
吹奏楽曲 ・セラムリク sélamlik (1906) {winds}
・ディオニソスの祭り les Dionysiaques (1913) {winds}
・サクソフォーン四重奏曲 quatuor pour saxophones (1941) {4sax}
室内楽曲 ・トレ・ラン très lent (-) {vln, vc, p}
・悲歌的な歌 chant élégiaque (1899-1903) {vc, p}
・五重奏曲 quintette (1901-1908) {2vln, vla, vc, p}
・リートとスケルツォ lied et scherzo (1910) {2fl, 2ob, 2cl, 2hrn, 2bssn}
・2つの小品 deux pièces (1911) {hrp}
・2つの声部の結びあった自由なソナタ sonate libre en deux parties enchainées (1918-1919) {vln, p}
・ロカイユ趣味の組曲 suite en rocaille (1934) {fl, vln, vla, vc, hrp}
・三重奏のソナティヌ sonatine en trio (1935) {fl, cl, p}
・偶然 hasards (1939) {vln, vla, vc, p}
・トゥール・ダンシュ(吹奏三重奏団の名称?)に Tour d'Anches (1947) {cl, fl, ob, p}
・弦楽三重奏曲 trio à cordes (1944) {vln, vla, vc}
・弦楽四重奏曲第2番ト長調 quatuor à cordes No.2 (1945-1948) {2vln, vla, vc}
・貿易風 chants alizés (1952-1957) {fl, ob, cl, hrn, bssn}
ピアノ曲 ・夜 soir (1890-1896) {p/orch}
・秘められた音楽 musiques intimes (1891-1901)
・ローマの夜 nuits Romaines (1901)
・旅の手帳 feuillets de voyage (1903)
・ドイツの反映 reflets d'allemagne (1905) {2p}
・3つの狂詩曲 trois rapsodies (1903-1904) {2p}
・6つの練習曲 six études (1900-1908)
・ロマンティックな小品 pièces romantiques (1900-1908)
・黄昏 crépuscules (1913)
・3つの影 ombres (1917-1920)
・2つの幻影 deux mirages (1920)
・ポール・デュカの墓 tombeau de Paul Dukas (1936)
・形ばかりの組曲 suite sans esprit de suite (1939)
・服従するクラブサン clavecin obtémperant (1939)
・小さなゼスチュア small gestures (1940)
・前奏曲 prélude...pour une à venir (1948)
・操り人形 pupazzi (-)
・子どもらしさ enfants (-)
・小さな音楽 petites musiques (-)
・壊れた鎖 chaîne brisée (-)
歌曲 ・3つの歌 trois chants (1892-1895) {vo, p}
・湖上の夕暮れ soir sur le lac (1898) {vo, p}
・4つの歌 quatre lieds sur des poèmes de Richepin, Maeterlinck (1901-1912)
・ケロブ=シャル Kérob-Shal (1920-1924)
・ロンサールの4つの詩 quatre poèmes de Ronsard (1940) {vo, orch}


シュミットを聴く


★★★★★
"Symphonie Concertante / Rêves / Soirs" (Auvidis-Valois : V 4687)
Huseyin Sermet (p) David Robertson (cond) Orchestre Philharmonique de Monte-Carlo
現在入手可能なシュミット盤で,小生が最も強く推薦するのはこのCD。アカデミーディスク大賞を始め,各国の音楽賞を総なめにした名盤です。推薦の理由はこのCDの持つ悪魔的なオーラの大きさ。しかも,その9割が,冒頭「協奏的交響曲」の第一楽章に集中します。この12分間はまさにカオス。めくるめく極彩色の分厚い和声が次々と叩きつけられては消え,全体は瞬間に形を変えながら変移。蠢動するリズム,断片化された旋律。それらが混一体となって巨大な推進力を生み出します。その劇的な構成力はただただ圧倒的。個人的にはこの作品,ラヴェルの「ピアノ協奏曲」と肩を並べる,近代ピアノ協奏曲の金字塔であると思います。シュミットの数ある傑作の中でも群を抜く逸品であるばかりでなく,これはフランス近代の巨大な潮流を総括した,壮大な野心作であると言えましょう。トルコ出身の超絶技巧セルメのピアノ,ロバートソンも大爆発。鬼気迫る熱演です。まさしくあのフランソワ/クリュイタンスのラヴェル協奏曲盤に匹敵する歴史的名盤であると断言致します。

★★★★☆
"Paul Paray conducts Dances of Death :
Mephisto Waltz (Liszt) / Danse Macabre (Saint-Saëns) / Dance of the Seven Veils (Strauss) / La Tragédie de Salomé (Schmitt)" (Mercury : 434 336-2)

Paul Paray (cond) Detroit Symphony
シュミットの代表作として有名な『サロメの悲劇』は,管見の限りでもCDになったものだけで3種類あります。その中で一枚をとなると,この盤が最右翼作でしょう。何でも急速テンポでマッシブに演奏してしまうご存じパレー/デトロイト響の演奏。時にそれは作品の秘めやかな叙情の園を乱暴に踏み荒らす粗忽者といった体に陥ります。しかし,この《サロメ》は意外なほど演奏の出来が良く,マルティノン盤などよりずっと音に厚みと推進力があり,マッシブ・オケの面目躍如といったところです。パレーは自分もワグナー流儀でいてドビュッシーに色目を使った舞台音楽を書いてましたから,きっとドラマチックなシュミット作品とは馬が合うんでしょうねえ。ちなみに,記憶が確かなら《サロメ》には,他にLPでアルメイダが振ったやつもあった記憶。誰かプレスしてくれないかな〜♪

★★★★☆
"Danse d'abisag / Habeyssée / Rêves / Symphony No.2" (Marco Polo : 8.223689)
Hannele Segerstam (vln) Leif Segerstam (cond) Rheinland-Pfalz Philharmonic
B級作家にB級オケのハーモニーでお馴染みのマルコ・ポーロにはシュミットの作品集だけで2つのCDがあります(さすがマルコはジパング漁りには手抜かりがないですね・・)。一方は原典版『サロメの悲劇』で,やや線が細いながら好内容。一方のこちらは録音僅少の秘曲を集めた管弦楽作品集で,演奏内容曲もマルコにしては出来が良くお薦めのCDです。「アビサグの踊り」は,王の間での踊り子の舞いを題材にした東洋趣味の作品。聴きものの「ハベイッセー」はイスラム民話に範をとり,複雑なリズムが織りなす躍動感溢れる作品で,シュミットの面目躍如たる小傑作です。ところで,チャイコフスキーを思わせる重厚な様式美と,美しい色彩美が光るシュミット最晩年の名品「交響曲第2番」の初演は,作者の亡くなる1958年のストラスブール音楽祭でのことですが,ミュンシュによる初演は数年前にCDになってユーロディスクから発売されました(いずれ紹介します)。作者はこの時88歳。会場を埋めた満員の聴衆からスタンディング・オベーションを浴びたそうです。

★★★★☆
"La Chute de la Maison Usher (Debussy) / Le Masque de la Mort Rouge (Caplet) / Étude pour 'le palais hanté' (Schmitt)" (EMI : CDM 7 64687 2)
Georges Prêtre (cond) Christine Barbaux (sop) François Le Roux (btn) Pierre-Yves Le Maigat (btn-bass) Jean-Philippe Lafont (btn) Frédérique Cambreling (hrp) Orchestre Philharmonique de Monte-Carlo
まず他にはお目に掛かれない『幽霊屋敷』のCDで,名匠プレートルが振ったおそらくは決定版。ここに並んだ3作品(ドビュッシー『アッシャー家の崩壊』,カプレ『赤い死の仮面』,シュミット『幽霊屋敷』)は,いずれも『黒猫』で有名な怪奇小説家エドガー・アラン・ポーの小説が元ネタという繋がり。シュミットの舞台作品では『詩篇』のほうが遙かに有名ですが,同時期の作品である『幽霊屋敷』もまずまずの佳品。間もなく開花する『サロメ』の豊かな叙情性と,不穏なバーバリズムの片鱗は,まだワグネリズムやロマン派の影響が濃く,大仰すぎるあまり時に散漫なこの作品からも充分に伺うことができます。フレム晩年の交響曲などお好きな方は,お気に召すのではないでしょうか。この盤では他にドビュッシーの『アッシャー家』も珍品。晩年の作らしく,有名な『ペレアスとメリザンド』などより数段深みと抽象性を増し,ちょうど『海』と『殉教』を歌劇ものの土壌の上で折衷したような充実の書法を堪能できます。カプレのオケ版も,室内楽版より良いです。

★★★★☆
"Psaume XLVII (Schmitt) / Psaume LXXX (Roussel)" (EMI : 0777 7 64368 2 1)
Andréa Guiot (sop) Gaston Litaize (org) Jean Martinon (cond) Orchestre National de l'O.R.T.F : Choeurs de l'O.R.T.F.
冒頭からラッパのファンファーレ。一気に怒濤の如く27分間,阿鼻叫喚のシュミット世界へと投入する『詩篇』はローマ留学の集大成。彼ならではの躍動感と極彩色の和声を散りばめて,絢爛たる音絵巻が繰り広げられる,初期代表作のひとつです。フル・オーケストラに加え,オルガンと合唱まで入っているだけに,その大仰な構成で彼としては大味な出来となっているきらいもあり,やや好みは分かれるところかも知れません。しかし,ちょうど当時,同じ《詩篇》を手がけたブーランジェと並べて聴くと,驚くほど似たところが感じられるこの作品,近代音楽史における分水嶺としてシュミットが果たした影響力なり功績の大きさを物語る作品といえるのではないでしょうか。大当たりもない分外れも作らない実直型指揮者マルティノンと仏国立放送管という豪華な布陣で,しかもルーセルの傑作「詩編第80番」と並べて聴けるこんな贅沢,そうそうあるものではありません。シュミットが気に入った(気になる)方はどうぞ(「サロメの悲劇」とのカップリングによる国内盤もあります)。

★★★★
"Salammbô - Trois Suites d'Orchestre" (Adès : 203592)
Jacques Mercier (cond) Yves Parmentier (choir-cond) Orhestre National d'Ile de France : Choeur de l' Armée Française
ギュスターヴ・フローベールの無声映画『サランボー』のために書かれたこの映画音楽は3部からなり,ドビュッシーの繊細な和声を効果的に採り入れながらも,既に独自のバーバルな作風を確立していたシュミットの面目躍如たる作品です。この作品は1925年の夏に書かれましたが,時間の都合からシュミットは,過去の自分の作品からフレーズや和声進行などを断片的に借用して済ませたのだとか。作品は後期の彼らしく,時に相当晦渋な表現があるものの,緩楽章における匂い立つような甘さは,紛れもなく彼がフォーレやマスネーの確固たる基礎の上に,より現代的な書法を展開していたことを物語ります。そこにフランス人としての彼が持つ,ひと味違ったバーバリズムの表出が見て取れますし,彼を単なる実験的な現代音楽家とは一段違うところに立たせている所以といえましょう。ついでながら本盤,演奏も良いです。

★★★★☆
"Quintette pour Cordes et Piano en Si Mineur" (Accord : 220982)
Werner Bartschi (p) Quatuor à Cordes de Berne
シュミットの作品の中では地味で目立たぬながら,ロマン派直系ならではの穏健な第2楽章が素晴らしい「五重奏曲」は外すことのできない佳品です。1908年と比較的初期のものであり,まだ後年の野蛮な拍動や呪術師和声は控えめで,むしろ彼の出発点であった後期ロマン派の流れを汲む仕上がりが基調。シュミットもきっと第二楽章は余程お気に入りだったのでしょう。カルヴェ四重奏団と作者自身の吹き込みが残っています(のち,新星堂とEMIが共謀して,この自作自演はCD化されました)。3楽章のうち2楽章に「レント」が冠されることを見ても,彼の作品では最も地味な部類に入る作品といえ,普段の呪術的な曲想からは想像もつかないほどに穏健。ちなみにこの曲はフォーレに献呈されましたから,いわば彼流の師匠へのオマージュという色合いの濃い作品なのでしょう。ベルヌ四重奏団,ウェルナー・ベルッチともさほど有名とは言えない顔触れながら,演奏はデリカシーに溢れ,大変に宜しいと思います。ちなみに本盤は,その後シャルル・クロ賞を貰ったようです。

★★★★☆
"Lied et Scherzo / Suite en Rocaille / A Tour d'anches / Chants Alizés" (Praga Digitals : PRD 250 156)
Prague Wind Quintet / Members of Czech Nonet / Petr Duda (hrn) Katerina Englichová (hrp) Daniel Wiesner (p)
プラハで活動中の,プラハ吹奏五重奏団とチェコ・ノネットとの混成メンバーによる,珍しいシュミット吹奏楽作品集。管見の限りシュミットの作品の中では,録音が少ない曲目ばかりだけに,嬉しいCDと申せましょう。『貿易風(Chant Alizés)』は他ではまず聴けない曲でもあり,しかもなかなかの佳曲で嬉しい限り。シュミット・ファンにはぜひご一聴いただきたい作品です。さらに輪を掛けて嬉しいのは,演奏陣の意外なレベルの高さ。プラハ五重奏団は1968年創設の比較的歴史の浅い楽団ですが,一方のチェコ・ノネットのほうは1924年にプラハ音楽院の学生を中心に創設された楽団とか。東欧圏の演奏にはあまり馴染みがありませんが,どうしてなかなかのもの。少なくとも,エラートの演奏イマイチ盤しかお見かけしなかった「ロカイユ趣味の曲」に,ファースト・チョイスと呼べるレベルの演奏が登場したのは喜ばしい限りです。

★★★★☆
"Sonate Libre / Trois Rapsodies / Hasards" (Auvidis-Valois : V 4679)
Régis Pasquier (vln) Bruno Pasquier (vla) Roland Pidoux (vc) Huseyin Sermet, Kun Woo Paik, Haridas Greif (p)
最近でこそ,少しずつ録音の増えてきたシュミットの室内楽作品。しかし,少し前までは,この録音くらいしかまともな室内楽作品集はありませんでした。幸運だったのは,その唯一の選択肢だった本盤の演奏が,大物揃いで見事だったことでしょう。ラヴェルのピアノ作品集,さらにはモンテカルロ響と組んだシュミットの『協奏的交響曲』と,続けざまに極上の録音を残し,密かに現代を代表する隠れ名匠と化しているフセイン・セルメのピアノに,パスキエ兄弟の弦も入る豪華な編成。演奏は生き生きと生気に溢れ文句のつけようがなく,事実アカデミー賞大賞を受賞したほどです。『3つの狂詩曲』は,初期のシュミットらしい,異国趣味の出た作品で,ポーランド,フランス,ウィーンの三楽章からなります。『自由な形式のソナタ』の原題は Sonate Libre en Deux Parties Enchaînées(2つの声部の結びあった自由なソナタ)ですが,ここには,当時の日刊紙 "L'Homme Libre(人民の自由)"が,後に"L'Homme enchaîné(人民の団結)"へと改名したことを皮肉った,作曲者一流の言葉遊びが隠れています。

★★★★☆
"Sonate Libre en Deux Parties Enchainées / Ombres" (Accord : 461 759-2)
Jean Fournier (vln) Ginette Doyen (p) Werner Bärtschi (piano)
ジャン・フルニエは,20世紀中頃に名ヴァイオリニストとして活躍した人物。『自由な形式のソナタ』における彼の演奏は,いかにもパリ楽壇のヴァイオリニストらしいハスキーで軽い音色の,柔和なヴァイオリンで演奏され,原曲の持つ復古趣味的な面が強調されてます。技術的な面で言うなら,ヴァロワ盤のほうが数段好い演奏なんでしょうけれど,こちらは細かい技術面のアラは気にせず,大らかに演奏されており,優劣というより解釈の違う演奏として,それぞれに楽しめるんじゃないでしょうか。同曲を既に知っている方には,むしろ併録の『3つの影』のほうがお薦め。シュミットの『五重奏曲』でも好演奏で印象を残したウェルナー・ベルッチの控えめながら堅実なピアノが素晴らしく,さらに輪を掛けて曲が素晴らしく良いですねえ。同時期に作曲された『2つの幻影』の好いところばかりを3つ集めたような,スクリャービンも真っ青の呪術・神秘主義世界です。その後,『影』については,下記ワグシャル盤も出ました。どちらか一枚といえば,技巧明晰なワグシャル盤のほうが上かも知れませんけれど,曲の持つ不穏な蠢動を的確に掴んでいるという点では,この録音はいまだにその価値を失っていないと思います。

★★★☆
"Six Choeurs / En Bonnes Voix / Trois Trios / De Vive Voix / Cinq Refrains" (Calliope : CAL 9307)
Régine Théodoresco (dir) Marie-Cécile Milan (p) Choeur de femmes Calliope
蠢動作家シュミットが残した合唱曲が,ついに全集で登場。うれぴ〜っ(死語)。書きようによっては幾らでも敬虔に響く合唱曲という題材を前に,シュミットの土人風バーバリズムはどうなるんだろ〜?と思って聴きましたが,合唱曲だろうがお構いなし。後年の彼らしく,ゴツゴツしたパーカッシブな不協和音のムチと,間に流れる,フォーレの嫡流ならではの甘美なアメとが交互に絡み合いながらシュミットならではの陰影を彫っていきます。初めて聞くカリオペ女声合唱団は16才から20才までと若いメンバーで構成された新進団体。詳しい経歴がないので何とも言えませんが,お名前からするとレーベルお抱えの合唱団でしょうか。既にプーランクの合唱曲集を録音しており,ディアパゾンで5ツ星を取った様子。初の合唱CD登場で満場一致の推薦といきたいんですがねえ・・中身にはやや問題が。まず合唱隊。不協和音も多くリズムもイレギュラーなシュミットを歌いこなすにはきめが粗すぎますし,ゆらゆら蝋燭の炎みたいな揺れ方をするビブラートも好みが分かれるところでしょう。さらに惜しむらくはピアノ!リヨン音楽院の教授らしいですが,ほんとにこの技量で教授?運指は粒が立たないし,ペダルも使いすぎです。さらに録音もペケ。残響掛かりすぎ。シュミットのようにパーカッシブな作品を録音するのにここまでべったり残響掛けたら,音が濁っちゃうとは思わなかったんでしょうかねえ?

★★★★☆
"Crépuscules / Ombres / Pièce pour Le Tombeau de Debussy / Enfants" (Saphir : LVC 001055)
Laurent Wagschal (piano)
かなり前にSolsticeから一枚。その後東欧の謎レーベルから一枚出たっきり,ロクなCDのないシュミットのピアノ曲集。会心の出来と思われるのはせいぜいオグドンの『幻影』くらいでした。不毛なこの大地に,ようやくばっちり弾ける人物の降臨です。奏者はパリ音楽院でイヴォンヌ・ロリオとベロフにピアノを,ジャン・ミレールとイヴァルディに室内楽を学び,プルミエ・プリを獲得した若手。その後1996年のトラパニ国際1位,1997年のフローレンス国際2位を受賞しました。本盤に先駆けて,ドビュッシーのお師匠さんの一人としてしか知名度のないマルモンテルのピアノ・ソナタ集を録音し,ディアパゾン5音叉。最近珍しく男気溢れるお方です。本盤も,既にルモンド誌で四つ星,ディアパゾン5つ音叉を獲り,一定の評価は固まっている・・と聞いて,あれれと思った貴殿は鋭い。どれも次点なんですね。技術的にはほとんど文句なし。しかしながら,シュミットをやるには若すぎ,解釈面で引っかかりが残る。鍛え上げられた筋肉の,ゴツゴツとしていながら艶めかしい流線型。その弾力性を譜面から再現前できなくては,シュミットのピアノ曲はみるみる澱んでしまいます。象徴的なのはオグドンとモロにかち合う「ドビュッシーの墓」(『幻影』第1曲)。技術的には決して引けを取っていないにもかかわらず,過多なペダリングは重度に交錯するブロック・コードの残響に濁りを与え,無意味に仰々しいルバートは,オグドンからは確かに感じることのできる呪術性と情念の鈍い輝きを殺してしまう。惜しいなあ・・。ただ,これはあくまで贅沢レベルの話。手薄だったシュミットのピアノ曲へ,これだけ見事に演奏された選択肢を提供した本盤の価値は巨大でしょう。後期ロマン派形式ながら,転調と激情性において異教徒的な『憂鬱』に聴ける確かな運指技巧や襟の整った崩しでは,奏者も本来の彼の美点を十全に披瀝。こちらは目の覚めるような名演奏です。しかし,この録音に満点をやらない海外の批評家の審美眼と良心。大したものだと感心しました。ちなみにピカソ紛いなジャケットの絵はアルベル・グライゼが1914年に書いたシュミットの肖像なんだそうです。

★★★★
"Andante et Scherzo (Bozza) / Quatuor pour Saxophones (Desenclos) / Petit Quatuor pour Saxophones (Françaix) / Grave et Presto (Rivier) / Quatuor pour Saxophones (Schmitt) / Introduction et Variations sur une Ronde Populaire (Pierné)" (Etcetera : KTC 1104)
Aurelia Saxophone Quartet
幸か不幸か,クラシックへの理解がドイツに偏っている我が国で,フランス近代の作品が最も頻繁に紹介されているのは,吹奏楽ないし器楽の領域。吹奏楽部や若手ソリストのコンクールなどでは,技巧的にも楽曲の解釈面でも至難なフランス近代の小品が,課題曲として採用されるためです。シュミットの「サクソフォーン四重奏曲」は,同じく本盤に入っているデザンクロの「サクソフォーン四重奏曲」と並んで,一般には知られていないくせにこの楽器に関わる人は皆知っている,妙な逆転現象のただ中に置かれた代表的な逸品と申せましょう。どこにも打楽器が入っていないのに,ノームが踊り狂うかのようなアヤシイ躍動感はやっぱり彼です。僅か2分半。第2楽章の「ヴィフ」における書法の天才的な閃きといったら!ただただ “Masterful” というしかございません。おまけに原曲のもつ【1/f揺らぎ】の妙を,オーレリア四重奏団が実に巧く捉えている。技術的にはこれより上の演奏は多々あるでしょうが,譜面に頼っている限り,この即興性はそう出せるもんじゃないでしょう。他にも秘曲揃いの本盤,演奏家にも近代マニアにもお薦めです。

★★★☆
"Musiques Intimes op.16, op.29 / Nuits Romaines / Small Gestures / Prélude..pour une suite à venir" (Gega New : GD 249)
Ivo Kaltchev (piano)
最近は随分発掘や再発が進んだシュミットですが,ことピアノ曲集となると,数年前Solsticeから一枚出たっきり。似た作風のスクリャービンが再評価される一方で,相変わらず日当たりが悪い彼に同情を禁じ得ません。滅多にお見かけしない演目ばかりを並べたこのCDはそんな中,貴重な貢献といえましょう。こんな辺境に光を当ててくれる人物,無論ただのピアノ弾きであろう筈はなく,ブルガリア出身ながらエール大修士,ルトガース大博士を経て,現在はワシントンDCのカソリック大で教鞭を執る研究者。音源不足の痒いところに充分配慮しつつ,シュミットとは思えないほど簡素なシューマン風の初期作を中心にして,掉尾にスクリャービン紛いの静かな狂気が横溢した絶筆を持ってくる心憎い選曲にゃ喝采を叫ぶしか御座いませんでしょう。ただ,幸か不幸か演奏そのものになると,二足の草鞋なぶん感動も目減り。パッセージが細かくなると運指やペダルのアラがちらつき,些か技量不足な感は否めませんし,研究者だけに曲の解釈も譜読み的で冷めている(逆に,シューマン風の簡素な作品を多くしたのはそれらを目立たなくする意図によるのかも知れない)。分を弁えて裏方に徹し,演奏は本職のピアノ弾きに任せる積極的な意味での奥ゆかしさがあれば素晴らしいんですが,なかなかそういう傑物はいないっちゅうことなんでしょうなあ。

★★★★☆
"Waltz No.3, No.4 (Shostakovich) Chôros No.2 (Villa-Lobos) Sonatine en Trio (Schmitt) Sonate (Milhaud) Sonatine (Jolivet) Sonate (Emmanuel)" (EMI : 7243 5 57948 2 6)
Les Vents Français : Paul Meyer (cl) Emmanuel Pahud (fl) François Meyer (ob) Eric Le Sage (p)
演奏に関しては,ほぼ自動的に何も申し上げることのない腕利き三名が組んで制作した,フランス絡みの作品集。抜粋編曲してまでショスタコを加える高邁な意図は良く分からないものの,雰囲気は乱しておりません。この鬱々鋼鉄作家が,まさか初期ショパンも真っ青の,瀟洒でキッチュなワルツを書くとは思いませんでした。というわけで,残る楽曲の作風はどれも,小洒落たパリ娘のように軽やかな擬古典様式が基調です。しかし,素地はあくまで素地。ロボス氏は,ポリモーダルに2声が絡み合う伴奏なしの筆致をとり,シュミットはいつも通り,野蛮な変拍子と素っ頓狂に跳躍する主旋律,細部に仕組まれた異教徒趣味漂う和声使いで,きっちり自己主張。ミヨーは初期らしく多調とバカっぽい戯画リズムで換骨奪胎し,ジョリヴェは解決をみない無調寄りの主旋律が,聞き手の心に不安感を落とします。古楽研究者らしく,あくまで典雅な節回しと,ドビュッシーの同窓生も頷ける精緻な和声とを融合するエマニュエルでの演奏は,競合盤のジロのものより流麗で淡泊で,技術的にも解釈の上でも怖ろしくハイレベルに競合しますし,名のある演奏家の演奏は滅多に見ないシュミットのソナチヌは,「貿易風」や「リートとスケルツォ」の流れを汲む充実の筆致といいところばかり。欲を言えば,元々素材が小品集ばっかだからか,どの曲もやや軽めの曲想で些か聴き応えに乏しいことですか。それでも演奏は技術的にも見事ですし,ドビュッシークラスを入れない選曲も適度にマニアックで宜しいんじゃないでしょうか。

★★★★
"Matrix 27 :
Piano Sonata (Dutilleux) / Deux Mirages (Schmitt) / Piano Sonata (Dukas)" (EMI : 7243 5 65996 2 8)

John Ogdon (p)
スクリャービンやソラブジの録音で知られる英国人オグドンは,かつて1962年のチャイコフスキー国際でアシュケナージと賞を分けたほどの俊才でした。しかし,精神疾患を煩った彼の録音は出来不出来の差が大きく,本領を発揮したものは僅少。加えてマニア向けの録音が多く,それが過小評価に輪を掛けてしまったのは残念としか言い様がありません。本盤はそんな彼が,ロマン派〜バーバリスト〜無調の各主義から一編ずつピアノ作品を選曲した録音です。精神状態の波が激しかったのでしょう。運指のもつれやミスタッチが頻出する技量は,決して感心できるものではありません。デュティーユについては献呈者である奥さんの演奏や,個人的には最強と思われるジロの怪演に比べるといかにも運指が辿々しいですし,デュカについてはさらに問題外。この二編が目的で買おうとなさる方には,他盤を薦めたいところです。しかし唯一,シュミットの素晴らしい演奏が含まれているがゆえ,本盤には看過できない価値がある。その後,この曲に関しては3盤の対抗馬が世に出ましたが,この作品の持つ異教徒的な蠢動と秘めた狂気を,オグドンほど的確に描写した演奏はいまだ存在しません。特にピアノを演奏なさる方で,シュミットの「2つの幻影」に挑もうとされる方。ぜひこの録音を耳に入れて欲しい。狂気を知る者ゆえに描出できた,音符の連なりの奥にある情念が,この演奏を不朽のものとしています。妖気をまとわない「幻影」なぞ,ただのみすぼらしい影絵であることを,この録音は雄弁に物語ってくれることでしょう。

★★★★
"Sillages (Aubert) / Tombeau de Claude Debussy (Dukas; Roussell; Malipiero; Goossens; Bartok; Schmitt) / Tombeau de Paul Dukas (Schmitt) / Clairs de Lune (Decaux)" (3D : 3D 8005)
Marie-Catherine Girod (piano)
大勢に媚びない近代ファンのジャンヌ・ダルクことギロー女史のCD中でも,これは最もロコツに趣味丸出しの一枚。マルコ盤くらいしか見たことのないオーベール,1曲しか知られていないドゥコーなど激マニアな選曲で面目躍如。ドゥコーはフランス人ですが,シェーンベルクの無調技法にいち早く反応した先見の明の持ち主。ドビュッシーが『映像』を書いていた当時,彼と同じくらいハイな作曲家がここにもいたのかと感心しきりです。ドビュッシー同様,旋律や形式はかなり霧散していますが,ドゥコーのそれは無調との境界線上に位置しているため,口当たりはより晦渋で,前衛度も高い。『6つの古代の墓碑銘』あたりを聴ける方にのみお薦めします。一般の近代ファンにはむしろ,併録のドビュッシー追悼企画が興味津々なのでは。依頼された各作曲家が,それぞれ微妙に異なるドビュッシーの音楽的側面に着目した小曲を持ち寄っている。もちろん追悼企画ゆえ響きは沈鬱なものですが,十全に印象主義の語法を駆使した色彩感溢れる響きの美学に酔います。余談ながらシュミットの追悼曲は『2つの幻影』の第1曲で,EMIにオグドンの演奏盤が。とわざわざ書くのは,オグドンの演奏の方が遙かに出来がよいからです。この曲がお好きな方は聴き比べてみてください。(付記:本CDの入手に際してはmyaさんのご助力を頂きました。有り難うございます)

★★★★☆
"A Saxophone for a Lady :
Rapsodie / Petite Pièce (Debussy) Légende (Caplet) Choral Varié (D'indy) Légende / Songs de Coppélius (Schmitt) Sonatine (Ravel)" (BIS : CD-1020)

Claude Delangle (sax) Odile Delangle (p)
前世紀初頭,ボストンにイライザ・ホール(Elisa Hall:1853-1924)という女性がおりました。地元の名士で外科医の夫を持ち,裕福だった彼女は,健康増進のため趣味でサックスを始めます。やがてボストン・オーケストラ・クラブの会長を務めるようになった彼女は,自分の演奏用に,欧州の作曲家へ次々と作品を委嘱するようになりました。『ある淑女のための作品集』という,限りなくナンパ盤を思わせるCDタイトルの真意はこうした経緯にあり,ジャケットの女性こそ,くだんのホール女史という訳。こうした事情を知れば,このCDの硬派さ加減はお分かり頂けることでしょう。演奏するのはパリ音楽院で教鞭を執るドゥラングル夫妻。ピアノ伴奏はオケに比べるとやはり物足りない感もありますけれど,ブレーズのインターコンテンポランにも抜擢されたソリストのサックスはコントロール完璧。素晴らしく甘美でビロードのように柔らかな音色は艶めかしく良く鳴り,演奏に関しては最近聴いたサックスものでは群を抜いての優秀盤。文句の付けようがありません。さらに,決して名品とまでは言えないものの,録音僅少なカプレの『伝説』を始め,ドビュッシーの珍曲『小品』,シュミットの『コッペリウスの歌』まで聴けるというおまけも付く。BISにはロクな盤がないと思っていましたが,これを聴いて反省しました。お薦め作。

★★★★
"Quatuor à Cordes" (SGR-EMI : SGR 8564)
Quatuor Champeil
大規模輸入盤店やアマゾーヌ(笑)に押されて,すっかり色を失っている国内のCD小売店。しかし,こういう企画は塔レコにゃできまい!とばかりに登場したこのCD,新星堂とEMIが共同で,珍しい歴史的音源のCD化を行ったシリーズのなかに含まれていたものです。このシリーズには他にも,カプレの名曲「七重奏曲」や自作自演によるシュミット「五重奏」を併録したCDもあり,企画はかなりの硬派。ロクに商売にもならないであろうシュミットの弦楽四重奏曲を,それでもプレスした採算度外視文化振興の心意気には乾杯するしか御座いません。シュミットの弦楽四重奏曲は殆ど録音を見かけませんが,これには理由があり,異常な難曲・大曲のため,そもそも本演奏ただ一つしか録音がないのだとか。このCDが登場するまでは,聴くことも叶わない一曲だったわけです。同趣向の「五重奏曲」と並んで,こちらもシュミットの全作品中でも特筆すべき秀作。パリ音楽院派のカルヴェ四重奏団の正統な後継者であったジャン・シャンペイユ率いる四重奏団の演奏で,そんな珍しい曲を聴けるこのCDは,まさにこの上なく有り難い再発といえるでしょう。惜しむらくは,時折ピッチを外したかの如く聞こえる箇所があること。旧録音ファンの方,これって録音のせいなんでしょうか?それとも難曲だから?

★★★☆
"La Tragédie de Salomé / Psalm 47 / Janiana / Suite en Rocaille / Lied et Scherzo" (Erato : 8573-85636-2)
Marek Janowski (cond) Orchestre Philharmonique et Choeurs de Radio France : Jean-François Paillard (cond) Orchestre Jean-François Paillard : Marie-Claire Jamet Quintet : Pierre Del Vescovo (hrn) Jean Hubeau (p) et al.
エラートが自社の旧録を再編しては2枚組でプレスし直しているウルティマ・シリーズから,シュミットが出るとは思いませんでした。同じ企画盤を出して貰えたのは六人組でもミヨー,オネゲル,プーランクくらい。思わざる福音で,「彼もオネゲルと同格扱い!」と欣喜雀躍。本来なら諸手をあげて大喜びと行きたいんですけど,惜しむらくはこのCD演奏が宜しくない。仏放送管の『サロメ』は,これまでの幾多の盤が皆その様式的重厚さを強調した解釈だったのに対し,流麗に流す新鮮な解釈でなかなかに面白いのは確か。しかし,合唱団を中心に力量は不足がちで,特に『詩編』ではそれが覆いようもなくあらわれてしまいます。後半の各曲がまとまってCDになるのは初めてでは?しかしこちらも演奏が気になります。パイヤール管はドビュッシーのコンピものでも演奏していますが,名前の割に弦の響きは雑だし,一体このオケのどこがそんなに評価されているのか小生には皆目分からん。そもそもパイヤール管弦楽団って,近代物に向いているんでしょうか?内容以前に,制作者側の近代物に対する意識が低すぎるのではないかという気さえして参ります。選曲満点,演奏50点のCDと申せましょう。

★★★★
"Fanfare pour Précéder La Péri (Dukas) Fanfares Liturgiques (Tomasi) Fanfare pour un Sacre Païen (Roussel) Cérémonial (Delerue) Fanfares pour Britannicus (Jolivet) Fanfare pour le Martyre de Saint Sébastien (Debussy) Interlude (Durey) Fanfare d'Antoine et Cléopâtre (Schmitt) Olympus* (Talgorn)" (Euromuses : EURM 2010)
Michel Becquet, Frédéric Talgorn* (dir) Les Cuivres Français
20世紀フランスのファンファーレ集(Fanfares Françaises du XXe Siècle)と題された本CDは,ピエール・ヴェラニーにも吹奏楽とピアノのための小品集を録音していたミシェル・ベケ,ティリー・カン,アンドレ・カザレを中心に,バスチーユ管,仏放送,オペラ歌劇場,イルドフランス管の楽団員が集まって1989年に編成された,フランス金管楽団による1992年録音。何をおいてもこのCD,ご覧の通り選曲が何とも魅力的。CDでは初めての録音ではないかと思われるシュミットを筆頭に,ドラリュー,デュレと,マニア受けも充分に計算しつつ,金管ファンファーレだけでアルバム一枚を構成するしたたかな仕立てはさすがと言わねばならないでしょう。さらに輪を掛けてこの盤を価値あるものにしているのが,名匠揃いの演奏陣。「ファンファーレ」の性格上,華やかな反面どうしても棘の立った響音になりがちな楽曲の表情を,実に滑らかに,柔らかく,表情を整えたまま演奏しおおせる技量の素晴らしさに感嘆しました。ジャンル的にやや偏ってはいますけれど,周到な演奏も相俟って,金管ファンならずとも充分広く愉しんでいただけるものになっていると思います。ちなみに掉尾の曲で指揮棒を執るフレデリーク・タルゴーンは,カリフォルニア在住の仏人作家。1992年オリンピックのテーマ曲を作った人物なんだとか。収録曲は,ティリー・カンの依頼を受け,くだんの曲を金管用に編曲したものなんだそうです。

★★★☆
"Werke für Saxophon und Orchester :
Légende (Schmitt) / Choral Varié (D'Indy) / Ballade (Tomasi) / Rapsodie (Debussy) / Scaramouche (Milhaud)" (Arte Nova : 74321 67510 2)

Johannes Ernst (sax) Vladimir Jurowski (cond) Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin
一昔前まで廉価版といえば海賊盤か,せいぜい聞いたこともないオケでミーハーな曲を下手に演奏するのを生業にしていたものですが,ナクソスが大きな成功を収めてからというもの,次々に廉価の優れたレーベルが出てきているのは誠に喜ばしいことです。アルテ・ノヴァもその一つ。シュミットの秘曲を始めこの通な選曲はどうでしょう。ベルリン放送響は,ウォルフ=フェラーリの素晴らしい演奏盤を残している玄人受けするオケ。期待は高まります。しかし,廉価だからでしょうか。演奏は今ひとつピリッとしません。サックスのエルンストも,甘美な響きと技巧で奮闘しますがもうひとつ突き抜けません。しかしこの見事な選曲!これで500円しないなんて,俄かには信じ難いことです。『伝説』はもともと,サックス好きの外科医夫人のために依頼を受けて書かれた作品。アマチュア向けだけに難しい技巧は控えていますが,それを補おうと考えたのでしょう。管弦楽の書き込みは極彩色で壮麗。こうした作品がもとで現代サクソフォン作品の夜明けが告げられたのだと思うと,厳粛な心持ちになります。

★★★☆
"Songs and Dances :
Masquerade (V. Persichetti) / Five Folksongs for Soprano (B. Gilmore) / Envelopes : The Dog Breath Variations (F. Zappa) / Serenade "Songs of the Night" (D. Gillingham) / Dionysiaque, No.1 (F. Schmitt)" (Mark : MCD-1116)

Eugene Corporon (cond) University of Cincinnati College-Conservatory of Music Wind Symphony
『ディオニソスの祭り』は,吹奏楽ファン御用達の作品として,意外にシュミットの中でも有名な作品です。録音は本盤のほかに,同曲を献呈されたパリ警視庁音楽隊による演奏を収めたものがあるらしいのですが,入手は至難です。そこで代わりにこの盤を。シンシナティ音楽院の吹奏楽団による演奏で,シュミットのみならず,滅多なことでは聴けない胡散臭いC級作家が楽しめる逸品といえましょう。多くはセミ・クラシック色が強く,プログレとクラシックの折衷みたい。そんな併録曲では,フランク・ザッパの2曲に驚きました。リズムは少々扁平ですが,無調の即物的な和声がなかなかジャジーで良いです。元ネタは1969年,未完に終わった映画のサントラとして作られた「アンクル・ミート」に所収されていたもの。小生,ザッパは好く知らないのですが,ザッパ好きのサイトなどを読む限り,実験音楽,ジャズ,ロックを混沌とミックスしたような,変態ロック・アンサンブル作品みたいです(笑)。彼はブレーズやヴァレーズとも親交が深かったそうなので,案外作品を聴いたら面白いかも知れないですねえ。実際,最近興味津々なんですよ。