シキミ(樒)
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Last Updated on 2010/03/31


 
 仏前に供える木として知られていますが、花が咲き、実も付きます。花は透明感のある淡黄色です。写真は相生市内某所で撮ったものです。

 「抹香臭い」という言葉は、この木の香りのことを指しています。全株に毒性があります。特に果実は毒成分が多く、「悪しき実」とされ、それが略されてシキミになったといわれています。漢字では「樒」と書き、いかにも密教(山岳仏教)と関係がありそうです。

(画像はクリックすると大きくなります。)


花 2001/3/26


花 2010/03/31


果実 2000/9/25

 シキミの実(み)は、「毒物及び劇物取締法」という法律で、植物で唯一、劇物に指定されています。従ってこの実を集めて、「無届」で「販売」したりすると罰せられます。実の形が大茴香(ウイキョウ)に似ているので、日本からドイツへ輸出されたシキミの実が大茴香と混同されて食品香料として販売され、多くのドイツ人が中毒して騒ぎになったこともあるそうです。ひょっとするとその事件が劇物指定の根拠かもしれません。 

 『毒草を食べてみた』(植松 黎箸 文春新書)のシキミの章に、前述のドイツでの中毒事件や、その他の中毒事件のことが詳しく書いてあります。以下に全文をご紹介します。


 
「実に毒ありて悪しき実」といわれるシキミなのに、英名をジャパニーズ・アニス・ツリーと、いかにも無害そうな名前でよばれている。そのためかどうか、他の植物と混同され、しばしば料理に使われることがある。

 もっとも多いのは、中華料理に使われるスターアニス(別名・八角)という星形をしたスパイスとの混同で、名前もまぎらわしいし、植物的にも同じ属だから、さらに混乱が生じる。その最たる例が、かつて日本から「日本産スターアニス」がスパイスとして輸出されてしまったことだ。そのため、1937年にはドイツで一家4人が、1955年には、シンガポールで79人がカレー粉にまぎれ込んだ粉末のために中毒するという事件がおこった。スターアニスのはずが、じつはシキミの実だったのである。

 シキミには、葉、花、茎、なかでもとりわけ種子に、アニサチンというケイレン性の神経毒がふくまれている。手足がつっぱって全身が硬直する強いタイプの毒で、ケイレンの動物実験に使われるピクロトキシンという猛毒によく似た症状をおこす。アニサチンの致死量は、犬の場合12ミリグラム。人間だと、成分の実験はないが、60〜120粒くらいの種子で中毒になるといわれている。カレーのようにスパイスをたっぷり使う料理に入れられたら危険はまぬがれない。

 スターアニスの原産地は中国や東南アジアで、日本には自生していない。それなのに日本産と称して”スターアニス”が輸出された背景には、当時の文化的誤解があったのではないだろうか。1930年代の西洋人にとっては、日本と東南アジアの区別などなきに等しかった。そのため、日本にもスターアニスは当然あるものと決めつけていたのではないか。一方、臭いの強いスパイスになじみのなかった日本人にしてみれば、「外国人はほんまにけったいなものが好きやな」と、「星形」の実を見つけてはせっせと送り出していたのではないだろうか。

 当時の日本人にとって、シキミの臭いは、食欲を落とすことはあっても、増すなどということは考えられなかったに違いない。シキミは葉や樹木を燃やすと、死臭も消すほど強い臭いをはなつため、古代から墓や仏に供える植物とされてきた。源氏物語や枕草子では、その臭いを「いとおかし」、つまり「とっても風情があるじゃない」、と婉曲にいっているけれど、ドライアイスのないこの時代にあっては、亡骸から死臭をとりのぞくにはシキミを焚き込むしかなかった。その名残りであろう、関西では今も葬儀にシキミを供えるし、墓地などでは、シキミの束が線香といっしょに一年中売られている。抹香くさいとは、このシキミの臭いからきたのである。

 だから、早春に咲く淡いクリーム色の小さな花がどんなに可憐でも、花のあとの実がどのように愛らしくても、かつての日本人はそれらを口にしようなどとは夢想だにしなかった。

 しかし、臭いの強いスパイス料理になじんできた現代の私たちは、シキミも食欲をそそるスパイシーな香りとなってきたのかもしれない。

 平成2年11月12日、神戸の自然教室に参加したメンバー15人もそんな現代人だったのだろう。かれらは、2000粒ものシキミのタネを炒り、小麦粉に混ぜてパンケーキを焼いたのだった。とはいえ、大学生を中心とした11歳〜24歳のこのメンバーの一行も、もちろんシキミを食べるつもりはなかった。「シイの実」のつもりだったという。

 シイの実というのは、子供の頃、誰もが一度は口ずさんだことのある「どんぐりころころ、どんぐりこ」の、あの丸くてずんぐりしたドングリの仲間で、とんがり帽子を長くした形をしている。それがどうして、小さな青柿のように扁平で、星形をしたシキミの実と間違えてしまったのか。シキミとスターアニスの実は似ていなくもないが、シイの実は子供たちが絶対に見間違えない姿ではないか。

 しかし、ひどい吐き気とケイレンにおそわれて病院にかつぎ込まれた若者たちは、みな、「シイの実」を食べたと信じきっていた。治療する医師も、はたして「シイの実」がこのような症状をおこすのかどうか自信がなかったらしい。中毒専門のセンターに問い合わせたが、電話ではらちがあかない。そうしているうちにも23歳で体重75キロという堂々たる体躯の若者が事情を説明しているうちにけいれんをおこし、意識が混濁状態になった。彼はパンケーキを丸ごと1枚食べていたのだった。1枚のパンケーキには、約250個ものシキミのタネが入っていた。半分だけ食べた12歳の男の子にも意識障害が生じた。苦痛のために転げまわって転倒した子は、骨折というおまけまでついてしまった。無事だったのは15人のうちのたった2人だけで、あとは入院ということになった。

 いったい何がおこったのか、何を食べたのか、彼らが真相を知ったのは、六甲山麓にある自然教室の現場検証が終わってからだった。そこには、まぎれもない、シキミの殻が無数に散っていたのである。もう少しで自分たちがシキミを供えられるところだった。
 

 

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