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バンコクでライダーになろう


はじめに

我が家では自動車を1台確保したが、これではママとベビーを置いて私が一人で好きなところへ出かけるのは気が引ける。また、タイでは自動車がかなり高価なので、タイでプータローをしている私としては、2台目をおいそれと買うわけにもいかない。そういうわけで、
 「オートバイがあったら便利だな。」
と思うようになったのである。


私のライダー歴

17歳の時に原付免許を取って、YAMAHA MR50 というオフロードバイクを乗りまわし、18歳で中型二輪免許を取って HONDA LA CUSTOM という 233cc のアメリカンバイクを乗り始めた。1年後、高校生だった弟が YAMAHA RZ350 という面白いオートバイを買ったので、たまに借りて乗っていた。

その後 LA CUSTOM は弟がツーリングの途中でクラッシュして廃車となり、RZ350 は私が赤信号の交差点に突っ込んでクラッシュして廃車となった。それで私は HONDA Rebel を買い、その後6年半の間乗りつづけたのである。学生で東京住まいという経済的な理由から四輪車が買えず、かといって電車やバスに乗るのは嫌いだったので、何所へ行くにも、雨が降ろうと雪が降ろうと Rebel にまたがって行った。毎年のように夏の北海道へツーリングに行き、テントと寝袋を積んで放浪の旅をするのが私の最大の年中行事だった。最後にはタンクに穴が開いて、いくら補修してもガソリンが滲み出し、セルスターターは壊れて押しがけ専用となり、エンジンはカラカラと異様な音を発するようになったが、なんとか工夫して乗り続けた。

途中、限定解除を目指して都民自動車教習所に大枚8万円をはたいて通った事がある。教習所では上手に乗りこなせたが府中の試験場では何かしらイチャモンをつけられて、3回試験に落ちたところで「こんな下らない試験のために人生を無駄にできるか!」と理屈をこねて諦めてしまった。その後同級生の康永君が5回目にして合格し、 V-MAX に乗って大学に現れたのには参ったが。

1994年の春に、私が二度目のタイ旅行から帰ってみると、大学構内に二週間ほど置きっぱなしにしておいた Rebel が姿を消していた。まさかあんなおんぼろバイクを誰かが盗んだとは考えにくいが、もういいかげん廃車にしようと思っていた矢先だったので、大学を卒業した事もあって中古の HONDA CIVIC をただ同然の値段で譲り受け、オートバイからは足を洗ったのである。


タイのオートバイ事情

日本ではオートバイというと、郵便配達や新聞配達などの業務用か、あるいは若者が趣味で乗るものと相場が決まっているが、タイではオートバイは立派に家族の乗用車としての働きを持っている。要するに四輪車の値段が高すぎるので低所得層には手が届かないが、オートバイならばローンを組んで購入する事ができるわけだ。それで家族で移動する時は1台のオートバイに3人乗りや4人乗り、場合によっては5人乗りをするのである。

タイの路上で見かけるオートバイの99%は日本メーカーのもので、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキがタイで現地生産をしている。しかし日本とはまったく違うモデルばかりなので、初めて見るとなかなかエキゾチックである。スタイルは、タンクがシートの下にあるカブスタイル(女バイクと呼ばれているらしい)か、ヨーロピアンスタイルのバイクがほとんどで、アメリカンスタイルやオフロード車を見かける事は少ない。

タイの法律により、タイで生産されるオートバイは排気量が150cc以下のものに限られている。実際には路上で、ホンダやヤマハの400ccや、ナナハンやハーレーを見かける事があるのだが、それらは、
a. 高額の関税を覚悟して輸入する
b. バラバラに分解して輸入してから組み立てる
という方法で持ちこまれるそうである。

バンコクは渋滞が名物の都市だが、道路によって、あるいは時間帯によってはガラガラに空いている事もある。そういう時は交通の流れは 80km/h〜100km/h とかなり高速になるので、オートバイのエンジンも大きい方が楽である。

タイで生産されるオートバイの排気量について From Lonely Planet Thailand

The legal maximum size for motorcycle manufacture in Thailand is 150cc, though in reality few bikes on the road exceed 125cc. Anything over 150cc must be imported, which means an addition of up to 600% in import duties.


中古車
新車
Made in Thailand車種や排気量にこだわらなければ一番安い選択肢。10,000B ぐらいから買える。新車という気持ち良さはあるが、150ccという制約はいかんともしがたい。
Made in Japan250ccや400ccが選べるが、中古車という不安がある。高い!2台目の四輪車を中古で買った方がまし。



11月1日

きれいな Rebel が駐車してあるのを見つけてじろじろ見ていたら持ち主が現れたので、志真子さんにいろいろと質問してもらった。彼はこれを50,000Bで手に入れたそうで、エンジンの調子は新車に比べて80%〜90%程度の上物だとの事。彼は買い物の帰りで、奥さんもプラスチック袋を下げて現れたので、志真子さんは
「私達も日本にいたときはこのオートバイに二人乗りしてあっちこっち走ってたのよ。おーっほっほっほ。」
というような会話で盛り上がっていた。

50,000Bで Rebel が買えるなら悪くないな、と、がぜん私のオートバイ購入計画に弾みがついた。


11月19日

日本に出かけたついでに、上野のD’s にヘルメットを買いに行った。ヘルメットを買うのは10年ぶりである。タイにもヘルメットは売っているし、値段も安いのだが、気に入ったヘルメットを選ぶとなると、やはり日本で買っていった方が確実なのである。

ちなみに私の好みのヘルメットとは、次の2条件を満たすものである。
1.視界の広いジェットヘル
2.あごまで届く長いシールド (コンタクトレンズを使っているので、風やほこりに極端に弱いため)

それで、とにかくシールドの長さを最優先して、SHOEI J-Forceというジェットヘルを買った。27,000円ぐらいだった。

夏用の薄手の皮手袋が3000円で安売りしていたので、ついでにそれも買った。タイでは手袋を使うライダーはむしろ少数派なのだろうが、私は手袋をしないと落ち着かない習慣になっているようだ。

ヘルメットについて

タイでも数年前からオートバイの運転者と同乗者のヘルメット着用が義務付けられている。それで実際の路上ではどうかというと、バンコクでは大体のライダーはヘルメットを着用しているようである。というのも、たまにノーヘルのライダーを対象にした一斉検問があるからだ。ただし、一斉検問が無い場合には、ノーヘルで交差点の赤信号で止まって、そこに立っている警察官と目が合ったとしても、検挙されることはまずなさそうなので、日本ほどシビアではない。そういうわけで、バンコクでもノーヘルのライダーは良く見かけるし、バイクタクシーでは客がヘルメットをするのを嫌がって、ヘルメットを手に持ったまま乗っていることもある。

タイのヘルメットというのは千円ぐらいのものが多く、肉薄で、叩くと「カンカン」と軽い音がする。日本のJIS規格には到底合格しそうもないし、クラッシュ時にどれだけ頭部の保護に役立つのかは不明である。ARAISHOEI のヘルメットは日本でも高いが、タイで手に入れようとするとまず値段は倍はするので、タイでライダーになろうとする人は、ヘルメットだけは日本から持ってきた方が良い。



12月2日

夜、Hangがボーイという名前の、タイでは結構有名なミュージシャンのスタジオに連れて行ってくれた。そこに出入りしている若い歌手がチョッパーに乗っていると言うのである。はたしてスタジオの前には YAMAHA VIRAGO 250 が駐車してあったので、私は食い入るように、なめ回すように、じろじろと見入ってしまった。持ち主の彼は、ロンゲで皮ジャンというタイでは珍しい格好の若者だったので、この彼にしてこのオートバイありか、と妙に納得した。

彼が、
You can ride it.
と言ってエンジンをかけてくれたので、私は胸の鼓動を押さえつつ、数年ぶりにオートバイにまたがったのだった。

VIRAGO に乗るのは初めてだったが、操作性は Rebel とほとんど一緒だった。夜のソイを500メートルばかり行って戻ってきただけだが、VIRAGO のトルクは意外に細く感じた。こりゃーやっぱりバンコクといえども400ccクラスでないとつらいかも知れないなあ。

彼は VIRAGO を70,000Bで手に入れたそうである。私は志真子さんに
Please ask him the name of the bike shop. And a map, too.
とお願いしたら、
でも彼、一緒に買いに行ってくれるそうです。
との事。これは心強いぜ。

しかしその後Hangに
When can we go to the motorcycle shop?
と催促したら、
He's very busy this month. He says he can go with you next month.
と言われた。ジョーダン抜きだぜ、そんなに待てねーぜ。


12月3日

インターネットで motorcycle 、thailand などのキーワードで検索して情報を集めた。タイにも、バイク野郎やチョッパーフリークが集まる場所があるようで、バイクショップの名前もいくつか手に入った。それで志真子さんに電話をしてもらったのだが、
うちはハーレーだけしか扱っていません
と言われた。

ハーレーですかー。いいですねー。溜息がでますねー。日本と違って免許の制約も無いし、タイでハーレーを買うのも面白いな、とほんの一瞬思ったが、すぐにその考えを振り払った。そもそもオートバイを買おうと思ったのは、2台目の自動車を買うよりはずっと安く済むという経済性が合理化の一つだったのだ。ハーレーを買うというのはまったく次元の違う話である。とにかく予算はできれば20万円、せいぜい30万円に押さえたいのだ。

2件目に電話したMr. T Bikeというバイクショップでは、中古の Rebel が置いてあるというので、志真子さんと行ってみた。そこにあったのは、ずっと雨ざらしになっていたような古ぼけた Rebel で、値段は90,000Bだと言う。外国人だからふっかけているのか、Rebel を欲しがっているからふっかけているのか、いずれにしても私は「話しにならねえ」とばかりに早々に引き上げた。

コンドミニアムに戻ってから気を取りなおして、バンコクのイエローページ(電話帳)でバイクショップの電話番号をあたってみた。はたして数百軒というバイクショップが見つかった。適当に見つくろって、あちこち志真子さんに電話をかけてもらった。しかし、どこにも Rebel は置いてなかった。

しかし、そのうちの一軒が、
Rebelは無いけれども、150ccのチョッパーなら置いてある
と言った。150ccということは、Made in Thailand のチョッパーなのだろうが、私はそれらしきオートバイをタイで見かけた記憶がなかったので、いったいどんなオートバイだろうかと不思議に思った。日本では昔、CX125 というホンダの125ccのアメリカンスタイルのオートバイがあったが、そういう感じなのかも知れない。150ccあれば、CX125 よりもトルクがやや太いだろうし、中古の Rebel を買うかわりに、150ccのチョッパーを新車で買うというのも面白いかも知れないと思った。

午後、ベビーをメイドに預けて、志真子さんとその店に行ってみた。バンコクのバイクショップは薄汚い店が多いが、その店はHONDAの専門店らしく、清潔な感じの造りだった。メンテナンス部門が独立したガレージを持っていて、きちんとトレーニングを受けたかのように見える工員が2、3人いてバイクの整備をしていた。やや郊外にあったせいか、店の裏にはちゃんと駐車場まであった。

HONDA Phantom (→画像)と名づけられたその150ccのチョッパーは、店には展示してなかったものの、私はそのカタログを見て度肝を抜かれた。えらくカッコイイのである。CX125 ではなくて、Magna 250 に似たスタイルなのだ。タイもこんなにカッコイイオートバイを作るようになったのか。

その日、その店では Phantom の納車があって、志真子さんが、

RebelPhantom
エンジン 233cc
空冷4サイクル
2気筒
150cc
水冷2サイクル
単気筒
最大出力21/800037/9750
最大トルク2.0/70002.74/9000
全長2.1252.260
車両重量154130
ギア5速6速

もう少しすると、Phantomが届くそうです。
と言うので、私はカタログを見ながら待つことにした。そして、カタログを見れば見るほど「いいなー」とか「おもしろいなー」とか、Phantom に惚れこんでいったのである。

カタログによれば、エンジンは150ccの水冷2サイクルの単気筒。右の表に見られるように、かなりの高回転型のエンジンである。すると、2000〜3000rpmといった低速のトルクは、かなり犠牲になっていると見なければならないだろう。中低速では Rebel よりも扱いにくそうだ。

それに、2サイクルエンジンなので、モーターオイルの補給と、もくもくと吐き出る白煙というハンディキャップがある。私が昔乗っていた MR 50 RZ 350 は2サイクルだったが、乗れば必ず背中から髪の毛にかけてオイルの匂いが染み込んだものだった。若い頃ならともかく、この年になって2サイクルに乗りたくないなあ。

しかし、車体のサイズと雰囲気は、Rebel に負けないぐらいどうどうとしているのは良い。

そしてカタログを見ながら待つ事30分、ついに Phantom が小型トラックの荷台に積まれてやってきた!!私は、一通り外回りをチェックしたあとで、Phantom にまたがってみた。シートもハンドルもステップバーも、なかなかしっくり来た。

セルスターターがなくて、始動がキックのみなのはちょっと気になった。トリップメーターが無くて、オドメーターだけなのはもっと気になった。タイヤが前後共にチューブタイヤなのは、パンクが多そうなバンコクではちょっと心配である。そして何よりも、2サイクルエンジンのチョッパーというのはどんな乗車感覚なのか想像するのが難しかった。

とにかく、あちこちと欠点は目立つものの、スタイルと車体のサイズには十分満足したので、新車の Phantom を買うのはなかなか面白い選択肢に思えた。ちなみに値段は73,000Bであり、中古の Rebel を買うのと同じぐらいの値段である。


12月4日

タイのオートバイの情報源として、CYCLE ROAD というオートバイ雑誌を買った。記事はタイ語なのでまったく読めないのだが、広告のページでバイクショップを探そうと思ったのだ。志真子さんに頼んで何件かのバイクショップに電話をかけてもらったところ、中古の Rebel Steed が置いてある店がいくつか見つかった。その中で一軒、DR. BIKE という店が電話の対応が良さそうだったので、志真子さんと行ってみた。

93年製の Rebel が60,000Bで、92年製の Steed 400 が110,000Bで置いてあった。こうして2台並んでいると、どうしても Steed の方に目移りがする。両車ともにペイントを塗りなおしたようで、見た目はかなりきれいに仕上がっていたが、クランクケースの染みやホーンのサビに、老巧化の跡が見うけられた。

店のオーナーも奥さんも、とても感じの良い人で、私と志真子さんはコカコーラまでご馳走になってしまった。エンジンをかけてみると、Rebel の方はアイドリングがやや不安定で、アイドリングを高めに設定しないとエンストしてしまいそうだった。Steed の方はアイドリングはスムーズだったが、前の所有者がマフラーをいじったらしくて、アクセルをふかすとバリバリバリとうるさい音がした。おまけに、ミラーやシートやハンドルバーが前の所有者の趣味で改造されていて、ちょっと乗りにくそうに思えた。他方、Rebel は、セルスターターが弱そうだった。私が日本で乗っていた Rebel も、6年目にセルがぶっ壊れて押しがけ専用車となったが、この Rebel も遅かれ早かれそういう運命にあるような気がした。

試乗しても良いと言われたのだが、Rebel はともかくとして Steed は乗ったことが無いので、混雑した慣れない道路で運転するのは気が引けて辞退した。店のオーナーは日本語が話せる人で、
エンジンの調子は80%ぐらいね。ホンダはエンジン良いよ。カワサキはダメね。買って3ヶ月は保証するよ。
と言った。

私は Steed にまたがりながら、「Steed 欲しい、Steed 欲しい」と欲が出てきたが、110,000Bといえば40万円近い値段になる。6年落ちの Steed に40万円は払いたくない。この程度の Steed なら、日本ならば20万円がいいところだ。それにまた、中古車を買うという事は予測困難なリスクを背負う事である。私はちょっと自信が無くなって、新車の Phantom を買おうかな、と心が傾き始めた。


12月5日
It may not be your shopping area, but it's worth a visit just for the sight. Where else can you see three floors of Mercedes Benz that you can bargain over? The Market for the Former Rich (no joke, that's the name), on Soi #19 off Soi Thonglor (Sukhumvit #55) started after the economic crises in 1997. The formerly rich sell their prized possessions for cash at dumping prices, at least by Thai standards. You may be able to pick up an airplane, yacht or an antique Mercedes for a few ten thousand dollars. You might also get a bargain on jewellery, dresses and other small items. It's worth a look, even if you do not buy. The market is held every weekend next to the Mercedes dealership.
Wolf Kadavanich (Jun 98)


もしかして掘り出し物があるかもしれないと思い、The Market for the Former Rich という店に行ってみた。自動車は何台も置いてあったが、オートバイはものすごく古い BMW が1台だけ置いてあった。どのぐらい古いものなのかは想像もつかないが、もう立派にクラシックバイクの域に達していた。バックミラーがハンドルバーではなくて、足元についているのを見て、私は「うわっ」と感激した。値段は70万円ぐらいだったかな。まあ、レストアして飾っておくにはいいかも知れない。


12月6日

CYCLE ROAD によると、タイでのハーレーの新車価格は、一番安い XL883 が450,000B(150万円)で、FLシリーズ は1,000,000B(330万円)前後である。何とか買えない事も無いなどと血迷ってはいけない。私にとってオートバイは手段であって目的ではないのだ。わかっちゃいるけど...


12月7日

もう Phantom でいいや、と観念した。次の問題はどこのバイクショップで買うかである。12月3日に行ったショップは、まあまあ印象が悪くなかったので、そこでもいいのだが、とりあえず家の近く(Yannawa, Bangkok)のバイク屋も知っておきたいと思い、志真子さんにショップ探しをお願いした。志真子さんはホンダバイクの卸元に電話をかけて、いくつかのホンダショップを紹介してもらったので、さっそく出かけてみた。ところがそのうちの一軒で、見たことの無いバイクを発見したのである。

見かけは Phantom に似ているが、Kawasaki Boss (→画像)というバイクである。エンジンは175ccの4サイクルである。値段は78,000Bだが、値引きがやや大きいので、Phantom と同じぐらいになる。いったいどうしてタイで175ccのオートバイが作られているのか不思議に思ったので志真子さんを介して店のおばさんに尋ねてみた所、フレームはタイで作っているがエンジンだけは輸入して組み立てているとの事だった。あまり釈然としないが、とにかく Phantom と比べてどちらがいいかを考えなくてはならない。

・ 4サイクルエンジンというのは魅力だが、175ccの4サイクルだと、Phantom の150ccの2サイクルよりもパワーやトルクが落ちそうだ。
・ ちゃんとトリップメーターがついているのは便利だ。
・ ガソリンタンクがでかい。カタログが置いてなかったのではっきりとはわからないが、ショップのおばさんは20リットルタンクだと言っていた。
・ セルスターターがついている。
・ リアブレーキはドラム式である。Phantom はリアもディスクブレーキだった。もっとも、リアのブレーキはディスクが良いとは限らない。
・ リアのウィンカーが Phantom よりも後ろについているので、リアシートに大きな振り分けバッグを乗せやすそう。

トリップメーターがついていて、セルスターターがついていて、ガソリンタンクがでかいのは魅力なのだが、いかんせんエンジンがちょっと頼りない。カワサキの4サイクルというと、昔 AyakoZZR 250 を借りて一週間ばかり乗っていた事があるが、かったるくて回らないエンジンだった。そういえば DR. BIKE のマスターも、「カワサキはエンジンダメね」と言っていたではないか。


12月8日

今日はHangの仕事に付きあってあちこち運転した。途中でHangが
There's a motorcycle shop here. We don't have much time now, so you can come back later.
と言って示したのは、郊外にある地味なバイクショップだった。路上に自動車をちょっと止めている間に、Taが降りてさささっとそのバイクショップに走って行き、そのショップの名刺をもらって来た。

Hangの仕事というのは、タイタヌ銀行から現金を200,000B(66万円)ばかりおろして、タイファーマーズバンクに入金し、その後税務署に行くというものだった。それが終わってからHangが
Do you want to go somewhere?
と尋ねるので、私はオートバイ雑誌の広告の中の店を指し示して、ここに行ってみたいと言った。

その広告の店に行く途中で、別のバイクショップを見つけたので寄ってみた。ここにはタイ製のオートバイしか置いてなかったが、Kawasaki BOSS のカタログを手に入れることができた。BOSS は細部の造りなど、なかなか良くできたオートバイに思えたが、カタログにエンジンの出力やトルクに関する記載が一切なかったのが気になった。これは、他の2サイクルエンジンに比べて見劣りがするのでカタログに載せなかったという事だろうか?

さて、問題の広告の店は、交差点の角にある狭い店だった。Rebel も2,3台置いてあったが、それよりも私の目は所狭しと並んでいる他のビッグバイクにくぎ付けになってしまった。CB 1000 とか、Magna 750 とか、Intruder も置いてあったのだ。これだけ多くのビッグバイクが並んでいる店を訪れるのはタイでは初めてだったので、私はガガーンとショックを受けた。CB 1000 はたとえば145,000Bで、まあ、予算オーバーには違いないものの、「いいなー、乗ってみたいなー」と魅せられてしまった。バンコクの渋滞の中では CB 1000 のパワーを生かす事はできないだろうが、どんな理屈も超越して「欲しい、欲しい」と心が大合唱を始めてしまったのである。日本では免許の関係で400ccまでしか乗れない私だが、タイでは特に制限が無いので、大型バイクに乗るのも面白そうだ。

ただ、その店で一つ気になったのは、置いてある全てのオートバイのトリップメーターが、777kmとか888kmとかの数字に合わせてある事だった。これは要するに、この店ではメーターの改ざんをやってますと宣言しているようなものではないか。うーん、何かあやしい、信用できない。

それにしても、ビッグバイクをあれだけ見せ付けられてしまうと、RebelPhantom を買おうとしている自分がとても虚しく感じられ、なんだか生きているのがいやになってしまった。


12月9日

昨日Hangに教えられた店に行ってみた。店をちょっと通りすぎた所に駐車して歩いて行くと、3人ほどいる店員が私と志真子さんをじろじろと見つめ始めた。

店には、予想した以上にビッグバイクがおいてあった。ピカピカの Magna 750 の隣に Steed が置いてあった。結構オリジナルの形状をとどめた Steed で、嬉しい事にはシーシーバーもついていた。
Ask them how much.
と、志真子さんにお願いすると、
このSteedは600ccで、12万バーツだそうです。
との答。えっ、600ccなのか、と驚いて、
600cc? Really?
と確認した所、やっぱり600ccだと言う。へー、600ccか。へー、12万バーツか。
Do you want to try?
と志真子さんが言うので、
Yes. I do.
と半ば放心状態で答えた。店の人がエンジンをかけてくれた。一発ではかからずに二発目でかかったのは、チョークを使わなかったせいだとしておこう。私はSteedを運転するのは生まれて初めてである。おー、Rebel よりも重いというのが第一印象だった。またがりながら半クラッチで店から出るときに、ハンドルが素直じゃないと思ったのが第二印象だった。しかしこれはすぐに慣れるだろう。
店の周りを一回りしてきて良いそうです。
と志真子さんが言った。車道に沿って整備された自転車道があったので、私はとりあえずその自転車道をノーヘルでとことこと走ってみた。数百メートルで降り返してバイクショップに戻ってきた私は、ヘルメットを借りて本格的に試乗してみた。おー、ギアが4段しかない、というのは、Steed 400 は5段ギアなのだが、Steed 600 は4段ギアなのである。低速トルクの加速はというと、うーん、そこそこかなあ。そもそも Steed のエンジンはおとなしいのか、俗に言う「体が置いていかれるような感じ」は受けなかったが、アクセルをガバッと開けるとドドドッとそれなりに加速はするようである。

試乗を終えて戻ってきた私は、にっこりと笑みをたたえていた。もうこれを買うことに決めていたのである。

夜、Hangとオートバイの話をした。Hangが言うには、12万バーツは高い!Steedでも、もっと安く売っている店が探せるハズだ、と。
Shinji はBMWに乗ってバイク屋に行ったから、あっちとしては、金持ちの外国人が来た、と思ったんだよ。それでものほしそうに Steed をじろじろ見るから、値引き無しで売れるとふんだんだな。
しかし、Dr.Bikeで見た Steed 400 が11万バーツだったのに比べれば、程度の良い Steed 600 が12万バーツなのは、むしろ掘り出し物のように私には思えた。そりゃー確かにてまひまかけてあっちこっちのバイク屋を回れば、同じ程度の Steed 600 が11万バーツとか10万バーツとかで買えるかもしれない。しかし、時は金なりである。私はHangに答えた。
俺は日本での仕事を整理してタイにやって来た。日本にいて働いていれば、毎月確実に収入があるのを捨てて来たんだ。だから、俺がタイに滞在しているのは、毎日日本で稼げるだけの金をふいにしているわけだ。1万バーツ安くバイクを買えたとしても、そのために10日間もあちこち捜し歩くのでは、ちっとも嬉しくない。

Hangはまた、タイでオートバイを運転することの危険性についても念を押した。
 いくら Shinji が日本でオートバイに乗りなれていたとしても、タイではまた話が別だよ。日本はだいたい civilized だから、道路を運転していてもあまり危なくないだろうけど、タイは何が起こるかわからない国だ。いくら Shinji が気をつけて運転していても、相手も気をつけるとは限らない。覚醒剤でふらふらになりならが運転しているトラック運転手だって多いんだよ。

私は、「オートバイは危ない」とか、「気をつけて運転してね」と言われる度に非常に困惑する。そもそも、「オートバイは危ない」と言う連中というのは、オートバイに乗った事が無い人々なので、オートバイがどういう危険性を持っているかを知らないのである。彼らがオートバイは危ないと言う時には、事故にあった友人などを見てそういう意見を持つようになるのだろうが、オートバイ事故がどういうメカニズムで起こるか、オートバイで事故にあうと、どのような身体的ダメージを受けやすいかについての理解はほとんど皆無なのである。だから、「これこれこういう状況ではこういう事に注意する」という具体的なアドバイスならば歓迎するが、やみくもに「オートバイは危ない」と言われても私としては困ってしまうのである。オートバイが危ない事は、私が一番良く知っているのだから。

そもそも、オートバイの危険性は、2種類に分けて考えるべきなのである。
第1種の危険性:事故にあいやすい
第2種の危険性:事故にあった場合に、身体的なダメージが大きい

第1種の危険性というのは、要するに、車体が四輪車よりも小さいので相手にしっかりと認識されにくいとか、二輪車という性質上、路面の砂や水たまりや凹凸の影響を受けて転倒しやすいとか、カーブでしっかりとラインを読んでおかないとはみ出してしまうとか、二輪車ゆえの危険性である。

第2種の危険性というのは、体が外に露出しているために、衝突のショックを体が直接受け止める事によるダメージである。

だから安全運転の為には、これらの2種類の危険性に対して個別の予防策を取る必要がある。簡単に言ってしまえば、第1種の危険を予防するのはライディングテクニックであり、第2種の危険を予防するのはヘルメットや手袋などを、安全性を考えて選ぶという事である。


12月10日〜12月13日

旅行のため、バンコクの北400kmの位置にあるペッチャブーンという山岳地方に行っていた。3家族合同の旅行なので、行き帰りはBMWでハイウェイを飛ばしたが、中二日はトヨタの12人乗りのバンをレンタルして観光を楽しんだ。

タイのハイウェイとは、要するに町と町を結ぶ国道の事を指すのだが、その名の示すとおりバンバンと飛ばせる道路である。一応制限速度は80km/hなのだが、たいていは120km/hぐらいで流れている。警察のパトカーが走っている事はたまにあるが、日本の交通機動隊と違ってスピード違反の取締りが仕事というわけではないので、パトカーを追い越してもスピード違反で捕まる事はあまり心配しなくていい。それでもごく稀に捕まる事があるが、日本でスピード違反で捕まった場合と比べて安くすむし、ドライバーの心理を抑圧する免許証の点数制度も無い。タイのハイウェイは一種の無法地帯とも言えるが、ぶつけない、ぶつけられないという了解によって形成された自由な高速空間なのである。

外部と隔離された有料のエキスプレスウェイと違い、ハイウェイは一般道路である。いろいろなペースで走っているバス、トラック、乗用車、オートバイが混在しているので、追い越しをかけたりかけられたりはしょっちゅうである。100キロで走っていても、120キロで走っていても、後ろの自動車がもっとスピードを出したいと思えば、どんどんと追い越しをかけてくる。なかなか気を抜く暇が無い。おまけに人間や犬やニワトリが道路に侵入してくるし、路面も大体は舗装されていて快適なものの、ある場所で突然砂利路になったり、穴ぼこが開いていたり、補修の跡が盛り上がっていたりするので、日本の高速道路と違ってぼけーっとしてはいられない。

私はBMWを運転しながら、自分がオートバイで走っている事をイメージしてみた。路面の状態に気を付けさえすれば、100km/hでクルージングしてもあまり危なくなさそうに思えた。はたしてどれだけオートバイでロングツーリングをする機会があるのかは未定だが、一度は行ってみたいツーリングである。

ペッチャブーンの山岳地帯はとても景色が良くて、オートバイツーリングには最高の場所のように思えた。だからこそ、そういう中をフル定員のバンで走るのは、非常に退屈だった。時には上り坂でバンの速度が20km/hぐらいにまで落ちる事があった。わたしは、「はー、オートバイだったらバリバリ上がって行くのになあ」と思った。

平地や下り坂では、バンのスピードは100km/hにまで達する事があった。そういう時にはカーブで、体が右に左に押し付けられた。私は、オートバイに乗っているつもりになり、その都度体を逆向きに傾けて遠心力に拮抗し、ライディングの雰囲気だけを楽しんだ。早くバンコクに帰って Steed 600 を買わなければ!という思いが、始終私の心を離れなかった。

しかし、もしもこんな所でパンクしたらどーしようという不安が私の頭を横切った。街中ならばバイクを押して歩けば修理屋が見つかるだろうが、こんな山奥でパンクしたら、自分で直すしかない。私はパンク修理が苦手なのだ。チューブレスならばくぎが刺さってもそのまま走れるし、パンクの修理もワンタッチで簡単である。しかし、Steed はチューブ有なので、パンクしたら基本的にはホイールを外して、タイヤを外して、チューブを外して穴を修繕する必要がある。なれた人がやっても30分はかかるし、なれない人がやったら元に戻せなくなるだろう。瞬間パンク補修スプレーという手もあり、緊急の事態では頼りになる一品ではあるものの、パンク修理の道具一式を持たない事には恐くてロングツーリングはできないだろう。あー、そういえば Steed だとセンタースタンドが無いなあ。タイヤを外すときにどうしようかなあ。


12月14日

もう、Steed 600 を買うことに決めていたとはいうものの、その前にハーレーについて知っておきたいと思い、志真子さんにハーレー専門店に電話をかけてもらった。以下は、その時の電話の様子である。

ハーレーっていくらぐらいからありますか?
いくらぐらいからって、まあ、いろいろあるけど、予算はいくらぐらいなの?
10万バーツから20万バーツぐらいですけど。
うーん、それじゃあちょっと難しいなあ。少なくとも40万とか50万バーツぐらいは見ておかないと。あなたが乗るの?
いいえ、私じゃなくてー...
あ、彼氏が乗りたいんだ。
はい、そうです。
彼氏は身長はどのぐらいなの?
えーっと、172センチぐらいです。(訂正: 私の身長は一応174センチぐらいです)
そーか、小さいなあ。じゃあ小さいモデルで十分だな。ところで彼はどうしてハーレーなんか知ってるの?
昔からオートバイには乗ってたみたいなんですけど、いつかはハーレーに乗りたいと言っていて...
いつかはハーレーという夢があるんだったら、別に急がなくていいんじゃない。予算をもっと貯めてからにしたら。
はー。どうもありがとうございました。
何か相談があったらいつでもどうぞ。

午後、Hangに、別のハーレー専門店に連れて行ってもらった。一番安いモデルで、400,000Bであった。ピカピカのハーレーが並んでいる様は圧巻であり、その場にいると精神に変調をきたしそうだった。おかげできれいさっぱりハーレーの事は諦められました。

夕方、例のバイク屋に行って、Steed 600 を買った。Hangが30分以上も値引交渉を粘ったが、結局初めに提示された120,000Bで商談が成立した。登録するまで何日かかかると言われたが、乗って帰っても良いと言われたので、私は無登録・無保険の Steed 600 にまたがって帰って来たのである。


実際に乗ったインプレッションは、また後ほど...


(上記の原稿は1999年のものです)


追補 2001.5

まあ、私は飛ばし屋ではないので Steed でもあまり不満はないのですが、チューブタイヤだけはいただけません。この2年間でパンクしたのは1回だけですが(後輪)、パンクすると相当大変なので、
 「いつパンクするかも知れない」
という恐怖感が常に伴います。

ロングツーリングにも何度か出かけました。やはり北タイの山岳道路が最高です。

タイに住む外人ライダーの情報交換とコミュニケーションのために、 Bangkok Riders Club というのを創ったので、ヨロシク!