この文章は1998年11月ごろにフリーペーパー「独善」第2号として発行されたものに手を加えてみましたものですよ。




東海道自転車旅日記

 

 俺は、今年の春から社会人となってしまったせいで、そうおいそれと旅には出られる体ではなくなってしまったなあと半ばあきらめていたのだが、盆明けに9連休をもらって、なんだ、旅に出られるじゃん、と思ったので出ることにした。長い文章だな。
 
 とりあえず、1998年夏現在、まだ走ってない海岸線で、居住地である東京都から出発できるのは二方向、北か西だが、「島は時計回りに回るものだ」と決めつけている俺は迷わず西、東海道を走ることに決めた。

 しかし日程の都合上、というか面倒なので伊豆半島はまわらず、箱根峠を越えることにした。というか前々から男子たるもの一生に一度は自分の力で箱根峠を越えねばならぬとも思っていたのだ。ほか三浦半島、御前崎など大した事のないでっぱりなのでまわることにした。
 そしてすでに三河湾、伊勢湾、紀伊半島をまわっていたので、今回の最終目的地点はおれの第二の故郷である伊勢にすることにした(ちなみに第三の故郷は鹿児島)。 伊勢から自転車を東京に送り返そう。  出発前におおよその距離を計算してみると、伊勢まで470キロ。四日もあれば十分と思えた。
 そして今回の相棒、っつーかわかりやすくいうと自転車は、旅チャリ4代目となるスコーピオン(メーカーはGIANT。東急ハンズで購入)。外装七段変速。前ライトはLEDとハロゲンの二段構え、後ライトはLED。コンパスがついた呼びかけ鈴(チンとなるやつ)と普通のそれ。蓋つきのワイヤーカゴ(どれも後付け)、そんな装備だった。
 そして持ち物はいつもの夏旅装備(バンテリン、日焼け止め、軟膏、虫よけ虫さされ、マグライト、絆創膏、ティシュ、地図のコピーなど)に、クローアップシーツ(モンベル/シュラフの中に入れて使うものを単体で)、アルパインマット(モンベル/その下に敷く)という、[ちゃんと寝てやるぞ]という意志を剥き出しにしたものを持ってくことにした。もう、なにもこわいものはなかった。ってテントがないけどいいのか
 それと、記録用具として新たにICレコーダー(ソニー/ICD−70)を採用、それをファミレスなどで聞くためのヘッドホン、デジタルビデオカメラ(ビクター/GR−DVY)を導入した。それと携帯電話、家で使うビデオカメラと携帯電話の充電器(途中で充電するわけもないのでただ重いだけだが、前カゴに入れていると故障してしまいそうなので背負った)。記録関係にすごい大荷物だ。
 自転車の空気入れにガムテを巻いたもの、乾電池、オイルスプレーといったような細々としたものは前カゴに入れた。他にアルパインマットを入れただけなので、前カゴは結構スペースが残った。うむ。旅に見えぬかも知れぬ。
 恰好は、Tシャツと短パンとサンダル。サンダルは、踵を固定しないタイプ(ニューバランス)。
 着替えは無し。
 旅をナメすぎのような気もしないでもないが、なんたって東海道であり繁華な道であろうし足りないものはあとで補えばいい。

 ちなみに荷物の全部と自転車は写真を見てください。

 自転車はママチャリではないがサイクリング車でもMTBでもないことがわかると思う。
 8月に入ると、もう、毎日仕事をしていても待ち遠しくて仕方がない。一週間ってこんなに長かったっけ、と久しぶりに感じた。

8月17日(月)初日

 朝。いつものように起床し、ゴミを出したり風呂に入ったりして午前8時に家を出た。
 俺の門出を祝福するかのような晴天だ。
 腕や太ももに塗った、およそ一年ぶりに嗅ぐ日焼け止めのにおいが懐かしい。懐かしがりながら都道4号青梅街道を東へ進む。
 サンダルは前カゴに入れ、はだしでペダルを踏んでいる。
 このあたりは自動車で走ったりしているので勝手知ったる道だ。迷う心配もなく歩道をのんきに走る。はだしだと、信号待ちなどのときにそこいらに(ガードレールなどに)脚をかける姿がカッコイイ(と俺は思っている)。

 8時30分。
 出発からおよそ30分で、都道311号環状8号線に移る。思ったより早いペースだ。いい。
 しかしとにかくクソ暑いので、大事に飲もうと思っていた持参の冷凍水入り500mlペットボトルを飲めるだけぐびぐび。まだ大半が凍っていたので飲み干さなくて助かった(凍っていなかったら飲み干していたはずだ)。

 9時16分。
 走り出してから1時間を過ぎていることに気づいたので、郵便局で金をおろすとともに、1時間に1回と決めた休憩を取ることにした。水をまた飲んだ。すぐに出発。
 国道20号甲州街道と交差。そういえば環八と甲州街道が交差するところにある甲州街道の横の細い道を行けばたしか大阪まで2時間くらいで行けるはずなのだが、そんなに早く着いてもつまらないので探すこともなかった。
 地道にひたすら環八を東へ走る。10時44分、ようやく国道15号へ。別名はとくに知らない。第何京浜とかそういうのは16号だったか。
 ここからようやく南に進路を転ずることができる。いわばここが東海道チャリ旅の真のスタート地点ということだ。ようし、スタート地点についたということでファミレスに入ることを自分に許す。甘いけど、いいよな。

 すぐ近くにあったデニーズ南蒲田店に入る。いつものように一人であることを示すために人差し指を立てて入店。
 知床鶏の唐揚げランチを注文。あとコーラ。

 ICレコーダにヘッドホンをつなぎ、音声メモを聞きながらここまでの記録を文字に起こす(そのおかげで今回の旅日記が時分単位まで明らかにされているのだね。まあわかっても意味無いけど)。
 しかしICレコーダはモノラルなのでモノラルのイヤホンで良かったのになんでかさばるヘッドホンを持っていったんだろう。
 コーラといっしょにコーヒーフレッシュが。俺にどう使えというのだ。蒲田では流行ってるのか。

  よく考えるとデニーズでは
 そのなんとかランチしか食っ
 たことがない気がする。とい
 うか、ファミレスって一軒に
 つき一品ぐらいしか食べたい
 のがない気がする。ジョナサ
 ンは、以下に出ます。

 11時25分にデニーズを出る。駐車場で適当に柔軟体操(主に脚)をしてから出発。
 店を出ると、あれ、こんなに暑かったっけと思うほど空気が熱くなっていた。冷夏だ冷夏だって世間は言ってるがやっぱり夏だ。夏は暑い。
 11時47分。多摩川を渡る。出発から4時間近くを経て、ようやく神奈川県(川崎市)に入る。余談だが、このとき、なぜかむかし大和川を渡って堺市に入ったときのことを思い出した。
 著名な川を渡って別の地域に入るという感覚がデジャヴのような感じだったのだ。そういえば、これで俺は初めて神奈川県に足を踏み入れたことになる(鉄道などで通過したことはあるよ)。それにかんしては別に感慨はない。
 12時14分。横浜市鶴見区のローソンでエネルゲンの500ミリペットとバランスアップを二つ買う。ということはすでに持参の水は飲み干していたということだな。
 12時49分。神奈川区の小公園で休憩。水道があったので、タオルを濡らして、すでに空になっていたペットボトル2本に水を汲む(体を冷やすためと飲用)。重量が1キログラム増える計算になるがこれより先に水場がなかったら困るので仕方がない。
 13時を過ぎて、横浜駅が近づいてきた(実は、近づいたのは俺のほうだ)。
  さすがに大都市の駅なので、高架の道が増え、歩道橋が増え、自転車には不便な道になってきた。そのうえ、自分がどこを走っているのかよく分からなくなってきた。仕方がないので道なりに走った。なんかラクガキ風のぐちゃぐちゃしたスプレー絵が壁に書かれた道を通った。
  そして13時17分、ようやく国道16号線に。
 それにしても、信号が多いし車が多いから歩道を走らねばならず、非常に疲れた。だから俺は街中を走るのは嫌いだ


 そういえば、今までのチャリ旅では、一時間に一回の休憩なんて、とらなかったし、とる気にもならなかった(1時間で疲労するなんてことなかった)。
 しかし今回は違った。1時間が待ち遠しくて仕方がなかった。
 何度も何度も時計を確認して、まだかまだかと1時間が経つのを(休憩時間がやってくるのを)待ち焦がれた。
 何だ、疲労するのが早いんじゃないか。そんなに体力がなくなったのか。それとも今までとは違い、前日まで仕事をしていたからだろうか。
 というか、荷物を背負っていたからだと思う。すでにちょっとケツ痛いし。いずれにせよ、初日にして先行き不安である。

 14時。
 芦名橋公園とかいうところで休憩をすることにする。すぐ隣のローソンで500ml紙パック「高原の岩清水&レモン」を買って、ベンチに座り一気に飲み干し、ボケーっとする。20分ぐらいボーっとしてしまい、危うく眠ってしまいそうだったので、イカンイカンとタオルを濡らしすぐ出発する(別にイカンことはないな)。
 15時25分。
 モンマートというコンビニでライフガードの500ミリペットを買う。
 不断は尻ポケットに入れてる財布だけど、長距離を走るとき、それだと尻が痛くなるのでバックパックに入れている。なわけでパックから財布を出す。
 店のおっさんに「7つ道具が入ってんですか」みたいなことを言われた。ちぇ、旅人だとバレてたか。

  俺はできるだけ、旅人と
 思われたくないのである。
 旅人でござい、ってのが一
 番きらいなのである。だっ
 て、時間さえあればだれだ
 ってできるものだし。

 すでに横須賀市である。あたりを見るといまどき新喜劇にも出ないようなリーゼントの兄ちゃんとかがいる。さすがミナトノヨーコヨコハマヨコスカ。それにしても神奈川県は生麦とか浦賀とかなんか、チメイドのある地名が多くてカッコイイなあ。
 15時30分。雷神社というところで休憩。神明鳥居。すぐにライフガードを飲む。
 41分出発。ずんずん走る。交通量が少なくなってきたので車道を走ったりして、少し疲労が軽減された。
 16時を過ぎて、ダイエーを発見したので、書店を求めて入る。
 三浦半島までの道で、10km分ぐらいの地図が抜けていたので、迷うわけもないだろうが一往気分的にヤなので確認しておきたかったのだ。
 道路地図を確認して安心してすぐに出る。
 16時40分。
 道路に出ていた温度計を見ると、31度をさしている。じゃあ昼間はもっと暑かったということだな。
 48分。国道134号に入る。ここから当分は134号だ。これといって書くこともなく、適度にくねくねした道をトンネルも多い道をふらふらと車道歩道うろうろと。家路を急ぐ女子高生などもちらほらと。
 17時過ぎて最初に見つけたファミレスに入ろうと決めて、17時になったので勇んで久里浜北駅前のジョナサン北久里浜店に。ハンバーグと有頭エビフライのセットを注文する(そういやジョナサンではこれしか)。
 ここでいつもなら生ビールを注文するところなのだが、この旅はストイック且つワイルド、というテーマを抱えていたので、酒は控えた。控えられる俺ってカッコイイなあと改めて感心
 ジョナサンの店員のスカートはタイトな感じなので、ちょっとテーブルを拭いたりするだけでぴったり体にフィットしてとてもよろしいなあ。ってどこがストイックなんだ。
 などといいながら18時ごろ出発。
 18時4分にローソン横須賀池田町店で惣菜パン二つとゲータレード500mlパックを買う。この先コンビニがないのではないかと思われたからだ。というか勝手に俺が思ったからだ。
 すでに三浦半島を走っているといってもいいだろう。いや走っていたのだろう。信号も減り、スイスイ進むようになる。あたりは薄暗くなってくる。
 18時37分。
 ようやく左手に海が見えてきた。しかし歩道はなく、交通量は多くなってきたのでテールランプを点滅させながらどきどきしながら走る。
 43分。三浦市に入る。だからどう、と言われても。
 49分。大きなY字路のようなとこから県道215へ。道はとたんに空いてくる。まわりは暗い。もうそろそろ休憩してもいいんじゃないかなと思いながらも、いい場所が見つからず走る。
 58分。海岸へ降りる道を見つけたので、休憩のために自転車を止め、砂浜を海に向かって歩き出す。波打ち際まで行き、足を水に浸す。やはり久しぶりの長時間漕走で火照っていたのだろうか、水の冷たさが非常に心地よい。
 立っていると、波が足を洗うごとにじりじりと足が砂に埋もれて行く。このまま、海と一体化するのもいいかも知れぬと思ったが、まだ夏休みが8日も残っているのにそれを残して滅んでしまうのはもったいない、と思い、何とか足を抜いた。
 今日はここまででいいかな、と思ったりもしたが、翌日の箱根越えを考えると、せめて三浦半島の西岸には至っておきたかった。すごすごと自転車にまたがり、走り出す。
 それから30分ほど経つと、道はどんどん寂しくなり、街灯もなくなり、まわりは背の高い草が生い茂り、本当にこの道でいいのかしらとドキドキしながら長い曲がりくねった坂を押す。
 ラジオからは浜村淳の声、いつものように紹介する映画の結末まできっちりしゃべっていた。
 なぜかしらんが、真っ暗な中を自転車を押しているだけなのに、このあたりから漸くチャリ旅の楽しさがよみがえってきた。いつもいつも、夜中に自転車を押していると「ああ、これだよ」って思う。
 さほど遠くないところに、風力発電機のファンが静かに回転していた。青森県の竜飛崎で見た風力発電機はもっとゴーゴーうるさかったような気がしたのだが。風力発電機ではないのかもしれない。
 20時29分、セブンイレブンでコーラの500ミリ缶を買う。こうして見ると、よく飲んでますね。
 41分、久しぶりに国道、134号に戻る。
 とたんに交通量は増える。コンビニも増える。俺は今までいくつもの半島をまわってきたが、こんなにコンビニの多い半島は初めてだった。さすが関東だと感心する。
 21時。スタートしてから13時間が経過している。やはりいつもよりペースは遅い。街中は仕方がないか。というか走り通しなのがいかんのか。
 歩道に座って休んでいたとき、友人から電話があった。翌日の箱根峠のアドバイスなどを受け、少し元気が出たので出発。

  ちなみに先日(2002年)、
 油壷へ行ったとき、駅へ向かうバ
 スがこの道を通った。「あー!こ
 の道、通った!」と猛烈に感動し
 た。自分がそのへんを自転車で走
 った、という記憶がすっかりなく
 なっていたのに、思い出すものだ
 ね。

 
 頭と目はすでに寝る場所を探していた。箱根までの距離はじゅうぶん。明るいうちに越えられそうだ。
 18分。横須賀市に戻った。
 51分。
 22時を目前にして、斉田浜(せいたばま)というところへの入り口を見つけたので、小川に沿って海の方へ細い道を走る。
 同じ道をカップルが海に向かって歩いていたがそんなこた知ったこっちゃねえ。軽く躱して海岸へ急ぐ。海岸に到着するが、別に急いだ意味もなく。
 なんとなく寝られそうなスペースを探し、マットを敷いて、座って海を眺めた。ここで寝よう、と決めた。持参していた梨を食べた。いい刃物を持っていなかったので皮のまま食べた。
 22時43分。ニッポン放送を聞いていた俺の目に飛び込んできたのは未確認飛行物体。小さな光点がゆらゆらとした動きで西の空へ動いていた。ビデオカメラで撮ろうとしたが、さすがに光量が足りず映らなかった。


17日の出費
 デニーズ(924)/ローソン(346)/高原の岩清水&レモン (105)/ライフガード(147)/ジョナサン(1480)/ローソン(388)/セブンイレブン(120)

17日の走行距離
おれんち→横須賀市(斉田浜) 102,2キロ

 めんどくさいんで地図はこれ一枚で。

2002.5/3

二日目へ。  9349へ。