白馬岳から   1986/8/9-10

  お元気ですか。私は今白馬山荘にいます。久しぶりに白馬にやってきたのです、小野寺さんと一緒に。

    本部で待ち合わせ、食事をして出発しました。並んだのが早かったので座れましたが、車内はかなり混んでいて、通路に寝ている人さえいました。小野寺さんは、夜行列車は初めてということでかなり苦労している様子。慣れていないとなかなか眠れないようです。

    目が覚めると、そこはもう北アルプス。車窓にひろがる山並みは薄桃色に染まっていました。

   5時17分。白馬駅。ひんやりした空気が気持ちよい。用意した登山計画書を提出、すぐにバスに向かう。たちまち満員。乗り切れない人たちが長い列を作っていました。予定より少し早くバスは出発。

    猿倉、晴れ。林道をゆく。目の前に白馬が高く聳えています。ここで、早速記念写真。小野寺さん少し決まりすぎですよ!

  大雪溪にかかるころガス。でも上の方は明るい。きっとこのあたりだけなのでしょう、ガスがかかっているのは。アイゼンをつけて登り出す。すごい人の列。ずっと続いています。しばらく登って後ろをふりかえる。するとどうでしょう、見事な雲海がひろがっていました。小野寺さんはしきりに感激していました。空はあくまで青く澄み切っています。下界では見られない青さです。

 
  お花畑で大休止。クッキーをかじり、8mmを回し、ウォークマンでシェエラザードを聴きました。しっかり柏原芳恵のテープも持ってきましたよ!ガスはうっすらと静かに流れています。<お花畑>その名前から小野寺さんはもっとのどかな所を想像していたようでした。ところが、思いのほかきつい登りに加え、夜行の疲れで早くも死にかけています。頑張ってください、小野寺さん!もうすぐです。あと少しなのです。
    少しずつ休みながら登る。 岩の上に女の子が一人腰をおろして休んでいました。合宿できたそうです。

 少し登ったところに水場があります。今年もまた冷たい水を提供してくれました。さっきの女の子が登ってきたので、そこの水がおいしいことを教えてあげる。あたりはすっかりガスに覆われてしまいました。でも咲き乱れる色とりどりの可憐な高山植物が目を楽しませてくれました。

  ようやく村営頂上宿舎。ここで昼食にします。岐阜の子が絵葉書を書いていました。

  いよいよ最後の登り。小野寺さんは、旭岳の形の良さに感激していました。白馬山荘に向かってゆっくり登って行きます。

 宿泊手続きをして部屋につくと小野寺さんはとうとう死んでしまいました。きっと少し張り切りすぎたのでしょうね。
   
    1時間ぐらいして小野寺さんが生き返ったので山頂を目指します。白馬の山頂は、西側はなだらかなのですが、東は切り立っています。その形の美しさが人気の一つです。山頂ではワインで乾杯しました。ところがまたまた小野寺さんは死んでしまったのです。

  岐阜の子が来ました。おじさんも来ました。山頂はガスでおおわれてしまったので、話をしながら消えるのを待ちます。消えかかってはいるのですが、いまいち展望はひらけません。まあ、夏らしい雲がわき、それはそれで良いのですが。岐阜の子は美しいものにすなおに感動できる人のようです。記念写真を撮ったりしながら過ごしました。

 夕食にハンバーグが出るのではないかと思ったけれどハズレ。小野寺さんはあまり食欲がないようだった。岐阜の子が味噌汁やお茶をすすめていた。
    夕食が済むと、小野寺さんはすぐに寝てしまいました。彼を置いて再び山頂を目指します。準備をしていると一時消えかかっていたガスがまた出てきました。岐阜の子はしばらく様子を見るということなので先に行きました。ときおり青空が見えます。でも、次の瞬間もうガスに覆われている。ガスは消えたりあらわれたり、繰り返しています。だんだん薄くなっていくようです。やがて剣が見えてきました。
  突然ガスが消える。 まさに日が沈むところだった。 旭岳の裾にたなびく雲が夕日に染まっている。 夕日は雲を金色に染めている。 静かに沈んで行く。

  
  ガスが沸き出した。太陽を隠す。暗くなる。

  ガスは風に乗り、流れていく。薄れて再び太陽があらわれる。突然まわりから拍手。
 
  ガス。頑張れの声。太陽。歓声!

  すっかり日は沈んでしまった。みんな下りてゆく。月がでていた。

  今、山荘の売店にいます。コーヒーを飲みながらこの手紙を書いているのです。そろそろ9時、いつのまにかガスがでていました。

  ではおやすみなさい。白馬から涼風を添えて。
                                                                            昭和61年8月9日

2000.9.10

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