日高サッシビチャリ川ペテガリ西沢
 
昭和63年9月23日〜9月25日
 
メンバー:S&O
 
《概要》
 
 ペテガリ西沢は日高の沢の中では、技術的には中の上程度のグレードである。中流部の函と滝の連続する部分が核心部となっているが、上流部も中規模の滝が連続しており、引き締まった渓相である。
 比較的短時間で国境稜線に達することができ、溯行の醍醐味が味わえるため、人気のあるルートとなっている。10年ぶりの本格的な沢登りということで、トレーニングのためこの夏に、白水沢、ポンクワウンナイ川を登った。トレーニングとしては充実したルートであった。これらのルートでは、体力的な衰えを感ずる一方、山勘(沢勘?)はそれほど衰えていないという意を強くして、西沢へ向かった。
 
《記録》
 
  9月23日 OのCITYで午後3時過ぎ札幌の自宅を発つ。夜の林道走行を避けようと、日のあるうちにペテガリ小屋に入る予定であったが、静内に着いたときは既に夜のとばりが降りていた。静内市街から国道を左折し、闇の中を静内ダムへの道へと入る。静内川に沿って飛ばすうちに舗装も切れ、やがて東ノ沢林道となる。林道は静内川の右岸側に一定の高度を保って開かれており、大きな沢を横断するところは大きく迂回させられる。
 
 途中三つのダムを越える。工事用道路がいくつも分岐しているため、途中分かりにくいところがある。徐々に林道が細く、路面の状態も悪くなってくる。途中、エゾシカが車の前を横切ったりして、国道から分かれて約1時間半ほどで闇の中をペテガリ山荘に到着した。小屋は非常にりっぱな木造の二階建てで、我々のほかに3パーティ、8人ほどが宿泊していた。いずれもご苦労なことだが、ペテガリ岳西尾根を登るようすだ。
 
(TIME:札幌自宅 15:20→静内 18:30→ペテガリ山荘 20:00)
 
  9月24日 今日中に核心部を終えておくため、4時起床、5時に小屋を出る。天気は高曇りというところだ。昨晩、車で飛ばしてきた林道を、サッシビチャリ川出合いまでもどる。出合い付近の林道は地形図と異なっている。メナシベツ川からコイカクシュシビチャリ川にはいってすぐの所に新たに建設された東ノ沢ダムのため、サッシビチャリ川の出合いは水没してしまっている。このため、付け替えられた林道は出合いから 500mほど上流でサッシビチャリ川を渡っている。地形図では右岸側に林道が伸びているが、左岸側にも新たな林道が開削されていた。
 
 我々はこの新しい林道を進むことにした。この林道は約1kmほど上流に伸びており、林道の終点から10分ほど踏跡をたどったところでサッシビチャリ本流に下降する。ちょうど第一の函の手前である。自然破壊林道ではあるが、そのおかげで約1時間短縮できたのは助かった。しかし、原始性や困難さを求めながら、より安易な道で楽をしようという、登山には常につきまとうこの自己矛盾。
 水苔の跡などからみると水量は多くも少なくもないが、やや少なめといったところであろうか。この函は右手を巻く。しばらく先の第二の函は右のルンゼ状を高巻く。右岸から入る2本の小沢の所で小休止し、ほどなく西沢の出合いに着く。ここまでは最近出水があったせいか、水中に不安定な転石が多かった。
 
 西沢出合いには大岩があり、この上で小休止する。本流右岸からは10mほどの小滝が落ちている。本流から分かれ西沢を進むとすぐに廊下状となってくる。 680mの二俣までは瀞、淵、滝の連続で、我々は、腰上の徒渉で突破できたのは2ヶ所ほどで、あとは厳しいへつりと高巻きである。ザイルでザックを渡し、空身で瀞の右岸をへつるところもある。高巻きは右岸側を巻く場合が多い。
 ルートファインディングは慣れた目ならばさほど難しくないが、逆層のスラブ、不安定な草付き、泥壁など高巻きといえども気が抜けない。懸垂も何度か必要である。また、瀞を泳いで渡るのはかなり危険が伴う。Oは中盤あたりで、屈曲した瀞の泳ぎを試みたが、冷たさのためか背筋がつり、焦る場面や、私も瀞のへつりを試みてスリップして、首までつかり、あわてて泳ぎもどるようなところもあった。
 
  620mの二俣は割合開けたところで、核心部も終わりかと錯覚するようなところだ。しかし、 780mの二俣までも瀞、淵、滑滝の連続である。難しさは変わらないが、沢に慣れてきた分だけやや余裕が出てくる。
  780mの二俣は、右岸から左俣が20mほどの直瀑として落ち合っており、この直登は困難であろう。さらに中程度の難しさの滝をいくつか越えると、 880mの大滝である。この大滝は落差約30mで、右壁を10mほど登ったテラスから右手のガリー状をつめ、正面に出て快適に越える。III級程度だが、高度感のあるところだ。この上はすぐ 5mの小滝で右のリッジを越える。ここはまだ足下が大滝の取り付きで慎重に登る。
 
 さらに20mほどの滝が続き、これは右手を高巻くのだが、悪いところがある。右手を直上し、不安定で急峻な草付きを落ち口へトラバース気味に下降するが、これは落ち口の寸前で行き詰まる。やむを得ず、少々もどり、急なナイフエッジを直上後、小岩峰を越え、新しいシュリンゲのある立木を支点に懸垂して沢床にもどる。ハング気味の滝を空身で乗越すところもあるが、このあたりからようやく核心部を越えたかのようにやや沢が開け、小滝が連続してくる。西尾根最低コルからの枝沢の合流点を過ぎた右岸側のヤブの薄い小台地を今宵の宿とする。国有林内では禁じられている豪勢な焚き火のうちに夜は更けた。
 
(TIME:ペテガリ山荘 5:05 → 6:30 サッシビチャリ川屈曲点→ 7:15 シビチャリ山南面 沢合流点→ 8:10 西沢出合→10:30 620m二俣→12:30 780m二俣→13:00 大滝上→14:10  940m二俣→15:00 1050m 付近T.S )
 
 
  9月25日 年のせいか、運動不足のせいか、午後に入るとバテが訪れるが、午前中の行動は割合元気がある。稜線まであと3時間ほどと推定し、 6時20分出発。テントサイトのすぐ上には20mほどの直瀑がある。これは右手の急な草付きから高巻いて越える。 この後1300m前後までは10m程度の滑滝が次から次へと連続しているが、ほとんど直登でき、快適である。1550mでいよいよ水も尽き、1600mから藪漕ぎが始まる。後方の山の高さで大方の標高が分かる仕組みである。ハイマツに少々てこずるが、それもほんのわずかだ。コケモモが紫の実をつけており、思わずつまんでほおばる。ウラシマツツジがハイマツの海の中で小島のように紅葉している。予定どおりサイトから約3時間で頂上直下の稜線に飛び出した。
 
 ペテガリ岳頂上には、周囲の景観とバランスを欠く静内山岳会、静内営林署と記された、
興ざめのする山頂標識があった。十勝側は雲海に埋まっており眺望はないが、日高側は遠望が利く。土地勘がないので、残念ながらOの説明する山名を聞いてもピントとこない。1839m峰とヤオロマップ岳が双耳峰となっており、印象に残る山容である。南部の山々はとと見れば、雲海が国境稜線を越え、日高側へ滝のように落ちて行く。標高はわずかに千m台にすぎないが、山の深さ、沢のスケールは南アルプス南部の三千m級の山々に優るとも劣らぬ印象を受けた。
 
 あまりいたんでいない三足めのわらじをガスの深い十勝側に投げ捨て、地下足袋から愛用のジョギングシューズに履き換えて、西尾根を下る。登山道ではこのジョギングシューズが一番である。地下足袋は足先や足裏を痛めやすい。途中、西沢上部の滝の連瀑を俯瞰できるところがあり写真におさめる。この尾根は下降といっても合計で約 300mほどの登りがある。特に1293m峰の登りは中年クライマーにはきつい核心部である。最後の九十九折りの下降を終えると、小沢に出てそこからペテガリ山荘までは一投足であった。
 
(TIME:T.S 6:20→ 8:20 1550m水流消える→ 9:20 ペテガリ岳頂上→ 13:20ペテガリ小 屋→18:00 札幌)