Tの作曲家



モーリス・ティリエ Maurice Thiriet (1906-1972)

フランスの作曲家。1906年5月2日,イル=ド=フランスのミュラン(Meulan)に生まれる。1925年にパリ音楽院へ進学し,対位法およびフーガをシャルル・ケクラン,作曲・編曲法および美学をアレクシス・ロラン=マニュエルに師事。このほか,シュワルツ(Schwartz)にソルフェージュ,シルヴァー(Silver)に和声法を学び,1931年に卒業した。映画音楽の開拓者モーリス・ジョベールに私淑。ジョセフ・コスマと共作で,マルセル・カルネ監督の『悪魔が夜来る』(1942年)を手がけ,続く『天井桟敷の人々』(1945年)ともども成功。その後も,映画音楽を中心に作曲活動を展開した。作風は瀟洒な和声と明晰な構成を特徴とし,数こそ少ないながら,イベールを思わせる瀟洒な『フルート協奏曲』など,純音楽にも見るべき佳品を残している。1972年9月28日,66歳でピュイ(Puys)にて死去。


主要作品 

歌劇 ・断崖の主人 le bourgeois de falaise (1937)...邦訳不詳。J-F. ルニャールが1696年に書いた喜劇が元か?
・ラ・ロカンディエラ la locandiera (196-) { /vo, p}
バレエ ・ヴェネチアの夜 la nuit vénitienne (1938)
・茹で卵 l' oeuf à la coque (1948)
・プシュケー psyché (1950)
・ヘラクレス Héraklès (1953)
・24時間の哀悼 deuil en 24 heures (1953)
・島々の王妃 la reine des îles (1955)
・ヴェニスのムーア人 le maure de Vénise (1959)
・けばけばしい女 la chaloupée (1961)
・マイエランの恋人たち les amants de Mayerling (1961)
・受け継いだ部屋 la chambre hoire (1969)
映画音楽 ・悪魔は夜来る les visiteurs du soir (1942) {p /vo(3vo), g(p)}
・泣きぬれた天使 l'ange de la nuit (1942)
・天井桟敷の人々 les enfants du paradis (1945)
・パメラ Paméla (1945)
・白痴 l' idiot (1946)
・快傑ゲクラン Du Guesclin (1948)
・めぐりあい la figure de proue (1948)
・上海の神秘 mystère à Shanghai (1950)
・熱情 passion (1951)
・砂の上の屋敷 maison dans la dune (1952)
・花咲ける騎士道 fanfan la tulipe (1952)
・ボルジア家の毒薬 lucrèce Borgia (1953)
・嘆きのテレーズ Thérèse Raquin (1953)
・外人部隊 le grand jeu (1953)
・われら巴里ッ子 l'air de paris (1955)
・ブラコ braco (1955)
・罪と罰 crime et chatiment (1956)
・非情 retour de Manivelle (1957)
・ブラック・タイツ black tights (1960)
・いまだ見ぬ人 les yeux de l'amour (1960)
・南方飛行 courtier sud (1960)
・山師ボオトラン Vautlin (-)
管弦楽曲 ・ジャンのための本 le livre pour Jean (1929)
・6つのフランス民謡風の歌 six chansons dans le caractère populaire Français (1933) {small orch}
・インカの主題による狂詩曲 rapsodie sur des thème Incas (1935)
・クープランの名によるフランス組曲 suite Française: after Couperin (1936)
・詩曲 poème (1936) {strings}
・リュリの名による宮廷の音楽 musique de cour: after Lully (1939)
・幻想の夜 la nuit fantasque (1941)
・三人のアメリカ人フランス人 trois Français et Amérique (1972)...
詳細不詳。
・ロマンティック romantique (-)
協奏曲 ・序奏,歌とロンド introduction, chanson et ronde (1936) {hrp, orch}
・フルート協奏曲 concerto pour flûte et orchestre (1959) {fl, strings /fl, p}
室内楽曲 ・三重奏のための組曲 suite en trio (-) {fl, vla, hrp}
・4つの小品 quatre pièces (-) {vln, p}
・ブルース/時計 blues/l'horloge (-) {vln, p}
・アダージョ adagio (-) {as, p}
・詠嘆曲 cantilène (-) {cl, p}
・ノルマンディーにて en Normandie (-) {fl, p}
歌曲など ・ルトブフの2つの詩 deux poèmes de Rutebeuf (1926) {vo, p}
・悪魔と奇跡 démons et merveilles (1942) {4vo, hrp}...
「悪魔が夜来る」の主題歌。
・エディプス王 Oedipe-Roi (1940-1941) {narr, orch}
・優しくおそろしい恋の顔 tendre dangereux visage de l'amour (1947) {4vo}
・致命的な一瞬 l' instant fatal (1951) {choir, p}
・3つのモテット trois motets (-) {choir}
・ある市民 le bourgeois (-) {vo, p}
・島々の鳥 oiseaux des iles (-) {4vo}
・うぐいす le rossignol (-) {4vo, p}
・ヴェニスの夜 nuit Venitienne (-) {vo, p}
・我が甘き想い出 douce m'apparait ton image.. (-) {vo, p (orch)}
・博士の本当の経歴 véridique histoire du docteur (-) {vo, p}
・島々の贈り物 presents des iles (-) {vo, p (orch)}
・ヴェニ・クレアトール veni creator (-) {vo, org}
・ラ・フォンテーヌの3つの寓話 trois fables de La Fontaine (-) {4child-vo}
・ジレの悲曲 complainte de Gilles (-) {vo, p}
・一致点 place de la concorde (-) {4vo}...
Concorde(コンコルド)は伝説の怪鳥の名前でもあるので,誤訳かも知れません。

※無名の指揮者氏に管弦楽曲二編を,Golaud Sasai氏に一部和訳をご教示いただきました。


ティリエを聴く


★★★★★
"Concerto pour Flûte et Orchestre à Cordes (A.Jolivet) Concerto pour Flûte et et Orchestre à Cordes (C.Pascal) Roseaux (R.François) Concerto pour Flûte et Orchestre à Cordes (M.Thiriet)" (Tudor : 7069)
Benoît Fromanger (fl) Christoph Poppen (cond) Münchener Kammerorchester
元ケルビーニ四重奏団のヴァイオリン奏者ポッペン氏は,1995年に,半世紀以上の歴史を持つミュンヘン室内管の三代目に就任。ところが途端に本性丸出し。由緒正しい楽団が,たちまち20世紀もの好きのするオケへと変貌しました。このCDはその成果を露わにしたもの。パリ高等音楽院でランパルやマリオンのお弟子さんだったフロマンジェを迎えての,仏ものづくし(それも近現代!)です。一見ミスマッチな人選も,ソリストがバイエルン放送管の首席と聞けば納得するでしょう。ジョリヴェ以外は無名揃いで手を引っ込めたくなりますが,聴いて吃驚玉手箱。制作者の慧眼と愛情の溢れる,素晴らしい拾いものです。仏のフルート楽壇は,タファネルの在期(1893-1908)からの長い伝統がありますが,敢えて解説者がイベールの協奏曲を冒頭に冠したくなるのも道理。採録された作品は,イベールを軸に解題すると実に収まりが良い。例外は脂汗の出てきそうな特殊奏法のフランソワくらい。驚いたのはあのジョリヴェすら,フルート作品はかなり穏健だったことです。イベール風味すら漂う第1楽章には参りました。本作をフロマンジェに贈ったパスカルは1921年生まれのブルターニュ在住。無名ながら1945年のローマ大賞受賞も頷ける充実した筆致は,モーツァルトを思わせる後期バロック様式。プーランクの持つ哀歌調の翳りを織り交ぜながら,イベールの瀟洒で繊細な和声を巧みにコラージュした品の良い作風に感嘆。イベールがモーツァルトに捧げる讃歌を書いたのを思い出さずには聴けない,これぞ穏健なモダニストです。しかし,さらに素晴らしいのがティリエなる無名作家。1906年というアヤシイ時期に生まれていながら,ケックランとロラン=マニュエルに就いた毛並みの良さが全てを物語る作風は,イベールの甘く軽やかなパリジャン書法へ,ロラン・マニュエルの精妙な和声コラージュ・センスと,ボザのきっちりした形式感を採り入れた,平明でいて堅牢な新古典派。活動のメインが映画音楽だからか師匠ともども浮かばれないままですが,これは勿体ないです。同じ弦出身の指揮者クリヴィヌの例でもお分かりのように,オケは流動感,生気豊かで優秀。フルートも細かい粗を除けば,仏流儀の甘く軽い音色と確かな技巧の名手です。

(2004. 4. 22)