どろのこころだ
ヤモリ
 今回はヤモリにしまひょか。ヤモリは家守と書きまんな。多分でっせ。こいつはたいがい見たことありまっしゃろ。トカゲよりふたまわりくらいちっこくて、薄茶色したやつで、家の壁なんかに張りついとるやつ。目玉がでっかくて、手足の指の先がなんやふくらんどる。吸盤でんな。

 今住んどる家にもいとるし、前に住んどった東大阪のマンションの3階のベランダにもおった。何食うとんのかいな、あんなとこで。

 こいつには大した思い出はあれへんけど、強いて言やあ、蚊帳ですやろか。えええっ!蚊帳を知らん? ウソでっしゃろ。ほんまかいな。夏になったら毎晩押入れから出してきて吊ってましたがな。寝る時に蚊に悩まされんように吊ってましたがな。

 説明しまひょか。細かい目のレースみたいな箱を布団の上に吊りまんねん。もちろん天井もおまっせ。底はないけど。そんで、普通の大きさのやつは四隅になんや太い青い紐(ロープみたいにしっかりしたやつ)がついとって、その先にプラスチックの白いワッカがついとって、部屋の鴨居なんかに打ちつけた釘に引っ掛けまんねん。でかい蚊帳は、四隅だけやのうて六個ワッカが付いてましたな。ほんで寝るときは、裾をめくって入りまんねんけど、上手いこと団扇なんかでそころにおる蚊をどけてから、さっとめくって、さっと入りまんねん。上品にやってたらあきまへんで。団扇でもなんでも、バタバタ!って強風を起こさんと、蚊ぁも必死やからね。少々のことではどきよれへん。注意せんとあかんのは、蚊帳に張りついとる蚊ぁや。そうせんとせっかくの蚊帳の中に蚊ぁが入りよったら何しとるこっちゃわからんからね。

 しかし蚊ぁもアホやね。上手いこと蚊帳の中に入り込んだら、血ぃも吸い放題かも知れんけど、人間が我慢でけへんようになって電気つけたら、もうおしまいや。逃げるとこも隠れるとこもあれへんからな。アホが、一巻の終りや。何でもええことばっかりはあれへんのや。

 最近はこんなん吊ってる家はおまへんわな。皆めんどくさがって、電気蚊とりをコンセントにグサッと刺しよりまんなあ。だいたい、蚊ぁがあんまりおりまへんわな。いやいや昔に比べたらでっせ。開けっぱなしで寝えへんから、家ん中には。蚊帳使ことるちゅうたら、キャンプの時くらいでんなあ。

 なんでっか。えっ、ヤモリでっか。いやこいつは何や蚊帳が好きでんねん。昔、子供時分にうちにおったやつはでっせ。毎晩のように、天井からぽとんと蚊帳の上に落ちて来よりまんねん。えらいおっきなトランポリンですわ。そいつを見とったら、そのうちに親に、はよ寝えや、とか言われて電気消されて、ヤモリの夢見ることになりまんねん。

 ヤモリ、今でも好きでんなあ、ほんまに。
ドロアシの本
home