公共関与は錦の御旗か
―三重県廃棄物処理センター始動― フリーライター津川敬


三重県で起きていること

 「時代を先取りした環境行政」の呼び声で、三重県の動きがいまがホットだ。

 その第一は「三重県RDF焼却・発電施設整備事業」が2000年10月からスタートしたことである。同県企業庁は外資系ボイラーメーカーと組んだ富士電機鰍ニ業務契約、RDF(都市ごみによる固形燃料)発電施設の建設に着手し始めた。当面、最大1万2,000kwを予定しており、中部電力に売電する。すでに4つの広域行政組合を含む26市町村がRDF製造施設を建設中で、できたRDFは発電施設側が燃料として無料引取りする、という計画である。かねてから三重県は「RDF全国自治体会議」を主導してきており、1998年5月、北川正恭同県知事が初代議長に就任している。

 第二は、同知事の名を一躍全国に高めることとなった。「産業廃棄物税」問題である。これについては本誌(2000年12月号)所収の倉阪秀史千葉大助教授のレポートに詳しいが、県はこの計画で産廃1トンあた1,000円から2,000円を徴収する腹積もりだ。現在三重県内の最終処分料金は平均してトンあたり7,000円。ある産廃処理業者は「これに2,000円も上乗せするなんて無茶な話だ」と不満を洩らす。さらに排出事業者が自社処分を行えば課税を免れる不公平が起きるなど、問題も多い。

 そして第三は、今回の廃棄物処理法改正の目玉として設立された「廃棄物処理センター」が具体的な事業目標を掲げて動き出したことである。

 

廃棄物処理センター始動

 「財団法人三重県環境保全事業団(理事長・若山明夫、1977年設立・以下事業団)」が厚生大臣から廃棄物処理センターの指定を受けたのは99年11月22日。全国で9番目の指定である。

 ちなみに91年の廃棄法改正の際、新たに設立された廃棄物処理センター(以下センター)制度は実施後十分な効果を発揮しなかったため、今回の再改正で公共関与の側面がより強化された。すなわち、@指定の対象を公益法人から、国、地方公共団体の出資等に係る法人やPFI法の選定事業者に拡大し、A各都道府県に1ヵ所とする設置数の制限を撤廃、Bさらにセンターの業務を従来は適正処理困難物の処理に限定していたが、市町村の委託を受けて行なう一般廃棄物の処理や処理施設の建設もできるようにしたのである。

 出資(出損)比率も従来は官より民の比率が多かったが、今回、センターへの出損は県と69自治体からの増資で官民比率は5対5になった。なお、民間は三重県内の有力企業67社である。

 事業団がセンター事業として計画した事業内容は以下のとおり。

 まず直営する小山処分場(四日市市小山町)が埋立て終了間近となったため、同地域脇に埋立容量178万m3処分場をセンター事業として建設する。併せて同地に1日処理量240トンのガス化溶融施設をつくり、県下32〜39の市町村からの下水汚泥と都市ごみ焼却残渣および県内事業所からの産業廃棄物を混合処理する。

 受け入れる焼却残渣(焼却灰と飛灰)は年間4万9,000トン、産廃は約2万トンと想定されており、溶融炉の規模は1日溶融処理量240トン(80トン炉3基)と決まった。

 センター指定を受ける半年前から事業団はセンター建設室(以下建設室)を設け、県下69の全市町村と県内約300の事業所に対し「センター施設を利用するかどうか」の意向調査を行なっている。その一方、建設室は99年5月から溶融処理検討委員会を立ち上げた。3回の委員会を経て「ガス化溶融炉」の採用を決定し、2000年2月7日、機種選定委員会を設置して公募を行なった。その要件は「国庫補助事業に伴う施設が現に稼動中」か「廃棄物研究財団の技術評価書を取得しているもの」となっていたが、1週間後、この分野で1件でもシェアを広げたいメーカー10社、早々と名乗りをあげた。

 2000年8月には県条例に基づく環境影響評価作業を終了し、「工事中および供用時とも環境に及ぼす影響は軽微」との結論を下した。

 こうしたセンター事業は軌道に乗って順調に動き出すかに見えたのだが――。そこには数多くの矛盾と不確定要素が待ち構えていた。

 

越えるべき技術の壁

 まずセンター側が各メーカーに提示した条件がきわめて苛酷なものだったことである。

 ガス化溶融炉というのはカロリーの高いごみを溶融炉の熱源にすることが売り物の技術である。だが、受け入れる廃棄物は75%がカロリー皆無の焼却灰のためガス化炉に入れる25%の産廃は可能な限り高カロリーのものに限定される。従って排出事業者から要望があっても液状廃棄物、無機汚泥、鉱さいなどは受け入れることができない。

 第二に受け入れ廃棄物の量が常に一定とは限らないことである。今後、いわゆる一般廃棄物(都市ごみ)は次第に減る傾向にあり、発生する焼却灰がいつまでも“75%”のままである保証はない。仮に10%減ったらその分産廃で補わねばならないが、その際排出事業者からの要望をどの程度聞くことができるのか。“要望”には当然料金(ティッピング・フィー=TF)問題が含まれるが、その設定如何によっては“公共”が“民”を圧迫することにもなりかねないのだ。

 第三に「いきな立地場所」に指定された地域住民の反発である。とりわけ住民の不信は「住民同意のあり方」に向けられていた。

 以上の三点をもう少し詳細に検討してみよう。

 まず廃棄物中のカロリー問題だが、この点はメーカーの選定、処理する廃棄物の量、初期の事業費、ランニングコスト全般に深い関わりを持つもので、機種選定委員会もかなり念を入れて審議したらしい。一方、張り切って参加したメーカー10社もその内容を見せられて仰天。うち6社が2月から3月にかけて「辞退届」を出し、“撤収”していった。残ったのは石川島播磨工業(IHI)・クボタ連合、日本鋼管(NKK)、荏原製作所、神戸製鋼所の4社だが、評価ランクでIHI・クボタ(のちに正式名称を「石川島・クボタ特定建設工事共同企業体」とした)が第1位となった。その上で5月23日に入札を行なった結果114億6,600万円で落札となった。ちなみにセンターが想定した当初の事業費は約150億円であった。

 この分野ではまったくの新顔であるIHI・クボタがなぜ「カロリーゼロ」に挑戦できたのか。

 選定委員会の評価では特に主灰と飛灰の混合溶融の分野における実績を重視したらしい。潟Nボタ焼却炉プラント営業部の清水弘明氏がいう。

 「うちは87年に長崎の諫早市への表面溶融炉納入以来、混合溶融の壁をクリアしてきました。」

 表面溶融炉の特徴は灰の層を薄くしてじっくり溶かしてゆくところにある。清水氏によれば飛灰にはアルカリが多く、しかも小麦粉のようになっている、などの特質があって、他社のような旋回溶融炉では前処理をキチンとしないとうまく溶融できないという。

 一方IHIが分担する熱分解キルンはガスを発生させることが目的だから、できるだけ高カロリーの産廃が必要だ。そのカロリーが溶融炉側の負荷(燃料使用量)を軽減するというわけである。

 こうして“技術”の問題はクリアしたが、次の壁は「注文どおり廃棄物は入るのか」であった。

 

民間より安くしろ

 前述のとおり、建設室は準備期間中、三重県下の事業所300社に向けアンケートによる意向調査を行ない、その結果を5月末にまとめた。

 このうち「溶融施設を利用する」と答えた企業は48、「建設基金の負担割合などにより利用するか否かを判断する」が63社、「利用しない・不明」が189となっている。つまり企業の84%は“いい顏”をしていないのだ。参加を表明する企業ですら、以下のように厳しい注文をつけている現状である。

 「処理料金(汚泥引取量)をトンあたり1万5,000円ぐらいにしてくれ」「建設基金がどれくらいになるのか知りたい」「現在、廃棄物の減量化、資源化にとりくんでいるので、将来変動(減ること)もあり得る」「建設基金が高額の時、搬入しないこともある」。

 参加を考慮中、のところも「処理料金が民間より安価になるのは当然」(製油メーカー)、「処理料金は民間より低く、受け入れ廃棄物は広範囲にし、搬入時の条件を緩和せよ」(日本有数の石油精製メーカー)など、まさに“利を生まぬ負の企業活動!に多くのコストをかけたくないという企業の本音がうかがえて興味深い。

 だが、こうした空気の中で廃棄物処理センター建設室の黒木清篤・副参事はいう。

 「受け入れ廃棄物の質や量に変動があると施設規模、運営に大きな影響が出ます。排出事業者と話し合い、確実に事業に参画して頂きます。民間より料金を安くするという考え方はありません。といって高くしたらモノが入らず、営業にはならない。ランニングコストなどTFを決めるファクターが多すぎますし、数字はいったん飛び出すとひとり歩きしますから、少なくとも平成13年度には何とかTFを固めて参加する市町村や企業さんにお示ししたいと思っています」。

 かなり強気ではあるが、こうした姿勢はどこからくるのか。多分二つほど理由があるのだろう。

 

センター事業への期待

 ひとつは三重県の産廃事情である。これについて県内はむろん,中部・東海地方における処分場問題で活動している村田正人弁護士がいう。

 「もう管理型処分場は満杯に近い。安定型も厳しくなっています。有力視されていた伊勢市の矢持がつぶれて一廃でも伊勢横輪が挫折しました。もともと事業団は四日市コンビナートからの無機汚泥(石原産業のアイアンクレイなど)しか受け入れなかったため、問題が起きず、信用度も高かった。そうした背景の中で、ひどい産廃業者(アウトロー)も多いから“事業団が新しく立ち上げる仕事”への期待は全県的に高いと思いますよ」。

 この点については三重県の産廃事情に明るい関係者も同じような見方をしている。

 「処分場はかなり行き詰まっています。まともに動いているのは3ヶ所ぐらいじゃないですか。地元の収集運搬業者も早くセンターが動き出してほしいといっています。料金が高いか安いかはあまり問題ではありません」。

 ちなみに三重県下の許可業者2,200の約90%近くが収集運搬業者となっている。

 事業団は日本を代表する巨大メーカー54社で構成される四日市コンビナートとのつながりが深い。前記関係者も「事業団役員の多くはコンビナート各社からの出向だ」という。しかしそれらの企業がセンター事業へ参加するという意思を表示したところは皆無に近い。殆どはコンビナート外の中小企業である。

 これについて黒木氏がいう。

 「2年後、排出事業者は否応なくダイオキシン恒久対策への対応を迫られます。既存の処理事業者に委託するのか、処分場に埋めるのか、それともサーマルリサイクルか、その選択です」。

 処理料が高い、安いという次元でものがいえるのはいまのうち、という自信でもあろうか。これがセンター側強気の第二点である。

 だがその強気が仇となったようだ。前出の村田弁護士がいう。「事業団への期待とは裏腹に県が計画を進める手続きに問題があって、いま地元住民の怒りを買っています」。

 

“公共”の驕り(おごり)と地域住民の反発

 溶融施設の建設予定地は四日市市の中心部、近鉄四日市駅から西へ8.8km入った小山町だが、その北東約800mのところに桜台団地という規模の大きな新興住宅地がある。

 三重県産業廃棄物処理指導要綱(98年6月制定)第8条ではこの種の施設については1km以内の世帯および事業所の5分の4以上と同等の住民合意を得ることとしている。その線引きでいえば桜台など少なくとも約400戸以上の住宅が「同意を要する」範囲に含まれるが、公共関与を前提とした事業団、センターなどの事業にはこの条項は適用されない。

 しかも今回の事業についての住民説明会は2000年3月、建設予定地である小山町で開いただけ(出席者30名)で、アセスの答申結果と計画に対する意見聴取については同じく小山町住民に限定して行なっただけである。

 これに対して前記住宅密集地の桜台、桜新町、桜花台、などの住民有志が10月6日、1,769名の意見書を廃棄物処理法に基づいて北川正恭県知事に提出した。だが、県の廃棄物対策課では「法律に定めているのは民間の産廃処理業者に対する住民の不安を除去するためであり、センターは公共関与になっているから必要ない」と回答しただけである。全国的には福井県のように公的機関の場合でも「住民感情の上では官も民も同じ」と割り切って同意を求めているところもある。

 住民は三重県の掲げる「生活者起点に重点を置いたアカウンタビリティ(説明責任)」とはほど遠い姿勢、と態度を硬化させた。

 同年12月18日夜、住民側要求で桜地区での第二回説明会が開催された。説明会場の桜中学校体育館には子ども連れから高齢者までの幅広い年代の住民約400人が詰め掛け、用意した250部の説明資料はたちまちなくなってしまった。住民の質問は「住民団地の傍になぜ」という立地問題に集中したが、同時に「住民同意」にも矛先が向けられた。これに対し県側は、「廃棄物の排出量の多い四日市市内に絞り、現在ある小山最終処分場との一体的整備と、コスト面からこの地を決めた」と回答した。住民からは「土地なら山ほどあるだろう。現に霞ヶ浦(大日本インキなどが入っている第三コンビナート)は企業が少なくってスカスカじゃないか」などの声があがった。

 説明会は徹夜となり、延々17時間続けられたが、県側は「法的手続きに沿って――」を繰り返すだけ、説明会は住民の不信感を一層増幅しただけに終わった。

 公共関与は「錦の御旗」なのか。