魅惑の農園 
〜ニュージーランド「レインボー・バレー・ファーム」〜


ジョー・ポラッシャー氏(レインボー・バレー・ファーム・オーナー)インタビュー


パッシブソーラーハウスの屋根の上では美しい花が咲き乱れ、様々な果樹が実る農園には放し飼いされた動物たちが平和に戯れる。ここは、ジョー・ポラッシャー氏と彼の妻トリシュ・アレンがサステイナブルなルーラルライフを実践するレインボー・バレー・ファーム。ジョーの惜しみない情熱と努力、知識と経験の結晶であるその美しい農園は、われわれに持続可能なライフスタイルが単に実現可能であるばかりか、それがいかに魅惑的なものであるかを雄弁に物語っている。彼らは、強制や義務ではなく、歓びと魅惑のうちに、私たちを持続可能な未来へと誘っているようだ。


■全ては互いに助け合い、循環的に働いている
この農場を私達が手に入れたのは、11年前の1988年のことでした。初めて訪れたとき、ここには何もありませんでした。建物も、家も、道も。一面ゴースというとげのある灌木とキクユグラスという雑草に覆われていました。
ここは元々森林だったのですが、農場にするために90年前に焼き払われてしまったのです。私がこの農場を手に入れたときには、すでに表土がすっかり失われた後でした。すべて海へ流れてしまったのです。このため、私は土を取り戻すことから始めなければなりませんでした。土を取り戻すために、私は毎年1000本の木を植え続けてきました。これまでに約1万本の木を植えたことになります。この結果、わずか10年あまりで土はずいぶんと豊かになり、表土の流出も食い止めることができるようになりました。
私たちは、こうして徐々にこの農場を整備していったのです。私はここで、持続可能なライフスタイルが、本当に実現できるのだということを示したいと思っています。
そのために、私は自然のなかで太陽エネルギーやバイオマスを利用したサステイナブルな生活を行なっています。ここに植えられている様々な木は、観賞用ではなく、すべて食べられる実をつけます。ですから私たちはスーパーで果物を買う必要はありません。ここで、季節に応じて果物が収穫できるからです。池では5種類の魚を養殖をしています。食事を作るための薪も農場の中で手に入れていますし、太陽の熱でお湯も作ることもできます。飲み水も山の湧き水を使っています。私たちは自分たちが必要とするものすべてをここで作ろうとしているのです。
この農場のもう一つの特徴は、すべてのものが互いに助け合い循環的に働いていることです。例えば、あそこに木がありますが、その下ではハーブが育っています。そのハーブは木につく害虫を遠ざけるはたらきをしています。また別の木は、空気中の窒素を固定し、土を豊かにしています。鶏は、害虫を食べてくれますし、その糞と尿は植物の肥料になります。木はそのかわりに、種や果実を与えるのです。ですから、ここでは農薬を使う必要もありません。そのかわりに、鳥や虫、植物等生物のダイナミックなバランスで害虫がコントロールされているのです。ここには牛、羊、豚のほか10種類の鳥を飼っています。すべての鳥が異なる害虫を食べるのです。このシステムが機能する様は、とても魅力的です。ここでは、犬や猫も仕事をしています。例えば、猫はネズミを捉えます。この農場のまわりには、ここで飼っている鳥を狙うワイルドキャットやオポッサムなどの動物がたくさんいますが、犬はこれらの敵から鳥を守っています。
私は、様々な植物や動物が相互にうまく助け合えるような統合的なデザインを心がけているのです。ここは土壌はあまりよくありませんが、好運なことに気候は本当にすばらしいので、ほとんどの植物や動物はうまく機能します。雪は降りませんが、時には霜が降り、-6℃ぐらいになる日もあります。でもここでは、亜熱帯から温帯まで様々な種類の植物を育てることができます。なぜならこの家と同じように、様々な植物を組み合わせることによって太陽の熱をうまく取り込み、保つような工夫をしているからです。ですから、桃やプラム、リンゴ、柿、サトウキビなど、様々な種類の果物がここで育っているわけです。
今はまだ冬の終りですが、ごらんの通り緑は豊富です。春はあと2週間ぐらいのうちに始まるでしょう。そうしたら、本当にすばらしい景色になります。

■健康に優しく、心が安まり、環境と調和する家
30年以上も前になりますが、ノルウェーを旅行しているとき、私はすばらしい芝生の屋根を持つ古い小屋を見つけました。私はとても魅了され、以来、いつかあんな家を作りたいと思いつづけてきました。実際は、それを実現するのには30年の年月が必要でした。それが、この家なのです。でもこの家の特徴はこの草の屋根だけではありません。私たちはこの家に様々なデザインの工夫をこらしています。
まず南からの冷たい風を防ぐため、北向きの斜面に家を作ることにしました。家は丘の斜面に埋め込むようにし、そこには小さな半円形のハーブガーデンと菜園を設けました。また、家は卵の様な形をしているので、家の中には一日中光が入ります。この太陽の光は、熱として床や土の壁に蓄えられます。熱を有効に利用するために、窓は全て二重ガラスになっています。二重ガラスは通常の窓に比べ高いものですが、エネルギーの削減効果で十分もとがとれるほか、防音性や結露を防止する上でもすぐれているのです。
人にとって快適な家というのは、健康に優しく、心が安まり、環境と調和したものでなければなりません。環境問題に関心を持つ多くの人でさえ、家の中の環境にはあまり関心を払いません。現在の多くの建築物では、有害な材料を使っているために、私たちの健康に大きな脅威を与えています。私たちは、人生の多くの時間を室内で過ごしているのですから、もっと安全な建築資材に目をむけるべきでしょう。また、環境に対してもやさしい材料を使う必要があります。省エネルギー型の住宅というのは、維持コストが安いというだけでなく、環境にも優しいのです。


この家で使われている木材は、ほとんどがこの農場内の木を使ったものです。この農場には多くの木があり、中には70年生以上のものもあります。これらの木は、剪定などの手入れがなされていないので、ふしがあったり曲がったりしたものも多いのですが、かえって面白いと私は思っています。また、この家では古い柱もリサイクルして使っていますが、中には800年も前のものもあります。また、できる限りこの家では直線を使わないようにしています。なぜなら、自然には直線というものはないからです。このために、なるべく農場の土で作った日干しレンガや土を使うようにしているます。
また、この家の材料には、エネルギーを大量に使って作られる素材や作るときに汚染物質を作り出すような素材を使わないようにしています。例えば、アルミニウムです。アルミニウムはその生産時に、大量のエネルギーを消費します。プラスチックも同じように私たちが最も使用を避けている素材の一つです。ある種のプラスチックは人体にとって有害ですし、また火事の危険性も高くなるからです。ホルムアルデヒドのような人体に有害な物質が、現在多くの建築物で壁紙やカーペット等に使われていますが、ここではその様な人体に有害な物質は使っていません。
また、人に優しい家にするために、この家は一階建てとし、すべての部屋に車椅子でアクセスすることが可能になっています。ハーブガーデンと菜園は、キッチンの近くに作りました。また、電磁波を避けるために、寝室には電気器具を置かないようにしています。ベッドや寝具の素材もウールやコットンなどの天然素材です。
この家の屋根には草花が植えられていますが、芝生屋根は北欧には何千年も前からあったものです。このルーフ・ガーデンは、空気をきれいにすると同時にCO2の吸収に役立ちます。そのうえ、暑さを柔らげ雨水を一時的に蓄える役割も持っています。暑い日でも、屋根の上のスプリンクラーをつければ、室温は4度も下がるのです。こうした屋根を持つ家が都市の中にも増えることを願っています。
幸いにも、私は世界各国でさまざまな家の作り方を学んできました。こうした経験が、私に環境と調和した家というものがいかにあるべきなのかということを教えてくれたのだと思います。

■パーマカルチャーによるデザイン
私は、この農場をパーマカルチャーの倫理に則ってデザインしました。その倫理とは、一つめには地球をいたわること(Care the Earth)、二つめは人をいたわること(Care of the people)、三つめはとても重要なもの、社会的なものですが、資源を分かち合うこと(Sharing the resource and surplus)です。
パーマカルチャーでは、農場をゾーンにわけてデザインします。このゾーニングのシステムは、とても魅力的なものです。まず最初のゾーンは人の住む家です。ここがすべての活動の中心になります。次のゾーンには、ハーブ・ガーデンや温室、鳥小屋などがあります。三つめのゾーンにはエディブル(食べることのできる)・ランドスケープとして果樹園を作り、様々な鳥が放し飼いにされています。その次のゾーンはあまり手をかけなくていいような果樹や、牛や豚などの大型の動物を飼うための場所です。最後は、森林や野生動物などの自然を保全するゾーンです。パーマカルチャーではこの様に利用頻度や管理にどの程度の手間が必要なのか等を総合的に勘案しながらゾーニングを行っていくのです。またすべてのものを資源として捉え、すべてが持続可能になるように、慎重にデザインとゾーニングを行ないます。学校で教えられるような直線的な考え方ではなく循環的な考え方をするのです。
私は、オーストリアで東南部の山の上で育ちました。その後、長い間アフリカや南アメリカなどの第三世界の国で働いてきました。そうした経験のなかで、徐々にパーマカルチャーに興味を持つようになりました。しかし、本当は私がパーマカルチャーを知ったのは子供のときかも知れません。私は伝統的な農村で育ちましたが、そこでの生活は、まさにパーマカルチャーでした。ただ、そのような名前がつけられていなかっただけです。


パーマカルチャーのコースに通っている時に、一緒に受講している人から、「なんでそんなにパーマカルチャーのことを知っているのか?」とよく聞かれましたが、それは私の人生そのものだからです。私は、第三世界に長く住み、ブッシュマンやアマゾンのインディオ達が行なっている驚くべきサステイナブルな生活の知恵を学んできました。ですから、パーマカルチャーの学位をとることは私にとっては難しいものではなかったのです。
私はこれまで37ヶ国に住んできましたが、この国がサステイナブルな生活というものが本当に実現可能であるということを世界に示すことができるポテンシャルを最も有している国だと思っています。ニュージーランドは、そいういった意味で特別な国なのです。人口は370万人しかいませんし、気候もすばらしい。オゾン層の破壊やCO2の問題など地球環境問題は私たちにとっても深刻ですが、それ以外の汚染はそれほど無いのです。

■環境問題全般
パーマカルチャーの試みはニュージーランドばかりでなく、オーストラリア、ヨーロッパなどで輪が広がりつつあります。最近では、アジアやアフリカ、キューバなどの第三世界でもパーマカルチャーが広がりを見せています。なぜなら、世界中で食べ物がどんどん汚染され、環境が破壊されていることに人々が気付きだしたからでしょう。このままでいけば、食糧や化石燃料、人口問題などで私たちが大きな危機に直面することは間違いありません。人々が大量消費/大量廃棄をつづけることから、どうしたら考え方を転換することができるのか。私たちは10年から20年の短期間のうちに循環型の思考に転換する必要があります。そうでないと、この地球を破壊してしまうことになるでしょう。地球温暖化は海面上昇や食糧危機など深刻な問題をもたらすことになるでしょう。
また、パーマカルチャーの輪を広げるだけでなく、工業など他の産業の分野もサステイナブルなデザインが必要です。いくつかの産業や企業ではこうした考えに従ってサステイナブルな方向へ変化を始めています。しかし、そうした動きをもっと加速かせる必要があります。そのためには、私たちがどのようにお金をつかうのかをしっかりと考えることが大切です。もし、あなたが環境破壊的な企業の製品を買うためにお金を使ったとすると、あなたは地球破壊に加担したことになるのです。そのような産業のためにお金を使うことをやめて、グリーンな産業にお金を使うことが必要です。私たちは地球を破壊するような企業をまだまだ養いつづけているのです。多くの人が、自分のお金をどのように使うのかということを意識することで、経済をよりグリーンに変えていくことができるでしょう。産業は、われわれが支えることではじめて存在できるわけです。消費者は、地球上で最も強力な力を持っているのです。ただ、それを皆が意識していないだけなのです。
現代社会では、企業は欲望そのものをつくり出しています。企業は宣伝を通じて人々の欲望をかきたてます。消費が幸せだというメッセージを発信します。人々は精神的に満たされていないので、大量消費することで幸せになろうとします。本当にばかげたことです。それが、ここで私が自分のわずかな力だけで何かをしようとしている一つの理由でもあります。

■サステイナブルライフの模範をもっと多くの人に感じて欲しい
しかし、私はまだ楽観的な希望は捨てていません。私は自分の人生を楽しんでいますし、落ち込むことは問題の解決にはつながらないからです。ここでの生活を楽しみながら、これがサステイナブルな暮らしの良い模範になることを願っています。このために、私はこの農場をすべての人にオープンにしているのです。私はここで、特に若い人達に私の経験と考えを伝えようとしているのです。このために、ここでは様々な教育プログラムを実施しています。毎年約2000人の人たちがここを訪れています。今朝も大学生の25人のグループがここに来てくれました。ヨーロッパやアメリカなど海外から来る人も大勢います。幸いにも、ここを訪れた多くのひとたちは、ここはパーマカルチャーの一番良いサンプルだと言ってくれます。
私たちには子供がいないので、私がいなくなった後も、様々な人がこの農場を維持していってくれることを願っています。それと、あと10年位かけて、この農場をもっとも充実させたいと思っています。もっとたくさんの良い模範例を作る必要があると思っています。例えば、養殖のシステムや自然の材料を使っていかに良い住宅を作ることができるのかをもっとデモンストレーションしたいと思っています。また、生徒のための宿泊施設もまだまだ必要です。そのために、ここでいろいろなことを教えることによる収入で、新たなデモンストレーション施設を作ってサステイナブルな生活が可能であることをもっと多くの人に感じてもらいたいと思っています。
見て下さい。この犬は冬の毛が抜けはじめて春の準備を始めています。この毛は鳥の巣の良い材料になるのです。ここでは、すべてが資源です。すばらしいことです。自然には無駄なものなど何一つないのです。

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