釣りレポート Vol. 12

2000年9月16日(土)

岩手県釜石市 同行者なし

 

真夜中、断続的に降る豪雨を蹴散らし、東北自動車道を北上する。先月買い換えたばかりの三菱ギャランGTスポーツ2000。最近メディアで取り沙汰されている三菱カー。この車もリコール対象であったが、対応済みなので一応安心だ。一風変わったスタイルと、V6ツインターボによるパワフルな加速、5速フルタイム4WDならではの足回りの安定性が素晴らしい。       

目指すは、小学1年の時に1年間だけ住んでいた、岩手県釜石市。旧宮本家のあった場所は今、フィリップス社の敷地になっている。余談だが、日本フィリップス品川本社には何度か仕事で行っており、ロビーには釜石事業所の写真が掲載されている。

ここのすぐ脇には、リアス式の三陸海岸に注ぐ清流が流れている。岩盤に覆われた山を上流域に抱えるこの川は、大雨が降ると瞬く間に増水する。ここに住んでいた年の夏に、大型台風が東北を直撃した。その影響で川は水位を上げ濁流となり、目の前に掛かっている橋と対岸の住家一軒が、堤防ごとごっそり流されてしまった事があった。この川には2年前に一度、獣医大生の釣り仲間と訪れたことがあって、その時はまさに爆釣だった。

釜石駅前には、新日鉄釜石製鉄所がある。ラグビー全国社会人大会において、1979年から7連覇という偉業を成し遂げた新日鉄釜石。鉄鋼業の全盛期、ラグビーで全国にその名を知らしめた黄金時代。しかし10年ほど前に高炉の火が停まり、街に活気がなかったのは寂しい限りである。

さて、何も懐かしい思いに浸る為に、わざわざ片道約650kmを夜通し単独ドライブした訳ではない。ターゲットは勿論、大物岩魚。国道沿いの上州屋には、市内で揚がった大型魚の写真が展示されている。60cm級のアイナメやカレイに混じって、渓流魚の姿もある。驚くなかれ。山魚女40cm、岩魚はなんと60cm超なんてのもあった。これはもう、化け物だ。

大物と一緒に写っている釣人はみな、満面の笑みを浮かべている。単純な頭脳を持つ私は、これらの写真にすっかり刺激されてしまった。おめでたい事に、すでに尺岩魚をゲットした気分だ。運転疲れもなんのその。朝からヤル気120%である。

そそくさとシューズを履いて河原に降立ち、ポケットから前日巻いた毛鉤を取りだす。手際よくラインに結び竿先に繋ぐ。グリーン色にきらめく巻き返しの流れに第一投。直後、水中でゆらっと魚体が動いた。20cmくらい、あれは岩魚だ。しかし毛鉤にはアタックしてこない。でも幸先がいい。今日は大漁の予感がする。ポイントを絞って毛鉤を流し、釣りあがってみる。しかしながらポツポツと小型岩魚がかかるものの、なかなか型が揃わない。ここまで全てリリースだ。あの写真は幻だったのか。

時計の針は11時を回った。キープがたったの1匹。岩手の渓よ、一体どうしてしまったのだ。天気も気まぐれなもので、先程まで陽が射していたのに、しとしと雨が降ってくる始末。

期待に裏切られた私は、気分転換に当時通った小学校を訪ねてみた。前回の釣行の折に立ち寄った時は、大きなショックを受けた。木造だった校舎は清潔なクリーム色の鉄筋校舎になっていて、私の微かな記憶にあるものとはすっかり変わっていたのだ。あの時は、思い出がひとつ奪われた気がして悲しかった。

今日は休日。校庭では少年達がコーチの指導のもとに野球の練習をしていた。私は車中からしばらく練習風景を眺めていた。もしかすると、この少年達の親は同級生だったりするのかなあ。今度来る時には、誰でもいいから知っている人に会ってみたいものだ。

ふと気がつくと、いつの間にか雨が上がっていた。よし、もう一度川に入ってみよう。今度は最上流部だ。車を降りてしばらく川沿いに登ってみる。高い岩を乗り越え、何気なくポイントを見下ろした。その瞬間、私の心臓は破裂しそうになった。細い流れの白泡の下に、鯉みたいな馬鹿でかいヤツが、尾鰭を揺らせてエサを追っているではないか。でも、こいつは鯉じゃない。背にある白い斑点は岩魚だ。40cm級の大岩魚。どうしよう、こんなの釣ったら反則だ。

一世一代の大仕事、祈りながらヤツの頭上に毛鉤をそっと振り込む。き、来たあー。カーボン製の竿がググッとしなる。で、でも、こんな高い場所からどうやって取りこむんだぁ。心とは反対に、体は反射的に動いていた。アタリの直後、竿の反動を利用して、化け物を3m上まで引き抜いていた。足元の岩の上でゴロゴロ暴れる魚体を、軍手をはめた両手でしっかりと押えつける。両腕全体に、自然の力が伝わってきた。全長39cm。他に31cm1匹、20cm超4匹。

 

 

幸運にも夢を叶えた私は、遅い昼食を駅前の橋上市場にてとった。新鮮な魚介類がズラリと並ぶこの市場も、2年後には無くなってしまう。新しく橋を掛ける計画があり、そちらに店を移転しなければならないの事。しかしながら、店の経営者の後継者不足と、移転に必要な資金、これには約二千万円かかるそうだ、が莫大なものになる為、辞めてしまう店が殆どだそうだ。

 

 

製鉄城下町、釜石。時代は移り変わっていく。景気が回復して、いつの日か日本鉄鋼業の全盛期が再びやってくる事を心よりお祈りしたい。