Uの作曲家


ヴィクトル・ウルマン Viktor Ullmann (1898-1944)

旧チェコスロヴァキア(またはポーランド)の作曲家,指揮者。両親ともユダヤ系のカソリック教徒。1898年1月1日,テッシェン(Teschen)生まれ。1909年にウィーンの中学校へ進む(音楽に興味を抱き始めたのもこの頃)。第一次大戦に志願兵としてイタリア戦線に従軍し,その後ウィーン大学で法学を専攻。一方で,1918年10月からシェーンベルクの作曲法科へも進み,音楽を学んだ。1919年5月にはウィーンを離れてプラハへ移住し,アレクサンダー・ツェムリンスキーの庇護のもと,1923年から1927年まで,プラハの新ドイツ劇場の指揮者として活躍。チューリヒでも2年間に渡って指揮棒を執る。作曲家としても自作の『シェーンベルク変奏曲集』が国際現代音楽協会主催のジェネバ音楽祭で高く評価され,その管弦楽版が1934年のヘルチュカ賞(Hertzka)を受賞するなどして名声を高めた。その後,シュトットガルトで人類学関係の本屋を経営するなどしたが,1933年にはプラハへと戻る。1940年8月にナチス・ドイツがプラハに侵攻。彼も囚われの身となり,1942年9月8日にプラハ北方のテレジエンシュタット(Theresienstadt)に収監される。彼はその後も作曲活動を継続し,最後の輝きを示したが,やがてアウシュヴィッツ収容所(Auschwitz-Birkenau)に移送。1944年10月18日,収容所内のガス室で殺害された。収容前に残した41作品の大半は,ナチス統治下で破棄され散逸したものの,生前の彼が友人に保管を依頼した13作品は,幸運にも戦渦を逃れて現存。収容生活中の作品は殆どが現存する。作風は,初期のものはシェーンベルクの強い影響下に無調技法を多用し,その後はポスト・ロマン派的な枠組みの中へ無調技法を展開させることで,独自の語法を開拓している。(関連ページ:Viktor Ullmann Homepage: 英独)


主要作品

舞台作品 ・『大団円』のための劇音楽 bühnenmusik zu "der Kreidekreis" (1924)
・オペラ【ペール・ギュント】 Peer Gynt (1927-1929)
・オペラ【オデッセウスの凱旋】 die heimkehr des Odysseus (1940-1941)
・オペラ【壊れた壺】 der zerbrochene krug (1941-1942)
・フランソワ・ヴィヨンの詩による舞台音楽 bühnenmusik zu einem Francois-Villon-Spiel (1918/1943)...自筆譜現存
・劇音楽【アトランティスの帝王】 der kaiser von Atlantis oder die Tod-Verweigerung. spiel (1943-1944)...1幕。自筆譜現存
・オペラ【1431年5月30日のジャンヌ・ダルク】Der 30. Mai 1431. Libretto zu einer "Jeanne d'Arc"(1943-44)...2幕。自筆譜現存
管弦楽 ・管弦楽のための協奏曲(または交響曲,小交響曲) konzert für orchester (1928)
協奏曲 ・スラブ風狂詩曲 Slawische rhapsodie für Orchester und obligates saxophon (1939) <sax, orch>
・ピアノ協奏曲 klavierkonzert (1939) <p, orch>
室内楽/器楽曲 ・弦楽四重奏曲第1番 1 streichquartett (1923) <2vln, vla, vc>
・八重奏曲 oktett - oktettino (1924) <->
・木管三重奏曲 trio für holzbläser (1926) <cl, ob, bssn?>
・弦楽四重奏曲第2番 2 streichquartett (1929) <2vln, vla, vc>
・クラリネット・ソナタ sonate für viertelton-klarinette und viertelton-klavier (1936) <cl, p>...6人編成の意味?CL自筆譜のみ現存
・ヴァイオリン・ソナタ sonate für violine und klavier (1937) <vln, p>
・弦楽四重奏曲第3番 3 streinch quartett (1943) <2vln, vla, vc>
ピアノ曲 ・シェーンベルクの主題による変奏と重奏フーガ
- variationen und doppelfuge über ein kleines klavierstück von Schönberg (1925/29/33/34/39)...33年版は管弦配置
・ピアノ・ソナタ第1番 1 klaviersonate (1936)
・ピアノ・ソナタ第2番 2 klaviersonate (1938-1939)
・ピアノ・ソナタ第3番 3 klaviersonate (1940)
・ピアノ・ソナタ第4番 4 klaviersonate (1941)
・ピアノ・ソナタ第5番 5 klaviersonate (1943)...自筆譜現存
・ピアノ・ソナタ第6番 6 klaviersonate (1943)...自筆譜現存
・序曲:ドン・キホーテー Don Quixote: ouverture für klavier (1944)...自筆譜現存
・ピアノ・ソナタ第7番 7 klaviersonate (1944)...自筆譜現存。日付ありのものでは遺作(1944. 8. 22)。
歌曲 ・管弦楽付帯の歌 lieder mit orchester (1921) <vo, orch>
・選ばれた歌曲 sieben lieder mit klavier (1923) <vo, p>
・選ばれた歌 sieben Lieder mit Kammerorchester (1924) <vo, chamber-orch>
・テノールと管弦楽のための独唱カンタータ【交響的幻想曲】 symphonische phantasie (1924) <tnr, orch>
・小セレナーデ sieben kleine serenaden für gesang und 12 instrumente (1929) <vo, 12inst.>
・歌 lieder (1929/1939) <vo, p>
・哀歌 elegien für sopran und orchester (1935) <sop, orch>
・中国の叙情劇 Chinesische melodramen (1936) <vo, p?>
・6つの歌 sechs lieder (1937) <sop, p>
・歌曲集 lieder : liederzyklus II (1937) <vo, p>
・宗教的な歌 geistliche lieder für hohe Stimme und Klavier (1939) <w-vo, p>
・子どもの歌 kinderlieder (1939) <vo, p>
・(邦訳不詳) der gott und die bajadere (1940) <btn, p>
・5つの恋歌 fünf liebeslieder (1939) <sop, p>
・フォーゲルフライ王子の歌 lieder des Prinzen Vogelfrei (1940)
・ポルトガル民謡による3つのソネット drei sonette aus dem Portugiesischen (1940) <sop, p>
・ハーフィスの詩による歌曲集 liederbuch des Hafis für Baß und klavier (1940) <bass, p>
・第2集(歌)nachlese: lieder (1940) <vo, p>
・戦渦 krieg. kantate für Bariton (1940) <btn, p, -?>
・6つのソネット six Sonnets für Sopran und klavier (1941) <sop, p>
・6つの賛美歌 sechs gesänge für alt oder bariton und klavier (1941) <alto (btn)/p>
・3つの歌 drei lieder für bariton und klavier (1942) <btn, p>
・6つの歌 sechs lieder (1942) <vo, p>
・テレジエンシュテットにて執筆の3つの歌 die Theresienstädter werke drei lieder für bariton (1942) <btn, p>
・秋 herbst für sopran und streichtrio (1943) <sop, vln, vla, vc>...自筆譜現存
・トレスタンの歌 lieder der Tröstung für sopran und streichtrio (1943) <sop, vln, vla, vc>...自筆譜現存
・10のユダヤとヘブライの合唱曲 zehn jiddische und hebraische chore (1943) <vo, choir>...写譜現存
・ホールダーリンの歌 Holderlin-Lieder fur singstimme und klavier (1943-1944) <vo, p>...自筆譜現存
・常に我が心のなかに immer inmitten (1943) <msp, p>...自筆譜現存
・人間とその時間 der mensch und sein tag: 12 lieder für singstimme und klavier (1943) <vp, p>...自筆譜現存
・フランスの子どもたちの歌 chansons des enfants françaises (1943) <vo, p>...自筆譜現存
・3つの中国の歌 drei Chinesische lieder für singstimme und klavier (1943)...うち2編のみ自筆譜現存
・3つのユダヤの歌 drei jiddische lieder für singstimme und klavier (1944)...うち1編のみ?「1.歌」として自筆譜現存
・夕べの幻想 Abendphantasie für singstimme und klavier (1944)...自筆譜現存
合唱曲 ・3つの男声無伴奏合唱曲 drei männerchöre a cappella (1919) <m-choir>
・夕べの歌 abendlied (1922) <vo, choir, orch>
・叙情交響曲【最後の日(?)】 huttens letzte tage (1936) <tnr, btn, orch>
・交響ミサ曲 missa symphonica für chor, soli, orchester und orgel (1936) <vo, choir, org, orch>
・3つの無伴奏合唱曲 drei chore a cappella (1936) <choir>
・室内カンタータ oster-Kantate: kammer-kantate (1936) <choir, 6inst.>
・3つのヘブライ風無伴奏少年合唱曲 drei Hebräische knaben-Chöre (1944) <child-choir>...写譜現存
詳細不明 ・お伽噺ごっこの音楽 Musik zu einem Märchenspiel (1922)
・反キリスト教徒の堕落 der sturz des antichrist (1935) ...3幕。舞台作品を構想?ピアノ譜の断片のみ現存
・協奏的アリア konzertarie (1942) <vo, orch?>
・作曲の始めに kompositionsbeginn: Juni/Juli 1943- 13. Jan. 1944 (1943-1944)
・(上記:再訂) "Wahnsinns-Terzett" Aug. 1944 (1944)
・ベートーヴェン「ピアノ協奏曲」の独奏部 kadenzen zu Beethovens klavierkonzerten: Nr. 1 und 3 (1944) <p, orch?>...自筆譜現存


ウルマンを聴く


★★★★☆
"String Quartet No.3 / Piano Sonata No.5, No.6, No.7" (Praga Digitals : HMCD 90)
Radoslav Kvapil (piano) Kocian Quartet
全く名前を聞いたことがなかった作曲者はユダヤ系チェコ人。シェーンベルクと邂逅して被れ,若い頃はバリバリに無調の使い手だったようです。しかし,最晩年の作品を収めたこのCDは,むしろ無調をちらつかせつつ,ロマン派様式をゴツゴツ土臭い筆致で,より色彩的かつ自由に拡張した作家という印象。ピアノ曲でも精々,土臭い六人組みたいな感じ。興味を抱いて色々調べてみましたら,なんと悲運にもナチスに捕まって収容所へ送られ,アウシュビッツで殺害されていました。本盤の収録作は,いずれも1943年と1944年のもの。つまり彼が収容所の中で死の影に怯えながら,半ば死力を尽くして刻み込んだ作品群だったわけです(因みに7番が書かれたのは,彼が殺される僅か1ヶ月ほど前)。失礼ながらシュピルマンより有能と思われるにも拘わらず「戦場の・・・」になれなかった人だったと知り,ネタ半分の軽い気持ちで購入してしまった己を恥じました。同時に,あの地獄絵図の中でも,ウルマンの作品を手から手へ引継ぎ(恐らくはその中の幾人かは亡くなったでしょう),こうして後世に残した名も無き元収容者たちの行為に,言いしれぬ深い感銘を受けた次第です。演奏するコチアン四重奏団は作曲者ゆかりのプラハを拠点に活動。スメタナ四重奏団の一員でもある彼の地の音楽院教授アントニン・コフート氏主導。こし餡みたいな名前とは裏腹に素晴らしく共調した美演。1958年のヤナーチェク国際優勝者というピアノも,やや運指こそ重いものの,水準以上の演奏を披露しています。
(2004. 2. 5)