
早速、石の森君が伝統?の特別豚汁を大量にこしらえてくれ、いつもは簡単便利貧相酒池即席に過ごすことの多い山旅を充実したものにしてくれた。夏の終わりの山旅での豚汁をすすりながらの日本酒はとっても素晴らしいのである。
昨夜は、結局、自然保護団体メンバーが小屋で遅くまで激しく宴会していた。でも上機嫌にビールを分けてくれたので許す。まあ、もともとどんな状況であろうが、寝れるので問題ない。
五時に起床し、昨日の残りの豚汁で簡単豪華に朝飯を済ませて、早速、出発した。
まずは空沼岳まで登る。徐々に青空を見せ始めた空であったが、雲の流れが早く、天候は掴みづらい。空沼岳までは、中高年登山ブームの真っ直中にあるコースのため、完全に非常に整備(自然破壊?)されている。山頂からはるか、向こうの札幌岳を指差す。
ここからいよいよ札幌岳縦走路に入る。縦走に入るような酔狂な岳人はほとんどいないらしく、わずかに残る獣道を辿る。
しばらくすると、完全に熊笹に覆われ、道が見えなくなる。人の手の入り込まない熊笹は2メートル以上もの高さに伸び、激しく絡み合い、そのわずかの獣道以外は入り込めないおかげでなんとか足取りがわかるという感じである。しかし、いきなり崖になっていたりして、落とし穴のように突然落ちてしまう。それでも熊笹のおかげでクッションになっており、せいぜい2メートル程落ちて止まる。そんな状態がかなり長く続いた。行けども行けども、熊笹は生い茂り、足元も見えないし、周りも見えない。分け入る熊笹の間からわずかに空が見え、雲が激しく流れている。ここで熊に遭ってもおかしくないよなあ、とふと思う。

時々、振り返ると熊笹がガサコソと動いていることから、相棒が来ていることが見て取れる。
”大丈夫ですか〜?”と声をかけると
”は〜い、大丈夫です”と笹の中から声が返ってくる。
笹薮の中から見渡せる景色は、大きくうねりを見せながら果てしなく続く熊笹の野原であった。アップダウンを繰り返しながらも熊笹は続く。マラソン選手が、走っている途中から脳内ホルモン・βエンドルフィンが分泌されて次第に覚醒、高揚していく、所謂ランナーズ・ハイというのがあるが、まさしくヤブコギ・ハイであった(駄洒落にもならん....)
out in the great loneliness,
and can be reached only through the suffering.
"この山を越えたら、札幌岳ですよ”
の相棒の声に再び、現実へと覚醒するが、既に思った以上に肉体は重く、体は上がらず、息だけが上がっていく。岩を掴み、枝を掴み、熊笹を掴み、兎に角、登る。
しかし、山の頂からは、その向こうにまた札幌岳のような頂が......そしてその山を下り始めると再び熊笹の中へ......
この状態が3度程続いたろうか?次第に肉体と精神は荒廃していく。
再び熊笹の中をヤブコギしていると、前方からガサガサと音がする。
よく見ると登山者だった。わずか4時間程度の無人地帯であったが、どうにもうれしくなってしまった。札幌岳の登山者で、ちょっと足を伸ばしてみたらしい。我々の、熊笹に叩かれ、引っかかれ、やつれ果てた姿に驚きつつ、もう少しですよ、と励ましてくれる。
そしてようやく目的の山頂へ。
山頂はやはり中高年登山ブームに沸いており、賑やかなことこの上ない。僕達は、その群れの中で、かなり浮いた状態で、落ち着き場所を探しているのであった。
