永劫回帰Kensou Side・

遥かな想い〜Return To Forever〜



「永遠の眠りより醒めたる悪魔、この地上に再び、現れし時、遥か東の地より二人の光の戦士来たる。
その二人の『力』が合わさる時、闇は葬り去られるであろう。」


―――『サイコソルジャー』より―――
遥かなる想い
〜Return To Forever〜 《拳崇サイド》

――――かつて、古代に封じられし邪悪なる者に立ち向かった者達がいた。
彼らは、それらを再び封じるために闘った。…『サイコソルジャー』として…
そして…歴史は繰り返す。永遠(とわ)なるときの果てに――――

「麻宮アテナです。どうかよろしくお願いします。」
 突然の声に、俺、椎拳崇(しいけんすう)はびっくりして声の主の方を見た。
 セーラー服に身を纏い、腰まである艶やかな長い黒髪と整った顔立ちの少女が戸口に立っていた。麻宮アテナと名乗ったその少女は、俺の方を見て言った。
「あ、あのー…今日からここで一緒に修行する事になったんです。えっと…」
 少し緊張している様子の彼女に、俺は胸が高鳴るのを感じた。
…うっわ、めっちゃカワイイやん、この子。…じゃなくって、自己紹介せな。
「椎拳崇や。こっちこそよろしゅう頼むわ」
「拳崇くんね。私のことはアテナって呼んで」
 そう言って彼女――――アテナは微笑んだ。

―――瞬間、俺の中の時間が止まった。俗に言う「一目ボレ」っちゅうヤツである。
 そして次の瞬間――――
決めた、決めたで!!俺にはこの子しかおらん!俺がこの子を守ったる!!
 …俺は心の中で一人「アテナのナイト宣言」をしていた。
 その時…何かが「視えた」。頭の中をよぎった『影』…知らないはずなのに、何故か見た事があり、懐かしい…
え…?な、何や今の!?
 突然の事に、俺は呆然としてしまった。
「…どうしたの?拳崇くん…拳崇くんってば!」
 アテナの声にハッと我に返った。
「…拳崇でええ。…何でもあらへん、大丈夫や」
 とりあえずそう応えてはみたが、俺の中には一つの疑問が残った。
何でや?初めて会ったばかりのハズなのに…俺はこの子を知っとる…?

 数日が過ぎ、俺は一人、「鎮元大仙」―――俺とアテナが修行している場所で、山の中にある―――へと続く長い石段に座り、物思いにふけっていた。
俺の中の疑問は解決しつつあった。
あれから…いろんな事が頭をよぎるようになった。初めてアテナに会ったときのあの『影』…あれはたぶん俺や。…そして、一緒におったのは…アテナ…何かと闘っとった…あれは一体…?

俺は、頭の中に浮かんでは消えるその『影』―――赤いバンダナをして緑の服に身を包み、目前の黒い何かと闘う自分と、自分と同じように闘うセーラー服の少女、おそらくアテナであろう―――に、俺とアテナの面影を見ていた。
…もしかして…
「拳崇、ここにいたんだ。なにしてるの?」
 フッと背後に気配を感じ振り返ると、そこにはアテナがいた。
「あ、ああ。…ちょっと考えごとしとったんや」
 まさかアテナが来るとは思わなかったから、少し驚いた。
「そう…邪魔しちゃったかな」
「そんな事あれへんて。…で、どしたんや?」
 あわててそう返しながら、俺はアテナに隣に座るように促した。
「あ、特に用事ってワケじゃないんだけど…ちょっとね」
 アテナがそう言いながら隣に座る。
 空を見上げると満天の星。二人っきりでその星空を見ていると、まるでそこだけ時間が止まっているような感覚に陥った。
そんな中で、先に沈黙を破ったのはアテナだった。
「…私ね、前から聞きたい事あったんだけど…」
「…何や?」
「拳崇はどうしてここで修行してるのかな…って」
―――サイコソルジャー…俺達に課せられた使命―――
 俺だって最初はそんな使命が自分に課せられている事は知らなかった。そう、ここに来るまでは…
「何や、そんな事か。…俺な、小さい頃から超能力があったらしいわ。俺は全然気付かへんかったけど。それで、この力の事に気付いたとき決めたんや。強うなるて。精神鍛えてこの能力高めようて。何でそう思ったんかは分からん。けど…そうせなあかん気がしたんや。それで…な」
たぶん、そういう運命やったんや…『サイコソルジャー』として生を受けた者の…ここに来る…運命――――――
「へぇ〜…なんかカッコイイね」
「それで後になって気付いたんや。『そーいや俺、修行嫌いやったわ』って」
 そう言って笑ってみせると、アテナは見事にコケた。
「…ちょっと…カッコ悪い…」
ま、そりゃそうやろな。「修行する」言うとるヤツが、実は修行嫌いなんやから…
「そーゆーコトもあるって。…で、アテナは何でここへ来たん?」
「えっ、私!?」
 いきなり質問を返されたせいか、アテナは少し戸惑っているようだった。
 少しの間を置いてアテナの口が開いた。
「私も…拳崇と似てるかな…私も小さい頃から能力があったの。それでこの力で人の役に立つ事ができるなら…って思って。それで」
…アテナらしいな。俺とは大違いや。
「へぇ〜。でも驚いたんとちゃうんか?世界平和のために選ばれた戦士やってことをお師匠さんから聞いたときは」
「うん。まさかそんな大きな事になるなんて思わなかったから…ちょっとテレくさいわね」
 アテナが恥ずかしそうに応える。そんな気取らない所もアテナらしい。
「ああ。でもアテナなら大丈夫やろ。それに俺もついとるし、お師匠さんもおるしな」
「そうね」
 フフッとアテナが微笑む。その笑顔にまた俺の胸は高鳴るのだった。
 再び沈黙。そして俺はずっと言おうと思ってた事を打ち明ける決心をした。
「…アテナ…」
「…何?」
あー…やっぱり言うとなると緊張するわ…
「輪廻転生って…知っとるか?」
「輪廻転生?」
「人は、たとえ死んで肉体が滅んでも、魂は滅んだりせんで永遠に生き続けて、また新たな人間として次の世に生まれ変わる…って言うアレや。ま、人だけやないけど」
「ああ…で、それがどうかしたの?」
「いや、別に…何でもないわ」
 アテナは少し怪訝そうな顔で俺を見た。
「そう…じゃ、私先に戻ってるね。拳崇も早く戻った方がいいよ。風邪引くから」
 アテナは一言そう言って、先に中に戻っていった。
「おう。俺も少ししたら戻るわ」
 アテナの言葉にそう答え、俺はまた一人になった。
 再びさっき考えていた事を思い出す。
…やっぱり、あれは俺や。あの時の二人は俺と…アテナの前世の姿や。思い出したで…前世でも俺らは超能力があって…闘っとったんや、永き眠りから目覚めた邪悪なるものと。そして…
 そこで俺は止まった。
そしてどーなったんやったっけ?…そいつら倒したとこまでは覚えとるんやけど…忘れてもうた。…ま、えーか。あせらんでも思い出すときが来るやろ。
 とりあえず「覚えていない」という問題を自己完結させて、俺は自分でも気付かずに、思った事をすべて口に出していた。
「でも…前世でもアテナと一緒に闘っとったなんてなー、まさに運命ってヤツやな。俺とアテナは出会う運命やったってワケや…よっしゃ決めたで!」
 拳を振りあげながら一人、力説していた俺は、そう叫んで立ち上がった。
「俺はアテナを一生かけて守ってみせるで!前世からの縁や、命に代えても絶対守り通す!!」
 …山の中でよかった…近所迷惑もいいところだ。
あ、でもアテナにはこの事言わんどこ。たぶん覚えとらんやろしなー…
 しかし、こんな事だけは冷静に考えてたりもした。

―――サイコソルジャー―――
 お師匠さん(鎮元斎)いわく、世界を救うもの。
 来るべき時、この世に悪しきものが現れたときに、超能力を以てそれに立ち向かう戦士。

『選ばれし者』のみが強大な能力を潜在的に有しており、現に俺とアテナは、その能力(ちから)を持った『選ばれし者』である。

俺は、お師匠さんのもとへ弟子入りを志願しに行った時にその事を聞かされ、その時初めて自分の能力の意味と自分に課せられた使命の重さを知った。

おそらくアテナも俺と同じであったのだろう…初めて俺に会ったあの後、彼女はお師匠さんに呼び出され、再び戻ってきた時に顔を見てみると、とても不安そうな表情をしていたのだ。

もし自分の置かれた立場をすでに知っていたのなら、そんな顔はしなかっただろう。
しかし、俺達に課せられた使命はそれだけ大きなものだったのだ。

人との交流を絶たれた山奥で、自らの力をのばすために修行をして、「来るべき時」に備える…俺達の能力がまだ完全なものではないためである。

修行はキツイが、アテナがいるから、アテナが頑張っているから、俺も逃げ出さずにやっていけてるのかもしれない。
彼女のあの顔を見てしまったから…
一度だけ、アテナに聞いてみた事がある。
なぜそんなに頑張れるのか、と。
アテナはこう言った。
「拳崇。私だって修行は大変だし、つらいって思う時もあるよ。使命の重大さに負けそうになる事もある。…でもね、私達が頑張ることが、私達が強くなることが、誰かを救うことにつながるんだって思うと、まだ大丈夫、頑張ろうって気になるの」
…やっぱり、アテナは強いな。そんなアテナを見とると、俺もがんばらなって気になってくる。アテナを守るて決めたんやから…

俺は、アテナのそんな所に惹かれたのかもしれない。自分よりもまず他人の事を第一に考え、守りたいと思って一生懸命になる、そんな彼女に。
…だから俺は、そんなアテナを守りたいと思ったのかもしれない…

 それからまたしばらく時が経ったある日、街に出ていたお師匠さんが一通の封筒を持ってきた。
「お師匠様、これは一体…?」
 アテナの問いに、お師匠さんが落ち着いた声で答える。
「なんでも、キング・オブ・ファイターズという大会が開かれるとかで…その招待状じゃ。対戦形式は三対三のトーナメント戦らしい。そこで、おぬしら二人の修行の成果も見たいし、ワシは出場したいと思っている。それで二人の意見も聞きたいのじゃが…」
 そこまで言って、お師匠さんの顔が曇った。
「けど、何ですか?お師匠さん」
「…この大会には、何か裏があるような気がするのじゃ。悪しき心を持った者が裏におるような…」
「それなら、なおさら出場するべきだと思います。世界の平和を脅かす者を倒す事が、私達『サイコソルジャー』の使命であるのなら、それを果たすべきだと…」
 アテナが強い口調でそう言った。俺もアテナに続いた。
「俺もアテナの意見に賛成です。それに、もし何もなくても、修行の成果が分かるんやったら、別にいいやないですか」
 二人の弟子の意見に、お師匠さんも心を決めたようだ。
「…そうか。そこまで言うのなら出場することにするが…本当にいいのか?」
「はい」
 俺とアテナは口をそろえて言った。
「分かった。それでは…」
――――これが、俺達のKOFでの長い闘いの始まりだった…――――

 お師匠さんの予感は当たっていた。
 KOFの裏にいたのは、隻眼の復讐鬼、ルガール・バーンシュタイン…
 ルガールを倒してからも、毎年、KOFからの招待状が届いた。そしてその度に俺達は、その裏にいる『悪』と闘った。
 復活したルガール、オロチ四天王のゲーニッツ、七枷社(ななかせやしろ)、シェルミー、クリス、そしてオロチ自身…
 前世と同じ、世界の平和を守る戦士、『サイコソルジャー』として…
 …そんな中で、KOFも形を変えていった。
 最初KOFは、ルガールが復讐を果たすために開催した、いわば裏大会だった。それが今では、多くのスポンサーのついた世界的な格闘大会になり、試合は世界中にテレビ中継されるようになった。
 …そして、彼女に…渡部薫(わたべかおる)ちゃんに出会った。
 最初、俺達は修行の成果を試すためにKOFに参加し、闘っていた。けど…薫ちゃんと出会ったことで、俺達の闘う理由、KOFに参加する理由が一つ増えた。
――――自分達の闘う姿を見て元気づけられる人がいるのなら、その人のために闘う――――
以前、アテナがそう言っていた事がある。…けど俺は違った。
俺の闘う理由はそれだけじゃない…

―――××99年、鎮元大仙に一人の僧がやって来た。
 一人の少年を連れて…
「…で、あの子の『力』はいつから…?」
 鎮は、そう言いつつ来客を見る。今は少年は側にはいない。
「それが、ある日突然に…それまではまわりの子と全く変わりのない子だったんじゃが…」
 来客―――とある寺の住職が鎮の質問に答える。
「突然…と言うところが気にかかるが…とにかく、こっちでは力をのばす方向でやっていくが…それから先はあの子次第じゃな」
 二人の話―――密談と言った方がいいのかもしれないが―――は、鎮のその言葉でひとまず終了したのである。

「包(パオ)と言います。どうかよろしくお願いします」
 お師匠さん達がそんな話をしていたなんてつゆ知らず、俺達は、小さな、新たなる同志との出会いを喜んでいた。
 それは、パッと見女の子と見間違えられそうな顔立ちをした、小柄な少年だった。
「おお、こっちこそよろしゅうな」
「よろしくね、パオくん」
 俺達がそう返すと、小さな少年―――パオは満面の笑みを浮かべた。
コイツが新しいサイコソルジャーか。それにしても…
「それにしても小っこいなー。パオ、お前年いくつや?」
パオの頭をなでながら、とりあえず年を尋ねてみた。
「十二です」
えっ……
「じゅっ…十二…そ、そうか」
クリスより若いやんか…KOFに出ることになれば最年少やな。
 一瞬、そんな事を考えてしまった。
 そんなこんなで、加わった一人の新入りと共に、俺達の修行は再び始まったのである。

 俺は走っていた。
 いや、正確に言えば、走っていたのは俺ではなく、前世の『俺』だった。
 そして一人ではなく、隣にはアテナがいた。
 周りの風景は何となく見覚えがある。
 …そう、あの時の…『邪悪なる者』を倒した場所…
「アテナ、大丈夫か?ここももうそんなにもたへんで」
「ええ…あ、あれは?」
 何かに気付いたようで、アテナが立ち止まった。
「拳崇、あれ出口じゃない?あそこから出られそうよ」
 その時、アテナの頭上に岩盤が…
「アテナ、あぶない!!」
「えっ…」
 アテナはとっさにそれを避けようとしたが、足を挟まれてしまった。
「アテナ!!」
 俺は悲痛の叫びをあげた。
「あ…足が…拳崇だけでも逃げて…」
「んなコトできるわけないやろ!…こんなもん…!」
 俺はサイコキネシスで、その岩盤をどかせようとした…が、岩盤はびくともしない。
…なっ…なんやて!?

その時俺は、先程の『邪悪なる者』との闘いを思い出した。…それを倒し再び封じた時、何故か力が抜けたような感覚に陥ったのだ。
力が出えへん…まさかあの時、力使い果たしてもうたんか…!
一瞬の戸惑い、そして自らの力の無さに愕然とした。
…が、そんなに落ち込んでいる間もなく、アテナの頭上に再び岩が…
「キャ――ッ!!」
「アテナ――っ!!」
そう叫んだと同時にいきなり視界が開けて…
―――ズルッ、ゴン☆―――

どういう寝方をしていたのだろうか、アテナを助けようと伸ばした手は宙を掴み、布団に足を滑らせて、俺は床に顔面をモロに打ち付けた。
目覚めの一発が床とのキスとは…あまり嬉しくない目覚め方である。
その上、鼻がズキズキする…うぅ。
「いった〜…何や、夢か。」

鼻を押さえてのっそりと起き上がる。幸い、鼻血が出るほど強くはぶつけなかったようだ。
しかし、真っ赤になった鼻は、痛々しい事この上ない。
…でも、夢にしてはやけにリアルやったなー…っちゅーコトはまさか、あれも前世の…?
いつのまにか正座までして考え込んでいた。
ずっと引っかかっとったコトって…この事やったんか?でも…

先程の夢を、もう一度回想してみる。夢が夢だっただけに、はっきりと思い出せる。
でも、あの後どうなったんやろか…まだ全部思い出せとらんのか?俺…
まだ何かが引っかかる。
あの夢の後…アテナはどうなったのか。

それが夢であるにしろ、前世の記憶であるにしろ、アテナの事はやはり気になるのだ。
「ま、えーわ。悩んでてもどーにもならんし。忘れよ忘れよ」
それに外はまだ真っ暗やないか。寝てまおー。
しかしあっさりと切り替えができるのは、俺だからこそできる事かもしれない…
 俺は布団をかぶり、次の瞬間再び眠りにおちたのであった。

 陽が高くなり、俺とアテナはいつものように手合わせを、パオはお師匠さんに拳法の型を教わっていた。
 アテナの足払いを避け、間合いをとる。
刹那―――
「サイコボール!」
 アテナが腕をクロスさせてエネルギー弾を打ち出し、俺はそれをとっさに横にかわした。
 そして…
「超球弾や!」
「えーい!」
 俺が、両腕を横に開きエネルギー弾を打とうとしたのを読んで、アテナがそれを跳ね返そうとリフレクターを発動させた。
 しかし…
――――ぽすっ――――
 打ちだしたハズの超球弾は、飛ぶことなく消えた。
えっ…なんでや?
 なぜなのか分からず、その場に立ち尽くす。
 そんな俺の異変に気付いたアテナが走ってきた。
「どうしたの、拳崇?」
「アカン。なんか今日はごっつう調子悪いみたいや」
「大丈夫?どこか具合でも悪いの?」
 アテナが心配そうに俺を見る。
「いや、特にないけど…大丈夫大丈夫。一晩寝りゃコロッと治っとるって」
 あまりにもアテナが心配そうに見るので、俺はなるべく明るく答えた。
「そう…じゃ、休憩にしよっか」
 アテナも、俺の返事に安心したようだ。
「せやな」
 そう言って、俺達は境内の石段に並んで座った。
アテナにはああ言ったけど…
 先程のアテナとの手合わせの時の事が頭に浮かぶ。
でも、ホンマにどないしたんやろか、超球弾が出ぇへんなんて。体は何ともないし…鼻ももう痛うないし…今までこんな事なかった…それに何か変や。自分の中にあった『力』が全く感じられへん…
 突然自分の中に起こった変化に、俺は戸惑いを感じずにはいられなかった。
 そして、考え得る一つの答えに行き着いたとき、俺の頭の中は真っ白になった。
まさか…いや、そんなコトあるはずが…
 その時俺は、隣でそんな自分を心配そうに見つめるアテナの姿に気付かなかった。

 あの『事件』から数日が過ぎ、俺は一人山の中を走っていた。
 あの時の『答』は…当たっていた。
 様々な思いが交錯し、俺をただひたすら走らせた。
…あれからアテナは「調子悪いみたいね」とか言うけど、俺には分かっている…
『力』の…超能力の…消滅――――
何で突然こんな事になったのかは分からへん。『力』が消えるなんて…思いもせんかった。
ずっと…ずっと続くと思っとった。
世界の平和…超能力…アテナとの修行――――
 やみくもに走っている内に、俺はとある場所にたどり着いた。
 俺が落ち込んだり一人になりたい時によく来る場所だ。
 やり場のない怒りをそこにある一本の大木にぶつけてみても、ただ空しさだけがこみ上げてくる。
 そしてその木の根元に一人、座り込んだ。
アテナの側におれるだけで…それだけで…幸せやった…
 蘇る記憶。
 アテナとの修行の日々、今も変わらないはずなのに、何かが違う。
 『超能力』と言う、今まで自分にあった『力』がなくなっただけで…
 そう考えると、目にこみ上げていたものがこぼれ落ちそうになる。
別に、前世がどうやったからとか言うとるワケやない。ただ…
この力が、俺とアテナをつなぐ…前世からの…『絆』のような気がしたから…
 またあの『影』…フェニックスと天龍…そして前世のアテナと…俺…
かつて、邪悪なるものから世界を救った『サイコソルジャー』…そしてその『力』をそのまま受け継いだ俺とアテナ…そしてまた、世界の平和を守るために闘っている…
そう、俺達は、ただ強くなるために修行しとるワケやない。この『力』が…超能力があるから…
本当はそんなに気にするコトないのかもしれん。
…普通の人に…戻っただけなんやから…
せやけど、力がないと…サイコソルジャーやないと…俺がここにおる理由が…ない。
 もう、自分でも気持ちが抑えられなくなっていた。
…俺は、どうしたらええんや…―――
 俺は一人、声を上げて…泣いた。
――――どれぐらい時が経ったのであろうか。ふと顔を上げると、陽が傾き始めていた。
「…何やってんのやろ、俺。……戻るか」
 立ち上がり、自分の顔が火照っている事に気付く。
 おそらく目が真っ赤に腫れて、見られたもんじゃない状態になっているであろう。
「…って言うてもこのままじゃちょっと…ヤバイな…アテナにどないしたんや言う顔で見られてまうわ。もうひとっ走りして戻ろ」
 一人呟いて、俺は走りだした。
 しばらくの間は無心で走っていたのだが、ふとさっきの想いが甦った。
「…いつまで…ここにおれるんやろか、俺…」
―――自分の中で、何かが終わりを告げようとしているような気がした―――

「拳崇兄ちゃーん!」
 それからまた数日が過ぎ、いつものように修行のメニューをこなしていると、パオが俺を呼びながら駆け寄ってきた。
「拳崇兄ちゃん、ぼくね、サイコボールが撃てるようになったんだよ」
「おぉっ、すごいやんか!…ちょっとやって見せてみ」
「うんっ!」
 パオはそう言って、またタタッと走っていき、少し離れたところで構えた。両手を前に突き出し、神経を集中させて『力』を込める。
「いくよー…うわぁぁっ!」
あ……そ、それはちょっと…
―――ドォーン……―――
 パオのその小さな体と同じ位のどデカいエネルギー弾―――サイコボールMAXとでも名付けておこう―――がこれまたどデカい音を立てて撃ち出された。
 それはものすごい勢いで飛び、修行場にあった岩にぶつかり、岩を粉砕して消滅した。
…な…なんやねん、今のは…
 そしてサイコボールMAXを撃った本人はというと、発射の勢いで、そのまま後方へコロコロと転がっていた。
…………
 しばらくの間、周りの時間が止まった。
「あ…あのなー、パオ…」
 ようやく我に返った俺は、倒れているパオの元へ駆け寄り、その顔をのぞき込んだ。
「いきなりそんなの撃ったらすぐバテるで。それくらいのを撃つのは、『ここぞ!』…って言う時だけにしとき。でないと体がもたん」
「うん…分かった」
 パオが力なく返事をする。…どうやら、今の一発でほとんど力を使い果たしてしまったらしい。
 俺はパオを助け起こし、ポンッとその頭を撫でた。
「でもすごいなー、パオ。俺もうかうかしとると、すぐ追い越されてしまうかもしれんなぁ」
 俺は、しみじみとそう呟いた。
 …少し悔しいが、もちろん本音である。
「へへへ…謝々(シェシェ)」
 パオは照れくさそうだった。
 しかし、すぐに顔を上げてこんな事を言った。
「…でも、ぼくも見てみたいなー、お兄ちゃんの超能力」
あ……―――
 そうだった。
俺は、パオに一度も俺の『力』を見せた事がなかったのだ。
 正確に言えば、見せる事ができなかった。
 その前に俺の『力』は消えてしまったのだから…
 もしかしたら、もう二度と『力』は戻ってこないかもしれない。けど、そんな事パオに言いたくない…
…彼の夢を壊してしまうような気がしたから…
 だから…
「お、おぉ。力が戻ってきたら、なんぼでも見せたるわ。こーんなおっきい超球弾もな」
 つい、こんな事を言ってしまった。
 それも、両手を大きく広げて、自分の身長はあろうかというくらいの超球弾を表現しながら…
「本当!?約束だよ」
 パオの表情がパッと明るくなり、本当に嬉しそうなのを見て、俺は胸が痛んだ。
「おぉ!約束や」
力が…戻ってきたら…な。
 パオの夢を…壊したくなかったから…
 すぐ側に、俺達のそんなやりとりをじっと見ているアテナの姿があった…

「アテナ…髪、切ったんか?」
 それから三日後、アテナが突然髪を切った。
 腰まであった髪が、肩につくかつかないかまで短くなっていた。
「うん…変かな?」
「そんなことないで、突然やったから少しビックリしただけや。けど…」
「けど?」
 アテナが聞き返す。
「何でまたいきなりバッサリと…」
「えっ、あ…」
 アテナの顔が少しこわばった。
「そう、ちょっとイメチェンしようかと思って…ね」
「へぇー…」
アテナはすぐにそう言って笑顔を見せたが、アテナとずっと一緒に修行しているせいか、直感的に俺はアテナが嘘を言っているとすぐに分かった。
 だからと言って、絶対にそうだと言い切る事はできないのだが…
 しかし、なぜアテナが嘘を言ったのか、そして本当はなぜ髪を切ったのかまでは、分からなかった。
アテナ…―――――
 俺はアテナに笑顔を返したが、なぜか胸が痛んだ。

――――ついに今年もこの時が来た。
 そう、KOFの招待状が届いたのである。
 俺達は、例年と同じようにお師匠さんに呼び出された。
「今年も、KOFの招待状が届いた。ただ、今回は四人制のストライカーマッチらしい」
「ストライカーマッチ?」
 アテナが聞き返す。
「ああ。それについてはわしにもよく分からんのじゃが…それで、今回は四人で参加しようと思っておる」
四人か…ってコトは…
「あーよかったぁ。前と同じ三人制やったら、俺がアウトやったもんなー」
 俺はホッとしたようにそう言った。
「…パオもここに来て日は浅いが、修行の成果を見るいい機会じゃ。どうじゃ?」
「はい、がんばります」
「それと…」
 そう言いながら、お師匠さんは神妙な顔つきで俺の方を見た。
「…どないしたんです?お師匠さん。急にあらたまって」
「それと拳崇。おぬしの力のことなんじゃが…」
「大丈夫ですって、お師匠さん」
 俺は明るい声で返した。
「第一、ここでの修行は伊達じゃないねんで。力がなくてもちょいちょいと勝ってみせますって。みんなの足手まといには…」
「そうじゃない、拳崇」
 お師匠さんが遮った。
「わしはおぬしに、今回の戦いで、なにか力を取り戻すきっかけをつかんでほしいと思っておるのじゃ」
「お師匠さん…」
 お師匠さんの言葉に胸が熱くなった。
「ほら、闘ってるうちに何か思い出すかもしれないじゃない。一戦目でダメだったら二戦三戦…って。私達もきっかけをつかめるように努力するから、拳崇もがんばって、取り戻そうよ超能力」
 アテナがお師匠さんに続いた。
「アテナ…みんな…」
 俺はこみ上げてくるものを必死でこらえた。
「ありがとう。俺、がんばるわ」
…ほんのわずかでもええ、希望を持っていたいから…

――――そして、今年も熱い夏が来た――――
 しかし今年のKOFは、まるでルガールが主催者だった頃のように、表沙汰にはならず、会場も夜の商店街や飛行場など、目立たない場所だった。
 そんな中で、俺達はテコンドー使いのキム率いる韓国チームとの対戦を迎えた。
「あっ…あなた、確かコンサートに…」
 アテナがキムチームの、金髪で長髪の見慣れない男に話しかけた。
「えっ、私のことを知ってるんですか?」
 話しかけられた方はかなり驚いていたようだったが、すぐに真面目な顔つきになった。
…コイツ、アテナのファンやな…
 長年「アテナのナイト」をやっているせいか、直感的にそう悟った。
「いえ、あの…チャンさんと一緒にいらしてましたよね。それで…えっと…お名前は…?」
「ジョン・フーンです。よろしくお願いします。…でも感激です。憧れの麻宮さんと戦えるなんて」
やっぱり…当たっとったか。コイツ、頭ん中で絶対『チャン君感謝!』とか考えとるで。
「そう言ってもらえると私もうれしいです。でも…」
 そこまで言ってアテナは、着ているセーラー服をつかみ、ぐっと引っ張った。すると、瞬時にアテナが着ていたはずの服は消え、コスチューム姿になった。
 これぞ、毎年恒例のアテナの早着替えである。
 …と言っても、サイコパワーを使っているのだが…
「…手加減はしませんよ」
 アテナが構える。ジョンもそれに続いて構えた。
「…こちらこそ、同感です」
 ジョンのその言葉で、試合は始まった。
 アテナがサイコボールを放ち、ジョンがそれを避けながら技を繰り出す…試合の成り行きを見ながら、俺の心を様々な想いがよぎった。
…たとえ『力』がなくても、自分にできる限りのことでアテナを守りたい…今はそう思う。
 夢の中での出来事がフィードバックする。
…前世の俺はあの時、力を使い果たしとった。後のことは覚えとらん…けど、たぶん…アテナを守れんかったような気がする。だから…
『力』がないとアテナを守れんなんて思いとうないから…
もし、あの時本当にアテナを守れんかったとしたら…もう二度とそんな思いしとうないから…
だから俺は『力』なしでアテナを守れることを証明してみせる。
 気が付くと、アテナが三番手のキムに吹っ飛ばされていた。幸い気を失っているだけのようだが、もう戦えそうにない。
 俺はアテナをお師匠さん達の所に運び、キムとの対戦の為に軽くストレッチした。そしてキムの前に進み出る。
 試合開始、二人が同時に技を繰り出す。
…けど、やっぱり『力』がないとあの場所にはおられへん…
『サイコソルジャー』としてやないと、アテナの側には…おられへんのや…
激しい攻防の末、キムのわずかな隙を突いて、俺は腰を落として一歩踏み込み、右手でキムのみぞおちに掌底を喰らわした。そして体を伸ばしつつ左の突きをキムの胸元へ繰り出した。
その技の名前は「箭疾歩(せんしっぽ)」―――『力』が消え、中国拳法のみで闘う事を決めてから、お師匠さんが俺に教えてくれた技である。
 それをもろに喰らったキムは吹っ飛び、次の瞬間、俺達のチームの勝利が決定した。
 うれしかったが、正直複雑な気持ちだった。
 俺はじっと右の拳を見つめ、一人、呟いた。
「まだや、まだ届かへん……」
 また…きっかけは掴めなかった…
まだ見えへん、『俺』を取り戻す道標…でも、いつかきっと……
 ふと見上げた空に、星が輝き始めていた。

 気が付くと、俺達「サイコソルジャーチーム」は、決勝まできていた。
 準決勝の舞台だった下水道では、金網のような足場で試合をした。そして試合に勝利した事が分かったと同時に足場が動き出し、リフトのように地下深く目指して下がりだした。
「…一体、どこまで降りて行くのかしら」
 アテナが不安そうな顔をする。
「さあ…俺にも分からへん」
 俺がそう答えた時、足場が止まった。どうやら決勝の場所に着いたらしい。
「ここは…どこなんや?」
 真っ暗でアテナ達しか見えない、そんな状況である。
まるでルガールの時みたいやな…
 そんな事を思わずにはいられない位、ここは邪悪な『気』に満ちていた。
「お待ちしておりました」
 いきなり声が聞こえ、周りが急に明るくなった。そして、目の前には人影が…
 肩に漆黒の羽飾りが付いている暗い紺色のコートに身を包み、短い銀色の髪は逆立っている。
 そして、鋭い瞳…口元がコートで隠れているため表情はよく分からないが、その目を見るだけで、それがどういう男なのかがよく分かる。
 『闘うために生まれてきた』…おそらく、そういう宿命の下にいるのだろう…
「これより決勝戦を行います」
 その男が静かに言った。どうやら、彼が決勝の相手らしい。
 しかし……
「どうやら…戦うしかないみたいやな。そう簡単に返してくれそうにもないし……俺が一番手でいくわ」
 俺のその言葉に、やはりアテナは反対した。
「ダメよ、危険すぎるわ!…あの人から、今までにないくらい邪悪な気を感じる…もっとよく考えて決めないと…」
「それは俺かてよう分かっとる。けど大丈夫やて。大事な人危険な目に遭わせたり、悲しませたりするほど俺かてアホやないで。」
アテナ…そんな悲しそうな顔せんとってや…
 アテナがつらそうな顔をしていたのを見て、俺は耐えきれなくなって、アテナの肩に手を置き、そっと抱き寄せた。
「…決めたんや、たとえ力なくても、サイコソルジャーやなくなっても、自分に課せられとった使命は果たすって。…そしてアテナ、君を守るって。そのために今までつらい修行に耐えてきたんや。せやから…俺を…信じてくれへんか?」
 一瞬の沈黙の後、アテナは俺の胸元に手を置き、そっと離れながら言った。
「…分かった。拳崇、信じてるからね」
 アテナの顔に、いつもの微笑みが戻っている。それを見て、俺は安心した。
よかった。いつものアテナに戻っとるな…
「おぉ。…いいですか、お師匠さん?」
 お師匠さんの方を向きながら、今回の自分の勝手な行動に対する許可を求めた。
「…無理はするんじゃないぞ、拳崇」
 お師匠さんはたった一言、そう言った。
 それを聞いて俺はうなずき、男の方に向きなおった。
「……俺が相手や」
「それでは…」

始めよう。そう言い切る前に男は正面に掌をかざし、衝撃波とも思えるようなものを打ち出した。
どうやら、これが試合開始の合図らしい。

俺は、両手を目の前で交差させてそれを防ごうとしたが、それの威力は凄まじく、衝撃を緩和するために巻いている両腕のバンドの上から俺の体力を削った。
…やっぱりな…コイツ、ただ者やない…
男をはじめて見た時に感じた『力』…それが本物である事を確信した。
しかし、男との試合の中で、俺は一つの疑問を感じた。
決勝戦の相手にしては、あまりにも手応えがなさすぎるのである。

確かに、一撃一撃はとてつもない威力を持っており、その分隙が生じ易いのはわかっているのだが、それにしても隙がありすぎるのだ。
…とすれば、わざと手加減しているとしか思えない。
…コイツ、俺達を試しとるな…
そう思わずにはいられなかった。
そして、決勝戦の決着がついた。

俺は、軽く体を屈めて一歩踏み込みつつ男の胸元めがけて肘打ちを繰り出し、その勢いに任せて体をひねり、回し蹴りをみぞおちに入れた。
俺が昔から使っている技、「龍連牙 地龍」である。
男は、それがかなり効いたのか、片膝をついてうずくまった。
―――その時俺は、男の口元に微かに笑みが浮かんだのを見逃さなかった。
「…やったか!?」
そう思った瞬間、上の方からコンピュータ音声のような声が聞こえてきた。
『戦闘データ転送、完了』
それを聞いた男は、不敵の笑みを浮かべながら立ち上がって言った。
「…ご協力、感謝する」
「協力…?」
男の言葉に疑問を感じたアテナが聞き返す。
俺にはすべてが分かっていた。それで、男の方に鋭い視線を向けながら言った。
「お前…今わざと食らったやろ」
「…さすがだな」
男が感心したように言う。彼の言葉はさらに続いた。
「私はクリザリッド。おかげで君達の戦闘データを私達の兵器に転送する事ができた」
「兵器じゃと?…それじゃKOFも…!」
お師匠さんが何かに気付いたように言うと、男は声高らかに叫んだ。
「君達を呼び寄せるのにKOFの名を使った。その方がより強い者のデータがとれると思ったからな」
…そういう事やったんか…だからあの時…!

とどめをさした時の笑みの理由がはっきりと分かった。でもまだひっかかる事がある。
 何故そんな事を…そして『兵器』とは一体…?
 その疑問は、お師匠さんの言葉によって分かる事となった。
「じゃが、一体何のためにそんな事を…?」
「私達の兵器を稼動させるためだよ。これを見たまえ!」

男―――クリザリッドがそう叫んで片腕を高く上げた。と、同時にヤツの背後の壁にたくさんの映像が現れた。

どうやら、ただの壁に見えていたがモニターだったらしい。そして映像に映っていたのは…それを見て俺達は唖然とした。
「これは…草薙京!」

なぜならそこには、オロチとの宿命の闘いの後八神庵(やがみいおり)と共に生死不明となっていた、草薙京(くさなぎきょう)の姿があったからだ。
それも一人ではなく、数えきれないほどの草薙京が…
俺達の反応を見ていたクリザリッドが口を開いた。
「オロチ戦直後に捕獲した彼のクローンだ。…と言っても本物には逃げられてしまったがね」
彼の話は続く。
「…そして世界中にばらまいたこれらを一斉に稼動させる。…だが彼らを動かすには、最後のトリガーデータを入力しなければならない」
そう言いながら、彼は眼差しをこっちに向けた。
「…トリガーデータ?それは一体…」
「人をどう殺すかというデータだ。…もうしばらく私につきあってもらうよ」

ヤツが残酷な笑みを浮かべて言った。その表情に、俺達は背筋が凍りつくのを感じた。

しかし、だからと言ってここで逃げ出すわけにもいかない。ここで出せる答えは…一つだけ。
「…俺が出る」

一言だけそう言って、俺は前へ進み出ようとした…が、後ろにいたアテナの悲痛な叫びがそれを制した。
「ダメよ!殺されてしまうわ!!絶対に…ダメ…」
最後の方は急に声が小さくなった。たぶん…泣いているのであろう。
…アテナ…お願いやから泣かんといてや。決心が鈍ってまう…

俺は、胸が締め付けられるような気持ちを必死で押さえつけて、アテナの方を振り返り言った。
「だからって、このままじゃ何も始まらんやろ。…もう、引き下がれんのや」
やはり…アテナは目に涙をいっぱいに溜めていた。俺は口調を少し和らげ、微笑みを浮かべて続けた。
「…大丈夫やて。必ず勝つて…約束する。アイツの好きにはさせへん」
それを聞いて、アテナはゆっくりとうなずいた。俺は少し安心した。

そして俺は、ヤツの―――クリザリッドの方を再び向いた。瞳は怒りに満ちている。
「…いくで」
「目に焼き付けて…死ぬがいい」

嘲笑を浮かべたクリザリッドの体が炎に包まれた。炎が消え去った時、彼が身に着けていたコートは消え去っていた。
そして、それを合図に俺達は同時に駆け出した。
「テュホン・レイジ!」

最初に攻撃を仕掛けたのは向こうだった。足を高々と上げ、踵落しのように振り下ろすと、クリザリッドの前に真空のかまいたちが生じた。

俺はそれを必死で食い止めようと、両腕をクロスさせてガードの体勢に入ったが、それはバンドの上からでも容赦なく俺の体力を削った。
その時、フッとアテナ達の事が気にかかり、そちらの方に目を向けた。

アテナとパオが、俺の援護をしようとサイコボールを撃つ体勢に入っているようだった。
…余計な事を……これは…これは―――――!
気持ちはありがたいのだが、今そんな事をすればどうなるのかは目に見えている。
―――手ぇ出すな!

二人の動きが止まる。どうやら、いちかばちかで飛ばしたテレパシーが届いたようだ。
―――これは、俺の闘いや!!

再びテレパシーを飛ばす。…二人とも、俺の言いたかった事をわかってくれたようだ。構えをとき、驚いた顔をしてこっちを見ている。
何故届いたのであろう…『力』は消えているはずなのに…

しかし、そんな事を考える暇などなかった。クリザリッドの攻撃に、俺は完全に押されていた。
コイツ…ケタ違いの強さや…でも負けられへん…
「見せてやる、我が力を…!」

クリザリッドが、炎の羽を身に纏い、突っ込んできた。俺は間一髪でそれを避けた。
…決めたんや、アテナを守るって…約束したんや、必ず勝つって…
せやから――――――!

クリザリッドの攻撃に吹っ飛ばされ、受け身をとる。ふと上を見ると、彼が足を振り上げていた。
――――――今や!
「テュホン…」
「どないや!!」

クリザリッドが、足を振り下ろしてかまいたちを起こす時に、ふところががら空きになるのを読んでいた俺は、「龍連牙
地龍」を繰り出した。

クリザリッドにとってこの攻撃は予想外だったのか、見事にクリーンヒットして彼の体が浮いた。そこに、「龍顎砕(りゅうがくさい)」―――開脚倒立から、手をひねり飛び上がって蹴りを入れる技―――を叩き込んだ。「神龍凄煌裂脚(しんりゅうせいおうれっきゃく)」…それがこれら一連の動作を総称した技の名前である。
「くっ…そんなはずは…!」
俺の土壇場の巻き返しに、彼は有り得ないと言いたげにダウンした。
「やった……」
 片膝をつき着地の状態のまま、俺は呟いた。
「そんな…私が敗れるとは…」
 クリザリッドが、ゆっくりと体を起こしながら言った。おそらく、もう戦えないであろう。
その時―――――
「しくじったか」
 俺達の真上から声が聞こえてきた。初老の男のような、低い声である。その声に、クリザリッドの顔色が変わった。
「いや、しかしクローンを無理にでも動かせば…」
「もう手遅れだ」
 必死に弁解しようとするクリザリッドをその一言で一蹴し、『声』はさらに続けた。
「各地のクローンはおさえられてしまった。…何者かによってな。ここも時間の問題だ。我々はここを放棄する。ご苦労だった」
「私はどうすれば?」
 クリザリッドがおそるおそる尋ねる。
「クローンにデータを転送する事には成功した。今回はこれでよしとしよう…あとはその証拠となるもの達を消すだけだ」
 消す…それはすなわち……
「バ…バカな!」
 クリザリッドの顔に、焦りと恐怖の色がハッキリと表れた。
「さらばだ、クリザリッド」
 その言葉と同時に、天井から、クリザリッドめがけて岩が降ってきた。
「そんな……」
 呆然と立ち尽くしているクリザリッドに、それは直撃した。アテナが顔を背ける。
必要なくなったら消すってワケかいな…人を何だと思っとるんや…!
 心の奥底から怒りと悲しみがこみ上げてくる。しかし、その怒りに身を任せる暇などなく、天井から岩が落ちてきたのと同時に周りが崩れだした。
「いかん、ここもそうもたんぞ。早く逃げた方がよさそうじゃな」
 お師匠さんがそう言って走りだした。パオもそれに続く。
「はい。…アテナ、行くで」
「あ…うん」
 先程のショックがまだ残っているのか、アテナの顔色は悪かった。そして、少し間を置いて彼女も走りだした。

 俺は走っていた。
 一人ではなく、前にはお師匠さんとパオが、隣にはアテナがいた。
 この光景…少し違うけどあの時と似ている…
「アカン…どこもかしこも崩れてもうて、どこが出口か分からへん」
「……あ、あれは?」
 何かに気付いたようで、アテナが急に立ち止まった。俺もつられて立ち止まる。お師匠さん達はそれに気づかずに行ってしまった。
「拳崇、出口よ!ここから出られるわ」
 その時、アテナの頭上に崩れた天井が…
「アテナ、危ない!」
「えっ…」
 アテナはそれを避けようとしたが、足を挟まれてしまった。
「アテナ!!」
 俺は悲痛の叫びをあげ、ハッとした。
これは…まさかあの時と……!
「痛っ…足が…拳崇…私はもういいから逃げて…」
 俺に向かってつらそうに言うアテナの姿に、前世のアテナの姿がだぶる。
「アホ言うな!アテナ置いて行けるワケないやろ!!」
これは…前世の…あの時と同じや…あの時も…!
 俺はアテナの足の上の岩盤をどかせようとした。
「くっ…これもビクともせぇへんし、超能力も使えんとは…」
あの時も、俺は『力』がなくなっとって…そして、アテナを……また、同じ事になるんか?また…アテナの事を守れんのか?
 自分の無力さに嫌気がさす。…が、そんなに落ち込んでる間もなく、アテナの頭上にまた…
「キャーッ!!」
「アテナーっ!!」
前世と同じ…そんなんイヤや!守りたい人を守れんのは…もうイヤなんや!!
 その時、体が熱くなり、目の前が真っ白になった。

―――――龍の咆哮が聞こえたような気がした―――――
 ちょうどその頃、鎮とパオは外から先程まで自分達がいた場所が崩壊するのを見ていた。
 実は、もうダメかと思った時、自分達を助けにきた薫によって出口を見つけて、脱出したのである。
「わしらは薫ちゃんのおかげで助かったが…二人は…大丈夫じゃろうか」
 突然、パオが何かを感じたかのように言った。
「…お兄ちゃん達は…大丈夫。もうすぐ来るよ。…ほら、アレ!」
 パオが指さした先に、ものすごいエネルギーの塊があった。中には人影が見える。
「拳崇…兄ちゃん?」
 その人影とは、アテナを抱きかかえてこちらにまっすぐ歩いてくる拳崇の姿であった。アテナは気絶しているだけらしい。
 とすれば、この強大な『力』を放出しているのは……
「…アレ?力が抜ける…」
 パオは、力無くそう言うとパタッと倒れてしまった。薫がパオを支えた。
「拳崇…その『力』は一体…?」
 鎮が驚いたように拳崇に向かって尋ねると、フッと拳崇のまわりにあった『力』の塊が消え、拳崇はアテナを放り投げるように倒れてしまった。鎮はあわててアテナを受けとめた。
「っとと…拳崇…パオも…二人ともどうしたと言うのじゃ…」
 今目の前で起こった出来事に、鎮が訳が分からないと言った表情で呟いた。

思い出した……
 かすかにある意識のなかで、俺はアテナを抱きかかえ、歩きだした。
 全身に『力』がみなぎっているのが分かる。暴走しそうなほどに…
あの時、俺は…自分に残された最後の力ふりしぼってアテナを助けたんや…
なんや、ずっと勘違いしとったんか、俺…情けな…思い込みでずっと悩んどったんやな…
 まわりが明るくなったような気がした。どうやら外に出たらしい。
でも…ま、ええか――――
「拳崇…その力は一体…?」
 遠くでお師匠さんの声が聞こえる。薄れゆく意識のなかで、俺は一つだけ、思った。
まだ…ここにおってもええんやな、俺…アテナの側で、アテナを守り続けても……

―――――『時』は巡る…遥かなる時の果てに―――――






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