ダウンタウンの再生と成長管理で
人と環境に優しい都市を目指すポートランド


ポートランド市は、アメリカ合衆国オレゴン州北部、コロンビア川とウィラメット川が合流する地域にあるオレゴン州最大の都市である。豊かな自然と農業、ハイテク等の活力ある地域産業により人口の増加が著しい。その一方で、北米でもっともスプロールをくい止めることに成功した都市としても知られている。ポートランド市を中心とするポートランド大都市圏は、ダウンタウンの再生とバスやライトレール等の公共交通の整備、公共交通と連携した土地利用計画や徹底した市民参加と成長管理計画によって、人と環境に優しい都市づくりを進めている。

■ダウンタウンの再生と歩行者中心の街づくり
1970年代、ポートランド市では郊外の開発と人口流出が進み、ダウンタウン(中心市街地)の生活環境は悪く商店街は疲弊していた。そのような状態の中、1972年にポートランドに新しく就任したゴールドシュミット新市長とオレゴン州知事のマッコール氏が市民と協力し、ダウンタウンの再生のための計画を策定して以来、歩行者中心の街づくりと公共交通の利用促進が積極的に進められてきた。
最も象徴的な変化は、ダウンタウンの中心のショッピング街にあった駐車場を歩行者のための広場”パイオニア・コートハウス・スクエア”として再生したことだ。パイオニア・コートハウス・スクエアは、歴史的なシンボルである旧裁判所の建物の前に広がる広場で、広く開放された広場中央部分は、滝や彫刻、パーゴラ、旗などで楽しく演出され、屋外パフォーマンスや露店で常に賑わいを見せている。また、周囲のカフェ、ブックショップ、ギャラリーは、散策に魅力を加えている。現在では、パイオニア・コートハウス・スクエアは、周辺の商業施設と一体となり、ヨーロッパ中世都市の中央市民広場のように活力あるダウンタウンのシンボルとして市民から愛されている。
もう一つの象徴的な変化は、ウィラメット川沿いに走っていた6車線の高速道路を壊し、歩行者と自転車のための公園として再生したことだ。この公園は、ダウンタウンに住み、働く人々の日常の休息・レクリエーションの場として親しまれるとともに、定期フェスティバルの中心として近郊から100万人以上の人々が集う場所となっている。

■公共交通の利用促進
こうした、オープンスペースの整備とともに進められたのが、公共交通の利用促進である。1978年には、パイオニア・コートハウス・スクエアを挟んで南北に走る2本の大通りがトランジットモールとして整備された。モールには一般の自動車の進入が禁止され、バス停留場が集中的に設けられている。歩道は24フィート(約7m)まで拡幅され、植栽や歩行者の目を楽しませるようなオブジェが設けられている。このトランジットモールの整備によって、バスの利便性は格段に向上し、周辺の商店街の売り上げも伸びたという。
市の新しいシンボルとなっているもう一つの公共交通機関が、ライトレールのMAX(Metropolitan Area Express)だ。各車両は2両編成で、都心から東のグレシャム市までの24kmは1986年に開通。また、昨年には都心から西にのびるヒルスボロ市までの28kmが開通した。さらに、公共交通の利用を促進するため、市ではダウンタウン内の12ブロックで公共交通を無料とする政策を導入する。こうした取組の結果、1970年から1990年の間に、ダウンタウンへの公共交通による通勤者は40%以上増加し、交通渋滞は緩和された。
市の交通局のジーン・ハリソンさんはMAXの導入経緯についてこう語ってくれた。「ポートランド市では70年代にはすでにライトレールの導入が検討され始めていましたが、導入までには10年ほどの時間がかかりました。そんなモノをつくっても誰も乗らないのではないかという意見も多かったのです。実際にはそんなことはなかったのですが、私たちが期待したほどには利用者が増えなかったことも事実でした。こうした過去の経験から、私たちは公共交通の駅周辺に人口密度の高い住宅地や商店等を配置することの重要性を学んだのです。実際、昨年の夏に完成した西側の路線では、動物園などのすぐ近くに駅を作っいます。」このように、公共交通の結節点を中心に高度な土地利用を図る考え方は、「公共交通を中心とした街づくり(TOD:Transit Oriented Development)」と呼ばれ、現在アメリカで注目されているものだ。コンパクトに開発された拠点を公共交通でネットワーク化することで、自動車の利用を減らし、農地や緑地を保全するとともに、人にも環境にも優しい街づくりをしようというわけだ。実際、1994年に策定されたポートランド大都市圏の長期構想「地域2040成長構想」では、85%の成長が駅から徒歩5分以内で行われるように定められており、商店の上にアパートを作るような混在化した土地利用や、高密度の住宅も許されるようになった。

■都市成長境界による成長管理
ポートランドにおけるサステイナブルな都市政策のもう一つの重要な柱は「成長管理」にある。ポートランド市および周辺23市で構成されるポートランド大都市圏は、「メトロ」と呼ばれる地域政府により管轄され、厳しい成長管理政策を導入していることで知られる。また、ポートランドの「メトロ」は、選挙民に承認された自治憲章を持つアメリカ唯一の地域政府である。メトロ憲章は、メトロの最重要任務を地域の土地利用計画と定め、将来ビジョンと、それを実現するためのフレームワークプラン(総合計画)を採択することを義務づけている。こうした「メトロ」による成長管理施策の中で最も重要なものが、都市成長境界(UGB: Urban Growth Boundary)による線引きである。UGBとは、都市化すべき地域と農村地域を分ける境界線であり、UGBの外側は非都市地域として保全され、下水道などの都市サービスは供給されず、基本的に開発を行うことができない。UGBは、コンパクトな都市開発と効率的な社会基盤の整備を達成すると同時に、環境変化に繊細な土地や自然環境、農業などを保全することを狙いとしている。UGBによる成長管理政策は、オレゴン州の土地利用政策と一体となってポートランド大都市圏のスプロールを防ぎ、豊かな農地や自然を守ってきたのである。

■計画段階における徹底した市民参加
こうしたポートランドにおける街づくりのプロセスでは、徹底した市民参加が行われることも大きな特徴だ。オレゴン州の土地利用法は、19の目標を掲げているが、市民参加はその第一の目標となっている。実際、「地域2040成長構想」等の策定にあたっては、メトロの会議への参加、資料の公開、住民ワークショップ、世論調査等の様々な方法で市民参加が行われた。また、市民団体も大きな力を持っており、1988年に計画されたポートランドを横切るバイパスの建設は、市民グループ「オレゴンの1000人の仲間(1000 friends of Oregon)」等の反対と代替案の提示によって最終的に中止されている。
ポートランドでは、ダウンタウンにおける歩行者優先の街づくり、公共交通利用促進と同時に大都市圏地域での成長管理を徹底した市民参加によって、人にも環境にも優しい都市づくりを行っている。中心市街地の活性化に悩み、環境に優しい街づくりを目指している日本の多くの都市にとって、ポートランドのこうした取り組みは示唆に富んでいるのではないだろうか。


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