ヴァリス                  
              (創元SF文庫 フィリップ・k・ディック)


 非常に紹介が難しい作品である。良く言えば「一人の男の魂の破滅と再生」をグノーシス主義やプラトンを用いて、哲学、神学、科学の面から描ききった力作とも言えるし、悪く言えば「命を削る電磁発勁ならぬ正気を削る電波発勁! ママン! ときのなみだがみえるよ、ママン!!」という感じである。

 「なんじゃそら」と思われる皆さん。「自分は、蟹状の鋏と三つの目を持ち聾で唖だがテレパシー能力を有するアルベマス星系人に、時間を超えてピンク色のレーザーを照射されて覚醒した救済者です。『帝国』を終滅させるためにやってきました」なんて言われたら普通は引くでしょ? 元々ディックの作品は現実と悪夢を織り交ぜた不条理構成が持ち味だったが、今作はそんな生易しいレベルではない。面白いとか面白くないとか、難解とか平易とかいう次元を突き抜けてしまっている。↑のような「キチ○イの妄言」としか思えないような戯言を寄せ集めて、これだけの作品を作り上げてしまったディックの力量を称えるべきなのか、恐れるべきなのか。ホント困った作品である。

 

 ちなみにわたくしは本作がかなり気に入っている。いやマジで。普通の方は最初でリタイアしてしまうかも知れないが。それこそ相対性理論が発表されたときは「この理論を理解できるのは世界でも五人ぐらいしかいない」と言われたらしいが、本作も発表当時は世界でも五人くらいしか面白さが分からなかったんじゃないだろうか(そのうち二人は作者と担当編集者)。もはやSFというよりは宗教書。

 自分的には「ディックの精髄ここにあり!」と思うのだが、だからといって誰にでもお勧めは出来ないよなぁ、間違っても。ちなみに今回はあらすじ紹介は無し。紹介できるようなあらすじが存在しない。取りあえず紹介代わりに作中の「秘密教典書」の内容を幾つか挙げておく。参考にしてください。

 

〜秘密教典書〜

14:宇宙は情報であり、我々はその中に静止しているのであって、三次元内にも空間内にも時間内にも存在しない。我々は送り込まれる情報を現象界に実在化する。

18:実際の時間はキリスト紀元70年、イェルサレムの神殿の破壊と共に静止した。再度始まったのはキリスト紀元1974年である。両者に介在する期間は<精神>の創造を猿真似する完璧な見せかけの挿入だった。<帝国>は終滅する事はないが、1974年に<鉄の時代>の終了を告げる信号として暗号が送られた。暗号は二つの言葉からなっている。キング・フェリックス。これは幸福な(正統な)王のことである。

23:プラスマテは人間と接合し、わたしの言うホモプラスマテを創造することが出来る。これが死すべき人間を永久にプラスマテに接合する。我々はこれを「高みからの誕生」もしくは「聖霊からの誕生」として知っている。これはキリストによって開始されたが、<帝国>はホモプラスマテが自己を複製する前にホモプラスマテを全て破壊した。

35:<精神>は我々に話しかけているのではなく、我々という手段によって語っているのである。<精神>の物語は我々を経由し、その悲しみが不合理にも我々にそそぎ込まれる。プラトンが認めたように世界霊魂には非理性的な要素が存在する。

48:二つの領域が存在する。上なる領域と下なる領域が。上なる領域は超越宇宙氓烽オくは<陽>に由来し、パルメニデスの形態氓ナあって、知覚力、意志を有する。下なる領域は<陰>に由来し、パルメニデスの形態であり、機械的であって、盲目の動力因に駆動され、死せる源から流出するゆえに、決定論的にして知性を有しない。太古には「天界の決定論」と名付けられた。我々は概して下なる領域に捕らわれているが、秘跡を通じ、プラスマテによって救われる。天界の決定論が破られるまで、我々はそのことに気づきもせぬので、我々は閉塞している。<帝国>は終滅する事がない。

 

(‥‥‥何言ってるんだか全然わかんねー)




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