マイ・メリー・メイ


 今回のレビューは健次さんを始めとする掲示板の皆様方に捧げます。彼らの推薦がなかったら、ほぼ間違いなく手を出していなかったタイトルだからです。感謝感謝。

 

かみさま、魂のない私が……
あの人をすきになるのは……罪でしょうか?

 

 さて。今の心情を率直に述べるなら、「荒れ球と変化球で鳴らした曲者投手と久しぶりに対戦したら、糸で引くような見事な直球で三振に討ち取られて、『ンなアホな!?』と唖然としている」感じだろうか。いやもう、恐ろしいくらいに真っ直ぐで真面目な作りで、毒も癖もありません。KID十八番の毒電波系テキストなんてそれこそ影も形も無いッス。もし自分が本作のメーカーを知らずにプレイして、他人から「これってKID作なんだよ」と言われたら「おいおい、そんな無責任なデマはこの作品を作ったメーカーさんに失礼だよ」という暴言をで返してしまいそうなくらい真っ当な代物である。

 しかもいつもの奇天烈なキャラ立てはどこへやら。恐ろしく真っ当なキャラに、恐ろしく真っ当なシナリオ。しかもヒロインの魅力とシナリオの内容が見事に融合しながらも、シナリオごとにきちんとテーマが消化され描き分けられているのは見事と言うほか無い。「胸元を突くような内角から、ギリギリ低めの外角まで丁寧に投げ分けられてお手上げ」って感じ。KIDってこんなに制球良かったっけ?

 ンで扱ってるテーマが「人間の成長」なんて王道モンだからもう、呆れるというか、感心するというか。以前のKIDなら大暴走間違いなしのテーマなのだが。王道シナリオ、王道キャラ、王道テーマなどという陳腐極まりない三種の神器のはずなのに、何故か歯が立たない-------あぁ、なるほど。ここに至ってようやく分かった。ただの直球だと甘く見てたら”奇跡のジャイロボール”だったんだ。打てるわけねェよ、ファッキン!!(←何故か嬉しそう)。あまりにもありきたりな内容をここまで丁寧に、メリハリをつけて、真っ正面から、時に厳しく、時に優しく語られたら白旗掲げるしかありません。

 

STORY紹介
全寮制の高校に通う主人公・恭介は、毎日毎日何も変わらない日々を過ごしていた。
ある日突然、海外に在住する家族から、人の形をした生命体が入った装置が送られてきた。
恭介は理想の女の子を創り出そうと、その装置を起動させる。
しかし、生まれてきたのは意のままにならない赤子同然の女の子。
見た目は同世代の美少女なのに、幼児のような言動で恭介を振り回す。
人工生命体(レプリス)。
レゥとの奇妙な共同生活はこれからどうなってしまうのか?


シナリオ紹介

レゥ&リース-----父親シナリオ
 甲種人型生命体「レプリス」の姉妹。レプリスとしては最高レベルのスペックを誇るが、レゥの方は起動時のエラーにより赤子に近い状態で覚醒してしまう。バグでおかしくなったレゥの代替品として、恭平がアメリカから持参した姉妹品がリース。

 魂(プログラム)が完璧であるが故に心を得られないまま”完全(かみさま)”になってしまったリースと、魂(プログラム)にバグがあったが故に心を得て、愛を知り”不完全(にんげん)”になったレゥ-----というところだろうか。この二人は対を成していると思うので、あえてまとめて扱わせてもらった。

 全てにおいて万全で完璧で自然であるが故に人を成長から遠ざけるリースと、全てにおいてドジでおっちょこちょいでそそっかしいからこそ人の成長を促すレゥ。完璧な母親は人を退化させ、出来の悪い娘は人を成長させるということか。
 んでレゥが少しずつとはいえ成長してる様を見て喜んでしまう辺り、シナリオライターの術中にはまっているのかもしれない。「人は成長する生き物」ではなく「成長なしでは生きていけない生き物が人間」なのではないかと思う。それは同時に人間の”不完全さ”の証明であるわけだけれども。「その方が面白ェよ」と思ってしまう自分は、多分滑稽なくらいに”人間”なのだろう。

 

榛名 ひとえ(はるな ひとえ)-----相棒シナリオ
 幼なじみで同級生。ちょっとお姉さんぶったりするが、実際、精神的にはけっこう大人かも。

 「”幼なじみ”が持つ距離感」というものをこれだけ微妙に表現したシナリオってのはちょっと無いと思う(現実的かどうかはともかくとして)。大概の作品のこういったシナリオでは「幼なじみ→異性として意識する」という過程だが、本作では二人の間に「(どちらにとっても)完璧すぎる兄」という存在を置くことによって、成長しなければ乗り越えられない壁を設定した辺りが秀逸。

 恋人というほど近くはないが親友というほど遠くはなく、家族というほど自然ではないが他人というほど不自然ではない。非常に心地よくて、便利で、傷つかなくて済む曖昧な関係。
 だからこそそこから一歩を踏み出すのは大変な勇気と覚悟が必要になる。それは必ず”何か”を失うことだから。「成長するのは美しいことだ」と人は言うかもしれないが、それだけの犠牲を払う価値があるものなのか? というテーゼに対する回答が本シナリオ。解釈は人それぞれだと思うけど、少なくとも自分は意味があると思ったよ。

 あと全然関係ないが、いつも「私のこの手が真っ赤に燃える!!」風にかざしてる彼女の右手が気になったのは自分だけだろうか。いつあそこからゴッドフィンガーが繰り出されるかと、気が気じゃなかったよ、マジで。

 

吾妻 もとみ(あがつま もとみ)-----漢シナリオ
 同級生。親友である亮の彼女。いかにもおとなしい優等生タイプ。

 「君は汚れてなんかいない」-----全てはこの一言に集約される。親友の彼女を寝取る羽目になるわ、挙げ句に殴り合いまでするわ、彼女の重すぎる過去を背負わされるわ、と良くも悪くも一番「恋愛アドヴェンチャー」っぽいシナリオ。それだけに爽快感なんぞ欠片もないが(苦笑)。とにかくクライマックスまでは凹みまくりなので、クリアするにはかなりの根性が入ります。シナリオとしてはかなり秀逸だと思うが、個人的にはこんなタイプの女は遠慮したい(笑)。「手が掛かる女の子」は可愛いかもしれないが、「厄介な女の子」はちょっと面倒なので。

 

杵築 たえ(きづき たえ)-----弟シナリオ
 寮の管理人代理をしているおねーさん。女子大生。酒癖悪し。

 「酒にだらしがない頼りない系おねーさん」というのは意外と斬新かも。他人とは思えん(苦笑)。恐らく本作で一番無難なシナリオ。「ちょっと頼りない弟→頼りに出来る彼氏」へと脱皮していく過程が、素直に素朴に描かれいて好感が持てる。Bエンドだと「母親の代用品」になってしまうが、それも有りか。結局のところ、男なんて誰も彼もが彼女の中に、「母親」「姉」「妹」「娘」などの”理想の家族:女系”の要素を追い求めてしまうのだから。

 あと余談だが、二日酔いでダウンしてる姿が異様にそソります。っつーか女性がソンな簡単に男ヲ寝室に入れて良いものdeしょうかか。おマけに寝姿まで魅せるのはイカガガなものかと-----エエモウ、興奮ノアマリ言葉遣イガオカシクナッテオリマスデスブピーーーッ!愛ノ目覚メーーーッ!!

 

結城 みさお(ゆうき みさお)-----同族シナリオ
 たえの近所に住んでる中学生。ちょっと自閉気味。実は空手家。

 いやなんかもーエロい。恐ろしいまでにエロい。「なんのことやら分からない」というそこの君。是非プレイしたまえ。私の言わんとすることが分かるはずだ。「オタクは想像力に欲情する生き物である」というテーマで一論ぶちかましたいところである。シチュエーションがね、めっちゃエロいのよ、萌えるのよ、思わず転げ回っちまうのよ。いやマジで下手なエロゲよりよっぽどエロいんだけど。マジでマジで。Hシーンがないことが、逆に想像力を煽ってるのよ。このシナリオに限らず全編で狙ってると思うんだけど。

 シナリオの方は「十分な家族愛を得られなかった者達が”寂しい”という気持ちを癒すために求め合い、傷つけ合うことで成長していく話」という本作の根幹が一番如実に現れていると思う。

 

 「人は失敗を乗り越えて成長していく」というけれど、乗り越えられなかったらただの挫折であり、性格を歪めるトラウマでしかないわけで。だから人は甘えたり、逃げたり、誤魔化したり、嘘をついたり、目をそらしたりして自分を守ろうとするんだと思う。
 だけど自分にとって完璧に都合のいい甘えや逃げや嘘を許してくれる相手が、同じ不完全な人間の中にいるわけもなく。最初から形の合わないピースでパズルを組み立てているようなもの。絶対に完成しない。絶対に満たされない-----だから人は努力して、頑張って成長しようとする。満たされるために、満たしてやるために優しくなろうとする。助けてもらったからこそ、助けてやりたいと思う。愛してくれる人を、愛してやりたいと思う。

 「人は一人では生きていけない」というのは理想論でも綺麗事でもなく、もの凄く本質的な”本能”なのかもしれない。どんなに理性を駆使して理屈をこね回しても、どんなに感情にまかせて暴走しても、辿り着く結論は同じ-----人は”寂しい”という痛みに耐えられない。

 

渡良瀬 恭平(わたらせ きょうへい)
 主人公の歳の離れた兄で、研究で家を空けがちだった父親の代わりに主人公の面倒を見ていた。今はアメリカに渡って父親と共にレプリスの研究をしている。典型的な天才肌。

 「ザ・パーフェクトブラザー」。非の打ち所、全く無し。完璧すぎて嫌味にならないように微妙な欠点まで完備している辺り、もはや脱帽するしかない。父親として守り、兄として慈しみ、師として教え導き、先輩として世話を焼き、友人として肩を並べ、男として共感する-----いくら何でもパーフェクトすぎる。こんな兄を持って、主人公がひねくれなかったのは奇跡に近い。俺だったらグレるぞ。しかも言うことがいちいちもっともなので、バカみたいに肯くことしかできない。やっぱりグレそうだ。俺が女だったら惚れ-----ないだろうな。逆に距離を取ってしまうだろう。当然、作中の格好いい役どころの99%を独り占め。


 ‥‥ンでこのままいってくれればなんの問題もなかったのだが。しかしそこはさすがにKID。最後の最後にワイルドピッチをやってくれました。そのままオーソドックスに終われば良かったのに、何を考えたか余計なエンド(←ネタバレ有り)を付け足してくれました(苦笑)。これだけ見事なストレートを持ってるのに、無理してフォークを投げたのが仇になったね。個人的には完封負けしたかったよ。次回作ではそこんとこだけ、もーちょっとなんとかしてちょーだいね。

 ちなみに音楽は二重丸。相変わらずKIDの音楽センスは素晴らしい。OP、EDテーマとも癖が強いので人を選ぶと思うが、凡百の曲よりはよほど印象に残ると思う。

 

 最後に結論をまとめてしまうと「プレイする価値十二分にあり。ただし(一部)エンディングには気をつけろ」(注1って感じだろうか。多彩な変化球の技巧を楽しむのもいいが、やはりピッチングの基本はストレートだろう、ということを思い出させてくれる名作。シンプルイズベスト。ではお約束の一言-----

 

 

 

ガラスのように繊細だね。特に君の心は

 みさお「私が‥‥」

そう。好意に値するよ

 みさお「好意‥‥?」

”好き”ってことさ

(なあぁあぁあaaっッ!!)

注1:余談ですが、後に『マイ・メリー・メイビー』をプレイすると、この「みさおAエンド」の印象がずいぶん変わります。あくまでこれは『マイ・メリー・メイ』プレイ時点のものと思ってください-----っつーかここまでやったのなら『めいび』もプレイすべし。


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