Sの作曲家



ヴィッサリオン・シェバーリン Vissarion Shebalin (1902-1963)

ロシアの作曲家。本名ヴィッサリオン・ヤコブレヴィッチ・シェバーリン。1902年6月11日,シベリアのオムスクに生まれる。1921年,生地オムスク音楽院に入学して音楽を学んだのち,1923年にモスクワ音楽院へ進んでニコライ・ミャスコフスキに師事。1928年に卒業。既に在学中から講義を持ち,卒業後には同音楽院で教職に従事。1935年には教授へ昇進し,さらに1941年には作曲法科の学科長に就任。翌年にはモスクワ音楽院の院長となり,デニソフやグバイドゥーリナ,ハチャトゥリアンら多くの弟子を育成した。その作風を「形式主義的」であるとして,1948年のモスクワ音楽評議会で糾弾されて退任を余儀なくされ,その後,1953年には神経麻痺のため右手が利かなくなるなどの障害に見舞われるも,精力的に作曲活動を継続。1963年5月28日モスクワにて世を去った。西欧圏では現在に至るまで知名度が芳しくないが,本国では最も良く知られた作曲家の一人であり,指導者としての才覚はショスタコーヴィチをして「ソビエト時代最も有能であった」と言わしめたほどである。


主要作品 (言うまでもなく原題は英文ではありません)

舞台作品 ・オペラ【坂の上の陽】 sun over the steppe (1939-1959)
・喜劇【ゼーニキ・イツ・ポソツトヴァ】 Zhenikh iz Posostva (1942)
・ひばり the skylark (1943)
・オペラ【じゃじゃ馬馴らし】 the taming of the shrew; after Shakespeare (1946-1956)
・バレエ【祝祭】 festival: ballet in three acts with a prologue (1958)
管弦楽曲 ・交響曲第1番 ホ短調 symphony No. 1 in F minor (1925)
・交響曲第2番 symphony No. 2 in C sharp minor (1929)
・劇的交響曲【レーニン】 Lenin: dramatic symphony (1931 rev. 1959) <narr, 4vo, choir, orch>
・交響曲第3番 ハ長調 symphony No. 3 in C major (1934-1935)
・管弦楽のための組曲第1番 suite for orchestra No. 1 (1934-1935)
・管弦楽のための組曲第2番 suite for orchestra No. 2 (1935 rev. 1961)
・交響曲第4番 ロ長調 symphony No. 4 in B major (1935 rev. 1961)
・ロシア風の序曲 ホ短調 Russian overture in E minor (1941)
・ロシア民謡の主題によるシンフォニエッタ symphonietta on themes of Russian folksongs (1949-1951)
・交響曲第五番 ハ長調 symphony No. 5 in C major (1962)
・管弦楽のための組曲第3番 suite for orchestra No. 3 (1963)
協奏曲 ・弦楽オーケストラとヴァイオリンのためのコンチェルティーノ第1番 concertino No. 1 (1931-1932) <vln, strings>
・ホルンと小管弦楽のためのコンチェルティーノ第2番 concertino No.2 (1929-1930 rev. 1958) <hrn, small-orch>
・ヴァイオリンのための組曲 suite (1933) <vln, orch?>
・ヴァイオリン協奏曲 ヘ長調 violin concerto in G major (1936-1940 rev. 1959) <vln, orch>
器楽曲 ・弦楽四重奏曲第1番 string quartet No. 1 (1923) <2vln, vla, vc>
・弦楽三重奏曲 string trio (1924 rev. 1934) <vln, vla, vc>
・弦楽四重奏曲第2番 string quartet No. 2 (1934) <2vln, vla, vc>
・弦楽四重奏曲第3番 string quartet No. 3 (1938) <2vln, vla, vc>
・弦楽四重奏曲第4番 string quartet No. 4 (1940) <2vln, vla, vc>
・弦楽四重奏曲第5番 string quartet No. 5 'The Slavonian' (1942) <2vln, vla, vc>
・弦楽四重奏曲第6番 string quartet No. 6 (1943) <2vln, vla, vc>
・ヴァイオリンとヴィオラのソナタ ホ短調 sonate in E minor (1940-1944) <vln, vla>
・ピアノ三重奏曲 イ長調 piano trio in A major (1946-1947) <vln, vc, p>
・弦楽四重奏曲第7番 string quartet No. 7 (1947-1948) <2vln, vla, vc>
・前奏曲 ホ短調 prelude in E minor (1951) <g>
・2つの前奏曲 two preludes in E minor and C major (1954) <g>
・ソナタ第1番 sonata for violin and piano No. 1 (1957-1958) <vln, p>
・ソナタ第2番 sonata for viola and piano No. 2 (1954) <vla, p>
・ソナタ第3番 sonata for cello and piano No. 3 (1960) <vc, p>
・弦楽四重奏曲第8番 string quartet No. 8 (1960) <2vln, vla, vc>
・弦楽四重奏曲第9番 string quartet No. 9 (1963) <2vln, vla, vc>
・ソナティナ sonatina (1963) <g>
ピアノ曲 ・ソナタ=バラード sonata-ballade for piano (1921)
・輪舞曲 rondo for piano (1926)
・ピアノ・ソナタ piano sonata in E flat minor No. 1 (1926-1927 rev. 1963)
・3つのソナティナ three piano sonatinas (1929)
歌曲・合唱曲 ・デーメルの2つの歌 two songs after Dehmel (1922)
・サッフォの断章による歌曲集 songs: five fragments after Sappho (1924)
・アシュマトヴァの3つの歌 three songs after Achmatova (1924)
・2つのブロックの歌 two songs after Blok (1925)
・ジェセニンの歌 songs after Jesenin (1926)
・歌曲集:作品10a songs (1928)
・カンタータ【青い五月,自由の国】 blue May, Free Country (1930) <choir, orch>
・歌曲集:作品15 songs opus 15 (1931)
・序曲 overture with choir ad libitum (1933-1934) <choir>
・歌曲集:作品23 songs opus 23 (1935)
・歌曲集:作品26 songs opus 26 (1937)
・歌曲集:作品32 songs opus 32 (1941)
・歌曲集:作品36 songs opus 36 (1943)
・カンタータ【モスクワ】 Moscow (1946) <4vo, choir, org, orch>
・歌曲集:作品40 songs (1947)
・合唱曲集:作品42 choruses opus 42 (1949)
・合唱曲集:作品44 choruses opus 44 (195-)
・合唱曲集:作品45 choruses opus 45 (195-)
・合唱曲集:作品47 choruses opus 47 (1956?)
・歌曲集:作品48 songs (1956)
・合唱曲集:作品49 choruses opus 49 (1957?)
・合唱曲集:作品50 choruses opus 50 (1957)
・合唱曲集:作品52 choruses opus 52 (1960)
・歌曲集:作品54 songs (1961)
・我が孫たちに 'to my grandchildren' (1963) <choir>
・合唱曲集:作品59 choruses opus 59 (1963)
その他 ・序曲 overture 'on marie themes' in D major opus 25 (1936)
・ロシア民謡による変奏 variations on a Russian Folksong (1939-1940)


シェバーリンを聴く


★★★★
"Russian Overture / Symphony No.2 / Symphony No.4" (Olympia : OCD 597)
Sergei Skripka (cond) Russian Cinematographic Symphony Orchestra


このCDは,随分前に一聴したっきりずっと島流しにしていたもので,たまたま再聴する機会を持つことになったんですが,聴いて吃驚。嗚呼,一体私は何を聴いていたのかと猛省させられた一枚です。20世紀に入ってから生まれたシェバーリンの作風は,他の有名なロシア作家に比べてぐっとモダン。重厚な主旋律や曲構成はリムスキー=コルサコフやボロディンをはじめとするロシア国民学派や折衷派の影響を引きずりながらも,和声面では格段の進歩が見られ,近代もの愛好家の耳にも違和感はほとんどなく興じ入っていただけるのではないかと思います。類似の例を挙げるのは難しいのですが,やはり東欧圏の作家に筆致が似ている。スメタナの代表作『モルダウ』に,ヴォーン=ウィリアムスの和声を加えたような感じでしょうか。東欧チェコの大作家ノヴァークあたりお好きな方はお気に召すこと疑いありません。目下この作家を採り上げているのはロシアと東欧物に強いオリンピアだけ。再評価されるべきです。演奏は金管が少し不安定で,弦が少し粗めなのが珠に疵ですけれど,総じてまずまず好演です。

★★★★
"Symphony No.1 / Symphony No.3" (Olympia : OCD577)
Mark Ermler, Valery Gergiev (cond) USSR Radio Symphony Orchestra
既に入手が難しくなっている協奏曲集を除くと,4曲の交響曲が聴ける2枚のオリンピア盤は,目下シェバーリンの管弦楽を体系的に聴ける殆ど唯一の音源資料。一番と三番ということで,時系列的に言えば間に二番が入っているはずなのですが,なぜかCDの印象は時系列よりも,2枚の間でくっきりと分かれます。二番や四番が東欧圏のモダニスト(ノヴァークなど)経由で,フランス近代音楽の影響を感じさせるのに対し,こちらはかなり模範的なロシア新世代音楽。仰々しいまでの形式感と,半音階を頻出する主旋律の鬱々とした激情性は,紛れもなくショスタコーヴィチの傍系です。おそらくその理由はこの2交響曲の副題にあり。一番は,師匠でもあった「ミャスコフスキー風」を謳い,三番は「ショスタコーヴィチの追想」を謳う。おそらく制作者側も二枚に分けるにあたって,時間軸よりも,副題に象徴されている作風の違いの方を重視したのでしょう。フランス音楽の洒脱な雰囲気は殆どありませんけれど,オネゲルやグレツキ辺りも許容範囲内であれば聴けるかも知れません。西欧の気風にも目を向け,進取の気性に富みながら,それが災いしてポスト五人組世代では最も冷遇されている作曲家だけに,もう少し浮かばれて欲しいものです。演奏するは,昨今ストラヴィンスキーの録音でメジャーに昇格したゲルギエフ(!!)と国営モスクワ放送響。当時はまだロシア国内レベルの指揮者だったんでしょうが,お陰で,皮肉にも演奏はこちらのほうが兄弟盤よりも遙かに好くなりました。

★★★☆
"String Quartets No.1-3" (Olympia : OCD 663)
Krasni Quartet : Anton Shelepov, Alexandra Zubova (vln) Boris Vainer (vla) Aleksei Shestiperov (vc)
3枚に渡って発売された,旧ソ連の大家シェバーリンの弦楽四重奏曲集。こちらはその第1集です。クラズニー四重奏団はペテルスブルクの奨学生たちが集まって結成された楽団。演奏の力量は劣悪に近い部類で,とくにヴァイオリンの酷さときたらお話にならないほどのレベル。しかし,やはりここでも楽曲が素晴らしいです。シェバーリンは初期の作品ほどフランス近代音楽の影響を強く受けた作曲家であるため,当然ながらここに収録された3品の中では1番の出来が最もフランス的。ロマンティックで穏健な主旋律をベースとしながらも,平行和音を十全に多用した和声面のモーダルな響きは明らかにドビュッシー以降のフランス音楽の薫陶を得たもの。それだけに,かえすがえすも惜しいのは酷すぎる演奏。管見の限りオリンピア盤しか選択肢がないようですが,はっきり言って不幸以外の何ものでもない。こんな酷い演奏なら,ナクソスの演奏家でも充分上を行く演奏が可能でしょう。ぜひ対抗馬のリリースを!

★★★☆
"String Quartets No.6, No.7, No. 8" (Olympia : OCD 665)
Krasni Quartet : Anton Shelepov, Alexandra Zubova (vln) Boris Vainer (vla) Aleksei Shestiperov (vc)
ヴィッサリオン・シェバーリンはスターリン統治下で活躍した旧ソ連の作曲家。当初はスターリンにも可愛がられたようですが,やがて彼の為政が狂気じみて来るにつれ,シェバーリンもまた粛正の標的とされてしまいました。日本では馴染みが薄いようで,当館以外で名前を見ることはほとんどありませんけれど,その作風は旧ソ連とは思えないほどモダンで西欧の香りがするものです。このCDは目下,唯一シェバーリンを高く買っているオリンピアから出た弦楽四重奏集の第3集で,後記の3作品を収録。シェバーリンは後年には印象主義の影響からは少し離れ,作風は旋律線のはっきりしたロマン派的なものになります。しかし,その筆致は相変わらずロシア人とは思えないほど甘美でモダン。バックスやアイアランドを思わせる穏健な叙情性に富んだ後期ロマン派様式の佳品ではないでしょうか。聴くにつけ脂汗が出てくるのを禁じ得ない四重奏団は,ペテルスブルクで活動中。ソリスト,特に第2ヴァイオリンのピッチの悪さは異次元レベル。その上,やや精気に乏しいのっぺりした演奏。曲を聴く人以外は,「ナクソスに逝ってよし」と毒づきなさるかも知れません。


(2003. 3. 25)