2010/02/05 ラブバード修理劇 1
ラブバードの修理を始めます。モデルは昨年4月販売のユリカモメ。始めに何処が、どのように、どのくらい破損しているかを見ます。両翼の先(各2mm)、嘴(2mm)、片(6mm)、尾羽の先(7mm)、計5ヶ箇所。他に尾羽と腹の境の凹みが汚れています。傷は全て凸部であり、逆に言えば凸部は全てウレタンのコーティングが剥がれて、その下の絵付けも消えています。腹の凹みの汚れは細かい繊維屑の様に見えます。嘴は木部の先端が1mm未満欠けて無くなっています。この部分が一番重傷と思えます。さて、どうしよう?? つづく
2010/02/06 ラブバード修理劇 2
破損の状態は1、ウレタンのはく離、2、絵付けの消え、3、木部の欠け、で嘴ではその全部の問題が重なっている。ここをクリアーすれば他は準じて出来るだろう。嘴の先に何を足すか考えている。木部に足すのは木が一番だろう。また、この場合欠損部が非常に小さいのでパテを盛る事も出来る。直すと言うからには元に戻す事を求められていると思うが、僕が自分の為に修理するのであれば、僕は嘴の丸く短いユリカモメにするだろう。可愛いではないか! 製作中にもよくあることだが、僕は失敗を元に戻そうとは思わない。失敗は意図して出来ない。折角の失敗を元に戻したのではもったいないと思うのである。だが、今回は直す!
2010/02/07 ラブバード修理劇 3
嘴に朴材
の小片を接着することにした。接着面を広くする為に嘴は付け根から削り落とした。此処で木材の性質を少し言うと、木は木元から梢に向かって、枝元から枝先に向かって繊維の束で出来ている。繊維に沿った方向には非常に強い、反対に繊維と直角の方向は材種にもよるが弱いという宿命を持っている。木で物を作る時、この事から逃れられない。当然木製品のデザインには制約がある。ラブバードもその通りであるが、実はモデルのユリカモメはそれに反しているのだ、全体は概ね木目に沿っているが、嘴は直角の突起物になっている。元々非常に弱いのである。対策として浸透性の樹脂で補強しているがそれでも足りない。今回の修理では朴のチップを繊維方向に接着した。
2010/02/09 ラブバード修理劇 4
嘴に木口から接着剤に頼っていも付けにした朴のチップが、削っているうちに剥がれてしまわないか心配だった。僕もこんな事をやるのは初めてだったが、やれば出来る物である。さて、この先どうしようか? 何となくごまかして仕上げてしまう事は出来るがそれでは修理劇という意味がない。ウレタン塗装の事をお話しておかなければ前に進まない。ここで、昔からの友人がくれたメイルの一部をご紹介しよう。『僕が昔ボロボロにしたカモメはあまりにも塗りが甘かった、それを田中さんが改良して相当強い物になって僕は同じ使い方(帽子に着けているだけ)をしてもほとんど痛まなくなりました。その強いラブバードをこれだけ痛めるのは使い方に何か特別な問題があるように僕には思えます。』実はこの時の無惨に傷ついたラブバード(僕の記憶ではカワセミだったようみ思うが)を見たときショックで僕はラブバードをやめようかと思った程だった。このメイルには今回の依頼者の責任を問うようなところがあるが、修理劇の本筋はそこにはないので許してもらおう。つづく
2010/02/10 ラブバード修理劇 5 ウレタン塗装の事
1984年6月21日(木)この日僕は小田原の神奈川県立工芸指導所でウレタン塗装の実験をしていたたまたま、その日実験に使ったカモメが出て来た。当時完全無比、夢の塗料として台頭してきたウレタン塗装だが、工芸利用は未だ入り口にあった。色々の塗装法があるが僕はデッピング(塗料の中に作品を漬けて、余分の塗料を振り落とす方法)という原始的だが小物には最適な方法を受け持った。塗料の粘度、硬化時間と作業性との関係、塗面の美しさ、堅牢さ、耐水、耐日光等の実験を自分の為にしながら、データは指導所(役所)に出した。実は新しい塗料を見つける実験などは個人には到底出来ない事なのである。先ず塗料を集めるにしても、市販品、未市販品を含めて各メーカの物を手に入れる事が経済的にも情報的にも出来ない。実験設備も然り、専門のスタッフも居て、こんな役所が有った事を有り難く思える。この事がきっかけでこの後、僕は某メーカーの実験室と直接新しいバージョンの開発のお付き合いをする事になった。送られてくる試供品で、暫くはつぼみ工房の塗料は間に合ったのである。つづく
2010/02/11 ラブバード修理劇 6 ウレタン
ラブバードは堅牢なウレタン塗装に変わって25年以上経った事になるが、さて今回の修理に戻る。ウレタンは2液硬化性で硬化後はシンナーで溶解しない。剥離剤はあるが塗幕以外も壊すので使えるものではない。これが修理困難の理由一番である。嘴は木部を足したが、他は洗浄し、軽くサンディングして下塗りを兼ねたガッシュの白を埋める様に刷毛塗りした。ここで気が付くのは同じ絵の具を使っていてもほぼ一年の色の変化である。実はウレタンの黄変もある。僕の使っているウレタンは工芸用に改良されたNYタイプ(黄変 しない)だが、全くゼロで無い事は昨日の写真でも解る。もしここを絵の具の微調整でパスしたとしても今だけのごまかしでしか有り得ない。これがウレタン修理困難の二番である
2010/02/12 ラブバード修理劇 7
思い違いをしていた。傷の部分に白のガッシュを厚く塗ったのではその上のウレタンの厚みが確保出来なくなる。一度元に戻ってとにかく絵の具を塗る所までやってみた。ラブバードの絵の具は一種毎に菊皿に溶き、減る度に足してずっと保存してある。この菊皿は1979年からのものだ。これは一度決めたカラーバランスを崩さない為だが、不思議な事に混色も、単色も、逆にこの皿の中で微妙な変化をしている。(隣の色が混んじたり、カビが生えたり、絵の具の重い部分が沈殿して成分バランスが変わったり、等、)いくら新しい絵の具同士を調合してもこの皿の色にはならない。冗談に僕はこの変化を熟成といっている。焼き鳥屋のタレ、くさやの漬け液の例に習ったのだ。この事が又、修復を更に厄介にしている。そこまで考えると出来ない事の理由にしかならないので、次に最後のウレタンコーティングに入るが・・・である。 つづく
2010/02/15 ラブバード修理劇 8
絵の具を塗った上に部分的にウレタンを刷毛で盛った。二液性のウレタンは混合後は全て硬化してしまい、残液は捨てる事になる。従って一個の修理の為に二液を混合する事は出来ない。通常の塗装の仕事に便乗するしかない。製作の時は一日にディッピング クリアー3回、翌日 半艶1回、計4回で仕上げる。ウレタンの硬化は気温と湿度の影響を受ける。表面の滑らかさと各層の密着を得る為には、一回目と二回目、二回目と三回目、そして仕上げとの間隔がそれぞれ微妙に異なり、担当のSさまの長年の勘が働いている。僕には解らない。修理はそんな理想的には出来ない。目で見ながら何回か塗り重ね、余分を耐水ペーパーで研いでは又塗り重ねるしかないだろう。研ぎすぎて下地が出たりすれば又やり直しになる。暫くは繰り返しの作業になる。
2010/02/18 ラブバード修理劇 9
ウレタン補修塗りの最後に一回だけ全体に半艶ウレタンをディッピングして仕上げたい。それには金具を外さなければならないが、ご覧の独立ピンはねじ込みの上補強の為エポキシで接着してある。エポキシ接着剤の強固さは有り難いのだが、外す場合はナイフで出来るだけ削り取り,細心の注意をしてネジ戻しをしないと木部をねじきってしまう。この意味では非常に丈夫なウレタンのコーティングが丈夫故に剥がせない、一旦壊れると修理困難なのと同じなのだ。又、ウレタンは一旦硬化すると重ね塗りの密着が悪い。最後のディッピングは古い塗幕をペーパーで荒らした上にするが、それでも完全な密着は得られない。全体を均一にする為に仕方なく試みるが、最後の塗面は研ぐ事は出来ない。所詮は外見のみのごまかしに過ぎない。
2010/02/19 ラブバード修理劇 10
ユリカモメの修理を今回で終わります。終了とか完成とか言わないのは写真で明瞭です。この修理劇が悲劇におわる予感は僕には最初からあったのですが、言い訳で逃げるのがイヤだったのでホームページ公開で行いました。明らかに僕には修理の技術が有りません。しかし今後も自然素材の木に対する愛着と信頼を失う事はないでしょう。それを補う合成樹脂の世界のたゆみない人の英知にも期待をしつつ、僕自身はもっと自由な製作の場で励みたい。最後に言わせて下さい。「壊れたラブバードはナオラネ〜ヨ!!」