どろのこころだ
フナ
 フナなあ。一番の思いでちゅうたら、また平野川のことやなあ。だいたい、うちの家はちょうど平野川の堤防の上に建ってたんや。昔の人は突貫堤防ちゅうとったけど、大阪夏の陣の時とかに豊臣方、徳川方が入り乱れて走って行ったということらしいわ。真っ直ぐ北の方に行ったら、大阪城やさかいな。えっ、そんなことはどうでもええ? まあまあ、聞きいな。そんで、うちの裏がその平野川やねん。その辺りは土地が低うて、大雨が降ったら、よう浸水してたんや。しやけど、うちはたいがい大丈夫や。堤防の上やから。

 ある日のことや。わしが小学校の時分のことや。大雨が降って、ちょっと上の方では水位が堤防を越えて、国道も水浸しや。あの頃はそんなことは日常茶飯事やったから、そんなに大騒ぎやなかったな。いつものことや。わしは裏の川を見に行った。だいぶ上の方まで来てた水が下がりかけとる。そういう時はチャンスやねん。何がって、フナの話をしとるんやろ。フナがドバーッと流れて来よるねん。どっかの池が溢れよんね。たぶん、八尾の南の方の池や。

 わしは喜んで、網を出して、バケツを持って取りに行ったがな。簡単や。網ちゅうても、子供のメダカすくうやつやで。岸から届くところに、子ブナがどんどん流れとるんやから。なんぼでも取れるがな。バケツ一杯くらいすぐや。
 言うとくけど、大和川いうたら、やれ牛が流れとるとか、豚が流れとるとか言うてバカにするやつがおるけど、そんなんは流れてけえへんで、なんぼなんでも。まあ、平野川に鶏が流れて来たんは見たことあるけど。

 そんで、その取ったフナはどうするかちゅうことやけど、食べるんとちゃうで。なんも、せえへん。バケツとか洗面器に入れたままや。あのフナの背中のきれいなん、知ってるか。なんともいえん、えー色や。あめ色ちゅうのかなあ。冷やしあめの色を濃くした感じ。てかてかして。それが重なり合ってきれいなんや、見てても飽きへんで。しやけど、次の日になったら、全部死んどる。なんせ、バケツにぎっしりやからな。酸欠なんか、もともと死にかけなんか、そら分からん。というか、忘れた。

 まあ、子供のことやから、そんなことも平気でしとったな。今の親やったら、かわいそうやとか、言うんやろな。逃がしたり、とか。わしでもそう言うやろ。あの時分は、親は働くんで一所懸命やったし、子は子で遊ぶんに一所懸命やったからな。今みたいに、親子でいつもべったりちゅうことはあんまりなかった。そら、今でもそういう家庭は一杯あるやろけど、あんまり網持って走りまわってる子は、見かけんからなあ。この辺でも池やら川やらはまだ残ってるのになあ。
ドロアシの本
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