どろのこころだ
イチジク
 イチジクと言えば、子供の頃、家の近所に大きなイチジクの木があってなあ。まだ俺が近所では坊ちゃんと言われてた時分のことや。ある日、がきどもと戦争ごっこしてた。その頃はな、よその家の庭なんか平気で入ってた。だいたいビシッと囲ってる家なんかあんまりなかったからな。家と家の狭い隙間を通り抜けて、庭も畑も通り抜けてどこでも行ったもんや。町中遊び場みたいなもんや。

 うちの家から関西線の踏み切りに行くまでに空き地があって、まあ、ほんまは何かの資材置き場かなんかやったんかも知れんけど、子供の俺らにしたらええ遊び場や。たぶん今見たら、こんな狭いとこでよう遊んどったなということやろけど。そんでその空き地のちょっと下に家があって、その斜面のとこに大きな無花果の木があってん。

 その日、俺らはその熟れ熟れのイチジクを取って「イチジク爆弾じゃー」とやってたわけや。取っては投げ、取っては投げ。しまいにそこのおばちゃんにえらい怒られてなー。当たり前やな。おいしいイチジクやったのに。人の庭のもんやのに。なんや夕方薄暗なってた記憶はある。さぞ俺らはしゅんとして帰ったんやろ。

 そしたら晩ご飯食べてからなあ、なんとそのおばちゃんが、うちにようさんイチジク持ってきてくれはったんや。ドロ坊ちゃん(ウソやがな)にどうぞってな。近所言うても、そんなに付き合いをしてる人やなかったと思うけど。怒りすぎたと思わはったんんかどうか、もう分からんけど、今でもココロの下のほーうにすまんことしたなあという思いがあるわ。

 さすがにかれこれ三十年以上は経ってるわけやから、その時の気持ちとかは覚えてへんけど、ほんまに反省してた、というかすかな感じは残ってる気がする。(まどろっこしい言い方やけど、もう昔のことやからな。なんぼ自分の気持ちでも、今の感覚で都合よく推測したらあかん)

 しやけど、それからや。俺はイチジク好きやねんと、何かにつけ思うようになったんは。気ままな庭でも鉢植えで育ててるんや。しかし、それにしても今時のイチジクはなんであんなに高いんや?だいたい、イチジクみたいなもん、柿やビワと同じで、あちこちの庭にあったし、悪ガキらは食べ放題やったような気さえする。(うちの家にはなかったけど) それに、そのまま口のほうから二つに割って、内と外をひっくり返して、ガバッとかぶりついてバンバン食べるもんやと思ってた。なんや今みたいに高級果物、ちゅうふうに売られてたら、お上品に食べんとあかんみたいやんけ。感じ出えへんなあ。

 ところで、イチジクは無花果と書くんやけど、無花果と書くよりイチジクと書いた方が美味そうやな。
ドロアシの本
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