Tの作曲家



ホアキン・トゥリーナ Joaquín Turina (1882-1949)

スペインの作曲家。イタリア系。本名はホアキン・ペレス・トゥリーナ(Joaquín Pérez Turina)。1882年12月9日セヴィレ(Seville)の画家の家に生まれた。幼少期から音楽に親しむ。薬学を学ばせようとの両親の意思に反して音楽への関心を深め,ピアノをエンリケ・ロドリゲス(Enrique Rodriguez),作曲法をセヴィレ聖堂のアヴァリスト・ガルシア・トーレス(Evaristo Garcia Torres)に学び,自作の歌劇『スラミタ』がマドリードの芸術劇場(Teatro Real)で上演され,最初の評価を獲得。間もなくファリャと知遇を得る。1902年にマドリード音楽院(Real Conservatorio Superior de Musica)でホセ・ドラゴ(Jose Trago)からピアノを学び,1905年からはパリへ留学。スコラ・カントールムでダンディに作曲法を学ぶいっぽう,モリツ・モシュコフスキに短期間をピアノを学び,独立音楽協会を通じて新しい音楽傾向からも影響を受けた。また1907年からはパラン四重奏団(Quatuor Parent)と協同で演奏活動を展開。ファリャの勧めで,フランキズムの下地へ徐々にスペイン民謡を採り入れた作風をとるようになった。1913年にスコラ・カントールムを卒業。『ロシオの行列』のマドリード初演は大成功し,パリでも高く評価された。1914年,ファリャとともに帰国。1915年にはマドリード文芸研究会(Madrid Athenaeum)栄誉賞,1926年に『ピアノ三重奏曲』で国民音楽賞を受賞するなど,作曲家としても評価を確立した。また1925年の芸術劇場閉館まで,同劇場合唱団長も務めた。1930年にはマドリード音楽院作曲法科の教授へ就任。のちフェルナンド芸術アカデミー(Academia de Bellas Artes de S Fernando)委員,1941年に(Comisario General de la Musica)委員。賢アルフォンゾ十字章(Grand Cross of Alfonso the Wise)を受賞。批評家としてもEl debateやDigame誌上で健筆を揮っている。晩年は長く病魔に苦しみ,1949年1月14日マドリードで死去。


主要作品 ※スペイン語わからんので翻訳は少しまっとくれ・・(-_-;)

舞台作品 ・歌劇【スラミタ】 La sulamita (1900) {3act} ...聖書を元にP. Balganon台本
・サルスエラ【歌】 La copla (1904) {1act} ...
J. Labios 及び E. Luciux台本
・サルスエラ【醜く,しとやかに】 fea y con gracia (1905) {1act} ...
S. と J. Alvarez Quintero台本
・喜劇【マルゴット】 Margot, op.11 (1914) {3act} ...
G. Martinez Sierra台本
・付帯音楽【降誕祭】 navidad, op.16 (1916) {2scene} ...
Martinez Sierra台本
・付帯音楽【大人の悔悛者】 La adultera penitente, op.18 (1917) ...
A. Moreto台本
・歌劇【東洋の庭】 Jardin de oriente, op.25 (1922) {1act} ...
Martinez Sierra台本
・付帯音楽【告知】 la anunciacion, op.27 (1923) ...
T. Borras台本
・歌劇【花言葉】 pregon de flores (1939-1940) {1act} ...
S. と J. Alvarez Quintero台本
管弦楽 ・交響詩【ロシオの行列】 la procesion del Rocio, op.9 (1913)
・交響詩【福音】 evangelio, op.12 (1915)
・幻想舞曲 danzas fantasticas, op.22 (1920) ...
ピアノ独奏版あり
 1) exaltacion, 2) ensueno, 3) orgia

・セヴィリア交響曲 sinfonia sevillana, op.23 (1920)
・舞踏リズムの幻想曲 ritmos, fantasia coreografica, op.43 (1928)
・交響狂詩曲 rapsodia sinfonica, op.66 (1931) {p, strings}
室内楽曲 ・ピアノ五重奏曲 ト短調 quintet, op.1 (1907) {2vln, vla, vc, p}
・弦楽四重奏曲【ギター風】 quartet 'de la guitarra', op.4 (1911) {2vln, vla, vc}
・アンダルシアの情景 escena andaluza, op.7 (1912) {vla, p, 2vln, vla, vc}
・前奏曲 preludio, op.10 (1914) {org}
・ミュゼット musette, op.13 (1915) {org}
・セヴィリア風 Sevillana, op.29 (1923) {g}
・サンルケナの詩 el poema de una sanluquena, op.28 (1924) {vln, p}
・闘牛士の弔辞 la oracion del torero, op.34 (1925) {5lute/ 2vln, vla, vc / strings}
・ピアノ三重奏曲 trío, op.35 (1926) {vln, vc, p}
・ファンダンギーロ fandanguillo, op.36 (1926) {g}
・古きスペインの記憶 recuerdos de la antigua Espana, op.48 (1929) {4lute}
・ヴァイオリン・ソナタ sonata, op.51 (1929) {vln, p}
・ラファーガ rafaga, op.53 (1930) {g}
・ピアノ四重奏曲 Pf Qt, op.67 (1931) {vln, vla, vc, p}
・ギター・ソナタ sonata, op.61 (1931) {g}
・古風な変奏曲 variaciones clasicas, op.72 (1932) {vln, p}
・タレガ礼讃 homenaje a Tarrega, op.69 (1932) {g}
・ピアノ三重奏曲 trío, op.76 (1933) {vln, vc, p}
・ヴァイオリン・ソナタ sonata, op.82 (-) {vln, p}
・セレナータ serenata, op.87 (-) {2vln, vla, vc}
・循環 circulo, op.91 (1942) {vln, vc, p}
・アンダルシアの音楽 las musas de Andalucia, op.93 (1942) {2vln, vla, vc, p}
・主題と変奏 tema y variaciones, op.100 (1945) {hrp, p}
・ナヴァラ礼讃 homenaje a Navarra, op.102 (1945) {vln, p}
ピアノ曲 ・セヴィリア Sevilla, suite pintoresca, op.2 (1909)
・ロマンティックなソナタ sonata romantica, op.3 (1909)
・セヴィリアの街角 rincones sevillanos, op.5 (1911)
・3つのアンダルシア舞曲 tres danzas andaluzas, op.8 (1912)
・私の方の想い出 recuerdos de mi rincón, op.14, tragedia comica (1915)
・旅日記 album de viaje, op.15 (1916)
・スペインの女たち mujeres españolas, op.17 (1917)
・スペインの物語 cuentos de Espana, op.20 (1918)
・子どもらしさ niñerías, op.21 (1918)
・サンルーカル・デ・バラメダ sanlúcar de Barrameda, sonata pintoresca, op.24 (1922) ...
標題は地名
・ラ・カナヴェラのキリスト el Cristo de la Calavera, leyenda, op.30 (1924)
・アンダルシアの庭 jardines de Andalucia, op.31 (1924)
・売られた猫 la venta de los gatos, op.32, leyenda (1925)
・サンタ・クルツの街区 el barrio de Santa Cruz, op.33 (1927)
・ジラルダの伝説 le leyenda de la Giralda, op.40 (1927)
・スペイン民謡の主題による2つの舞曲 dos danzas sobre temas populares españolas, op.41 (1927)
・ verbena madrilena, op.42 (1927)
・マロールカ mallorca, op.44 (1928)
・召霊 evocaciones, op.46 (1929)
・スペインの物語 cuentos de Espana, series No.2, op.47 (1929)
・ viaje maritimo, op.49 (1929)
・トッカータとフーガ tocata y fuga, op.50 (1929)
・ミニアチュール miniaturas, op.52 (1929)
・5つのジプシー娘の踊り 5 danzas gitanas, op.55 (1930)
・子どもらしさ 第二集 niñerías, series No.2, op.56 (1930)
・パルティータ ハ長調 partita, op.57 (1930)
・葉書 tarjetas postales, op.58 (1930)
・幻想ソナタ sonata fantasia, op.59 (1930)
・マドリード放送 Radio Madrid, op.62 (1931)
・子どもの庭 jardín de niños, op.63 (1931)
・ロマンティックな小品 pieza romantica, op.64 (1931)
・アルモドバールの城 el castillo de Almodovar, op.65 (1931) {p /orch} ...管弦楽版あり
・曲芸師 el circo, op.68 (1931)
・影 siluetas, op.70 (1932)
・ en la zapateria, op.71 (1932)
・スペインの女たち 第二集 mujeres espanoles, series No.2, op.73 (1932)
・イタリア風幻想曲 fantasia italiana, op.75 (1932)
・永遠の詩 el poema infinito, op.77 (1933)
・ rincones de Sanlúcar, op.78 (1933)
・バイレテ舞曲 bailete, op.79 (1933)
・前奏曲集 preludios, op.80 (1933)
・5音の幻想曲 fantasia sobre 5 notas, op.83 (1934) {p /orch} ...管弦楽版あり
・ジプシー娘の踊り第二集 danzas gitanas, series No.2, op.84 (1934)
・管弦楽風の協奏曲 concierto sin orquesta op.88 (1935)
・セヴィリアの女たち mujeres de Sevilla, op.89 (1935)
・付曲 E el cortijo, op.92 (1940)
・時計の幻想曲 fantasia, del reloj, op.94 (1943)
・ por las calles de Sevilla, op.96 (1943)
・ rincón magico, op.97 (1943)
・幻想詩曲 poema fantastico, op.98 (1944)
・ contemplacion, op.99 (1944)
・ linterna magica, op.101 (1945)
・映画の幻想 fantasia cinematografica, op.103 (1945)
・海洋交響曲 sinfonia del mar (-) ...未出版
歌曲 ・ rima, op.6 (1914) ...G.A. Becquer詩
・カンツォーネ形式の詩曲 poema en forma de canciones, op.19 (1923) ...
R. de Campoamor詩
・3つのアリア tres arias, op.26 (1923) ...
A.S. Rivas, J. Espronceda, Becquer詩
・2つのカンツォーネ dos canciones, op.38 (1927) ...
C. de Arteaga詩
・三部作 triptico, op.45 (1929) ...
Campoamor, Rivas詩
・3つのソネット tres sonetos, op.54 (1930) ...
R. Marin詩
・ saeta en forma de Salve à la Virgen de la Esperanza, op.60 (1930) ...
S. & J. Alvarez Quintero詩
・ヴォーカリーズ vocalizaciones, op.74 (1932)
・ロペ・デ・ヴェガ礼讃 homenaje a Lope de Vega, op.90 (1935)
・セヴィリアの歌 canto a Sevilla, op.37 (1927) {vo, orch} ...
M. San Roman詩
・9つの歌 las nueve musas (1942) {vo, 3vln, vla, vc, p}


トゥリーナを聴く


★★★★★
"Sanlúcar de Barrameda / Danzas Fantásticas / Zapateado / Sacromonte" (EMI : CDM 7 64528 2)
Alicia de Larrocha (piano)
奏者は1923年バルセロナ出身。5才の時トゥリーナに才能を見出され,グラナドスの直弟子マルシャルに師事。その後ルビンシュタインから認められ,世界的な大ピアニストになりました。母国の同時代作曲家の紹介には大変熱心。彼女の録音がのちの再評価に繋がった母国の作曲家は,グラナドスに始まってトゥリーナ,モンポウ,ファリャなど,枚挙に暇がありません。本盤は,1965年にマドリッドで吹き込まれたトゥリーナ作品集。もーちゃるとにベーやん,ショパンを録音するうち,老境になってお役ご免・・大物ピアニストにとって,それが当たり前だったLP時代に,独りこうして故国の遺産を発掘していった彼女が,いかに先見の明を持っていたかは,CD時代の到来で,如実に示されたといえるでしょう。恩返し録音になった本盤もその証左。CD時代に入り,さあマイナー作家を再発見しようと考えた多くの演奏家や聴き手にとり,彼女の吹き込んだ録音群は貴重な参照枠を提供することになりました。おまけに他盤が出た後も,まるっきり存在価値を失わない高品位の演奏で録音されている。粒立ちキラキラ,解釈完璧。正直,彼女の演奏を聴いて初めて,真価を理解できたくらいです。選曲も素晴らしい。土臭いスペイン・リズムの土壌に,ドビュシー経由の煌びやかなアルペジオが咲き乱れ,地に足の付いたスペイン版ポスト・ロマン主義を達成。彼の美点を良いとこ取りした佳曲群。トゥリーナ入門なら今も昔もやはりこれ。名録音です。

★★★★★
"Danza Fantásticas / Sinfonia Sevillana / La Oración del Torero / La Procesión del Rocío" (MDG : 329 0744-2)
Miguel A.Gómez-Martínez (cond) Hamburger Sinphoniker
ピアノ曲以外のジャンルでは,極端に数が減ってしまうトゥリーナの音盤。そんな中にあって,貴重な選択肢を提供しているのがこの録音です。1957年に結成されたハンブルク響は,首都やライプツィヒ,バイエルン,シュトゥットガルトのオーケストラに比べると知名度こそ落ちますけれど,以前本国でもほとんど顧みられたことのないアンドレ・ジョランの交響曲集も吹き込むなど,第二集団の先頭を走るオーケストラとしての立ち位置を実に良く知っている。1992年に同響の首席指揮者となったゴメス=マルティネスはグラナダ出身,マドリード音楽院卒のスペイン人。そんな繋がりもあって,本盤の録音となったのでしょう。第二集団とはいえ,さすがはドイツ。フランスの第二集団オケであるトゥルーズ管やロワール管とは比較にならないほど高いレベルの演奏。トゥリーナの数少ない管弦楽作品集において,リファレンスとするに足る貴重な選択肢を提供していると思います。ピアノ版のある『幻想舞曲』や生地を標題に掲げる『交響曲』が,スペインの朗らかな陽光の下で,毛深い男と放漫な女が祝宴を開いているかのような,健康的であっけらかんとしたラテン乗りを下地とし,ドビュッシー『イベリア』の繊細なパレットで色を乗せたスペイン一色の作風なのに対し,あまり聴く機会のない『弔辞』は驚くほどに感傷的で上品なロマン派音楽。宮廷の典雅な香りをしっかり残しつつも,飾らない田園詩調の曲想に出自が滲む初期作品『ロシオの行列』も,ちょっと油断するとロパルツ辺りかと錯覚しそうなほど。ピアノ曲でしか評価されないのが不思議なほどの健筆です。

★★★★
"Tres Danzas Andaluzas / Danza Fantásticas / Danza de la Ópera Jardín de Oriente / Dos danzas Sobre temas Populaires Españoles / Danzas Gitanas / Concierto sin Orquesta" (Harmonia Mundi : HMI 987009)
Albert Guinovart (piano)
ラローチャ効果か,ピアノ曲だけは現在でも時折録音して貰えているトゥリーナ。本盤は,作曲者がまだパリに留学中だった1912年の『アンダルシア舞曲』に始まり,のちマドリッド音楽院教授となって名誉高々な晩年の『協奏曲』まで,各年代からバランス良く選曲し年代順に並べた体裁。大半の楽曲に「ジプシー」,「舞踏」,「アンダルシア」,「スペイン民謡」と,いかにもな言葉が並んでいることからも窺えるとおり,ラローチャ盤よりもぐっと土着色の濃い選曲となっています。ロス・アンヘレスの伴奏者だったこともある奏者は,1962年バルセロナ生まれですから,恐らくはトゥリーナの民俗趣味に焦点を当て,正しい作曲者像の俯瞰を意図したのでしょう。既にファリャを通じて,故国の音楽的遺産に目を向けることの大事さを認識させられていた作曲者。初期作品には緩楽章を中心に,フランク傍系のロマン派優等生の香りを残す。いっぽう,スペイン民謡風の土臭く逞しいリズムと,フラメンコ乗りの和声進行,ジプシー臭の漂う旋律には,最初期から既に色濃くスペイン情緒が漂います。ギノヴァルトのピアノは,さすが同郷。毛深く体臭ムンムンに乗っていくラテン気質は,他国のピアニストにはなかなか真似できないもので,選曲意図にも適っている。ただ,惜しむらくは細部に音符の摩耗(ごく一部でミスタッチ)が見られることと,時にラテン乗りが過剰となり,必要以上に曲をバタ臭く,荒っぽく再現前してしまうこと。後者は作曲者のもう一つの顔である,洗練されたモダニストの部分をやや減じてしまいます。

★★★★
"Cuentos de España Serie II No.1-7 / Sanlúcar de Barrameda / Niñerias I No.1-8" (Koch : 3-7322-2H1)
Mirian Conti (piano)
1995年に出た本盤は,アルゼンチン出身の女流により,トゥリーナのピアノ曲集を3編併録。スペイン流の過渡期スクリャービンとすら形容したくなる『物語』,和声進行や装飾音は『練習曲』のドビュッシーに置きつつ,リズムや曲構成はラヴェル系でスペインモロ出しな『色彩ソナタ』,ときに擬古典的な形式を踏襲しつつも,同じくドビュッシーの『前奏曲集』を鮮やかに想起させる呪術性を秘めた『子どもらしさ』と,各々魅力的。ソリストは,ブエノスアイレスでゲニー・ブレッチに師事したのち,ウィリアム・ペシェック奨学金を得てジュリアード音楽院へ留学。1989年のピラー・バヨナ国際で特別賞のほか,第38回スペイン国際音楽文化祭で最優秀演奏家賞(セゴビア=モラレス賞)をもらったそうな。上記ギノヴァルト盤とは色々な意味で好対照。男性でネイティブの彼が,技術的には劣るにもかかわらず,血の通った土臭い節回しで作品の骨格を掴むのに対し,コンティ女史の演奏は,女性的な嬌態(テンポ・ルバート)を随所に散りばめ,まず外殻の見映えを整えていく,コンクール・ピアニストのそれ。エフェクトを掛けない対抗盤に比べ,ホールの残響がべったりと効いた録音も双方の差異を増幅。ラローチャとは比べるべくもないものの,彼より遙かに腕は立ちますし,トゥリーナのモダニストな側面を捉えた選曲も好印象。演奏も泥臭くなく,トゥリーナの近代的な書法が鮮やかに浮かび上がる。ラローチャを別格とすれば,ここに挙げたものの中で最も薦めやすい録音ではあります。ただし,見映えは整っていようと,今ひとつ作品と意思の通わない,空々しいトゥリーナ。敢えていうなら,美人で甘言は弄するけれど,全ては営業のためですなホステスさん・・みたいな演奏ですか。

★★★☆
"El Cristo de la Calavera / La Venta de Los Gatos / Rima / Tres Poemas / Recuerdos de Mi Rincón" (Edicions Albert Moraleda : 0195/1)
Antonio Soria (p) Assumpta Mateu (sop) Llanos Sala (narr)
滅多に録音されないトゥリーナに焦点を当て,全集録音を宣言したのが,本盤のソリスト,アントニオ・ソリア氏。国内の音楽院を渡り歩いたのち,ボルドーへ留学した経験もある人物。国際的な受賞歴は見あたりませんけど,トゥリーナ資料館の館長さんであるアルフレッド・モラーンさんと親しかったようで,作曲者にはひとかたならず愛着をお持ちのご様子です(このプロジェクトの帰趨,皆まで把握しておりませんが,どうなったんでしょうか)。本盤は1995年の録音。珍しく歌曲を数点吹き込み,ピアノ曲と歌曲の両方の顔を愉しめます。スペインの飾らない土臭さと,仏近代の煌びやかな和声をバランス良く採り入れていく,ピアノ曲の筆致はここでも不変。同郷にしては意外に乗りが端正でラテン臭くないピアノも,ペダル頼みでやや技巧面に不安があるものの好演奏です。いっぽう歌曲の顔は,一口に形容するならラヴェル『5つのギリシャ民謡』の色合いに,スペイン土着音楽の具象的かつ逞しいリズムが合体した,バタ臭いモダニストでしょうか。後半の歌曲で顔を出す女流歌手は,1970年マンレサ生まれ。地元の音楽院を経てバルセロナ音楽院へ。こちらはその後ザルツブルク・モーツァルテウムへも留学したそうです。ただ,肝心の歌唱力のほうは・・二流以下ですかねえ。決して声質そのものは悪くないんですけど,華のあるお声ではありませんし,今ひとつ線が細く,ビブラートもふらふら危なっかしい。クラシックというよりは,どこかシャンソン歌手みたいな歌声です。

★★★★
"Niñerías, serie 1 / Niñerías, serie 2 / Jardín de Niños / El Circo" (Edicions Albert Moraleda : 6401)
Antonio Soria (piano)
奏者のアントニオ・ソリアは1967年アルバセテ生まれ。地元の音楽院を経てリセオの高等音楽院でラモーン・コルに師事したのち,ボルドー音楽院へ進んでワイセンベルクやペルルミュテルにも学び,1994年にはフランシス・シャペレのオルガン演奏科で銀賞を受賞したそうです。詳しい経緯は良く分からないものの,その後ラローチャと邂逅し,彼女の薫陶を得てトゥリーナに目覚めたらしく,やがて16枚からなる壮大なトゥリーナのピアノ曲を全集化する偉業を達成した模様。もちろん過去に例はなく,彼はトゥリーナ演奏のスペシャリストと目されるに至りました。本盤はその全集の第一弾として1996年に録音されたものです。彼はこの全集録音の業績を評価され,のちラローチャからグラナードス=マーシャル音楽院に招聘されたとか。確かにピアノの腕は良いんですけど,本盤を聴く限りでは,どちらかというと腕の立つピアニストというより,トゥリーナの高い見識を評価されての招聘だったんじゃないかなあ・・という印象ですか。彼の演奏は,スペイン人とは思えないほど情感表現が端正で,それらしいラテン乗りはほとんどなし。また,目立つミスタッチなどはない反面,やや打鍵は重く,速いパッセージでは摩耗も。大排気量型のピアノ弾きでないことは明らかです。『子どもの庭』に2つの『子どもらしさ』を併録した本盤が好ましい録音となったのも,スペイン人特有の剛毛系のリズム感が控えめな彼の持ち味が,モンポウやドビュッシーの一部に通じる,純朴で飾り気のない佇まいと巧く和合していたところに理由があったのではないでしょうか。この選曲から全集録音を開始したところを見ても,恐らく彼自身,自分の向き不向きは良く理解しているのでしょう。

(2006. 4. 22)