
ついに長年の夢であったトムラウシ登山に挑戦することとなった。
今回のメンバーは"NYHA IV"ではなく、学生時代の同窓3名である。 今からちょうど10年前、まだ駆け出しの頃、山の先輩に連れられ、足袋に土方ヘルメットで登ったクアウンナイ川沢登り。ヒサゴ沼からトムラウシの麓にようやくたどり着き、夕日を浴びて輝くその岩岳。山頂にはイワツバメが舞い、ナキウサギ が鳴く。そういった情景が頭にこびりついている。しかし、翌日に暴風雨に見舞われ、トムラウシ登頂はもう目の前というところで断念させられていたのだ。あれからもう10年も経ったのだ。
4時に起床し、出発。あたりは深い霧雨、時折強く降るという天気。濃霧の中、雨に濡れながらの登山は、もうただの根性トレーニングに他ならない。多少の不安と期待と持ちながらの開始となった。
しばらく林道が続く。前日までの雨で道はぬかるみ、余計に体力と神経を消耗する。林を抜ければ、気持ちも少しは晴れると思い、登る。
林道から沢沿いの道を抜けたところで、なんと突然のように雲が抜けた。まさに雲が抜けたという表現しかない。V字に切れ込んだ緑の谷間いは高山植物の花が咲き、その向こうに青空が映える。振り返るとそこにはいままでいた濃霧が立ち込めている。V字ゾーンが終わると、ロックガーデン入る。濃霧時には迷いやすいところらしいが、一面見渡せる。キッ、キッ、キッと岩場から鳴き声がする。ナキウサギだ。耳にする度に立ち止まり、目を凝らすが鳴き声だけで、姿は見えない。前トム平をようやく越え、再び岩場登りの途中、ふと前を見ると体長10センチぐらい、キレイな茶色毛で丸く小さな耳。耳の尖端がちょっとだけ白い。鳴くときに首を伸ばし、体全体でキッ、キッと鳴く。ついにナキウサギを見ることができた。みていたのは、ほんの10秒くらい。その瞬間は永遠だった。ふた声鳴いた後、さっと岩場に消えた。
前トム平を越えた辺りからは、ロックガーデン、日本庭園と称される異世界に迷い込む。一体、どうしてあのような巨岩が、しかも処々で競り上がって天を付いているのだろうか。日頃の運動不足で、ペース配分の不備によって、足が止まりがちになる。周囲の景色やナキウサギの鳴き声に励まされながら、歩き登る。そしてその巨岩が一番競り上がってしまったのが、トムラウシ岳だった。
10年ぶりにみたトムラウシは、やはりトムラウシだった。当たり前と言われるかもしれないが、トムラウシのあの独特の岳影はそう言わせるものを持っていると思う。
ヒサゴなど周辺を回ろうと計画していたが、その姿を見、そしてキャンプサイトにテントを張ると全員で昼寝となってしまった。2000メートルを越えると日差しが痛い。
春の陽気で雪解けが早く、水場が無くなっていた。南沼の方にしばらく歩き、ようやく雪渓を見つける。ひんやりと気持ち良く、水の確保と貴重なビールの冷やしに入る。一挙に力を回復したメンバーは夕日を迎えつつあるトムラウシを見て、一挙に登頂を遂げた。山頂からは北海道中が雲海に煙る中、北には旭岳、忠別、化雲が、南西にはオプタテシケ、十勝が、東にはニペソツが頭をにょきっと出している。まさに2000メートルからだけの天国だった。