Sの作曲家



エルヴィン・シュールホフ Erwin Schulhoff (1894-1942)

チェコの作曲家,ピアニスト。ユダヤ系。1894年6月8日プラハ生まれ。ドヴォルザークの推薦で10才にしてプラハ音楽院のピアノ科へ進み,さらに1906年にはウィーンへ留学してウィリ・テルン(Willi Thern)に,1908年にはライプツィヒでロベルト・タイヒミュラー(Robert Teichmuller)にピアノを,マックス・レーガーとステファン・クレル(Stephan Krehl)に作曲法を師事。さらに1913年からコローニュへも留学し,ラザーロ・ウジェリ(Lazzaro Uzielli),カール・フリードベルク(Carl Friedberg),フランツ・ボルシェ(Franz Bolsche),エワルド・ストラッセ(Ewald Strasser),フリッツ・スタインバッハ(Fritz Steinbach)に師事し,ヴューラー賞(Wullner-Prize)を得たほか,1913年にピアニストとして,1918年には作曲家として,二度のメンデルスゾーン賞を獲得した。第一次大戦でオーストリア軍に従軍後,1923年までドイツに居住。ここでダダイズムとジャズに触れ,また表現主義や印象主義などの進歩的な語法を学び,強い影響を受けた。プラハへ戻ってからは,国際的なピアニスト兼作曲家として活躍。しかし,1933年以降は台頭するナチスにより,徐々にそのキャリアを断たれ,歌劇『炎』の初演(ベルリン)は中止に追い込まれた。1930年代以降は作風を転じ,社会主義的リアリズムに傾倒。1941年にはソ連国籍も取得し,4月には渡航のためのビザを申請。6月13日には認可が降りたにもかかわらず,ドイツはソビエトに侵攻。彼は6月23日,プラハで拘束された。その後ババリア地方のワイゼンブルク近郊のヴュルツブルクの強制収容所へ移送され,1942年8月18日に同地で死去。


主要作品

舞台作品 ・神秘舞踏劇【オジェラーラ】 Ogelala: balletmysterium (1922-24)
・夢遊病の者:グロテスクな踊り Die Mondsuchtige: tanzgroteske in einem aufzug (1925) {1act} ...
Vitizslav Nezval台本
・モリエール【町人貴族】の音楽 Musik zum Le bourgeois gentilhomme von Mollière: suite für orchester (1926)
・音楽的悲喜劇【炎】 Flammen (1928/1932) {2act} ...
Joseph Benes台本
管弦楽曲 ・3つの小品 Drei stücke für streichorchester, op. 6 (1910)
 
1) Elegie im stile Edwars Griegs, 2) Menuetto im alten stil, 3) Pipa tanzt
・喜びの序曲 Joyful overture, (1913)
・セレナーデ Serenade für orchester, op. 18 (1914)
・8小節主題による32の変奏 32 variationen über ein achttaktiges eigenes thema für orchester, op. 33 (1919)
・室内管弦楽のための組曲 Suite für kammerorchester (1921)
・交響曲第一番 I. Sinfonie, op.50 (1925)
・祝典序曲 Festliches vorspiel (1929)
・放送用交響曲第二番 II. Sinfonie for Radio, op.81 (1932)
・交響曲第三番 III. Sinfonie, op.85 (1935)
・交響曲第四番 IV. Sinfonie, op.88 'Spanische' (1936-1937)
・交響曲第五番 V. Sinfonie, op.89 'A Romain Rolland' (1938)
・交響曲第六番 VI. Sinfonie 'Freiheitssinfonie', op.94 (1940-1941)
・交響曲第七番 VII. Sinfonie, op.98 'Eroica' nach der klavierskizze fur groses orchester (1941)
・交響曲第八番 VII Sinfonie op.99 (1942) ...
草稿のみ
協奏曲 ・ピアノ協奏曲 Konzert für klavier und orchester, op. 11 (1913-1914) {p-orch}
・ピアノと小管弦楽のための協奏曲 Konzert für klavier und kleines orchester 'Alla jazz', op. 43 (1923) {p, small-orch}
・フルート,ピアノのための二重協奏曲 Double concerto for flute, klavier und orchester (1927) {fl, p, 2hrn, strings}
・弦楽四重奏と吹奏楽のための協奏曲 Concerto for string quartet and wind orchestra (1930) {2vln, vla, vc, winds}
器楽曲 ・ヴァイオリン・ソナタ Sonaten für violine und klavier (1913) {vln, p}
・チェロ・ソナタ Sonaten für violoncello und klavier (1914) {vc, p}
・低声のうぐいす Bassnachtigall: Drei vortragsstücke für kontrafagott (1922) {bssn}
・5つの小品 Five pieces for string quartet (1923) {2vln, vla, vc}
・六重奏曲 Sextett für 2 violinen, 2 bratschen, und 2 violoncelli (1920-24) {2vln, 2vla, 2vc}
・弦楽四重奏曲第1番 I. Streichquartett (1924) {2vln, vla, vc}
・弦楽二重奏曲 Duo für violine und violoncello (1925) {vln, vc}
・小管弦楽曲 Concertino per flauto, viola e contrabasse (1925) {fl, vla, b}
・弦楽四重奏曲第2番 II. Streichquartett (1925) {2vln, vla, vc}
・喜遊曲 Divertissement for oboe, klarinette, fagott (1925) {cl, ob, bssn}
・ヴァイオリン独奏のためのソナタ Sonaten für violine-solo (1927) {vln}
・フルート・ソナタ Sonate für flote und klavier (1927),
・ヴァイオリン・ソナタ Sonate für violine und klavier (1927) {vln, p}
・ホット・ソナタ Hot-sonate für altsaxophon und klavier (1930) {as, p}
ピアノ曲 ・オリジナルの主題による変奏曲 Variations on an original theme (1913)
・9つの小円舞曲 Nine little round dances (1914)
・【ねえ,聞いてよお母さん】による10の変奏曲とフーガ Ten variations on "Ah vous dirais-je, Maman" and Fuge (-)
・5つのグロテスク Five grotesques (1917)
・ピアノ・ソナタ Sonata per pianoforte, op.22 (1918)
・5つのブルレスク Five burlesques (1918)
・3つのワルツ Three waltzes (1918)
・10のピアノ用小品 Zehn klavierstücke, op. 30 (1919)
・5つのユーモレスク Five humoresques (1919)
・5つのアラベスク Five arabesques (1919)
・5つの音画 Five pittoresken (1919)
・ピアノのための音楽 Musik fur llavier, op. 35 (1920)
・オットー・グリベル-シュールホフの10の主題 Otto Griebel - Erwin Schulhoff (1920) ...
リトグラフ作品に音楽を付けたもの
・イロニー Ironien zu vier handen (1920) {2p} ...
連弾曲,6曲
・パルティータ Partita (1920)
・11のインヴェンション Elf inventionen, op.36 (1921)
・ラグ・ミュージック Rag-music 'to Arthur Bliss' (1922)
・オスティナート Ostinato: 6 family matters (1923)
・ピアノ・ソナタ第一番 I. Sonaten (1924)
・組曲第二番 II. Suite (1925)
・左手のための第三組曲 III. Suite für klavier linke hand (1926)
・ジャズ様式の5つの練習曲 Cinq études de jazz (1926)
・ピアノ・ソナタ第二番 II. Sonaten (1928)
・ピアノ・ソナタ第三番 III. Sonaten (1927)
・ジャズ風の素描【畏友ジム・クラークに捧ぐ】 Esquisses de jazz (1927)
・ホット・ミュージック Hot music: 10 synkopierte etuden (1928)
・ジャズの舞踏組曲 Suite dansante en jazz (1931)
・2つの練習曲 Studien: 2 klavierstucke (1936)
歌曲 ・4つの歌 Vier lieder nach gedichten aus 'Die Garbe' von Hans Steiger, op. 2 (1912) {sop, chamber}
・風景 Landschaften, op.26 (1918-19) {msp, orch} ...
Kuhlemann詩, 1912年との資料も
・人間性 Menschheit, op.28 (1919) {alto, orch} ...
Theodore Däubler詩,5曲
・5つの歌 Fünf gesänge mit klavier (1919) {vo, p}
・ジャズ・オラトリオ【王の樫の木】 H. M. S. Royal oak (1930) {recit, vo, choir, jazz-orch} ...
Rombach詩
 
1) Interlude di fox, 2) Hawain song, 3) Rezitazione e fox-fugato
・共産党宣言による交唱曲 Manifesto on words by Marx and Engels (1932-1933) {vo, choir, child-choir, winds}

・3つの歌 Three songs (1914) {alto-vo, p} ... O.Wilde詩
・雲のポンプ Die wolkenpumpe, op.40 (1922) {btn, bssn, c-bssn, tp, cl, perc} ...
Hans Arpに着想
・1917年 1917 (1933) {vo, p}


シュールホフを聴く


★★★★☆
"Konzart alla Jazz, op.43 / Double Concerto / Concert pour Quatuor à Cordes / Cinq Wtudes / Esquisses de Jazz / Rag-Music" (Decca : 444 8192)
Andreas Delfs (cond) Bettina Wild (fl) Aleksander Madzar, Erwin Schulhoff (p) Hawthorne Quartet : Deutsche Kammerphilharmonie
デッカはひと頃,頽廃音楽世代の作曲家を次々に録音していたことがあり,本盤もその一環で世に出たもの。マザールの独奏にドイツ室内の伴奏が付く『協奏曲』に加え,フルートと弦楽四重奏がそれぞれ独奏するコンチェルトが二編。しかも,シュールホフ自身が1928年に吹き込んだ独奏曲を9曲も併録。歴史あるデッカの強みを最大限に生かした選集といえましょう。ハイライトともいえるその自作自演は,アート・テイタムを思わせる技巧と丸いタッチがいかんなく発揮されており,素晴らしいの一語です。都会に出てジャズに被れ,すっかり捌けた語法を学んだ彼の楽曲は,かなりの無国籍で表情も多彩。端的にいえばシェーンベルクの晦渋さをぐっと薄め,薄まったところにカラフルな非機能和声とジャズへの傾倒で得た躍動的な擬古典リズムを合体させた音楽性が自慢です。本盤でなら『二重協奏曲』はオネゲル交響曲の重厚な形式に六人組の道化を足し合わせるシリアスな六人組書法ですし,『四重奏の協奏曲』は擬古典的な形式と律動に,シェーンベルクの晦渋さと六人組の乗りがそれぞれ入る。正直,リエージュ管の演奏を聴いてしまうと,室内管による本盤の『協奏曲』は,管弦楽の芳醇な和声の効果も弱く,アンサンブルの精度も1ランク落ちます。しかし,腕が落ちるぶんを見事に補うのが,ドイツ人らしい非常に構築的な譜読み。アルゲリッチ的な主人公がリサイタリストらしい流れるような運指で,弾き伏せるように演奏し,フランス流派らしく流麗でカラフルなオケが舐めるように助演するリエージュ管盤に対し,こちらは各節ごとに絶えず作品の拍節構造に絶えず視線を送りながら慎重に音が選ばれ,結果としてリエージュ管を遙かに上回る説得力を獲得しています。恐らく譜読みとして参考になるのはこちらでしょうねえ。

★★★★
"Concerto en Sol majeur / Concerto pour La Main Gauche (Ravel) Concerto pour Piano et Petit Orchestre No.2 (Schulhoff)" (Accord : 476 8043)
Louis Langrée (cond) Claire-Marie Le Guay (p) Orchestre Philharmonique de Liège
1974年生まれのルゲさんは,パリ音楽院一等(1991年)ののち,カナルス国際(1994),ミュンヘン国際(1995),コモ国際(2002)で入賞。最近アコールから売り出し中の才媛です。女性らしい剃刀打鍵と,すっきり明晰でパーカッシブな粒立ちが印象的。こう書くと思い出すのはアルゲリッチでしょうけれど,彼女のタッチはより理知的な抑制が利いている。一昔前の中ピ連系ウーマンリブが,時を経て,肩肘張らず自然に女性性を認めるようになった感じですか。本盤もそうした知と情のバランスが光ります。ただ,気になるのはアルゲリッチの血を引く異様に速いテンポ取り。後ろのオケも噛み合わない。アレグラメンテでは,彼女の理知的な打鍵が辛うじて崩壊をくい止めるものの,プレストに至ってはリズムが完全に硬直化。後ろの管部オブリガードももつれ,フレーズが流れてしまう。リエージュ管といえば腕は決して悪くないはずですけど,それでもこの曲は難しいんでしょう。まあ,何れのベクトルを取っているにせよ,更なる優秀演奏で先行事例があるこの演目。敢えて買うほどの魅力は感じませんでしたねえ。本盤の拾いものは,むしろ併録されたシュールホフの協奏曲。ムソルグスキー風のゴツゴツした拍節構造と,脳天気なパーカッションが不気味にコントラストを醸し出すなか,彼岸の自由の国からジャズの香り,留学したフランスからはカラフルな和声感覚をミックスした書法は,チェコ出身とは信じられないほど捌けている。しかし,彼がウルマンやクラインといった《テレジン収容所組》と同じく東欧のユダヤ系であり,ナチスの巻き起こした戦渦にのまれて命を絶たれた作曲家だったと知れば,奇妙なまでに新大陸ずれした書法に,《戦場のピアニスト》ことシュピルマンの書いた協奏曲との奇妙な類同が見えてくる。他の作曲家に先んじて,拘りなく新大陸の風を大幅に取り込んだのが彼らユダヤ人頽廃芸術家。そこに,イデオロギーゆえの「ルーツに囚われぬ進取の気性」を感じることができましょう。

(2006. 11. 9 uploaded)