
「観察会での疑問から」 その2−1
イヌビワとイヌビワコバチ
私たちのフィールドにはイヌビワが沢山あります。そして毎年話題になるのがイヌビワコバチとのややこしい関係です。いろんな本を読んで、それを勝手につぎはぎにしてわかりやすい形にまとめたいと挑戦しました。
・・・・・・でも、やっぱりややこしさは変わらない・・・・・・じっくり、ゆっくり読んでみてください。
イチジクの仲間はそれぞれの種類が○○コバチという名前の蜂と複雑な共生関係を持っています。たとえば、イチジクだったらイチジクコバチ。イヌビワだったらイヌビワコバチというようなことです。そこで今回のテーマはイヌビワとイヌビワコバチということになります。
まずイヌビワの木のこと
イヌビワにはイチジクを小さくしたような物ができます。中に花あるいは実が入っているので花嚢(かのう)、果嚢(かのう)と呼びます。外から見たら今が花の時期なのか実の時期なのかよく分からないので、便宜的にここでは果嚢を使います。
イヌビワは雌雄異株と言われていますので雄の木、雌の木と区別することにします。ただ、厳密に言ってこの言葉が正しいかどうかは分かりません。
- どちらの果嚢も外形はほとんど同じでてっぺんが鱗片で蓋をされています。
- 雌の木の果嚢には雌花だけが入っています。
- 雄の木の果嚢には上の方に少しの雄花と下の方にたくさんの雌花が入っています。
鱗片 果嚢を上から見たところ |
雌木の果嚢の断面図 |
雄木の果嚢の断面図 |
雌木の果嚢に入っている雌花の花柱は長くつきだしている。雄木の果嚢に入っている雌花の花柱は短くて先端がラッパ状に開いている。という違いがあります。
実はこのことがとても大事な点なのです。イヌビワコバチの産卵管の長さが短い方の花柱の長さと同じになっているそうです。 |
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つぎはイヌビワコバチの一生について
イヌビワコバチはイヌビワの果嚢の中に入って、雌の花の子房に卵を産みます。卵を産まれた花は「虫こぶ」になります。一方、イヌビワの方は卵を産もうとして果嚢に入ってくるイヌビワコバチのおかげで花粉を受け取って種子を作ることができます。
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イヌビワ雌木 |
イヌビワ雄木 |
コバチ♀ |
コバチ♂ |
| 春 |
果嚢がほとんど無い |
若い果嚢がある |
- 雄木の果嚢から飛び出す
- 雄木の若い果嚢に入り込む
- 入口が狭いので翅や触角は取れてしまう事が多い
- 雌花の子房に産卵する
- 産卵が終わると死ぬ
- 一つの果嚢のに2,3匹の♀が入りこむ
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- 雄花はまだ未成熟で花粉を出していない
- 卵を産み付けられた雌花は虫こぶになる
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虫こぶの中で、虫こぶを食べながら幼虫、さなぎと成長する |
虫こぶの中で、虫こぶを食べながら幼虫、さなぎと成長する |
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虫こぶの中で成虫になっている |
- 成虫となり虫こぶから出る
- 目は見えない、翅は無い、エビのように体がまがった形
- ♀が入っている虫こぶを見つけ、囓って穴を開け腹をつっこんで交尾する。
- 産卵した♀が複数のため、遺伝的に強い物が残る可能性もある
- 交尾が終わった雄は死ぬ
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| 初夏 |
若い果嚢がたくさんつく |
- 若い果嚢はほとんど無い
- 虫こぶになっていた果嚢の口が開いてくる
- 雄花が熟し花粉を出すようになる
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- 交尾のために雄が開けた穴から出てくる
- 果嚢の口から出るときに雄花の上を這い回り、自分の花粉袋に花粉を集める
- 夜明け前に果嚢から外へ飛び出す
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 雄が開けた穴 |
| 果嚢がある |
若い果嚢がない |
- 雌木の果嚢に入り込む
- 花柱が長いため産卵できず歩き回るがそのまま死ぬ。この時花粉袋に持っていた花粉を雌花の柱頭につける(送粉)
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| 秋から冬 |
- 受粉した雌花は種子を作る
- 果嚢は黒紫色に熟す
- 熟した果嚢を鳥が食べて種子を散布する
- 若い果嚢はできない
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若い果嚢が出来始める |
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虫こぶの中で越冬 |
- 果嚢という閉ざされた場所に花を咲かせるイヌビワにとって、花粉を運んでくれるイヌビワコバチは大事な仲間です。植物と昆虫が「共生」している有名な例になっています。
- 冬の間は寒さや乾燥からイヌビワコバチを守るため雄の木の果嚢をイヌビワに提供しています。雄の木の果嚢でも、イヌビワコバチが入り込まなかった物は赤紫色に熟して落ちてしまうけれど、入り込んだ物はしっかりと春までついています。イヌビワコバチが利益を得ている期間
- それでも、厳しい冬のあいだにイヌビワコバチはかなり死んでしまいます。そこで、イヌビワコバチを増やすためにまず雄の木の果嚢が早くできます。イヌビワが利益を得るためにイヌビワコバチに協力しながら準備している期間
- 初夏になると、この増えたイヌビワコバチが飛び出しますが、このときは雄の木には若い果嚢が少なく、雌の木の若い果嚢が沢山あります。だから、イヌビワは受粉をたくさんしてもらえます。
しかも雌の木の果嚢には、花柱が長い雌花だけです。だから産卵されず虫こぶにはならず種子になれます。イヌビワが利益を得ている期間です。
- そしてまた、冬のあいだにイヌビワコバチが絶えてしまわないように、雄の木に果嚢がつき越冬用のゆりかごができるのです。イヌビワコバチが利益を得ている期間
- 一番上の写真は2000年に撮ったものですが、おそらくこれがイヌビワコバチの交尾が済み、花粉を身につけた♀が飛び出すために開いた状態ではないかと思います。
- 今年1年かけて、じっくり観察していきましょう。
おまけ
美味しいイチジクを食べるときにイチジクコバチが入っていないか・・・何だか不安になりますね。
これは大丈夫です。イチジクコバチというのは暖かく乾燥した所にいる蜂で日本では越冬できないから居ないそうです。
それから日本にあるイチジクは、雌の木だけで、雄の木がなくても実が付くように改良された物だけだそうです。(ただし、実は熟すけれど種子はできずしいなだけだそうです。)
種子はできないかわり、挿し木で簡単に増やせる木なので各地に広がったのでしょう。ジンチョウゲとおなじ増やし方ですね。
イチジクの仲間と蜂の共生関係が最初に解明されたのはアフリカのエジプトイチジクです(イスラエルのガリル博士他)。エジプトイチジクはだいたいの推移はイヌビワと同じですが、次の点が少し違います。木に雄雌の区別がないらしく全ての果嚢に雄花と雌花が入っている。1つの果嚢の中に入っている雌花に花柱の長いのと短いのが混在している。交尾が終わった雄バチは一致協力して雌バチのための脱出孔を雄花の近くの鱗片付近に掘ってから死ぬ。
参考文献
「イヌビワとコバチのやくそく 」(浜島繁隆 文研出版) 「植物の生き残り作戦」(井上健編 平凡社) 「植物の私生活」(アッテンボロー 山と渓谷社)
(2000.1.20 N.K)
観察会での疑問から
イヌビワ観察日記 1
イヌビワ観察日記 2
のこのこ このこ